第一話 入学の日
ここからが第二章本編です。主に学園生活が中心に書いていきます。戦闘も時々ありますよ。もしかしたら戦闘の方が多いかも。
しっかりとネクタイを結ぶ。ネクタイを結ぶのは久しぶりだから少し時間をくってしまった。そして、鏡に映るオレの服装を確かめる。
見た目はただのスーツ。これで革靴を履いていたら完璧かもしれないが、あいにく身につけるのはスニーカー。何故か。
都島学園都島高校の制服だ。
学園都市内部の呼び名はスーツ学園。学力さえあれば出席日数から授業態度まで、最低限の参加(入学式や始業式及び終業式、卒業式)で卒業が可能というはちゃめちゃな学校でもある。
そんな学校は意外にも学力は高く、上の下に位置している。ただ、男子の学校指定の学生服だけは評判の悪さだけで学園都市に名が轟く。
女子の学校指定の学生服はスカートがチェック柄でそれ以外は普通の女子の学生服。胸に校章のワッペンが張られている以外は至って普通。本当に普通。
そこにオレは、オレ達は入学する。
カバンの中に入れるものは少ないからこれくらいでいいだろう。
「さてと、そろそろ降りると」
「周君、時間よ」
その言葉と共にドアが開いた。そこにいたのは由姫や音姉を老けさせたような顔立ちの人物。オレの義理の母である白百合素子だ。ちなみに、家内カースト最上位に位置している。
義母さんはオレの服装を下から上まで見て、そして、
「わぁ、わぁ、わぁ! その服装似合ってる。周君ももう大人ね」
「年甲斐もなくはしゃがないように。また倒れるぞ」
「いいのいいの。写真撮るね」
いつの間にか取り出したカメラによって映される。義母さんには何を言っても通じないからいいけどね。
「ご飯出来ているから。音姫も下にいるわよ。私は今から由姫を起こしにいくわ」
そう言いながら義母さんが隣の部屋に向かう。オレはそばにあったカバンを掴むと、そのまま出口に向かって歩き出した。
「ほふぁほぉー」
一階に下りるとそこにはパンを口にくわえた音姉の姿があった。紺色のセーターと灰色のロングスカート。
オレはカバンを椅子の上に投げて音姉の向かいに座った。
「昨日はどうだった? 浩平の連絡は」
「何も、かな。定時連絡は普通だった。見つけるのは難しいと思うよ」
「そうか」
約二年前、第76移動隊はとある孤島に強襲作戦を行った。第76移動隊が行ったエスペランサを使った強襲作戦。
そこでは中にいた人全員が殺されていた。オレ達はそれから純白のフュリアスと悠聖、浩平を襲った男を探している。特に、純白のフュリアスはだ。
男の方は事実上犯人として第一特務に任せ、純白のフュリアスは浩平に探してもらっている。まあ、学業と両立してもらうために色々と大変なことになっているけど。
リースが本気で反対したが、浩平に説得されて今は大第76移動隊にいる。
「さすがに二年も経てば証拠は少ないよな」
「そうだね。二年か。もうそんなに経つんだね」
オレの姿を見ながらニヤニヤする音姉。嫌な予感がする。
「弟くんが」
「言うな。言わないで。言わないでください。まあ、あの日からちゃんとオレは学んだから」
「三度目の正直」
それを言われるとどうしようもない。オレは小さく溜息をついてパンを口にくわえた。
今日の朝ご飯も普通においしいな。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おはよう」
「「おはよう」」
オレ達が声を揃えて下りてきた由姫に返す。由姫はピカピカの学生服を着ていた。そのままオレの隣に座る。
「お兄ちゃん、ちゃんと朝起こしてって言ったよね?」
「お前もそろそろ一人で早く起きれるようになれ。毎度起こす身にもなってみろ」
「それは、ほら、お兄ちゃんがおはようのキスを」
「バカか」
オレは小さく溜息をついてコーヒーをすする。とりあえず、これから毎朝同じようなことを繰り返すのだろうか。
そう考えると悪くはないな。
「むっ、妹にバカはないと思うけど?」
「なら、誰の手も借りずにオレより早く起きてみろ。そうしたなら撤回してやる」
「ごめんなさい」
「諦めるの早すぎないか?」
すぐさま謝ってきた由姫にオレはまた溜息をつく。由姫は朝は普通の強さだからな、早起きはなかなか出来ない。
オレは残っていたパンを口に入れた。
先に朝ご飯を食べていた音姉が手を合わせて小さくごちそうさまを呟き、立ち上がる。
「音姉はもう行くのか?」
「うん。都や琴美と待ち合わせしているから」
オレ達が狭間市から学園都市に戻った次の春、琴美は学園都市にやって来た。そして、そのまま第76移動隊に入ったのだ。入ったとは言っても事務であり、戦闘能力はほぼ皆無。
ちょっとくらいは何かを身につけてくれてもいいんだけどな。
音姉が食器を台所に置いてそのまま玄関に向かって歩き出す。玄関近くには音姉愛用のカバンと光輝の姿があった。
本来なら刀は身につけてはいけないのだが、光輝だけはデバイスとの関係で収納することが出来ないため帯刀が許可されている。
「じゃ、また放課後に」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
オレの言葉に音姉が返事をしてドアを開けて外に出た。
オレは最後に残っていたサラダを口に運ぶ。
「ごちそうさまでした。さてと、時間はまだまだあるし、ゆっくり向かうと」
「待った」
立ち上がったオレを由姫が強制的に座らせる。オレは小さく溜息をついた。
「こんなに可愛い女の子を待つという気持ちはないんですか?」
「可愛いのは認めるけど、待っているのも退屈だろ。ちなみに、お前と行きたくないってわけじゃないぞ」
「わかってる。お兄ちゃんがそんなこと言わないもん。でも、少しだけ待ってくれたらな、と」
オレは小さく溜息をついた。
「わかった。さっさと準備を終わらせろよ」
「五分だけ待って」
五分後、オレと由姫は家から外に出ていた。春の日差しがポカポカと降り注ぎ、そよ風が周囲の風力発電機をゆっくり回している。気持ちのいいくらいな春の陽気だ。
学園都市は真ん中を商業エリア、外周部を工業、研究、住宅エリア、その真ん中を学園施設エリアとしている。全学生数は今年入学するメンバーを含めて大体500万人ほど。治安の差は激しいものの場所さえ間違えなければ極めて安全な生活を送れる場所でもあり、学生からの人気も高い。ついでに、学園都市を守っているのが世界に名だたる『GF』だからか親の信頼も厚い。
さらには世界でも珍しい自然エネルギーを利用された場所でもある。そのため、魔力エネルギーを使用する際に必要なコストが極めて削減される。おかげでオレの発明品はほとんど流用されていない。オレのものは魔力エネルギー利用型だし仕方ないか。学園都市もそれをコンセプトにしているのか自然エネルギー研究者はかなり多い。
まあ、数は多くないがちゃんと魔力エネルギーの研究者もいる。例えば、オレとか。
交通機関もそれが影響しているのかバスしか存在しない。基本は自転車か走るか飛行するか。飛行するにしても許可証(三ヶ月3万円)が必要だしな。基本は歩きか自転車。それぞれの学園もそれを考慮してか近くの外周エリアに寮や下宿生用のマンションなどを用意している。ちなみに、研究者か教師の関係者なら住宅エリア内に一軒家を持つことだってできる。ちなみに、白百合家はその一軒家だ。珍しい方だけど。
ちなみに、バスの本数はかなり多い。ほとんどが太陽光発電とか地味に風力発電など自然エネルギーを装備しつつ利用しまくる電気自動車。時代の最先端だ。
白百合家から都島学園都島高校まで歩いて一般人が歩いて45分ほど。一般人なら。
オレはカバンを空に投げレヴァンティンの力で虚空の中に収納した。由姫も自分のデバイスの中にカバンを入れる。
「最初は15分狙うか?」
「信号に捕まったら少し辛い時間だけど、それくらいじゃないと」
「了解。じゃ、行くぞ」
オレの言葉と共にオレと由姫は走り出す。もちろん、都島学園都島高校に向かって。
さすがにこの距離はということで自宅が近くにもあるが都島学園は寮に入ることを薦めてきたが、音姉が速攻で拒否。理由は、
「走れば10分強の距離なのに寮に入るのはおかしいと思います」
だそうだ。そのおかげでオレと由姫はこういう風に走っていくことを決めた。目標は、音姉が何の技術もなく記録した8分13秒を切ること。信号に一回でも捕まったらアウト。ちなみに、交通ルールを守らなかった場合は放課後の鍛錬を倍にするという取り決めもある。
それの最初の日。道を全速力で駆けていく。時には塀の上を走り、時には点滅する歩行者信号を駆け抜け、信号に引っかかりそうになったら寸前で道を変えて駆け抜ける。
人に当たりそうになるならちゃんと塀の上に上がり駆け、道がなければ飛んででも作り出し、川が前を塞げば走り幅跳びで飛び越える。
そして、都島学園都島高校の校門の前でオレの足は止まった。
ちなみに、これらのことはちゃんと学園都市から許可をもらっている。音姉が行った道を再現しただけだし。
オレはレヴァンティンを取り出し時刻を確認する。
「14分29秒。悪くはないな。最初だしこんなものだろ」
「そうですね」
オレも由姫も息は切れていない。校門周囲にいる人は不思議そうにオレ達を見てくるが気にしない方がいいだろう。校門のところには一つの看板が。
新暦1040年都島学園都島高校入学式
そう。オレと由姫が参加する入学式。海道周、18歳の高校入学式。
18歳での高校入学式。理由はあります。それは次の話で。