第一章最終話 学園都市へ
ようやく第一章が終わります。
空が真っ赤に染まる頃。オレは、オレ達は広大な広場に着地するエスペランサの周りにいた。周りにはたくさんの人がいる。
主に都の見送りに。そして、オレ達のクラスメートが見送りに。
「もう、お別れなんだね」
委員長が名残惜しそうに呟いた。確かにもうお別れだ。
「そうだな」
オレはそう素っ気なく返す。ちなみに、和樹と七葉は抱き合っており、悠聖及び悠聖のクラスメート達が冷やかしていた。
オレは委員長と俊輔の二人を見る。
「今までありがとう。お前らと和樹がいた学校生活は楽しかった」
「俺もだ。貴様のような天才がいなくなるとは、この俺ですら寂しくなる」
俊輔は涙をこらえようとして失敗している。ちなみに、委員長はもう目が真っ赤だ。
そんな二人を見て、オレはクスッと笑みを浮かべる。
「相変わらずだな」
「それが私達じゃないかな。海道君、私は海道君達が学校に来てからいつも以上に楽しかった。本当に楽しかった。今まで、ありがとう」
「こちらこそ。次に会えるとしたら1ヶ月後になるかな。もしかしたら、別の部隊が来るかもしれないけど」
「そうかもね。海道君が狭間市に来た時はまた遊びに来てね。絶対、絶対に」
「ああ、必ずだ」
この時のオレは笑っていられただろうか。
「俺は絶対学園都市に行く。だから、待っててくれよ」
「うん。待つよ」
ひたすら繰り返される七葉と和樹のラブコメ。オレはそれを見ながら近くのベンチに腰掛けた。
そして、小さく笑みを浮かべる。
「こんなにたくさん来るとはな」
「全くだ」
隣に座っているしわくちゃにされた孝治が同意してくる。オレはそれを見ながら少しだけ笑った。
「手荒い別れだな」
「それほど重要だったということだろう。あいつらにとっても、オレ達にとっても」
「そうだな」
オレは笑みを浮かべる。
学校の生活は本当に楽しかった。まあ、隣にほとんどアルネウラがいるという奇妙な状況でもあったけど。ちなみに、後半からは優月もだ。
「第76移動隊の全員が狭間市に来て変わった。そう思っている」
「俺やお前も、変わった。ふっ、まさか、敬遠していたはずの生活が、俺達にここまでプラスになるとはな。驚きだ」
孝治がそう肩をすくめながら言った。それに関してはオレも同意だ。
正規部隊にとって学校生活は邪魔者。オレも、おそらく、周もそう思っていただろう。でも、実際は大きなプラスになっている。
「学園都市に戻っても学園生活があるんだよな」
「ここと比べてどうかはかなり気になるところだが。まあ、大丈夫だろう。みんながいる」
孝治がそう言いながら笑みを浮かべる。
こんな孝治の姿は久しぶりに見た。
「さてと、最後の挨拶に回るとしますか」
多分、赤いであろう目から零れる微かな水気をハンカチで拭いて立ち上がった。
外の喧騒とは無縁の世界。フュリアスの格納庫内に僕はいた。通常形態のコクピットでエクスカリバーのプログラムをしっかり確認している。
鈴やリリーナは外で友達と会っているが、僕は別れを言うような友達がいないから外に出なくていい。
「静かだな」
エスペランサのフュリアス格納庫内は設備は整っているものの、まだ、人員が全く確保出来ていない。今の段階では整備士がいない。
一応、僕も整備士は出来るもののまだまだ未熟だ。
目を閉じる。静かさが周囲を包み込む。
思い出すのは狭間市での出来事だ。
最初はアル・アジフさんについてここに来た。そして、狭間戦役に参加し、実戦で初めてダークエルフを動かした。
ダークエルフが使えなくなってからもパワードスーツを着て戦い、リリーナと出会った。リリーナと仲良くなり、そして、鈴とも出会った。
それからは三人で色々なことをして、狭間戦役の後半に入り、中東で鈴達と戦った。
よくよく考えてみるとすごい戦いだなと実感する。僕はただ巻き込まれたような形だったけど、僕はその中でたくさんの人と出会った。
周さん。今では上司だけど、僕からしたらお兄さんみたいな存在。
リリーナ。明るく楽しく、でも、時々僕達にも言わないような暗い顔になる。これからはもっとリリーナを知りたい。
鈴。最初は別の目的があったみたいだけど、今では大切な人の一人だ。僕達三人の中だとお姉ちゃんみたいな存在でもある。
そして、メリル。音界の歌姫というすごい役職だけど、中身は普通の女の子。可愛い女の子だ。
ルーイやリマ、ルナなどたくさんの人と狭間戦役を体験して出会った。僕はこの狭間市で大きく成長した。
「学園都市だったら、何の出会いがあるかな」
「都ちゃん、学園都市でも元気でね」
「ありがとうございます。長く生きてくださいね」
「都築の嬢ちゃん、手土産だ」
「大きなナスですね。ありがとうございます」
「都お姉ちゃん、みんなで書いた色紙だよ」
「わぁ、ありがとうございます。大切にしますね」
都の周囲にはたくさんの人が集まっていた。誰もが都を見送りに来たとも言っていい。そうしていると急に人の集まりが分かれた。
そこにいるのは巫女服姿の琴美。
「琴美?」
「私からの見送りよ。来年からは都築家はもう祭りを主導する立場じゃないんだから、私が教えていかないとダメなのよ」
「琴美は今年の狭間の巫女でしたしね。琴美なら大丈夫です」
「だから、見て」
琴美が隣の人から錫杖を受け取る。そして、それをシャランと鳴らした。
「あなたが最後に合格を出して。私の舞を」
「はい」
琴美が舞を始める。それは、静かに、だけど、激しく、そして、全ての感情を都にぶつけるようだった。
実際にぶつけているのだろう。今までの全てを全部。だから、その場にいる誰もが口を開くことさえできなかった。
時折鳴り響く錫杖の音が周囲に響き渡りまるで催眠術にでもあっていたかのようにハッとする人達が多い。それほどまでに琴美の舞は全てを魅了していた。
人も、鳥も、精霊も、全てを魅了する踊り。
琴美の動きが遅くなる。この時、周囲の人はようやく理解した。いつの間にかかなりの時間が断っていることに。いつの間にか、真っ赤に染まっていた周囲が闇の帳によって覆われていることに。
動きが止まる。そして、静寂が場を制した。
「ありがとう、ございます」
都が拍手をする。その眼に大量の涙を溜めて。
それを見ていたたくさんの人が拍手を始める。それは狭間市にいる人全てが拍手をしているかのような大きな音だった。
琴美はゆっくり都に近づく。
「都。私達は離れていても友達よ。何があっても、例え、何が起きても」
「はい。はい!」
二人が抱き合うが拍手は止まらない。まるで永遠の友情に対して拍手をしているかのようだった。
そんな光景を冬華がエスペランサの上で見ていた。そして、少しだけ不満そうに口ととがらす。
「あのバカ。離れたくないならそう言いなさいよ。でも、琴美も学園都市に来そうね。アリエル・ロワソ様に報告しておきますか」
そう言いながら通信機を取り出すのであった。
離れて行く狭間市の光景。オレと都は艦橋の中でその狭間市に向かって人の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
「周様。このまま学園都市に向かうのですね」
「ああ。明日一日で色々な作業も終わらさないといけないからな、肩がこる」
「手伝いますよ」
オレは首を横に振った。そして、都に向かって笑いかける。
「都は休め。お前は泣いただろ」
「周様こそ泣きました」
その言葉に周囲が静かになったような感覚に陥る。ちなみに、艦橋にはオレと都、アルにクロウェンの四人しかいない。残りの全員は部屋の中で休んでいた。
「泣いてない」
「泣いていました」
「泣いていないったら泣いていない」
「泣いていました! アル・アジフさんも見ましたよね?」
急に矛先が向いて目に見えるようにうろたえるアル。そして、アルは観念したかのように何かを取り出した。
投影装置だ。それをデバイスに繋いで画面に何かを映す。そこには、
一筋の涙を流すオレの姿。
「なっ」
思わず絶句してしまった。まさか、こんな画像を撮られていたなんて。
「ください!」
「仕方ないの。我のおかずにしようと思っておったのに」
「何に使うつもりなんだよ」
オレは小さくため息をついて椅子に深々と座り込む。
エスペランサが向かっているのは学園都市。オレが六年ほどホームにしていた都市。
「これから、どうなることやら」
これからのことを考えると少しは大変なことになるが、それでも楽しい毎日が舞っているのは想像できた。だから、オレは笑みを浮かべる。
「学園都市へ、直線軌道に入ったぜ」
ようやく第一章が終わりました。第一章は周が狭間市において世界について様々なことを知る章でもあります。そして、周自身も成長する章でもあります。
この章は当初考えていたよりも長くなり、必要な物語を組み込んでいけばさらに長くなりました。第二章は簡潔に行けたらいいなと思ってます。
特に最後の方は第二章へと続けるための物語でもあり、第一章での話の多くを引き継ぎます。
第二章のは舞台は学園都市。最初は学園生活、そして、終盤は新たな滅びに対する戦いについて書いていく予定です。周の年齢も18歳でスタートしますので、第一章で周達に違和感を感じた人にはあまり違和感を感じないように書いていけたらいいなと思っています。その違和感は狙って書いているんですけどね。
では、第二章へとどうぞ。最初はキャラ達の第二章第一話開始時点でのプロフィールから始まります。