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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第二十六話 合流

弓道場を後にした時にはまだまだ日暮れまで時間はあった。弓道場にそんなに長くいなかったからだが。


これからどうするか。


「お兄ちゃん。商業エリアに向かわない? デートしに」


「商業エリアに向かうのはありだな。というか、完全休暇だもんな。事務作業はダメ?」


「ダウト。お兄ちゃんは働きすぎだから。今日、明日、明後日くらいはゆっくり過ごすこと。いい?」


「わかった」


由姫がいる以上、目を盗んでというのもダメだな。三日間も『GF』の事務作業すら関わらないのは初めてだ。今までは一日中ゴロゴロしていた経験はあるが、三日間はない。


今やっている案件も三日間の内でかなり進みそうだけど、音姉や孝治がいればどうにかなるだろう。


オレは小さく溜息をついた。


「なら、商業エリアにでも向かうか。まあ、やることはないからぶらぶらとして」


「なら、私の下着選び」


「却下。単独行動してやるぞ」


「じょ、冗談ですってば」


あははと由姫が笑う。もし、そんなことになったならオレは本気で単独行動に走るだろう。


由姫もそれがわかっているからしつこくは食い下がらない。


「まあ、何も買わずに歩いていれば楽しいと思うし。それに、お兄ちゃんとだから私はどこでもいいよ」


「そう言われると困るんだよな。まあ、商業エリア向かってからでも」


『遅い』


オレの目の前にスケッチブックが差し出されていた。校門の前でずっと待っていたのだろう。少し不満そうな顔の亜紗が本当に不満そうにスケッチブックを差し出している。


そう言えば、亜紗も休暇が被ったらしいな。


『五時間目から待っていたのに』


「授業中だろ?」


『私が法に縛られない』


それはあまりに唯我独尊すぎる。まあ、亜紗の学力から考えて別に授業をサボってもどうにかなるだろう。


授業をサボるくらいじゃ都島学園都島高校は何ら干渉すらしてこない。不気味なまでに。


『周さん、商業エリアに私と二人でデートしよ』


「むっ、兄さんとデートをするのは私です。亜紗さんの出番じゃありません」

『本当は休みじゃないくせに』


「それを言われたらどうしようもありませんがって、兄さん! どこに行くんですか?」


オレは言い争いを始めた二人を置いて歩き出していた。こういう時になったら二人はかなり不毛だ。どれくらいかと言うと今熱中しているものを語り出した二人くらいに不毛である。


そういう時はまずはオレが動かないと。


「さっさと行くぞ。今日は三人で街に繰り出すんだからな」






商業エリア東地区リュミエール。


そこは巨大な複合百貨店のような場所だった。簡単に言うならこの場所で揃わないものはないというくらいに。


売り場面積で見れば世界最大級だったか。そのためかたくさんのカップルがうろついている。


そんな場所にオレ達はいた。オレ達がいるのはリュミエール三階にある小さな喫茶店。繁盛しているというわけではないが、オレ達がここらへんにくれば必ずと言っていいほど来る場所だった。


言うなら第76移動隊御用達でもある。ここのコーヒーと紅茶は高いが学園都市では最高峰だとオレは感じている。


オレはコーヒーのカップを受け皿に置いた。


「ウインドウショッピングじゃなかったのか?」


「つい」


由姫がそう言いながら自分の椅子の隣にある紙袋をオレから隠すように動かした。亜紗は元から本を買うつもりだったのか数冊の本を買っている。


オレは小さく溜息をつきながら紙袋を見る。


「単独で何を買ったんだ? オレ達と一緒だとダメだったのかよ」


「えっと、それは秘密です」


『勝負』


亜紗が開いたスケッチブックにはその二文字が踊っていた。それを見たオレは首を傾げ、由姫は完全に慌てている。そして、スケッチブックを力づくで閉じた。


亜紗が不満そうな顔で由姫に向かってスケッチブックを開く。


『私は事実を言っただけなのに』


「事実は時に人を傷つけるものです。特に、今回のようなことは」


『大丈夫。周さんはすぐに見る』


「言わないでください!」


由姫が珍しく亜紗相手に涙目になっている。基本的には音姉かアルのどちらかが涙目にするのに今回は亜紗だ。


いつもは由姫が亜紗を涙目にするのに。


「すぐ見るってことは服か? また、前の時のように見せてくれよ」


あの時の服は似合っていたからな。まさか、由姫が赤色で統一しただけであそこまでよくなるとは。


次はどんな服を見せてくれるんだろう。


『由姫は意外とアクティブ』


「違いますから! 私服を見せただけです。赤のあれを」


『確かにあれは似合っていた。どうやったら赤を上手く着こなせる?』


「そんなことはわかりません。私はただ気に入ったから買っただけです」


由姫がどこか恥ずかしそうにそっぽを向く。実際に恥ずかしいんだろうな。由姫って服に関してはずぼらな部分がある。


例えば、一日の大半を制服で過ごすとか。


『でも残念。周さんは制服フェチ』


「いきなり変な嗜好をつけるな。で、これからどうする? リュミエールをもっ、てぇ?」


「兄さん?」


オレが急に言葉を止めたことを不思議に思った由姫と亜紗が同時にオレが見ている方向を向いた。


そこにいるのはキョロキョロと周囲を見渡す悠人。ここまではいい。その悠人と手を結んで歩くウェーブがかかった長めの金髪に帽子とサングラスをかけた小柄な少女。服装はイメージ清楚。そして、確実に伊達眼鏡をかけたルーイ。


まあ、ルーイがいる時点で少女が誰かわかるけど、まさかのだな。


悠人が小さく溜息をつく。そして、オレ達がいる喫茶店の中に入り、オレ達の方向を向いた。


亜紗が三人にスケッチブックを見せる。多分、カモ~ンとか書かれているんだろうな。


「き、ききき、ききききき」


「悠人落ち着け。僕の耳にはきしか聞こえていないぞ」


「ききききき奇遇ですね。周さんも、あいたっ」


とりあえずオレは一発殴ることにした。


「あんたらが来るとは聞いていないけど? メリル、ルーイ」


「わ、私はメリルと言う名前ではありません。ルリメです」


「メリル、さすがにそれは苦しいぞ。僕達はお忍びできた。だから、『GF 』の上層部にも話を通していない」


それは違法入国になるのだが、まあ、悪さはしないだろう。多分。


見つかったら怒られるですまないだろうがどうにかしないとな。こういう時には色々と安全マージンを払っておくべきか。


「第76移動隊隊長としてメリルの訪問を認知していたことにする。それだったら文句はないだろ?」


「周さん、ありがとうございます。僕もメリルが来た時は本当にどうしようか悩みましたから」


確かにそうだろうな。メリルは音界の歌姫。凄まじく重要な位置についている。ルーイという護衛がいても音界と人界じゃ能力がかなり違うからな。


一応はオレ達もいた方がいいか。


「由姫、亜紗、悪いけど護衛という理由で一緒に行動していいか? さすがに放っておけない」


「ですよね。わかりました。みんなで楽しんだ方が楽しいですし。亜紗もそれでいいですよね」


『仕方のないこと。ちょっと残念だけど』


二人共顔がかなり残念そうだけど。まあ、その気持ちは分からないでもない。だが、我慢して欲しい。


オレは小さく息を吐いてカップを手に取った。


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