第六話 北村恵
五人衆が本格的に活動するのは中盤くらいからです。
軽く体を伸ばす。そして、レヴァンティンを取り出した。すでにメグは準備が終わっているのか腕を使って薙刀をしっかり振っていた。
その動きは鋭く洗練されていた。天才型にあるような荒さは全くない。ひたすらに努力をして身につけたかのような動き。
オレはレヴァンティンを右手で構える。
「準備はいいな」
「いつでも」
その言葉と共にオレは地面を蹴った。そして、勢いよく振り下ろす。力は三割ほど。メグはそれを薙刀の刃で受け流し、そのまま石突で殴りかかってくる。
それをオレはレヴァンティンで受け止めた。
「へぇ、やるな」
「これくらいは簡単よ」
メグが動く。薙刀を上手く動かして斬りかかってくる。それに対してオレはレヴァンティンで受け流そうとした。だが、レヴァンティンが薙刀によって絡め取られる。
そして、薙刀が跳ね上がりレヴァンティンが空に弾かれた。おっと思った瞬間には刃が迫っている。
技はAランクで大丈夫だ。動きもAランク相当。薙刀の刃を簡単に避けながらオレは後ろに一回ステップを取る。そして、一気に前に踏み出した。
メグの薙刀に掌底を叩きつける。
由姫が使っていた綺羅朱雀を流用した技だが、格下相手じゃないと決めにくい。由姫みたいに神速に近い速さがあるわけじゃないし。
それだけでメグは大きく後ろに吹っ飛んだ。だけど、上手く地面に着地する。本当は左胸に打撃を与えるのがいいんだけどな。
「今の衝撃は」
メグが驚いている間にオレは振ってきたレヴァンティンを右手で掴み大きく振り切った。だけど、メグは避ける。だから、オレ大きく振り切ったレヴァンティンを手放した。
メグがすかさず薙刀を振り切ろうとする。でも、オレの左手にレヴァンティンがあることに気づいていない。振り切られた薙刀をオレはレヴァンティンで弾いた。
「なっ」
メグの顔に驚きが入った瞬間、オレはレヴァンティンをメグの前に突き出していた。
「これで終わりだな」
「両利き?」
「実は左利き」
ほとんど右で使っているが、両方使えた方が便利であることが多い。だから、両利きで使えるようにしているだけだ。
オレはレヴァンティンを鞘に収めた。
「確かにAランクってレベルだな」
「おかしいな。海道周ってAAランクのはずじゃなかった?」
「AAランクとAランクじゃかなりの差があるぞ」
AAランクは実戦で一定以上の活躍をしなけれは取得出来ない。ただ、それだけでも取得は出来ない。
Sランクとなるとさらなる桁違いさを必要とする。一応、実戦の結果だけならオレはSランクらしいけど。
「薙刀の使い方は悪くないけど、相手の剣を払ってから油断したよな」
「うう、普通はあれで終わりじゃないの?」
「Aランクなら武器を手放しても攻撃が来ると思っているんだな。それに、拳の相手は苦手じゃないか?」
「うん」
そうじゃなかったら綺羅朱雀もどきをまともに入れられなかっただろう。Aランクってのはそれくらい実力があってもおかしくない。
オレはレヴァンティンを元の形に戻しポケットの中に入れた。
「というか、お前の薙刀術は我流だよな?」
「そうだよ? 何か悪いところがあった?」
「動きも振りも綺麗なんだけど、実戦を経験していないなって」
振りも動きも見事だった。レヴァンティンを持っていかれたしな。ただ、そこまでだ。本当ならあの瞬間に武器を突きつけて終わっていたが、その動きも鈍かった。
推測するからには、スピード型で我流薙刀術を使う努力型の人物ということがわかるな。
「うわっ、本当に当てられた。ちょっぴり驚くね。実戦ってなかなかないからさ」
「そりゃないだろ」
というか、あったら驚く。東京特区学園都市は著しく犯罪というより戦闘が関わる犯罪が少ない。だから、実戦経験が多かったなら驚いてしまう。
第76移動隊は世界を回るから実戦経験は学園都市内部で圧倒的に多い。
模擬戦じゃなくて実戦に近い訓練があったらな。
「あっ、そうだ。明日第76移動隊内で模擬戦があるんだがやっていかないか?」
「行ってもいいの?」
メグの目はとても輝いていた。どれくらい輝いていたかと言うとオレが一歩後ろに下がってしまう。尻尾がついてたら凄まじい速度で振っているだろうな。
一応、クラスメートがチーム戦でとこまで動けるか見ていてもいいだろう。
「ただし、チームはオレと由姫もいるからな。Aランクならまずは立ち回りを覚えろよ」
「はい! 師匠!」
「そう言うわけで、クラスメートのメグだ」
「北村恵です」
その瞬間、ほぼノーステップの綺羅朱雀がオレの顔面を捉えていた。動作から約コンマ01ほど。音姉すら直撃する究極の技。
愛佳さんすら凌駕すると言われた最強の技。感覚すら追いつかないからな。
「兄さん! どうしてメグさんを連れて来ているんですか?」
そのまま胸ぐらを掴んで持ち上げてくる。冗談ではなく本当に。
「由姫ってすごい力持ちだね」
「えっ、これは」
「まあ、今回は副隊長全員いないから大丈夫だろ」
孝治と音姉は商業エリアにアルは悠人達と一緒に学園都市外でフュリアスの操作。和樹と七葉もそこだ。
ここにいるのは亜紗、由姫、悠聖、冬華、中村、楓、エレノア、ベリエ、アリエとオレの十人。そこにメグを加えた十一人。
「珍しいな。外部部隊から連れて来るなんて」
「お前は俊也を連れて来ているだろうが」
悠聖の弟子である俊也は別の高校に入り政治・経済を習っている。精霊についてもっとみんなに知ってもらいたいらしい。ちなみに、戦闘ランクはAランク。実戦に参加すればSランクはおかしくない。
時々こっちにもやって来る。模擬戦をしに。悠聖と二人で組めばオレと音姉が組むより遥かに強いというむちゃくちゃな実力がある。オレと音姉は事実上タッグ最強なのに。
「まあ、そうなんだけどな。でも、人数が一人余らないか?」
「そうか? オレ側は、由姫、亜紗、メグ、楓。悠聖側は、冬華、中村、エレノア、アリエ、ベリエ。バランスは取れてる。ちなみに、お前は召喚禁止」
「まあ、そうなんだけどよ」
というか、召喚されたら勝てるものが勝てなくなる。
「周君、明らかに不利なんですけど」
楓がブラックレクイエムを担ぎながら言ってくる。まあ、確かに不利なんだけど。
オレはニヤリと笑みを浮かべた。そして、レヴァンティンを取り出す。
「圧倒的不利を覆すのが楽しいんじゃないか」
レヴァンティンを握りしめ、構える。その言葉にみんなが呆れたように位置を変える。ただ、メグ一人だけが不思議そうに首を傾げていた。
オレは最近圧倒的不利を覆すことに快感を覚えている。まあ、模擬戦だけだけど。
「制限時間は?」
悠聖が薙刀を掴む。最近は優月も悠聖に自らの武器を渡すことが多くなった。まあ、別の言い方をするなら悠聖の魔力キャパシティが成長と共に大きく跳ね上がったため優月を使えばレアスキルを封印した音姉とタイマンと戦えるくらいに。
ダブルシンクロをすれば本気の音姉や夜の孝治、由姫との肉弾戦すら戦える。
「5分。AAランクはリミット5。Sランクはリミット8。SSランクはリミット9」
『リミット9なんてAランクとすら戦えない』
「数値的に言ったらオレの弱体化がヤバいないからな」
リミットはデバイスでかける能力制御のことで、最大がリミット15でリミット15の基準はSSランクがBランクにすら勝てないというレベルだ。
ちなみに、平均的に高いだけのオレはリミットかけたら本当に技勝負となる。つか、アリエ一人にすら力負けするかも。
「メグは悠聖を。由姫と亜紗は冬華と中村。楓はエレノアでオレは双子を抑える。買ったらメグ以外の援護を」
「あれ? 私一人?」
メグが汗を流しながら尋ねてくる。まあ、第76移動隊という超実戦経験部隊とタイマンだもんな。
オレはレヴァンティンをしっかり握りしめる。
「さあ、開始しようぜ」
次回は模擬戦です。