第二百五十二話 戦いを終えて
模擬戦及び航空空母の発表。それは波乱が起きると思っていたが、波乱以上に大波乱が起きていた。
簡単に言うなら第76移動隊が世界中のマスメディアに取り上げられたからだ。まあ、ここまでは良かった。ここまでならオレも時雨も想像していたことだった。
まあ、自称人権団体の諸君がしゃしゃり出てくるのもわかっていたし、資金に関しても出るのはわかっていた。わかっていたんだが、
「どうしてエレノアのことまで半日で出ているのかね?」
最初から狙っていたかのようなタイミングにオレは航空空母の艦橋で小さく溜息をついていた。
隣の椅子には苦笑したように笑みを浮かべているアル。
「仕方ないじゃろ。第76移動隊はあまりにメンバー構成がおかしいからの。我しかり、元『炎帝』しかり。でも、そなたは見捨てない」
「当たり前だ。例え指で刺されるようなことがあっても、オレは守る。確かに、エレノアは狭間戦役の始まりを起こした。でも、あいつは必要最低限の犠牲しか出すつもりはなかった。もし、オレが気絶しなければ犠牲はもっと少なかった」
「気負うではないぞ。我はそなたと共にいる。ずっとな。そなたが守ろうとすることは我も守ろう」
「助かる」
オレは座っているアルの頭を撫でた。アルが嬉しそうに目を細める。
こうなると猫のようで可愛い。
「ところで周よ。スケジュールで一つ気になったことがあるんじゃが」
「もしかして、明日のスケジュールか?」
「そうじゃ。明日、我らが出るのは夕方になっておるが、そなたと都、音姫だけスケジュールが空白になっているじゃろ」
確かにそうなっている。とある用事からオレ達はスケジュールを開けていたのだ。
まあ、夕方にしたのはやることが一杯あるだろうし。
オレはアルに話すかどうか考えて、そして、
「狭間の鬼に会いにいく」
「そなた、何故。いや、そなたの考えがあってのことじゃな。それに、そなたら二人ならば大丈夫じゃろう。我らは控えておればいいのじゃな」
「さすがアル。よくわかっているな。頼めるか?」
「当たり前じゃ。一つ気になったんじゃが、これからの第76移動隊の部隊編成はどうするんじゃ?」
今の第76移動隊は三段式、隊長と副隊長に隊員という三つしかない。でも、第76移動隊もこれから増えていくからだろう。事務を含めて30人くらいになるかもしれない。
オレは少しだけ考えた。
「従来の四段式だろうな。それが一番安定する」
四段式というのは隊長を一番上に副隊長兼部隊長、部隊副隊長、部隊員の四つに分けるやり方だ。
10人前後の部隊だった場合、三段式でも可能だが、第76移動隊は20近くまで増えている。三段式では纏めれない。
「部隊内に四つの小部隊に分けることになるだろうな」
「そうじゃな。しかし、最初の頃と比べて第76移動隊もすごいことになっているの」
「全くだ」
最初はオレ、孝治、音姉、悠聖、亜紗、中村の正規部隊組+由姫、浩平、七葉の9人から始まった。
リースが来て、都が入って、エレノアが観察処分でベリエ、アリエと共に来た。そして、アル達も来た。今では20人にもなっている。
この中で離れていくのは浩平とリースだけ。
「夏休みに色々あったからな。まさか、都がオレ達について来ることになるなんて」
オレが中東に言っている間、都築家の大半が捕まるような事件が発生した。そのため都がそのまま学園都市に来ることになっている。
都からそう提案されたんだけどな。
「学園都市か。楽しみじゃ。我はまだ言ったことがないからの」
「そうなのか? いいところじゃないけど、楽しいところだけどな。さて、そろそろみんな来る頃だな」
オレは時計を見てから入り口の方面を見た。そこには若干開いた扉。開いたところから誰かが見ている。ちなみに、複数。
アルが無言でアル・アジフを開くと、入り口が開いた。現れたのは悠聖とアルネウラ。優月はいない。そして、航空空母エスペランサの操縦士であるクロウェン。
「いやー、クロウェンさんが来たから案内したらお前らがいるんだもの。ちなみに、オレ達以外見てないぞ」
「そうか。まあ、別にいいさ」
オレは小さく溜息をついて近くの椅子に座った。そして、目の前にあるパネルをいくつか叩いていく。
「今回はオペレーターにオレ、補助操縦士にアルがやる。何か疑問は?」
オレはエスペランサを完全に起動させながら振り返る。クロウェンはは首を横に振って操縦士の席に座った。
結構寡黙なんだけど、航空機のパイロット歴は長いし、『GF』専用航空機のパイロットでもある。
ちなみに、知り合いでもあるし、話が合えば凄まじく饒舌になる。恐ろしいくらいに。
「全員乗っていることは確認しているから、出発準備だな。乗組員全員に告げる」
オレは艦内放送用のマイクに口を近づけた。
「今から20分後に離陸する。積み込みが終わっていないものがある場合、10分以内に連絡を頼む」
オレはそれだけを言って放送を切った。多分、これでみんな艦橋に来るだろう。
『それにしても、もうすぐなんだね。航空空母エスペランサの離陸は。ちょっと楽しみだな』
「ちょっとかよ。散々旅客機で騒いでいなかったか?」
『あれはあれ、これはこれだよ。周、何か手伝うことはない?』
「ない」
オレは小さく溜息をついて最終チェックに入ることにした。
クロウェンの熱い語りは第二章で書く予定です。時にはなくなるかも。