第二話 合流
一時間後。時雨が指定してきた時間にオレ達は素直に奴の部屋に行くつもりだった。そう、つもりだった。何故つもりだったかを説明するなら、
「孝治はどこに行った?」
悠聖が今呟いた言葉に全ての意味が入っている。そう、いないのだ。心当たりのあるところをひたすら回っても見つからない。考えうる限りの場所を探した。今向かっている場所を除いて。
花畑孝治。
オレや悠聖の親友で頼れる男だ。よく一緒に任務に行くが悠聖が暴走するのを食い止めてくれる。同年代だけど。
若干老け顔で言動がおっさん臭く、好きなものがするめで世界トップクラスの実力者。100位以内には入ってくるだろう。確実に。
何度も何度も同年代と言うが、孝治はまさに天才と呼ぶべき部類の中でもトップクラスに入る。いや、同年代の中では二番目の天才だと言うべきか。一番の天才は、うん、想像をはるかに超えている存在だ。身近な存在でもあるけど。
もちろん、オレが戦えば勝てることは無い。代わりに負けることもない。実力が同じというわけでもない。特徴や弱点を知っていなくてもオレならなんとかなると言われたことがあったっけ。
そんな孝治がいない。つまり、時雨の部屋に行けない。孝治は重要な役目だから絶対につれて行きたいのに。もうひとりの重要な役目の人はすでに連絡を入れている。
「ったく、どこにいるんだか。周は心当たりは無いか?」
「そうだな」
孝治がよく行く場所。
体育館裏。校舎裏。路地裏。天井裏。
「変なところしか思いつかん」
全部裏がつく場所だけど、あいつならよくそこにいる。
「わかる気がする。外に出ていたらお手上げだよな。アルネウラに探させるか?」
「絶対拒否すると思うぞ。というか、お前はいつも精霊は友達と言っているだろうが。そんなことに使うな。とりあえず、最後の心当たりである屋上に向かう。いなかったらそれから考えればいいさ」
「行き当たりばったりかよ。まあ、オレ達の年代の行動力から考えて・・・、すまん。オレ達の財力を考えたら全く当てにならん」
まあ、同年代の中でも稼いでいる額はトップレベルだしな。特にオレや孝治は。
オレがさっきから屋上に向かって歩いている理由は二つある。
一つは悠聖と話した内容にあること。孝治が外に出ているならお手上げだが、頑張って見つければいい。
もう一つはとある理由からだ。悠聖が見たなら羨ましいと言いそうだけど。
オレ達は階段を登りきり、オレが屋上のドアに手を出そうとした瞬間、動きを止めた。凄まじく嫌な予感がする。例えるなら、どう見ても色がおかしい料理を目の前にした気分。
悠聖はオレのそんな動きに気づかずドアを開けて屋上に出る。呑気にも鼻歌を歌いながら。
オレがとった行動はただ一つ。後ろに下がり、防御魔術を展開しながら両手を合わせて目を瞑る。
まさにご冥福をお祈りしますというポーズ。何故なら、爆発音と共に悠聖が吹き飛ぶ瞬間が見なくても頭の中に浮かぶからだ。
期待は外さないというか、爆発音と共に目を開けると熱風と共に悠聖はいなくなっていた。あいつのことだから防御魔術を展開しただろうけど。間に合っていなくても大丈夫だろ。
「相変わらずの火力だな。さすが、地獄の名がつく異名を持つだけのことはある。」
オレは防御魔術を展開したまま屋上に出た。屋上にはボロボロになって転がる悠聖の姿がある。
防御魔術が間に合わなかったか。
槍を構える見知った少女とその後ろで困った顔をしている見た目は青年だけど、実際は少年。鎮圧用魔術かと思ったら砲撃魔術だったか。防御魔術していなかったら巻き添えくらっていたな。
少年の方が花畑孝治で少女の方が中村光だ。
中村の方はオレの幼なじみでもある。物心がついたころからの付き合いだ。髪の毛は肩くらいまであり、まっすぐなストレート。まあ、背は小さいけど。
花畑孝治は外見を見れば社会人くらいか。背は高く、しっかりとした体つき。髪の毛は天然パーマ気味だけど。
「逢瀬は部屋の中にしろと言わなかったか?」
中村が槍を構える。一応、いくつかの防御魔術をストックして準備しておこう。
「余計なお世話や! なんで海道もこんな場所に来るん? とりあえず、ぶっ飛ばしていい?」
「勘弁してくれ。孝治を探しに来たんだよ。まあ、お前もいるなら手間が省けたけど」
孝治と中村がどうしてこの場所にいるかの方が疑問だ。まあ、想像はつくけど。
「うちにも用があるん?」
「オレ達は呼ばれている。時雨にな。新部隊メンバーは呼べるだけ呼べとさ。現在の構想じゃ六人だし」
「そうか。ところで、そのボロ雑巾はどうする?」
オレは孝治が指差すボロ雑巾を見た。地味に孝治は怒っているな。いつもならこのバカか、間抜けか、悠聖としか呼ばないのに。
「すぐ復活するだろ。ところで、中村は本当に相変わらずだよな。相変わらず背が小さいよな」
オレは小さく小さく笑みを浮かべながら中村を見た。中村の身長は同年代でもかなり低い。身長が高めの孝治と一緒にいたら一度、孝治が補導されかけたこもあるくらいだ。中村はムッと槍を構える。
「ここでやるん?」
「おいおい、ここがどこだかわかって言っているのか?」
オレはあくまで挑発をするように言う。まあ、あくまで挑発をするように言いながらここで戦うことの危険性をほのめかしているだけだけど。ここで戦えばオレよりも強い奴が数人飛んでくるからな。文字通りに飛んでくるし。
中村は小さく溜息をついて槍を下ろした。
「わかっとる。このまま時雨さんのとこに行くん?」
「そうなるな。じゃ、行くか」
オレは地面に転がるボロ雑巾の首根っこを掴んで引きずって歩き出す。時々どこかにぶつかっているが気にしない。バカは頑丈だと言うのが相場だ。
向かう先は嫌な予感しかしない『GF』の総長の部屋。多分、音姉は怒っているだろうな。