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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第二百三十六話 自由の国

アメリカ合衆国。


はるか昔、何千年以上前から存在する最長の歴史を誇る大国。


別名、自由の国と呼ばれ、『GF』は秩序の存在。国連は戒律の存在とされ二つの勢力による警備隊が存在していた。


特に、今のオレ達がいるニューニューヨークは『GF』最大のビルを持つ『GF』本社がある。


元はワシントンの方にあったのだが、復興の象徴として本社をニューニューヨークに移したのだった。


だけど、オレはその本社にはいない。オレがいるのは献花台が前に置かれている慰霊碑のある公園だった。もちろん、花を携えて来ている。


あの日。七年近く前の12月25日。ニューヨークの街は瓦礫の街となった。比喩でもなんでもなく、生存者がたったの六人という史上最悪のテロが起きた場所。


オレも茜も楓も中村もその日、そこにいた。


献花台に花を置く。献花台にはいくつもの花が置かれており、史上最悪のテロを悲しむ人は少なくない。


「もう、六年半か。そんなに経つんだな」


時の流れとは残酷だと思う。まだ幼かったからか、オレも茜も写真の中でしか親父やお袋がわからない。


それに、ここに来ても、ただ、あの事件があったのだとしか思えない。あの時の記憶も薄れてきている。


時々、悪夢として見ることを除けば。


「どうして、こんなに悲しいことが起きたのかな?」


黒いワンピースを身につけらた由姫が献花台に花を置きながら小さく呟いた。その答えはオレも知っている。知っているからこそ言うことが出来ない。


今はただ、悲しむだけしか出来ない。


「こんなことを絶対にさせないようにしないと」


「そうだな。オレ達の目的もそれだ。『GF』は誰を守る。そのための組織だ」


だから、『赤のクリスマス』は繰り返させない。


オレは小さく頷きながら献花台に花を置いた。そして、両手を合わせる。


オレは元気です。茜も元気一杯です。オレ達は精一杯生きています。これから大事な話とか続いて大変だけど、頑張っていきます。お父さん、お母さん。どうか、安らかに眠ってください。


いつの間にか閉じていた目を開ける。アメリカに来た時はいつもここに来るからかかなり無難なことしか言えない。本当ならもっと話していたいけど、これからの予定もある。


「さてと、由姫、デートにでも行くか」


「うん」


オレの手を由姫が握った瞬間、懐かしい匂いがした。いつの間にか、オレ達の近くにロングコートと帽子を深くかぶり、サングラスをかけた男がいた。


不審者の装備というべきだろうか。その男の手にあるのは花束だ。おそらく、オレと同じなのだろう。


オレは由姫の手を引いて歩き出した。そして、


「相変わらず、美しいな」


その言葉が耳に入り、オレは思わず振り返っていた。


「やはり、歴史に名を残すことは最高だ」


「お兄ちゃん、どうかしたの?」


由姫が首を傾げてオレを見ている。由姫には聞こえていないらしく、もしかしたら幻聴かもしれない。


意識をはっきり持っておかないと。


オレは首を横に振って歩き出した。


「行こう。とりあえず、ニューニューヨーク最大のショッピングモールにでも向かうとしますか」


「みんなへのお土産を買うんだよね? 何を買うの?」


「えっと、孝治、悠聖、浩平、中村、アルネウラ、優月、リースがペアルックの何か」


「いきなりレベル高いね」


総勢七人のペアルックのもの。つまり、同じものは言語道断だし、あいつらのことだから、常に身につけられるものだろう。


浩平とリースに関してはあるものを考えているからいいとして、残りの五人に関しては揃えないといけない。


「ネクタイとかは?」


「確かに孝治と中村は使うけど、孝治は次の誕生日に送る予定らしい。ここは、ゴブレットの銀細工でいいかな」


「いやいやいや、お兄ちゃんの財布の中は大丈夫?」


ゴブレットというのはセレブの中でもトップクラスのセレブ御用達のアクセサリーメーカーで、銀細工のものは桁違いな値段を誇る。


オレはポケットからパンフレットを取り出した。


「孝治のものは視力補正が入るもので、中村のものは術式補助の入るものでいいか?」


「何千万飛ばすつもり?」


由姫が呆れたように言ってくる。まあ、普通はそうなるよな。


「その点なら大丈夫。戦闘補助も可能な銀細工なら本店で95%オフで売ってくれるから」


それでも70万くらいするけど。


「時々お兄ちゃんの凄さが桁違いに膨れ上がるよ。仲のいい人でもいるの?」


「まあ、社長とな」


今度こそ由姫は固まった。


「マジ?」


「開発に関して術式を提供したら食らいついてきてな。今では頻繁にメールをする」

「お兄ちゃんの人脈ってどこまで?」


由姫が呆れたように溜息をつくが、オレはあまり気にしない。人脈は出来る限り作っていた方がいいからでもあるから。


オレは由姫の手を軽く引っ張った。


「行こうぜ。さっさとしないと日がくれてしまう」


女の子のショッピングは時間がかかるって言うしな。


「私はそんなに買い物は長くないよ?」






「言い訳は?」


ショッピングモール内部にあったカフェ。その中にオレと由姫はいた。


オレの前にはコーヒー(砂糖はたっぷり)があり、由姫の前には大きなパフェがある。


「本気で反省しているから」


由姫はパフェを口に運びながらしゅんとしつつ答える。


その理由はオレの近くにある荷物の量をみればわかるだろう。


紙袋七個分。由姫の近くには紙袋五個分がある。


確かに由姫の買い物は早かった。一つの店の平均時間は結構短く、即断即決でもあった。


ただし、その量がかなり多い。


「でも、みんなから、女子のみんなから買って来て欲しいリストを全て網羅したら、紙袋九個分に」


「自分用に二個もあるだろが」


オレはそう言いながらコーヒーをすする。


由姫が買ったのは可愛らしい服ばかりだ。試着はしていないが、どれもこれも由姫に似合うものだろう。


一つ気になるのが亜紗の分と言いながら買った紙袋の中身だ。色違いの上下しか入っていない。


「お兄ちゃんはわかってないよ。好きな人の前ではおしゃれしたいんだよ」


「それで、その服装か」


黒いワンピースを着た由姫というのは見たことがない。いつもはもっと明るい色をしているのに。


まあ、ワンピース大好きというところだけは変わらないか。


「今日は慰霊碑に寄るって聞いたから。というか、その言葉は本気で私の言葉だよね? どうして学生服?」


オレは自分の服を見た。これこそ学ランというべき服装をしている。まあ、狭間中学校の学生服をそのまま来ているだけだが。


「ファッション」


「センス悪いよ。ラフな格好で良かったのに。というか、何で長袖?」


「元ニューヨークだから」


オレはそれだけを言ってコーヒーをすすった。由姫は何も言わない。いや、言えない。


この学生服自体が強力な術式が張り巡らされており、下手な防御魔術より遥かに頑固なことや、衝撃に極めて強いことはわかっているはずだ。


どうして、どうしてニューニューヨークに来た時はこういう風に防御性に優れた服装を身につけなければ体が恐怖を覚えてしまう。


それをわかって聞くことは、『赤のクリスマス』について掘り返すことになるのだから。


ちなみに、これでもあまり熱くはない。


「まあ、別に気にしなくていいぞ。それに、オレは気にしていない」


「気にするから。せっかくのデートなのにお兄ちゃんがそんな格好だなんて」


「そうだよな。由姫、次はどこに」


「あれ? 周じゃないか」


その言葉に振り返ると、そこにはアルトと見知らぬ女性の姿があった。


ちなみに、話しかけてきた言葉は英語。こいつは英語もペラペラだ。


つか、完全にデートだよな。


「奇遇だな。というか、お前はドイツじゃないのか?」


オレは丁寧に日本語で返してやった。由姫の顔が呆れたようになるのがわかる。


「少し用事があってね。二人もデートかい?」


「ああ。ついでに、お土産類もな」


オレは軽く肩をすくめながら答える。もちろん、アルトは英語で話し、オレは日本語で話している。


オレは女性の方を見た。どこかで見たことがあるな。


「由姫もそろそろパフェを食べ終わる頃だし、今から再開だな」


「残念。ダブルデートと行こうかと思ったのに。由姫ちゃんも可愛いからさ」


女性の顔がムッとするのがわかった。まあ、当たり前だろう。


「予定を決めているからな。さてと」


オレはレヴァンティンを取り出して紙袋を虚空の中に収納した。ついでに固定化の魔術をかけてバラバラにならないようにする。


レヴァンティンはこういうのが可能だからありがたい。ただし、同時に入れないといけないから大変だ。


「由姫、行くか。お二人はデートを楽しんでおくんだな」


オレは立ち上がり由姫の手を取った。もう片方で紙袋を一つだけ残して持ち上げる。由姫は残った一個を持ち上げる。


「そちらこそ」


アルトの言葉を背中に受けて歩き出す。


「お兄ちゃん、これからの予定でもあるの?」


「何もない。だけど、由姫はオレと二人っきりの方がいいだろ」


「うん」


由姫の満面の笑み。それを見てオレは満足しながらショッピングモール内を歩く。


行く当てはないけど、こういうのも楽しいな。


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