第二十四話 休日
目が覚める。それは一日の合図。だけど、オレからすればそれは日常にいることへの確認。
『赤のクリスマス』の悪夢を見た日はいつもそうだ。いつも自分の左腕を触って確認する。不安なのだ。オレはまだ『赤のクリスマス』にいるんじゃないかと思ってしまって。
だけど、オレは右腕に何かの重みを感じた。左腕に触れない。
「周様、おはようございます」
その声の方向、正確には右を向く。そこには布団の中に入ってオレの顔を見つめる都の姿があった。
布団からはだけて見える部分は全て裸。その時、オレはようやく昨日の夜のことを思い出していた。そして、顔が一気に熱くなる。
「お顔が真っ赤ですよ」
そう笑う都の顔を見て、オレは恥ずかしくて顔を逸らした。昨日の夜は言うほどではなかったのだが一夜を過ごしてみると恥ずかしくて顔を合わせていられない。
「ふふっ、昨日の周様はあれほど可愛らしかったのに」
「頼むから言わないでくれ。恥ずかしくて死にそうだ」
都から見えるオレの顔は完全に真っ赤だろうなと思いつつゆっくり起き上がった。この時点でオレは上半身裸なのだが気にしない方がいいだろう。いや、気にしたら負けだ。負けなのだ。
オレは小さく溜息をついて都を見る。
「しちゃったんだよな」
「はい」
都の顔は本当に嬉しそうだった。その時のことを思い出しても顔が真っ赤に染まる。はっきりいってかなりキツい。
都はそんなオレ見て笑っている。
「周様らしいですね。そういう知識がほとんどないのは」
「仕方ないだろ。そんなは、破廉恥なもの、見る気にならない」
顔が真っ赤になりすぎて死にそうだ。都はそんなオレを見て笑っているだけでもある。
オレは手を顔に当てて息を吐いた。
「着替えるからこっちを向かないでくれ」
「いえ、私が部屋から出て行きますね」
その言葉に振り返ってみればいつの間にか都は私服に着替えていた。昨日着ていたような私服ではなく少し違う。違いを言うならロングスカートが普通のサイズになったこと。上は普通に長袖だ。
都のことだからあまり驚かないが、いつの間に着替えたんだ?
「では、また朝食の席で」
そう言いながら都は部屋を出て行く。その姿を見ながらオレは小さく息を吐いた。
「制服に着替えないとな」
周の部屋から出た都を待っていたのは制服姿の由姫だった。由姫は都に近づいて都の匂いを嗅いでいる。
「都さん、兄さんと何をしていましたか?」
「秘密、にしたいところですが、由姫にも秘密にしません。私は昨日、周様に抱かれました」
「まあ、覚悟してはいましたけど、まさか兄さんの初体験が都さんになるなんて」
由姫は両手を壁について落ち込んだ。覚悟していたという割にはかなり落ち込んでいる。
都はクスッと笑って由姫に近づいた。
「大丈夫ですよ。周様は由姫さんのことが大好きですから。ちゃんとお願いすれば大丈夫です」
「本当? お兄ちゃんは私を抱いてくれるの?」
「お前ら何の話をしているんだ」
周の部屋のドアが開き制服姿の周が現れる。その顔は未だに真っ赤だ。
「周様の着替えは早いですね」
「オレより早く着替える奴の言うことか? とりあえず、下に降りるぞ」
「わかりました」
周の言葉に都はクスッと笑みを浮かべた。そして、呆然と固まっている由姫の手を引っ張って歩き出す。
由姫の顔は当然のことながら真っ赤に染まっていた。
「み、都さん。私、私」
「落ち着いてください。周様は否定はしていません。タイミングは悪かったですけど。でも、今は時間があります。周様はこれから三日間は安静に普通の学生になるはずですから。大丈夫です」
「う、うん」
由姫はゆっくり頷く。その真っ赤になった由姫の様子が可愛くて都が由姫に抱きつこうとした瞬間、
「由姫ちゃん可愛い!」
いつの間にか現れた音姫がかっさらっていた。都は苦笑しながら音姫を見る。
「音姫は相変わらず可愛いものに目がありませんね」
「うん。特に由姫ちゃんなんてお持ち帰りしたいくらい可愛いよ~。由姫ちゃん、私の着せ替え人形にならない?」
「それはかなり人権を損害していますよ」
溜息まじりに言う由姫に向かって音姫はウインクをした。
「大丈夫大丈夫。私が法律だから」
「全く大丈夫じゃないからね! お姉ちゃん」
人はそれを唯我独尊と言う。
「音姫、これから三日間、由姫の仕事を私が肩代わり出来ませんか?」
「そのことで一つあるんだけど」
音姫は少し申し訳なさそうに由姫を見た。
「亜紗ちゃんとも休暇が被っちゃった」
「「へっ?」」
由姫と都の声が重なる。
「弟くんが大好きな由姫ちゃんのために休暇を頑張って作ったんだよ。主に私とアルちゃんの二人が負担する形で。そうしたら、亜紗ちゃんが元から三日間の休みがあった。てへっ」
音姫は最後に可愛らしく舌を出しているが由姫の反応は全く違った。由姫はその場に崩れ落ちる。そして、壁に手を当てた。
「不幸だ」
「亜紗ちゃんとも交渉したんだけど丸め込まれちゃった。ごめんね」
「音姫、いくつかの仕事を私に回してもらえますか?」
「お願い出来る? 私とアルちゃんだけじゃ少し辛いことが多いから」
「負担が増えるのは孝治と悠聖も同じだろ」
その言葉と共に周がカバンを持ってやってくる。そして、由姫の頭を優しく撫でた。
「三日間の安静か。二日じゃダメ?」
「強制的に弟くんを三日間眠らせることが出来るけど?」
「わかったわかった。由姫、さっさと飯食うぞ。今のオレはタイムトライアルに参加出来ないんだから」
「はーい」
少し拗ねたような由姫の声にその場にいた三人は笑みを浮かべた。
「「「えぇーーっ!!」」」
オレの耳にメグ、健さん、真人の声が響きわたった。何事かとクラス中の人達が一斉にオレ達の方を向く。ちなみに、オレは耳を押さえて隣にいたメグを睨みつけていた。
さすがにほぼ耳元で大声を出されたら耳が痛くなる。
「うるさいわ!」
「だって、だってだって、周の怪我ってかなり深かったよね? だから、私は絶対安静になったものだと」
「迅速な治療は生存率を上げる。というか、勝手に入院させるな。まあ、心配してくれたのはありがたいけど」
どうやらメグは今日は来ないと思っていたらしい。まあ、無理もない。実際に『強制結合』がなければ今頃入院していてもおかしくはないからだ。
みんなの驚きは全員に話していたからだ。
「お腹を貫かれて致命傷ですらないとは。あなたは本当に人間ですか?」
「筋肉さえあれば人は生き残れるのさ」
「や、ワカメさんの言うことは私も思いますが、ハトさんの言うことは少し間違っていますよ」
確かに、筋肉さえあれば人が生き残れるなら由姫はおそらく最強だろう。
「由姫さん、体、引き締まっている、から」
「体重は平均より上っと」
オレはギリギリで由姫のかかとを避けた。由姫の顔には見事な笑みが浮かんでいる。目は全く笑っていないけど。
女の子に体重の話はタブーだっけ。
「うわっ。周ってチャレンジャーだな。年頃の女の子に体重の話は禁句じゃなかったっけ。まあ、俺には関係ないけど」
「健さんらしいね。でも、そんな風には見えないけどな。僕は痩せているように見えるけど」
「真人、筋肉ってのは、脂肪よりも重いんだぜ。だから、由姫の体は筋肉で重い、おぐぉっ」
由姫の蹴りがハトの鳩尾に決まる。ハトはその場に崩れ落ちた。
「浅はかだな」
一誠が少し離れた位置から面白そうに言っている。確かに、当事者じゃなければ面白いけど。
「由姫さんは、そうは、見えない。普通に、可愛いし、わ、私なんて」
「確かに、のっぺらですね。残念、がはっ」
由姫とメグの拳がワカメを殴り飛ばした。うん、いつもの光景だな。
「口は災いの元だ」
一誠はクールに言っているつもりだが、その口元に浮かんだ笑みは隠せないでいる。まあ、その気持ちはわかる。
オレは夢の体を上から下まで見た。
「そうか? 夢も十分に可愛いと思うぞ」
その瞬間、夢の顔が真っ赤に染まった。何故か由姫からの視線が痛い。
「ジゴロ」
「あのさ、由姫。それは間違っていると思うぞ。ジゴロの意味はひもだ。by国語辞典」
「普通は面と向かっていいませんからね。兄さんは顔も性格もいいんですからそんな甘い発言をしていたら勘違いされますよ。ロリコン兄さん」
「オレがいつロリコンになった?」
いつの間にか由姫が膨れている。そんな発言をした覚えはないんだけどな。女心は複雑だ。
「まあ、ロリコンの意見は無視して、夢は十分に可愛いと思うよ。健さんや一誠は?」
「確かに可愛いよな。ここにいる面々はレベルが高いぜ」
「賛成だ。中身と裏腹に凶悪な性格の人もいるみたいだが」
「誰のことですか?」
由姫のこめかみがピクピク動いている。オレはそんな会話に少しだけ笑ってから窓の外を見た。
久しぶりの完全休日。学園都市はいつも通りに平和だ。
次の話からあまり出ていない面々を出す予定です。戦闘はしばらくないかと。