第二百五十話 最終局面
「光、無事か?」
意識が朦朧とし気絶しかけていた光は顔を上げた。そこにいるのは傷一つないアル・アジフの姿。
「アル・アジフや。ごめん。ちょっと無理かも」
「そうか。座っておれ」
アル・アジフは光をその場に座らせた。すると、すぐに目を閉じて眠り始める。
相手が何人か残っているかはわからないが、アル・アジフは合流した方がいいと直感で感じていた。そして、魔術書を開き、
「アル・アジフ?」
ギルバートの声にアル・アジフは振り返っていた。そこには見るからに満身創痍のギルバートの姿。
アル・アジフはそれを見て身構える。
「亜紗と由姫にこっぴどくやられたみたいじゃな」
「そうだね。まさか、あそこまでやって来るとは思わなかったよ。でも、ここからは負けない」
ギルバートがシュナイトフェザーとラファルトフェザーを構える。アル・アジフも魔術書アル・アジフを開いた。
漆黒と漆黒が空中でぶつかり合い互いに弾かれる。
孝治は素早く弓に持ち替えて矢をいくつも放った。レノアはそれを全て弾き返す。
「そんな攻撃は牽制にすらならない!」
そのまま加速して鎌を孝治に叩きつける。孝治も運命をレノアに向かった放っていた。お互いの武器がぶつかり合い大きな火花を散らす。そして、また弾かれ合った。
二人の息は荒く、孝治は運命についたエネルギーバッテリーを新しいのに変える。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、強い。さすが、第一特務」
孝治は荒い息のまま運命を構える。
「はっ、はっ、はっ、これで13歳? 才能に嫉妬しそう」
レノアも荒い息のまま鎌を構えた。二人が空中で動きを止めている。動かない。どちらが先に動くかどちらも待っている。痺れを切らした方が負ける。そんな感覚が周囲に張り巡らされていた。
そして、轟音。
二人は同時に動き出した。二人のちょうど真ん中で巨大な土柱が起きたからだ。お互いがお互いの姿を見失い、加速する。
「貴様の力、見せて見ろ、運命!」
孝治は勢いよく運命を振りかぶった。土柱が地面に落ちる。そこには、鎌を振りかぶったレノアの姿。その鎌いは漆黒のオーラがまとわりついている。
どちらも同じタイミングで、同じ速度でお互いの武器を振り下ろしていた。
ガキッと鈍い音が響く。それと同時に黒の斬撃が背後の空間を吹き飛ばしていた。
空に舞う破片。鎌の部分が半ばから砕けた破片が地面に突き刺さる。
孝治は倒れてきたレノアを受け止めた。そして、小さく息を吐く。
「何とか勝てたな」
「おーい、孝治!」
その声に孝治は地上を見下ろした。そこには、優月とアルネウラとダブルシンクロをした悠聖の姿があった。孝治はそのまま地上に降りる。
「そっちは勝ったか」
「ああ。互角の戦いだった。そっちこそ」
「実戦なら負けていた。模擬戦様々だ。どうする?」
悠聖が聞いているのはこれからのこと。孝治は少し考え込んだ。
周の戦略はみんなに話しているからここは重要人物を攻撃すべきという考えが浮かんできた。だが、相手の一人はギルバート。孝治では手も足も出ない相手。そして、もう一人は慧海。さらに手も足も出ない相手。
小さく頷く。
「待機だ」
「なんでだよ。まあ、気持ちはわからんでもないな」
孝治がレノアを木の陰に下ろすのを見ながら悠聖が言葉を続ける。
「今は後方組と合流しよう。最悪、負けている可能性だってある。そいつらが戦っている人達を」
その瞬間、ソラが蒼く染まった。二人が思わず顔を見合わせてしまうくらいに空が蒼く染まった。
ちなみに、この瞬間にメリルが天変地異ですかと騒いでいるのだが、二人は知る由もない。でも、この原因を二人は簡単に思いついていた。
「慧海さんの攻撃だろうな。孝治、音姫さんやられたかも」
「可能性としては高いな。今は後方に」
「おーい」
その声に二人は振り返っていた。そこにはこっちに向かって走ってくる周と都の姿。正確には都は走っていないのだが、今はまあいいだろう。
周がすぐに二人と合流する。
「何とか勝てたみたいだな」
「オレは模擬戦様々。孝治は実力だけどな。周は?」
「都様々。正直、雷王具現化された瞬間に泣きそうになった」
実際にレヴァンティンが無かったら周は今頃やられているだろう。
周が空を見上げる。すでに蒼い空ではないが、その原因を周もわかっていた。わかっていたからこそ周は次の作戦に入る。
「三人共、聞いてくれ」
風の刃がギルバートに襲いかかる。ギルバートはそれを紙一重で避けた。だけど、次は土の槍がギルバートに迫っている。すかさず側転で避けるが、目の前に炎の弾が迫っていた。
寸前で飛びのいて回避するがギルバートの息はかなり荒い。
「やはりの」
アル・アジフは何かにわかったように頷き風の刃を放った。ギルバートはその場から飛びのく。
アル・アジフの体はすでにいくつかの個所が傷ついているが、ギルバートよりは遥かにましだった。アル・アジフが氷の槍を放つ。
「8秒」
その言葉にギルバートが微かに動きを鈍らす。そこに氷の槍が飛来した。シュナイトフェザーで払うがその瞬間には強烈な風の塊がギルバートを吹き飛ばす。
アル・アジフはギルバートに指を向けた。
「シュナイトフェザーとラファルトフェザー。二つの強力な斬撃を持つ神剣。違うかの?」
「そうだよ」
ギルバートが攻撃をさけながらアル・アジフの問いに応える。それに対してアル・アジフは満足したように頷いていた。
「その斬撃を放つには平均八秒を必要とする。一発一発ごとのチャージでの。つまり、絶えずそなたを動かしておけば斬撃は放てない」
「それでも」
ギルバートは前に出た。シュナイトフェザーとラファルトフェザーを握り締めアル・アジフに近づこうとする。でも、その前に土の壁が現れこっちに向かって倒れてくる。ギルバートは素早く土の壁を切り裂いた。開けた視界の先に、迫りくる雷球。避けられるような距離じゃない。
「おっと。悪いがそれはさせねえ」
その瞬間、頸線が雷球を砕いていた。ギルバートが声の下方向に向く。
「慧海!」
「悪いな。遅れた」
そこには満面の笑みを浮かべる慧海の姿。対するアル・アジフは小さく舌打ちをしていた。
ただでえさえ不利だった状況がさらに不利になった。このままだとただやられるだけだ。
「さてと、アルには恨みはねえけど、今回は模擬戦だ。全力全開でやらせてもらう」
そう言いながら飛翔を構える慧海。それを見たアル・アジフは呆れたように両手を挙げた。
「我はそなたには勝てぬよ。いや、ここは我が負けた方がいいのかの?」
「どういうことだ?」
何かに気付いたギルバートが振り返る。そして、シュナイトフェザーとラファルトフェザーを後方にある茂みの中に向かって振り切っていた。
「レヴァンティン!」
その言葉が聞こえた瞬間、慧海はアル・アジフに向かって魔術を放っていた。昏倒させる睡眠魔術。アル・アジフは抵抗する気がなかったのかそのまま眠りにつく。
でも、そのタイミングが慧海にとってはかなり大きかった。
気配を感じて横に跳びながら振り返った瞬間、目の前に矢とチャクラムが迫っていた。回避することが絶対不可能な軌道に二つの攻撃が直撃する。
「くっ、まさか」
慧海が小さくつぶやくと同時に周がレヴァンティンを振りかぶりながら現れギルバートに叩きつける。慧海の方には悠聖が薙刀を振りかぶっていた。
慧海は薙刀を受け止める。
「ラストバトルってか? 上等だ。第一特務の残りとして、相手をしてやるよ!」
次回、模擬戦が終了します。