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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第四話 ナイトメア

「ようやく終わったー」


椅子に座るメグがまるで溶けた氷のようにぐでんとしていた。まあ、音姉と委員長の説教長い上に的確だったからな、体験したことがなければ無理だろう。


オレは小さく溜息をついた。


「終わったと言ってもこれから『GF』の仕事はないのか?」


「今日は休みの日なんだよ。まあ、訓練には参加するけど」


「休みの日くらいゆっくり休んだ方がいいぞ」


年がら年中訓練していても本当に強くなれない。強くなるには適度に休みを挟まないと本当の強さは手に入らない。


「そうなのかな。みんなから休め休め言われてるけど動かないのが心配なのよね。体が動くことを欲している」


「それならまあいいや。ただし、体がだるいと感じたらしっかり休めよ」


「それはちゃんとしているわよ。そういう日は事務に参加してるから。まあ、数値には弱いけど」


「それでよし」


オレは教室のドアを開けた。すでに放課後だからかほとんど人の姿はいない。いるのは由姫と夢の二人。


メグは二人に駆け寄っていった。


「由姫に夢ちゃんだ。待っていてくれたの?」


「私も夢さんも兄さんを待っていましたから」


「ガーン。私だけ仲間外れ」


「そ、そんなことは、ない、と思います」


「それって仲間外れだと思っているよな」


オレは机の上にあったカバンを手に取った。中身はほとんど入っていないけど。あの五人組はもう帰ったのだろう。


さて、これからの仕事だな。


「あ、あの、海道周さん」


「何だ?」


夢に呼ばれてオレは振り返った。夢は顔を真っ赤にしてもじもじしている。由姫は笑みを浮かべてオレを見ていた。


「あ、あの時、助けてくれて、あ、ありがとうございました」


「大したことはしてないさ。まあ、あの時は助けれてホッとしたけど」


「私は、海道周さんに助けれて、良かったと、思って、ます。だから、その、友達に、なってくれませんか?」


「友達もなにも、同じクラスで名前も知り合った仲だし、もう友達だろ?」


オレの言葉に夢の顔に笑みが咲いた。ヤバい。抱きしめたいくらいにむちゃくちゃ可愛い。


でも、自重自重。


「夢ちゃん、可愛い!」


代わりに自重しない奴が一名いた。メグが夢に抱きついている。


オレが微笑ましくそれを見ていると、由姫がゆっくり近づいてきた。


「可愛いかったですか?」


「ノーコメントで」


答えているようなものだが、今はこれでいいだろう。由姫もクスッと笑っているし。


その時、レヴァンティンが微かに震えた。誰かからの連絡だ。オレはレヴァンティンを取り出して耳に近づける。


「オレだ」


『周か? すぐに商業エリアに来れるか?』


連絡は孝治からだった。ただ、声にどこか切羽詰まっている。それに、商業エリアということは、


「学園自治政府からの干渉か?」


商業エリアに『GF』が直接守る場所はない。学園都市には学園自治政府が存在する。その自治政府は有志の学生から出され、学生が学生による学生のための商業エリアの発展に力を入れている。


そのためか学園都市内部にいる『GF』の大半が直接乗り込むことの出来ない一種の聖域となっていた。そこに直接乗り込めるのはオレ達第76移動隊だけ。


『それだったらどれだけ楽だったか。近くにいた悠聖、冬華を呼び寄せている。他には光と七葉、後は和樹だ』


「わかった。オレ一人で向かう」


オレはレヴァンティンを下ろした。


「いざこざ?」


メグが不安そうな目でオレを見ている。同じ『GF』として商業エリアのことを考えているんだろう。


「もっと酷い可能性がある。由姫は待機。オレ一人で向かう」


「わかりました。もしもの時はすぐに駆けつけます」


「そんな時はないさ」


さすがにルーチェ・ディエバイト優勝者が四人も集まっていたら世界でもトップレベルの実力者が十人くらい出て来なければ大丈夫、なはず。


まあ、孝治に悠聖がいるし大丈夫だろう。


オレは教室から飛び出して窓枠に足を乗せた。そして、そこから窓枠を蹴って空に跳ぶ。


魔力による足場を伝って最短最速で商業エリアに向かう。何が起きているかわからないけど、早く向かわないと。






商業エリア。


学園都市の中心に位置した所謂繁華街。様々な店が存在し、たくさんの学生がアルバイトをしている。


商業エリア自体は『GF』があまり手を出さないように学園自治政府と呼ばれる学生組織が治めていた。そのため、『GF』が動けるのは現行犯か書類を申請してからか。


書類を申請してからでは遅い。商業エリアの犯罪者は学園自治政府にスパイを送っているという噂もある。簡単に雲隠れされるか囮を捕まえさせられるか。


そこで申請無しで動けるのが第76移動隊でもある。


オレは商業エリアのほぼ中央、学園都市の中央でもある広場の近くにある路地に入った。確かこっちだったような。


「こっちだ」


孝治がオレの姿を見つけて手招きしてくる。オレはそれに応じて孝治に近づいた。そこには、周囲が真っ赤に染まった空間があった。


倒れている数は3。


「処理班には?」


「連絡している。見つけたのは和樹と七葉。路地裏に血の跡があって入ったら見つけたそうだ」


「七葉は?」


「広場で光といる」


こんな光景を見ていられるのはオレ達みたいな死体に見慣れた奴らだけだろう。オレは死体のそばでしゃがみ込む。そして、ポケットから何かがはみ出ているのを見つけた。


ポケットから取り出してみる。


「白い粉だな」


白い粉の入ったビニールだ。


「悠聖と冬華が研究所に持って行っている。見た目はどうだ?」


「ただの粉、にしか見えないが、この敏感な時期に露骨なこれはヤバいだろ。粉は悠聖の持ったやつと二つだけか?」


孝治は頷いた。オレはその粉をポケットに戻す。一応、こっちでも色々調べないと。魔力的観点から。


死体の全てはまるで死んだことを理解していないように穏やかだ。この手口は二年前のものと告知している。


「『悪夢の正夢ナイトメア』か」


二年前からずっと調べていた結果、一つのレアスキルが浮かんだ。オレの親父のレアスキルでもあった『悪夢の正夢ナイトメア』。それを使われた可能性が高いことに。


能力は簡単に言うならあらゆる気配を遮断する能力。その能力の高さは桁違いで隠密行動に向いている。でも、そのレアスキルは登録上親父しか持っていなかった。親父が死んだ今、誰が持っているかわからない。


オレは小さく溜息をつく。


「悠聖達の結果待ちだな。もし、結果が予想通りなら」


「『ナイトメア』と『悪夢の正夢ナイトメア』が一致する。笑えない冗談だな」


「そう考えるしかないだろ。もし、一致したなら大仕事になるな」


確実に商業エリア自体が潰れる可能性がある。第76移動隊が行う強制捜査の最中に各『GF』が同時に捜査に関する必要書類を提出する。オレ達が先に動くことで相手の動きをかき乱し、人海戦術で統べていく。


作戦として悪くはないけど花がないからな。


「とりあえず、ここはそのままにして」


「またあなた達ですか」


その声に振り向くと、そこにはメガネをかけた坊主頭の男子と武装をした男子達がいた。


学園自治政府代表楠木大和。はっきり言うなら『GF』の天敵。


「殺人が起きているという現場に来てみれば、またあなた達がいますね。まさか、『GF』が犯人だと」


「証拠を捜してもいいぜ。まあ、前回のように無駄で終わるだろうけど」


前にも同じような事件、同じような遭遇があった。違っているのはクスリもナイトメアも関係のないことくらいか。


一応で取り調べを受けてアリバイが成立してあっという間に帰された。楠木大和曰わく、


「時間を無駄にするつもりはありませんから」


だそうだ。


「しかし、手口が鮮やかではありませんか? こんなことを出来るなんて」


「限られている。だけど、心当たりが故人しかないのが問題だ」


「その人が生きているとかは?」


「ありえない」


ありえない。絶対にありえない。あの日、オレ達の目の前で親父やお袋のいたビルが爆発によって吹き飛んだのをこの目で見たのだから。


いくら親父が『GF』最強の魔術師と言われても生き残ることは不可能だ。絶対に不可能。


「根拠は聞かなくてもいいでしょう。信じておきます。死体を運び出す準備を」


「早かったな」


孝治が楠木大和を睨みつけながら尋ねる。


「処理班が連絡したにはあまりに速すぎる。誰が情報を?」


「フードをした怪しい男が。指差した方角を見た瞬間に消え去りましたけ」


オレと孝治は同時に地面を蹴り壁を蹴っていた。そのまま建物の屋上まで出る。


「レヴァンティン、索敵を手伝え」


『わかっています』


オレはレヴァンティンの形を変える。魔術を使うための杖の形。モードⅤだ。これを使って周囲の魔力粒子を掌握した。


すかさず魔力を周囲一体に散らして確認する。そこにいるのに見ることが出来ない相手を。


「商業エリア東通り8-3」


孝治が弓を構えながらオレの言った地名の方を向く。そして、小さく頷いた。


「不自然に隙間がある」


「それだな。見つけれるのがオレだけなら追わない方がいいか。他の奴らがいけばやられる。それにしても、学園都市内部に入り込んでいるのか。一体、奴はなんなんだ?」


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