第二百三十五話 新たな旅立ち
このまま第一章が終わるまでこっちを書き進めます。七月までには第二章に入りたいです。五月に終わるやら六月やら様々な詐欺をやっていますが(笑)
レヴァンティンを抜き放ち素早く振り切る。すかさず刃を返して振り払った。
「うーん、まずまずだな。体の調子は」
『そうですね。これなら29日に本調子に持って行けますよ。それにしても、マスターの力強さが上がっていますね』
「オレが使えなかったのは魔術だ。筋トレぐらいしている。まだ、若干だるさはあるけどな」
簡単な運動なら可能だと勝手に判断して動いているのだが、やはりまだ本調子じゃないか。今は、素振りだけでも、
「無理したら駄目だって私達は何度も言っているけど?」
振り返ってみるとそこにはベリエの姿があった。その背中に担がれているのは一本の杖。
オレは軽く肩をすくめる。
「無理はしていないさ。ベリエこそ、無理はしていないか?」
「大丈夫よ。お姉様やアリエも『GF』にかなり慣れているし。私が戸惑っているくらい。なんでこんなに順応性高いのよ」
ベリエはぶつぶつ言いながら杖を構える。そして、魔術を発動させた。
「魔力を体内に巡らせてみて」
「わかった」
レアスキルは使用せず、体内に魔力を巡らせる。身体強化魔術を使う前によくやることだ。慣れていなければ時間はかかるが、慣れさえすれば簡単に身体強化魔術を使える。
『GF』に入った場合はまずこれを習わされる。
「循環系には異常なしね。後は、今まで使っていなかったから体が魔力にボケている。さっき、体がだるいって思わなかった?」
「よくわかったな」
「魔界じゃよくあるのよ。魔力が濃すぎて久しぶりの戦闘に体が慣れないまま死んでいくのが。ただ、この状態で無理は駄目。訓練も軽めなら大丈夫よ。本格的な戦闘は駄目かな」
つまり、剣を振るくらいなら大丈夫か。白百合流の動きは力任せにトレース出来るけど、腕を痛めかねないしな。
出来るとすれば、魔力をあまり使わない八陣八叉流の近接格闘戦とかか。これは由姫に手伝ってもらうとして、剣を振るのは少し難しいな。
軽めに振って体を慣らしていくしかないか。
「あんたは根っから戦闘しか考えてないのね」
「不安、だからじゃないか? あの日を、『赤のクリスマス』を知っているからこそ、オレは力が欲しいと思っていた」
「思っていた? 今は違うの?」
オレは頷いた。
「今は大切な奴らを守りたい。ただ、それだけだろうな。そのためには力が不可欠だ」
「力だけが全てじゃないわよ」
「いや、力は必要だよ。それは腕力という意味だけじゃない」
オレは自分の拳を握りしめる。
「努力して得た力が無ければ守ることは出来ない。オレはそう思っている」
確かに、直接的に守るとしたなら魔術などの力が必要かもしれない。実際に力によって理不尽な目に会う人は多い。
実力があれば誰かを守ることも出来るし、自分の身の安全も守ることが出来る。でも、守る手段はそれだけじゃない。
言葉だってそうだ。あらゆる武器よりも最も守ることに特化したもの。言葉一つで敵の全てを止めることだって出来る。
「これからは第76移動隊も大変になっていくからな。守るためには何だってする」
「でも、私達をどうして受け入れるの? お姉様もアリエも私も犯罪人。お姉様なんて観察処分で済んだけど、魔界に居場所なんてない。それが知られれば第76移動隊」
「誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うことだ」
オレはいつもの言葉を言った。
オレが目指したい未来。
「仲間を見捨てる奴に世界なんて救えない。オレはもう決めたんだ。誰をも救うと。まあ、問題は実力があまりないからな」
器用貧乏だからいくらでも戦う方法はある。でも、その強さはパッとしない。実際に、器用貧乏としては有名だが、強いという方向ではかなり無名だ。
オレが第76移動隊で戦えているのは一芸特化の面々を動かしているから。
オレはレヴァンティンを鞘に収めた。
「ベリエも無理して第76移動隊に入らなくていいんだぞ。戦うことを止めてもいいし、浩平とリースみたいに世界を旅することを考えてもいい。ベリエは将来の夢はないのか?」
「えっ? 将来の夢?」
ベリエが驚いたように尋ねてくる。そして、周囲を見渡し、
「えっと、お嫁さんじゃ、だめかな?」
オレは完全に固まっていた。まさか、あのベリエがそんな将来の夢を持っていたなんて。
意外を通り越して驚愕だ。でも、
「いいんじゃないか? ベリエを大切にしてくれる相手がいるなら」
「うん。魔界じゃ政略結婚とか特性を伸ばすために望まない結婚は日常茶飯事だから。私は、大好きな人のお嫁さんになれたらな」
「いるのか?」
「うん。強くて、カッコ良くて、イケメンで、優しくて、泣き虫だけど、決めたことは貫き通す」
「ああ。刹那か」
ベリエの動きが止まった。そして、頬がピクピク動く。
「どうし、て?」
「オレの知り合いの中でぴったり当てはまったからさ。へぇ~、かなり意外だな。というか、刹那って彼女いたよな?」
「うん。刹那さんと『雷帝』を争った人。幼なじみらしい」
かなりの強敵だ。刹那をその彼女から手に入れようとしたら障害が大きすぎる。
ベリエにはちょっと難しいか。
「私には無理よね。無理。絶対に無理。うう、こんな奴に相談しなければ良かった」
「刹那に尋ねてみるぞ? 彼女について。もし、別れていたりしたら紹介するけど」
「いい。あんたの手を借りたくないという意味じゃないけど、そんなことで知り合っても私は嬉しくない。知り合うなら戦場かな」
それはそれで難しい注文だよな。だけど、時期がちょうどぴったりか。
オレは小さく頷いた。
「彼女についてはそこはかとなく聞いておくさ。まあ、頑張れ」
「あんたは刹那さんと出会う予定があるの?」
「オレは明日から学園都市に戻った後、アメリカに行くだろ? アメリカでギルガメシュや刹那と会うからな」
学園都市に行く用事は茜の見舞いと義母さんと義父さんと久しぶりに食事をするため。
そのために由姫や音姉も一緒に行く。
「そっか。ついにあれの本格的な組み立ての開始なんだ」
「あれってお前には話した覚えがないけど?」
「簡単な推理よ。移動隊の足。そして、今まで無かったもの。結論は結城家」
「そこまでわかっているのかよ」
そこまでというか完全に答えがわかっていた。
オレは小さく溜息をついてレヴァンティンを元の形であるペンダントに戻した。そして、小さく息を吐く。
「まあ、当日まで黙っていてくれたらいいさ」
「別に話す理由なんてないし。あんたに一つ聞いていい?」
「何でもどうぞ」
軽く腕を伸ばしながら頷いた。
剣を振るのを止めて、走り込みでもするかな。
「あんたは誰を選ぶの?」
「ヘビーな質問が来たな」
まさか、そんな問いがくるとは思わなかった。
「今はまだ選べないさ。由姫も亜紗も都も、オレにとっては大事な奴だし、アルとは約束したからな。将来、オレがみんなから一人立ちできたなら、ちゃんと選ぶ。自分で決めて」
今はまだこのままでいいだろう。
でも、いつかは選ばないといけない。その時は必ず決めないとな。
オレは空を見上げながらそう誓うのだった。
次からはアメリカ編です。こちらも三つほど。周の言う移動隊の足について語る予定です。