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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
306/853

第三十五話 休日の過ごし方

この話でようやく1000000文字に到達しました。ちょっとした大台気分です。次は1500000文字を秋の最中には出したいです。その頃には第二章が終わっていればいいなと思っています。


金曜の授業が終わった次の日は土曜。普通の高校は授業が無く、一部の高校ですら三年生以外授業がないという学園都市。どうようになればたくさんの学生が商業エリアに繰り出す。


そんな中、第76移動隊副隊長の孝治は一人第76移動隊専用の訓練場に一人早朝からいた。


その手には漆黒の刃が煌めく運命が握られている。


動きながらも片手、時には両手を使って運命を使っている。その流れは見事で、止まることなく前後左右に体を動かしながら運命を扱っていた。


「やはり、周がいなければ対戦相手としては不服だな」


その言葉と共に孝治は運命を振る。一心不乱に。


その動きは光が姿を現す二時間後まで続くことになる。






基本的に音姫の休日は起きるのがいつもより遅い。大体六時頃には目が覚める。それはこの日も同じだった。


あくびをしながら片腕を挙げて大きく体を伸ばしている。ただし、いつもはしっかりとしたポニーテールの髪は今は完全にぼさぼさだ。


「ふわぁ。弟くんと由姫ちゃんはもう起きているかな?」


その言葉と共にぼさぼさの髪を優しく触りながら廊下に出た。廊下から聞こえてくるのは何やら騒がしい声。


音姫は怪訝そうな顔をしながら階下に向かって降りて行く。


「お兄ちゃんは私に任せて!」


「いや、今日はオレが作る。いつも由姫に任せてばかりだろ?」


「大丈夫です。私は大丈夫ですからお兄ちゃんはゆっくり新聞でも読んでて。お兄ちゃんは今日まで休まないとだめなんだから」


「それは隊の仕事だ。家事には関係ない。それに、いつもは由姫が頑張っているだろ。だから、由姫が今日は休め。いいな?」


「よくない」


「二人とも、おはよう」


「あっ、おはよう、お姉ちゃん。ああ! お兄ちゃん!」


一階に降りた音姫の視界には調理場を巡って争う二人の姿があった。いつもは髪を後ろで結んで小さなポニーテールみたいにしている由姫だが、今は括っていない。そして、周の方はとさかの様な寝癖がついている。


音姫はそんな二人を見て噴き出していた。


「仲良くしようね」


「おはよう、音姉。音姉はゆっくりしてくれ。今日はオレが朝ご飯を」


「だから、私が作るって」


「わかった。なら、ご飯を頼む。オレはおかずを作る」


「わかっ、てないからね! それだとお兄ちゃんが朝食を作ることになるじゃない!」


「だから、オレが作るって」


「私が作る」


「オレ」


「私」


「オレ」


「私!」


「オレ!」


顔を突きつけ合っていがみ合っている二人の苦笑しながら音姫は洗面所に入った。そして、寝起きの顔を水で洗う。


実は休日の朝にはよく見る光景だから音姫はあまり何も言わない。結局は仲良く朝ご飯を作るのだから。


「よしっ、朝練にでも向かおうかな」






悠聖の朝は平日だろうが休日だろうが早い。それにはとある理由がある。


「いった」


悠聖は体中に感じる痛みを受けておき上がった。どうやらベットの上から落ちたらしい。ちなみに、ベットはかなり大きく、言うならキングサイズ。部屋の大半がベットだ。


そのベットの上には優月と冬華、そして、アルネウラの姿がある。


ちなみに、悠聖は毎日優月とアルネウラと寝ている。アルネウラは悠聖と付き合ったいるし、優月は二人からすれば妹みたいだからだ。ただし、冬華は寝ていない。


悠聖は小さくため息をついて周囲を見渡した。


入り口のドアに付けられているのは八つの鍵。窓には様々な侵入防止用のグッズが張り巡らされ、勝手に入ろうとすれば警報が鳴るようにしている。


だけど、何一つ解除された痕跡がなく冬華はベットにいた。そして、寝像の悪さから毎回悠聖をベットから落として起こしている。


悠聖はまたため息をついてカーペットの上で寝転がっているフェンリルの頭を撫でた。


「お前のマスターは毎日どうやって入ってくるんだ」


実に呆れているがその方法が全く分からない。休日はほぼ確実、平日は週に一回の確率で冬華が部屋にやってくる。別の言い方をするなら夜這いを仕掛けてくる。問題は悠聖が寝る時間が早いからでもあるが。


ベットの上で誰かが動く。そして、端にいた冬華をアルネウラがベットの外に蹴落とした。


冬華がいなくてもアルネウラによって悠聖は落とされる。


冬華はゆっくり起き上がった。


「おはよう、悠聖。それにしても」


起き上がった冬華がベットの上を見る。


「どうしてこの子は寝相が悪いのかしら?」


「どうしてお前は毎休日夜這いを仕掛けてくるんだ?」


思わず尋ねてしまう悠聖であった。






「都、説明してもらえるかしら?」


鏡の中に映る琴美の顔には見事な笑みがあった。ただし、その体からにじみ出ているのはまさしく修羅のオーラ。


琴美の後ろにいた都は完全に鏡の中の琴美と視線を合わさない。


「えっと、なんのことでしょうか?」


「しらばっくれるんじゃないわよ! 何よ、この髪型!」


琴美の髪型は見事なパイナップルの様な形になっていた。狙ってやったようにしか思えない。


「か、可愛いですよ。それに、それなら身長が伸びますよ」


「都のように身長には困っていないのよ」


琴美は立ち上がり都のこめかみを握った拳でぐりぐりする。ぐりぐりされている都は「あうー」と叫びながら痛そうな顔で琴美の腕をぺちぺち叩いていた。


「しかも、平日ならちゃんとするのに休日だけはどうして創作意欲がわくのかしらねべ?」


「あうー、ごめんなさいごめんなさい。痛いです。痛いですってば」


琴美の気がすんだのか琴美はようやくその手を離した。


「頭が割れるかと思いました」


「都がこんな変な髪型にするからじゃない。私は今日は大学の講義があるって言わなかった?」


「言ってました。ですけど、イメージチェンジした方が琴美はもてますよ?」


「一度頭を割られたいのかしら?」


琴美がにっこり笑いながら都は首をぶんぶん振りながら両手を前に突き出した。


「お断りします、お断りします。それにしても、何の講義があるんですか?」


「英語よ英語。私のクラスの先生が今秋休んだからって土曜に補講よ。普通にありえないから」


琴美はそう言いながら鏡の前のいすに座った。そして、都がパイナップルのように結んだ髪の毛を解いていく。


すぐに櫛を当てていつものようなストレートに戻した。


琴美が鏡と自分の手でちゃんと髪の毛がなっているかどうか確認する。


「はあ、まさか三つ編みやポニーテールじゃなくてパイナップルで来るとは」


「三つ編みならよかったんですか?」


その言葉に琴美の目が光を放った。


「そうね。都は今日三つ編みにしようかしら?」


「えっ?」


顔をひきつらせる都に対して琴美は満面の笑みを浮かべて近づいた。






「羨ましい。いつもと違う髪型なのに普通に似合う都が羨ましい」


「し、仕方ないよ。ベリエちゃんも私もそれほど長くないんだから」


三つ編み姿で駐在所にやってきた都をベリエは羨ましそうに見つめていた。ちなみにアリエはその横でそんなベリエを苦笑している。


「お二人も髪を伸ばしてはいかがですか?」


「却下。長かったら戦いにくいし」


「私達はナイフが基本だから。都さんは杖だし」


「そう言えば、音姫も髪が長いですよね」


「「あの人は別」」


アリエとベリエの声が完全に重なる。それを聞きながら委員長が苦笑しながらもお茶を三人に出していた。


「確かに、音姫さんは別ですよね。髪の毛も武器であるかのように舞っていますし」


「実際に音姫は別格よ。髪が長いという近接戦闘のデメリットを剣技の実力で完全に打ち消しているから。もしろ、髪を短くしたら勝てる勝負ですら勝てなくなるかも」


「ベリエちゃん、私達は音姫さんにかったこと無いよね?」


「気分よ気分」


ベリエの声にその場にいた全員が苦笑する。そして、委員長が時計を見た。


「そろそろ営業開始時間だね。都さんは今日は訓練?」


「いえ、周様の代わりに事務です。仕事の大半は昨日でかなり片付けていますし、後ちょっとですから」


「さすが都さん。書類整理は上手いですよね。それと比べてベリエは」


委員長がベリエを見ると、ベリエは口笛を吹きながら視線を逸らしていた。口笛でならしている音楽は『天国と地獄』。かなり器用だ。


それを見ながらその場にいる全員が苦笑する。


「ベリエちゃんの書類整理は私の仕事だから。都さんを手伝うよ?」


「ありがとうございます。では、手伝ってもらいましょうか」


「私は何を手伝えばいい?」


ベリエが目を輝かせながらアリエに尋ねる。アリエは少し苦笑しながら駐在所の一角を指さした。


「では、あそこの10万ピースのパズルを完成させてください」


「オーケー」


周が冗談のごとく作った10万ピースパズル。未だに1000分の1ほどしか完成していないそれにベリエは近づいて行く。ちなみに、完全な真っ白のミルクパズルだ。


周も遊んで作ってから後悔していた。


「これでベリエちゃんも静かだね」


「何気に酷いと私は思うな」


にっこり笑みを浮かべる選りえの横で委員長が苦笑しながらパズルに取り掛かるベリエを見ていた。





訓練は夏であろうがなかろうが、例え冬であったとしても質は全く変わらない。それは春先である今の時期も同様だった。


「休憩」


音姫の言葉と共に音姫の向かいにいた冬華が巣の場に崩れ落ちる。対する音姫の顔は涼しいものだ。


慌てて優月とアルネウラが近づき持っていたスポーツドリンクを冬華に飲ませる。


「相変わらずの鬼畜っぷりだな。孝治の次に近接が強い冬華ですら倒れるか」


「音姫さんの剣技は絶えず相手を動かす。そして、体力を奪われていく剣技だ」


孝治と悠聖の二人も涼しいものだった。だけど、その周囲には地面が大きくめくれたような跡がたくさんある。


冬華はゆっくり体を起して悠聖を見た。


「どうして悠聖はそんなに余裕なの? 孝治と手合わせしているはずなのに」


「オレか? そうだな。孝治は動き方がなんとなくわかるから休憩のポイントがわかると言うか」


「じゃ、次の手合わせ相手は悠聖君で」


「げっ、下手に言うんじゃなかった。優月、手伝って」


「お断りします」


優月がにっこり笑みを浮かべて死刑宣告を行う。悠聖はすぐにアルネウラを見た。


「アルネウラは」


『私は冬華を見るので忙しいよ。春だからと言って熱中症にならないと決まったわけじゃないから。それに、音姫との訓練だったらむしろ熱中症になりかねないよ』


それほどまでに音姫との訓練は強力ということだ。悠聖は諦めたように肩を落とした。そして、周囲を見渡す。


「それにしても、今日ってこんなけなんだな。本当なら周と由姫と都さんも加わっていたよな?」


「正確にはアリエ、ベリエ、エレノアもだ。エレノアは風邪を引いたと聞いている」


「やっぱり慣れないのかね? 魔界と人界じゃ」


悠聖はそう言うが魔界と人界であまり差はない。あるのは魔力の濃さだろう。だが、エレノアはよく風邪を引くことでみんなの認識は共通していた。


優月が何かを考えるように悩む。


「どうしてアリエもベリエもエレノアさんのように風邪を引かないのかな?」


『あれだよ、あれ。バカは死ななきゃ治らない』


「バカは風邪引かない、だからな」


悠聖が呆れたようにため息をつく。そして、空を見上げた。


「時間、止まってくれないかな」


もちろん、そんなことはなかった。






「ごめん、けほっ、けほっ、なさい」


咳をするエレノアの背中を見舞いに来ていたアル・アジフが撫でる。エレノアは服を着込んでいる。


「喋るでない。そなたはかなり辛いじゃろ」


「けほっ。だけど、アル・アジフも、けほっ、けほっ。風邪を」


「我は大丈夫じゃ。寝ておれ」


アル・アジフがエレノアをベットに寝かせる。そして、エレノアの体温を計った。


体温は39℃。かなり体温は高い。


「そなたは体が弱いのじゃから、無理をするでない。常に季節の変わり目は風邪を引いているからの」


「うん。『炎帝』を目指したのも、けほっ。体の弱い私でも力強く生きていることを示したかったからだし。はぁ、ちょっと、楽になってきた」


「ベリエとアリエが調合したそなた専用の風邪薬じゃからの」


アル・アジフは机の上に置かれた錠剤を見ながらエレノアにウインクした。エレノアはそれを見てクスッと笑う。


そして、大きく息を吸い込んだ。


「周は心配しているだろうな」


「じゃろうな。周は優しいからの」


「嫉妬?」


「ちが、いや、そうじゃな」


アル・アジフが苦笑する。そして、近くにあった椅子を引き寄せてエレノアの近くで座った。


エレノアは楽しそうにアル・アジフを見ている。


「羨ましいな。アル・アジフには周がいて。私もそういう人が欲しいな」


「そなたは周が好きではないのかの?」


「どっちかと言うと、弟、かな。お姉ちゃん役はすでに音姫がいるけど」


「そうじゃな。音姫は立派な周と由姫のお姉ちゃんじゃ。そう言えば、音姫も色恋沙汰を聞かないの。モテているはずなんじゃが」


アル・アジフは深く考え込んだ。確かに、音姫はモテる。優しいし可愛いし性格もいい。ただ、ブラコンでシスコンというデメリットが大きかった。


そして、世界最強の剣士。


「あはは。けほっ、けほっ。音姫はそういうのには疎いと思うよ。でも、相手を見つけたらバカップルにはなる」


「そうじゃな。そなたも見つかればいいの」


「アル・アジフの意地悪」






学園施設エリア上空。


そこから見える学園都市の姿は学園都市の外にある姿とは全く違うものだ。たくさんの建物が並び、広大なグラウンドが広がっている。


高校と高校の間は一番近い距離で約50cmと他の場所と比べたら遥かに狭い。その代わり、学校間の交流は極めて盛んだが今は関係がない。


そんな学園施設エリア上空に光と楓の姿があった。


光は肩くらいまであるストレートの髪をなびかすながら、楓はショートカットの髪を押さえながら浮かんでいる。


「相変わらず涼しいな。やっぱり空は」


「サボっていたら怒られるよ」


「規定のルートはもう通ってる。後は時間まで見回るだけや。大丈夫大丈夫」


光はそういいながら『炎熱蝶々』をはためかせる。それをするだけで浮力が生まれるのだから魔術というのは神秘の塊だ。


対する楓はブラックレクイエムの上にちょこんと座っていた。


「光はもう少し真面目にしないと。いつか花畑君に愛想尽かされるよ」


「孝治はモテるからな。むしろ、うちが不釣り合いやないかって思ってる」


「そんなことはないって。光と花畑君はお似合いだよ。まあ、佐野君とリースに負けるけど」


「あの二人はバカップルや」


実際に二人はかなりバカップルでもある。だけど、二人はかなりお互いに依存しているのだ。狭間市以来の付き合いでもあるから仕方ない部分もある。


それに、最近は浩平がかなり忙しい。


「孝治はかなり特殊やからな。枝豆とかスルメとか大好きやし、ノンアルコールビールにちょくちょく手を伸ばしているし、最近おっさん臭さが出てきたし、頼りがいが上がったし」


「十分に光もバカップルじゃないかな? お似合いだと思うよ」


「そんなことない。孝治はカッコいいし、強いし、私なんか足手まといやし」


「光は花畑君とはかなり戦闘タイプが違っていると思うけど」


孝治はあらゆるポジションが出来るが基本的には前線型だ。対する光もあらゆるポジションが出来るが、武器やレアスキルの性質から後方からの射撃型である。


だから、一緒に戦えば共闘することが難しい。


「悩めるだけ十分だよ。私なんて、叶わない恋だし」






「くしゅ」


周はくしゃみをしていた。そんなくしゃみをした周を呆然とリースが見ている。


「そんなにオレのくしゃみはおかしいか?」


「うん」


「はっきり言われると傷つくな」


周が小さくため息をつきながら周囲を見渡す。周とリースがいるのは商業エリアのリュミエール。その屋上に二人はいた。


周囲を見渡しても由姫や亜紗の姿は見当たらない。


「はぁ、はぐれるんじゃなかった」


「私も」


周とリースは揃ってため息をつく。実はリースも浩平とはぐれていた。そして、周と偶然合流して今にいたる。


周は手に持つ缶コーヒーをゴミ箱に投げ捨てた。


「リースは今日休みだったのか?」


「浩平と一緒」


「なるほどね。それでリュミエールにいたのか。ちなみにオレは」


「聞いていない」


「さいですか」


リースに話を強引に切られ周は小さくため息をついた。ここまでばっさりいかれたのは周にとって久しぶりだ。まあ、リースだから仕方ないだろう。


リースは未だに浩平以外とは若干の壁がある。第76移動隊の面々にすら。だから、本当はみんなと笑って会話して欲しいと周は思っているのだが。


「余計なお世話」


その言葉に周はリースの方を見た。リースはその手に竜言語魔法の書物を持ち周を見ている。


「聞こえていたか?」


「余計なお世話。私は私だから。それに、壁はないつもり」


「いや、あると思う。ほら、オレとの会話も」


「それは嫌いなだけ」


「さいですか」


まさか、ここまで嫌っていたとは。


周はそう落胆しながら小さくため息をついていると屋上に誰かが入ってくるのがわかった。人数は五人。それに振り返ると、そこには由姫や亜紗、浩平以外にもメグと夢の姿があった。


何故かメグや夢も。


「何で二人も一緒なんだ?」


周は首を傾げながら浩平に走り寄るリースを追って歩き出した。






亜紗と由姫の二人は周囲を見渡していた。周とはぐれたからだ。リュミエール内にまた遊びに来ていた二人はたくさんいる人の中から頑張って探そうとしている。


『由姫、センサーは?』


「リュミエール内にいることしかわかりませんってば。でも、遠くはないです」


『周さんのことだからきっとどこかで座っていると思う。こういう時に一人の方が動くのはかなり危険だから』


「ですよね」


リュミエール内ではあまり電波は届かない。だから、二人はデバイスの通信で探すことは諦めていた。


亜紗が周囲を見渡し、小さく息を吐く。


『いない』


「すぐには見つかりませんよ。上の階に向かって」


「あれ? 由姫と亜紗か?」


その声に二人は振り返っていた。そこにいるのは周囲を見渡しながら向かってくる浩平の姿。


そして、浩平が二人の近くまでやってきた。


「リース見なかったか?」


『見なかった』


「もしかして、浩平さんもはぐれたんですか?」


「お前らもか。ああ、ややこしいことになっているな」


確かにややこしいことになっている。亜紗や由姫は周とはぐれて浩平はリースとはぐれて三人は合流している。


三人が同時にため息をついた時、由姫の背中を誰かが叩いた。


「はい?」


由姫が振り返るとそこには私服のメグと夢の姿があった。メグは活発そうなイメージそのままジーパンを着ており、メグはロングスカートだ。ちなみに、上はお揃いのシャツ。


「ヤッホー。深刻そうな顔をしてるね。どうかしたの?」


「兄さんとはぐれて。兄さん見ませんでした?」


「夢は?」


「えっと、屋上に、金髪の、髪の長い女の子、と一緒に」


「誘拐?」


メグが不思議そうに首を傾げる。それを見ながら二人はぶんぶん首を横に振っていた。


金髪の髪の長い女の子と一緒ということは周の知り合いだ。周の知り合いでそれが該当するのはリースのみ。


「じゃあ、屋上に向かうか」


「そうですね」


浩平と由姫が屋上に向かうエレベーターやエスカレーターではなく階段に向かって歩き出す。それを苦笑しながら残った三人は後を追いかけていた。






「なるほどね。どうりで五人なわけだ」


周は苦笑しながらその経緯を聞いていた。ちなみに、浩平とリースの二人はさっさとデートを再開してここから出て行った。。


「いやー、本当に驚いたわよ。夢と一緒に遊んでいたら由姫に出会うんだから。お三方ははデート?」


「『はい』」


由姫の声と亜紗の文字が重なる。それを見ながら聞きながら周はまた苦笑していた。


「まあ、まさかはぐれることになるとは思わなかったけどな」


「あれは兄さんが悪いんです。兄さん、左に行きましたよね? 右利きなんですから普通は右です」


「あいにくオレは左利きだ。右も使えるように両利きに変えただけで実際は左利きだ」


「屁理屈です。あそこは右の方がいい店が揃っていました」


「左もなかなか捨てがたい店が」


『全員が悪い!』


周と由姫の間に亜紗が入り込んでスケッチブックを二人に見せた。


『私は中央から最短で向かおうとしたし、周さんも由姫も自分の理由でそっちに向かった』


亜紗のスケッチブックに二人は視線を外す。どちらも自分が悪いことがわかっていたからだ。


『だから、みんな悪いの。わかった?』


「そう、だな。亜紗、ありがとう」


「ありがとうございます」


『べ、別に謝ってもらおうとは思っていないし、それに、私も悪いから。ごめんなさい』


三人が同時に頭を下げて、そして、三人共に笑い出した。


ほんの少しの時間だけ、周囲から奇異の視線で見られるような声で。


「はははっ。さて、デートの再開といきますか」


「そうですね。亜紗さん、行きましょう」


『うん』


そして、三人は一緒にリュミエールの中に入っていった。






日が沈んでいる。その様子を悠人はフュリアス搭載型強襲空母エスペランサの横窓の一つから見ていた。


悠人は今日メリルやルーイを音界のゲートがある場所に送っていたのだ。だから、エスペランサの中にいる。


「悠人」


その声に悠人は振り返った。そこにいるのはリリーナの姿。リリーナが悠人の横に立つ。


「鈴は寝たよ。もう、ぐっすりと」


「リリーナは大丈夫? 昨日、遅くまでメリルと遊んでいたし」


「私は大丈夫だよ。これでも丈夫なんだから」


「そっか」


そのまま二人で沈み込む夕日を見つめる。傍目からすればロマンチックな光景ではあるが、二人からすればただ太陽を見つめているだけだった。


リリーナが笑みを浮かべる。


「悠人はさ、このまま第76移動隊にいてフュリアスのパイロットとして戦っていくの?」


「どうかな。アル・アジフさんは僕達に他の道を示してくれている。第76移動隊にいることだけが幸せじゃないから。でも、僕はそれには頼りたくないけど、今のままじゃダメだなって思ってるんだ」


「どうして? 悠人ならどんなフュリアス部隊に行ってもエースになれるはずだよ」


悠人は人界最強。音界の最強パイロットとは戦ったことはないが、エクスカリバーと悠人の力を考えて十分に強い。


だけど、今のままを悠人は求めていなかった。


「僕は昔、英雄に憧れていたんだ。自分を守り、みんなを守るような存在。確かに、今の僕はその英雄に近い力を持っていると思う。だけど、僕は本当は違うと思っている。この力は僕の求めていたような力じゃないって」


「贅沢だね、悠人は。でも、悠人らしいかも」


悠人は目を瞑った。そして、小さく頷く。


「いつか、それを見つける。それが僕が出来るアル・アジフさんに対する恩返し。僕はもう一人で立っていけることを示したいから」


「そうだね。リリーナに手伝えることがあったら言ってね。何でも手伝えるから」


「ありがとう」


悠人はリリーナに向かって笑みを浮かべた。リリーナの顔は赤い。夕日のためか、それとも、


「和樹さんや七葉さんを手伝いに行こ。二人共、ずっと動いているし」


「そうだね。じゃ、悠人、競争で」


「ずるいよ、リリーナ」


二人は駆け出す。楽しそうに笑いながら。


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