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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第三十三話 絡み合う存在

オレはレヴァンティンを机の上に置いた。少し激しく動いたため体の内側の傷が開いたかと思ったが全く開いていなかった。


おかげで話を聞くことが出来る。


オレ達がいるのは学園自治政府専用の建物にある代表室。そこには第76移動隊側からオレと音姉。学園自治政府側から楠木大和と浩平の姿がある。


悠聖はメグのフォローだ。さすがにメグを放っておくわけにはいかない。


「どこから話したものか悩むな。どこから話せばいい?」


楠木大和が笑みを浮かべながら肩をすくめてくる。それに対してオレは苦笑で返した。


「そうだな。“義賊”についてまずは尋ねたい。さすがに放っておくわけにはいかないだろ。オレ達の不注意でも“義賊”は念入りに計画したのだから」


あまりにも動きが鮮やかだった。資料を奪う人物。その人物を追いかけようとする相手を食い止める狙撃手。残るメンバーを引きつけるパワータイプの攻撃手。


ヒット&アウェイを狙う際によく使う手段だ。結構成功しやすい。


そして、逃走に関しては精霊爆弾を使った。音姉に放った精霊爆弾は光だけだったらしく、地面に落ちた際の打ち身くらいしか音姉は怪我をしていない。


「“義賊”か。奴らの行動は私達の理解が及ばない部分がある。簡単に言うなら賊だ」


“義賊”という名前からわかるけど、“義賊”という名前がつけられるほどだ。確かにやっていることは賊まがい。


なのに、個人情報を盗むのはどういうことかわからない。


「理解が及ばない部分が多い。多いからこそ私達はあまり実態を掴めていない」


「だろうな。不法侵入から犯罪を見つけるならともかく、今回のような個人情報を盗むのは完全な御法度」


「さすがに今回のはマズい、が『GF』が仕組んだ“義賊”を陥れる計画の可能性も」


「理由は?」


オレは楠木大和の言葉を遮って尋ねた。


それをするには理由がいる。ちゃんとした理由でなければ名誉に関わってくる。それが冗談だとしても色々と問題だ。


「ローブという共通項目はどうだ?」


「なるほどな。『GF』が広く捜査しているナイトメアに関して共通する可能性があるからか? その理由なら納得だ。問題として、“義賊”の話を『GF』はほとんど知らない。噂という部類になるな。学園自治政府がそれを隠していたのに」


「それは謝らしてもらおう。私達が隠していたのには理由がある」


「“義賊”が大規模談合事件に関与したからだろ?」


「理解が早くて助かる」


大規模談合事件を発覚させただけでも“義賊”はかなりのお手柄だ。だからこそ“義賊”に関しては話せなかった。


『GF』からすればどんな手柄でも確保すべき対象。そして、犯罪者。


学園自治政府からすれば犯罪をしてでも手助けしてくれる相手。


二つの違う組織から見ればかなり対応が変わる相手でもある。だから、学園自治政府は名前を出さなかった。


「そして、“義賊”から新たな情報があった。君達が大規模談合事件に関わったという話だ。その弁解に来たのだろ?」


「残念だが、たかがそんなもので犯人に仕立て上げようとするなんて器が知れているな。楠木大和」


「残念だが証拠としては十分だ。見た前」


楠木大和が差し出したのは一枚の写真。そこには確かにオレの姿があった。


「決定的な証拠だと思わないか?」


「全く。なら聞くが、今までどうしてオレの名前が出なかった?」


「簡単だ。今まで黙っていただけのこと」


オレは小さくため息をついた。そして、周囲に視線を走らせる。


音姉も頷いているしレヴァンティンも軽く振動していた。


「じゃ、本格的な話に入ろうか」


「そうだな」


オレが笑みを浮かべると楠木大和も笑みを浮かべる。どうやら楠木大和もオレと同じことを思っていたらしい。


この場で意味が分かっていないのは浩平のみ。浩平は不思議そうに首を傾げている。


「周、どういうことだ?」


「レヴァンティンと音姉に盗聴器や盗聴者がいないか探してもらっていたんだ。オレや楠木大和がお互いに言い合っているなら盗聴者なら聞こうとするだろ」


「なるほど。つまり、演技?」


「わからなかったのか?」


写真はあまり証拠とならない。オレみたいな役職では様々なところに出入りするため関係者だと判断出来る時はあるがそれが実質の証拠に繋がるなら冤罪がたくさん起きるだろう。


写真はあくまで証拠を補完するためのものだ。


「そうです。まさか、あなた達が関わってくるとは思いませんでしたよ」


「つか、周と普通に話す時っていた大和は丁寧なんだな」


「当たり前です。向こうは第76移動隊隊長。学園都市のトップ。ちゃんとした言葉を使うべき存在です。まあ、相手からすればそのようなことはないようですが」


「目上だろうがほぼタメ口だからな。まあ、今はいい」


本当に今はいい。楠木大和がオレに向かっていつもと違う話し方をしてオレも音姉もピンと来ていたからな。


話し方が違うからこそ、いつもとは違い怒っているように見せた。そして、盗聴者を誘ったというわけだ。


「具体的な話を聞かせてもらえるか?」


「そうですね。“義賊”から来た情報。それには確かに第76移動隊隊長の保護者が関わっているという情報でした」


「それは浩平から聞いた。義母さん、素子さんがそんなことをするとは思えないし」


「保護者の名前は海道椿姫」


その名前にオレは思わず立ち上がっていた。浩平と楠木大和が不審そうに見つめてくる。


だけど、今のオレはそんなことを気にしていなかった。


「誰だ。その名前を出した奴は」


「“義賊”」


楠木大和がその名前を告げる。オレは小さく息を吐いてその場に座った。


これは偶然なのか? それにしても奇妙に合いすぎている。


「そして、昨日から大規模談合事件で捕まった者達が第76移動隊隊長の保護者の名前を出し始めた」


「弟くん、大丈夫?」


「大丈夫だ。腸が煮えくり返りそうだけど大丈夫だ」


「周、その名前に聞き覚えがあるのか?」


浩平の質問にオレは頷いた。


「海道椿姫。オレの母親で十一年ほど前に起きた『赤のクリスマス』で死亡した人物」


「それは悪いことをしました」


「いや、楠木大和が謝ることじゃない。だけど、妙なんだ。『悪夢の正夢ナイトメア』も急に思い出してって言うことも親父やお袋のレアスキルと似すぎている」


親父は『悪夢の正夢ナイトメア』を持っているしお袋の能力である『現実回避エスケープ』は完全に忘れ去られる能力でもある。


だから、あまりに奇妙だ。


「しかし、周の両親は」


「ああ。『赤のクリスマス』に巻き込まれた。それに、人一倍正義感のある親父やお袋がそんなことをするわけがないんだ。親族だからでもあるが、オレはもういない二人を信じたい」


「わかりました。では、話はこれだけにしておきましょう。第76移動隊隊長の保護者という話はこちらで処理出来るだけ処理しておきます」


「助かる」


オレは楠木大和に頭を下げた。


『GF』からすれば学園自治政府にはあまり借りを作らない方がいいかもしれないが、オレ個人からすればそんなことは関係ない。


「では、次の話でもいきましょうか」


「他に何かあるのか?」


「はい」


その回答にオレは眉をひそめた。そして、とある鍵を取り出してオレに差し出してくる。オレはそれを受け取って鍵をまじまじと見つめる。


「どういう意味だ?」


「三日後ぐらいにあるシェルター点検。その際にシェルター奥深くを点検して欲しいということです。本来なら業者を使うところですが、どうやら奥深くは点検していないらしく」


つまり、それほどまでに危険なところか賄賂をもらっているかのどちらか。前者であって欲しくはないけど後者でもあって欲しくはない。一番の理想は忘れ去られているということ。


まず、ありえないけど。


「わかった。それにしても、シェルターの奥深くには何があるんだ?」


「わかりません。わかりませんが、学園都市にとって重要なものがあると聞き、鍵を渡されました。『GF』には内緒にするように」


「『GF』に内緒? それはあまりにも怪しくないか?」


「だからですよ」


だから、第76移動隊のシェルター点検の際に奥まで探ってもらえるよう鍵を渡してきた。


オレはそれをしっかりポケットに収める。


「了解した。まあ、何事もないことを祈るけどな」


「お気楽ですね。そんなことがありえるとお思いですか?」


「全く」


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