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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第二百五十三話 滅びと鬼

8月30日。


第76移動隊のメンバー全員は市の郊外にある広大な空き地に着地している航空空母エスペランサに様々な荷物を乗せていた。ちなみに、操縦士のクロウェンはコンビニ巡りに走っている。


そして、オレと音姉、そして、都は狭間の夜があったあの丘に来ていた。端にある千春の墓。そこに都は狭間市から出て行くことになった日と同じように様々なことを報告している。


その様子を見ながらオレは小さく溜息をついた。


「緊張しているね」


すでに髪の毛のリボンを解いた音姉がオレに話しかけてくる。オレは肩をすくめて頷いた。


「そりゃな。狭間の鬼は封印出来ただけなんだ。二人だけでどうにか出来るかどうかが」


「大丈夫。お姉ちゃんに任せなさい」


無邪気に笑う音姉にオレは笑みを返した。音姉だって緊張しているだろうにオレを勇気づけようと言ってくる。


それがオレは純粋に嬉しかった。


「そうだな。オレは鬼と対話することだけを考えるよ」


「うんうん。あっ、都が終わったみたい」


都が立ち上がってこっちに向かってくる。その顔には微かな緊張。


オレはレヴァンティンを鞘から抜いた。


「準備をしてくれ。今から、封印を段階解除を行う」


「はい」


「うん」


二人の声を聞きながらオレはレヴァンティンを構えた。そして、息を大きく吸い込む。


『大丈夫ですよ。私がマスターを援護しますから』


「頼もしいな。頼むぜ、相棒」


魔術を展開する。オレが狭間の鬼に使った封印は魔力任せの封印だったが、十八重に展開された強力な封印。封印を維持したまま狭間の鬼を出すには五回、封印を剥がさないといけない。


細かな魔力操作をレヴァンティンと共に行う。


一枚目。


これは簡単だ。たった一枚なのだから。


二枚目。


魔力操作が少しずつ難しくなってくる。細かな作業は本来四重までが限度なのだが、気合いと気力の根性論でどうにかするしかない。


三枚目。


ここからは絶対に間違えない。間違ったなら封印が破壊される。


四枚目。


成功した。でも、これ以上は論外。論外でも、やるしかない。


レヴァンティンと共に細かな魔力操作を行い、そして、


五枚目が剥がれた。


意識を前に戻す。そこにはうっすら姿を現した金色の姿をした狭間の鬼。


『封印が弱まったので来てみれば、貴様らか。何のようだ?』


「尋ねたいことがあったからな。あんたと戦った4ヶ月以上経ってオレが至った結論だ」


オレは息を吸い込んだ。


「まずは一つ。狭間の鬼は二つある。一つは世界を滅ぼそうとするものと文明を破壊しようとするもの」


鬼は何も語らない。いや、聞いてから答えるのだろう。


「次に、滅びが始まるのはこの世界ではないが、滅びがこの世界に関係している。さらに、滅ぶ原因は文明が一定レベルか、戦力が一定レベル、又はどちらも達した時。そして、お前が生まれたのは滅びを止めるため。以上だ」


こいつが世界を滅ぼすことにこだわっていたのは滅びを止めるために生まれた。オレはそう推測した。


こいつが語ろうが語らまいがオレはこいつに言いたいことはある。


『根拠は?』


「お前を求める勢力がいた。そして、オレと戦った時のお前と悠聖が戦った時のお前との違い。様々な世界に滅びの話があるということ。それらを総合して考えた」


『よく出来た御伽噺だ』


「そうか?」


オレはニヤリと笑みを浮かべた。そして、レヴァンティンを構える。


「今ここで全ての封印を解けばはっきりすることだぜ?」


もし、オレの推測が正しければ、狭間の鬼の次の言葉は、


『止めておけ。貴様には何の利益も』


「それだけで十分だ」


オレはニヤリと笑みを浮かべていた。推測通りに全てが進むのは本当に気持ちがいい。


オレはレヴァンティンを鞘に収めた。


「最初の質問の解答をありがとう」


「周様、鬼はまだ」


「封印を解くために動いた狭間の夜の時と違うよ。今の狭間の鬼は弟くんが言ったように二つある内の一つ」


そう。例えば、封印される前とされた後で考えが違うとしたならどうなるか。封印された後に封印を解けばわかると言えばいい。


封印された状態では主に文明を滅ぼす方なのだろう。だから、止めた方がいいと言った。


「ついでに最後の質問も答えになっているからな。お前は滅びに対して生まれた。だけど、人を殺すためじゃない。封印されていない状態は何らかの原因、滅びの一部を内包したとかじゃないのか?」


『貴様は一体何者だ? 何故、そこまで辿り着こうとするそれではまるで』


「誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うことだ。オレは世界を救う。全てを守って」


『不可能だ。そのような子供の夢、そんなものが出来るとでも』


オレは頷いた。真剣な表情で、真っ直ぐ鬼の目を見つめて。


「出来るまで追い続けるさ。例え、それが出来なくても、オレはレヴァンティンと、オレ達の仲間と一緒に世界を救うために戦い続ける」


『後悔するぞ』


「後悔しない人生なんてない。だから、オレは進み続ける。だから、お前は静かに眠っておけ」


それを言った瞬間、狭間の鬼は本気で驚いたような顔になっていた。そして、フッと笑みを浮かべる。


『面白いな。貴様ら人間は本当に』


その言葉と共に金色の光がオレの目の前に現れた。


『受け取れ。滅びに対して生まれた我の純粋な力だ。我は貴様に世界の命運を預ける。貴様が死ぬまでな』


「いいのか?」


『貴様が死ねば封印が解ける。その時こそ世界が滅ぶだろう』


オレは笑みを浮かべ、金色の光を掴み取った。金色の光がオレの体の中に入っていく。


『我は眠ろう。そなたが、死ぬその日まで』


鬼の姿が消えた。オレは剥がしていた封印を再度展開する。


静まり返った周囲。オレは小さく溜息をついた。


「予想外だ」


「弟くんが力を受け取ったことが予想外だよ。どうして不用意に?」


「そうです。周様に何かあったら私はどうすれば」


詰め寄ってくる二人にオレは苦笑するしかなかった。


「多分、信じたかったんだろうな。鬼のことも。さてと、そろそろ駐在所の方に戻ろうぜ。オレ達も準備しないとな」


「弟くん? 話は終わっていないよ?」


音姉が光輝を鞘から抜く。都も断章を構えていた。


とりあえず、オレの取る行動は一つだけ。


「さらば」


そう言って走り出す。もちろん、全速力で。


「絶対に逃がさないよ」


「逃がすとお思いですか?」


地獄の鬼ごっこは駐在所につくまで続いたのだった。


どうしてこうなった。


次回、第一章最終話です。長かった。

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