第二十七話 本職の二人
リュミエール内の喫茶店から離れたオレ達はリュミエール内部を回っていた。メリルが悠人によって先導され、ルーイがメリルの横に。オレと亜紗、由姫は少し後ろからついて行っている。
メリルはほとんどのものに興味津々らしく悠人に様々なことを質問していた。
「なあ、ルーイ」
「何だ?」
オレがルーイの名前を呼ぶとルーイはこっちにやって来た。オレは少しだけ二人から前に出てルーイと並ぶ。
「メリルはこういうところに来たことがないのか?」
「ああ。音界にはこのような場所はないからな。僕もかなり驚いている」
「全く見えないけどな」
ルーイはほぼポーカーフェイスでメリルを見守っていた。
まあ、ルーイは結構ポーカーフェイスが出来るやつなんだけどな。
「しかし、人界にはこういう建物がたくさんあるんだな」
「リュミエール、ここは学園都市最大にして世界最大級だったかな。由姫は知ってるか?」
「ほんの少しの差で世界最大級ですよ」
「だそうだ」
世界最大級でこの広さだもんな。というか、広すぎて迷子になったらかなり大変だろう。
ルーイもそれがわかっているのかメリルからほぼ目を離さない。
「まるで父親だな」
「幼なじみなだけだ。それに、悠人じゃ危ない気がして目を離せない」
「同感だ。知り合いがいれば確実に慌てるだろうな。それが目に見えている」
悠人はそういう奴だ。そういう奴だからこそみんなからかなり愛されている。悠人は隠し事が出来ない正直者だから。
そんな純粋な奴が社会ではなかなか生き残れないけど、悠人ならのらりくらりと何とかしそうだ。
「今回の滞在はどれくらい?」
「明後日には帰る。新しいアストラルタイプの機体がロールアウトしたからな。マッシバ隊長が乗る予定だ」
「確か、音界一のフュリアス乗りだったか?」
確かそんな話を聞いたことがある。音界からこちらに来たことはないがかなりの腕前だと悠人から聞いた。
人界最強のフュリアス乗りとして悠人は戦いたかったんだろうな。
「ああ。現在ロールアウトされている最新型アストラルソティス。僕はその悠遠タイプ。マッシバ隊長は伝承タイプに乗っている」
「何でもぶった斬るタイプだったっけ。フュリアス乗りからしたら悪夢だろうな」
「確かに、マッシバ隊長はあらゆる攻撃を回避して近接し攻撃を叩きつけるのが主体だ。回避には定評がある。もっとも、死角からの攻撃には無理だが」
そう言いながらルーイは悠人を見た。悠人はルーイのフレキシブルカノンを全て避けた。さらには、死角からの多方向同時攻撃すらも避けた。
どう考えても人間という範疇には収まらない。まあ、オレもだけど。
「だからこそ、悠人は最強のフュリアスパイロットなのだろうな」
そう言いながらルーイは笑みを浮かべる。ルーイにとって悠人はライバルだ。おそらく悠人もルーイをライバルだと思っているだろう。
それぐらいまでに二人の技術は極めて高い。
「悠人、あれは何ですか?」
メリルが指差した先をオレ達は見た。そこにあるのはリュミエール内部にあるゲームセンター。
日本最大級のゲームセンターであり様々なゲームがおいてある学生達の憩いの場。
確か、健さん達がこのゲームセンターにいるはずだ。
「ゲームセンターだよ。様々なゲームがあるんだ。周さん、寄ってもいい?」
「亜紗と由姫から離れないなら」
「はーい。メリル、行こうよ」
「はい」
二人が歩き出す。手を繋ぎながら。それを見たオレは小さくため息をつきながら振り返った。
「頼めるか?」
『私は大丈夫。由姫の方が適任だけど私達で頑張るから』
「わかりました。亜紗さんは兄さんに近い位置にいてください。一応、兄さんは戦えない状況ですから」
オレは軽く肩をすくめながらペンダント形態のレヴァンティンを取り出した。そして、それを二人に見せる。
「一応レヴァンティンは携帯しているから」
『私が許可をするとでもマスターは思っていますか? 少しは自分の状態に気をつけた方がいいですよ』
デバイスから拒否された人間って絶対にオレが最初だよな?
その言葉を聞いた由姫がクスッと笑う。
「兄さんは大人しくしてください。亜紗さんなら兄さんと話せますから危険も少ないですし」
「知っていたのか?」
「亜紗さんとアル・アジフさんから聞いています。だからこそ、私は負けたくありません。亜紗さんにも」
そう言って由姫が二人を追って駆けていく。その様子を見ていた亜紗も由姫の後を追って歩き出した。
その様子を見ていたオレは小さくため息をつく。
「どうかしたのか?」
「いや、いつの間にか頼れる奴らになったんだなと思ってさ。さてと、オレ達も行きますか」
リュミエール内部にあるゲームセンター。名前はゲームワールド。安直な名前ではあるがメーカーの枠を越えた様々なゲームがあり、ゲームセンターとしてはかなりの異色を放っている。
極めつけがその値段。基本的に百円だ。だが、通常百円のゲームに関しては2プレイ百円という値段設定。
それにはとある理由がある。このゲームセンター内のゲームはは日本でも最新機か先行設置のものばかりだ。簡単に言うなら学生の評価を見ているテスト場所と言ってもいい。
その中でも『GF』と『ES』が共同で作ったシュミレーションゲームがFBSだ。その人気は桁違いに高い。だって、
「ここの経営者はバカですか?」
メリルの頬が引きつるくらいに。だって、全四階あるゲームワールドの中でFBSフロアは三階全て。総設置台数は百を超える。
「一応、理由はあるんだけどね。FBSは元々はフュリアスのパイロット候補生を鍛えるシュミレーション装置だったんだけど、フュリアスを擬似的に扱えるからゲーセンに置いて欲しいという声が出て」
「おかげでゲームセンター用に作り上げるだけで一ヶ月も技術部が操業ストップしたからな」
本気で笑えない話である。ちなみに、学園都市内部では1プレイ百円だが、学園都市外では三百円かかる。
「楽しいのですか?」
「メリルもやって見る? えっと、列は」
「あれ? 何で周の姿があるんだ? やっぱりFBSしに来たのか?」
声がかかった方向を見ると、そこには健さんと真人の姿があった。どちらも近くの筐体に座っている。
そして、その手はせわしなく動いていた。
「こいつ、やるな」
その動きを見ながらルーイが小さく呟く。確かに動きはすごいけど、そこまでのものなのか?
「健さんはさすがだね。余所見をしながらCPUを倒すなんて」
「そんなの簡単だろ。だって相手はエクスカリバーとアストラルソティスだぜ。FBSで使える機体でワーストとブービーの機体。見なくても勝てるって」
その時、三人のキレる音がオレの耳に鳴り響いた。オレは小さくため息をつく。
まさか、オレ達の前でエクスカリバーとアストラルソティスを批判するとは完全に予想外だ。予想外すぎて笑えてくる。
「悠人、このコクピットは音界規格と同じなんだな?」
「うん。乱入、入れるよ」
確かに向かいの席には誰もいない。健さんと真人はFBSじゃ学園都市最強だって聞いたからな。誰も相手をしたくないのだろう。
だけど、今から立ち向かうのは本職の二人。エクスカリバーとアストラルソティスはそれら特有のクセをプログラミングされている。未だにそれを掴めた人がいないのだろう。
多分、健さんや真人も。
そもそも、データを取れたエクスカリバー自体が悠人しか使えない機体で、アストラルソティスはルーイの悠遠タイプしか取れていない。
「悠人、ルーイ、本気でお願いします」
メリルもキレている。まあ、気持ちはわかる。
「本気? そんなものじゃ生ぬるいよ」
悠人は笑みを浮かべた。
「本物を見せる。それだけだよ」
悠人とルーイが席に座る。それに気づいたギャラリーが筐体の近くかモニターの近くに集まりだした。
チャンピオンに挑む無名の二人だもんな。注目の的になるわ。
「レヴァンティン、時雨にメリル達がお忍びでついたことの連絡を」
『いきなり安全策ですね。まあ、仕方ありませんけど』
レヴァンティンが納得したように言う。
悠人が選んだのはエクスカリバー。ルーイが選んだのはアストラルソティス。
「おいおい、素人が最弱機体使ってるぜ」
「何秒で負けると思うよ?」
「俺二十秒」
すでに会場は二人が負けることが確定しているらしい。その声を聞きながらオレは笑みを浮かべていた。いや、オレだけじゃない。オレとメリルは笑みを浮かべていた。
「人界最強のパイロットと」
「音界最強クラスのパイロットを」
そして、オレ達の声が重なる。
「「なめるな」」
次話で軽く戦闘が入ります。FBSの戦闘ですが。