第二百四十九話 最強VS最強
第76移動隊最強VS第一特務最強との戦いです。
「紫電一閃!」
音姫が一歩踏み出すと同時に光輝の刀身が眩い輝きを放ちながら神速の速さで煌めいた。
慧海は後ろに下がりながら蒼い剣で受け流す。しかし、すでに光輝はひるがえっている。
「紫電逆閃!」
「ちょっ」
神速の速さで振り下ろされる光輝く光輝をギリギリで回避しながら慧海は蒼い剣を虚空に戻した。それと共に光輝の輝きがなくなる。
光輝の特性は神の力と対抗した時に光輝き、持ち主の能力を底上げするもの。だが、音姫の速度は全く衰えることなく光輝がまたひるがえっていた。
「紫電連閃!」
振り上げ、そして、振り下ろす。気を抜けば一撃でやられるような攻撃に紙一重で回避する慧海。
「なろ!」
振り下ろした光輝を見て慧海は無骨な剣を振り切る。だが、それは振り上げられた光輝によってお互いを弾かれていた。
まだ、音姫の連撃は止まらない。
「雲散霧消!」
弾かれた勢いをそのままに体を回転させ、光輝を慧海に向かって放つ。慧海はそれを何とか受け止めた。
「しゃら!」
慧海が力任せに音姫を弾き飛ばす。音姫は後ろに下がった。
「直接本気で戦ったことはなかったけど、反則に近い性能だな。ちっ、少し惚れ惚れすれぜ。そんな能力はオレも欲しかった」
「そんなことを言われても。私は今は由姫ちゃんと弟くんを守る剣。この能力はそのためのものだから」
それを聞いた慧海が軽く肩をすくめる。
「剣ね。それがお前の将来か?」
「ううん。教師になろうかなって」
「へっ?」
間抜けな顔になった慧海に向かって勢いよく光輝が振り抜かれた。
地面をえぐりながら放つ白百合流姿返し『無常の太刀』。それを寸前で慧海は避ける。しかし、音姫は勢いよく光輝を振り下ろしていた。
白百合流燕返し『無名の太刀』。
慧海は無骨な剣で受け止めようとするが、剣自体が地面に叩きつけられる。驚愕の表情を浮かべる慧海の視線の中で、音姫は四人に分裂した。
「琥珀霧消!」
四方向からの斬撃を受けて、慧海の体が揺れる。それを見ながら音姫はパチンと光輝を鞘に収めた。
「見事だな」
音姫が目を見開く。目の前にいたはずの慧海が解けたのだ。まるで、組み合わされた糸のごとく。そして、声は背後から。
音姫の額に汗が流れる。
「だが、まだまだだ」
振り返る時間はなかった。背中に強烈な打撃を受けて音姫の体が吹き飛ぶ。
吹き飛びながらも姿勢を制御しつつ振り返った。目の前に迫っていたのは小さな刃のついた頸線。
光輝によってすかさず弾く。音姫は気づいた。光輝が光輝いているのを。
「光輝が光るのは神に相当する力。オレの二分の一も出せないダミーが光るわけないよな」
慧海の右手にあるのは刃のない剣。いや、音姫は見ている。周囲に張り巡らされた頸線を。そして、左手には蒼い剣。
「神剣『飛翔』と神剣『蒼炎』。オレの本気だ。受け取れ」
蒼い炎が舞った。いや、頸線全てに走った蒼い炎が頸線が動くことによって動き出したのだ。不規則に、しかし、絡まることのない動き。
音姫はしっかり頸線の位置を見て体を動かす。
飛び、しゃがみ、弾き、受け流す。だけど、全てを受け止めることは出来ない。体に絡みつく頸線。そして、蒼い炎が包み込んだ。
「これで終わりだ」
慧海がかっこつけのために背中を向ける。そして、前方には、鞘に収めた光輝を握りしめる音姫の姿があった。
「へっ?」
慧海がまた間抜けな顔になると同時に、音姫が鞘から光輝を走らせた。
「鬼払い!」
20に及ぶ剣閃が慧海の体を切り裂き吹き飛ばした。だが、慧海が無意識で振った蒼炎が振り切った態勢にいた音姫の体を切り裂く。
音姫はその場に片膝をつき、慧海は背中を木々にぶつける。
「おいおい。どのタイミングでダミーと入れ替えていたんだ?」
「慧海さんが蒼炎とスターゲイザー・レインを使った瞬間。慧海さんがダミーでいたのはわかっていたから私もダミーをと」
「見事に騙されたってわけか。でも、勝負は今からだな。オレも音姫も、今の一撃は実戦ならどっちも死んでいる一撃。つまり、まだ互角だ」
「はい」
音姫が光輝く光輝を鞘に戻す。白百合流剣術の基本的な動作だ。ただ、そこからの連撃は並大抵の努力で手に入るものじゃない。
慧海は両手の神剣を構える。そして、腕を振った。
細かな刃が大量についた頸線が音姫に迫る。音姫はそれを左手で掴み取った。
「なっ」
慧海が絶句すると同時に音姫が一歩を踏み出す。鞘から光輝を走らせながら振り上げる。
慧海はすかさず飛翔を振ろうとした。だが、その刃は音姫によって掴まれているのか動かない。
「根本を掴んだか!」
先っぽならまだ対処の仕方はあった。だが、根本を掴まれていた以上、慧海は飛翔を手放すしかない。
飛翔を手放し、蒼炎を両手で握りしめる。その時には音姫は片手で光輝を振り下ろしていた。
白百合流滅び斬り『陸斬り』。
白百合流の中で最も使っていない最大技。鬼払いを単体相手に大ダメージを与える技なら、陸斬りは、戦場を分断させる斬撃だった。
当てることは考えていない。敵を分断することに主眼が置かれた技。それは模擬戦のフィールドをちょうど半分に両断する威力を持っていた。
轟音というべきか、爆音というべきか、凄まじい音と共に衝撃波が大地を砕く。そして、衝撃波が慧海の体を吹き飛ばした。
「デバイス使っているよな!?」
慧海は思わず叫ぶ。そうしなければならないほど極めて威力の高い攻撃だった。
「当たってたら終わっていたのに」
「人生終わっていそうだけどな。なんだよその大技は。まあ、次は当たらないし、次で決める」
慧海が蒼炎を握りしめる。それに対して音姫は前に踏み出していた。鞘に戻した光輝を握りしめ、最速の一撃、最高の一撃を狙う。
慧海が前に踏み出す。踏み出しながら蒼炎を横に振り切った。
「燃え尽きろ!」
蒼い炎が周囲を包み込んだ。そして、慧海が蒼炎を振り上げた。対する音姫は蒼い炎の中を真っ直ぐ慧海に向かって走り込んでくる。
「クリムゾンフレア!」
「紫電一閃!」
慧海と音姫が同時に攻撃を放つ。
凄まじいまでの蒼い炎の渦が音姫を包み込み、紫電一閃の斬撃が慧海の体を切り裂いた。
二人が交錯する。どちらも剣を振り切った体勢のまま動かない。そして、慧海の手から蒼炎が落ち、音姫の体が横に倒れた。
「まさか、相討ち覚悟で来るとはな」
慧海はそのまま片膝をつく。もし、音姫が魔術を使えたなら勝負は変わっていただろう。
慧海は小さく息を吐いた。
「体力と魔力はほとんど尽きたし、これはちょっとマズいかもな」