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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第二百三十三話 都の初任務

「えっと、任務、ですか?」


朝早くに呼び出された都が不思議そうに首をかしげる。それを見た孝治がゆっくり頷いた。


「そろそろ慣れてきたころだから一つ任務を任せたいと思って。一応、音姫さんがサポートにつくけど、都さんが主導でやってほしい」


その言葉に都は純粋に驚いていた。確かに、都は第76移動隊に所属しているが、神剣を持っているという理由であり、任務につくものとは思っていなかったからだ。


孝治は一枚の紙を差し出す。


そこに書かれていたのは終業式の時に周と琴美が話していた規定違反のチラシだった。


「これについて聞きこみの調査して欲しい。本来なら警察に頼んでもいいのだが、周から都さんを出すように言伝を受けていてな」


「周様からですか? 私が主導で」


都は不安だった。不安だからこそ、自分がやっていいのか不思議に思ってしまう。


「一応、今わかっているのは連絡先無し。住所は畑だ。民間警備隊というアイデアは悪くないが、無許可でやられると色々と後任の『GF』面々に迷惑がかかる」


「わかりました。出来る限り頑張ってみます」


孝治が言った後任という言葉に深い意味はないだろう。でも、都にとっては取っても大きな意味のある言葉だった。


周がこの狭間市からいなくなる。それだけを考えるとやっていけるかどうか不安だ。学園都市内部都島学園付属都島高校が都の受験先ではあるが、半年ほどの間、一ヶ月おきにしか会えなくなるのにちゃんとやっていけるか不安だからでもある。


でも、そうだからこそ、都は受けることを決めた。


「もしもめ事になった場合は」


「自由に対処してくれていい。ただ、怪我人は少なく」


都には前科がある。狭間戦役中に一人を病院送りの重体にしたという戦果が。


ちなみに、そのことで周からはどっぷり怒られていた。


「わかりました。音姫さんは?」


「音姫さんならいつもの訓練場で訓練している。一応、期限は周が戻ってくるまで。周も犯人が見つかるとは思っていないから気楽にして欲しいということだ」


その言葉を聞いて都はカチンときた。そして、不敵に笑みを浮かべている。


「周様は私の人気を知らないようですね。周様が戻ってくるまでに決着をつけます。この私と、神剣『断章』の名にかけて」






「へぇ~、都の神剣は断章って言うんだ。ちょっとカッコイイかも」


「音姫さんこそ。光輝という名前はカッコイイと思いますよ。神と相対すれば光り輝くんですよね」


「うん。神又は神剣クラスのもの。神の力と相対かな」


都と音姫の二人は揃って道を歩いていた。都の手に握られているのは狭間市の地図。ただし、広く丸い円が書かれている。


これは琴美が作り出したものだ。噂や井戸端会議などを盗み聞きしたり、話を聞いて作ってくれたらしい。琴美が言うには暇だったからそうしたとか。


「では、この断章と相対してもですか?」


「多分。ここじゃやらないけど。それにしても、どうして断章って名前? 他にも色々あるんじゃないかったのかな?」


「この神剣の特殊能力なんですけど、『連綿と続く章を断て』という概念が存在するんです。効果は相手の攻撃の無効化。そこから名前を取りました」


「無効化か。弟くんのレヴァンティンによる相殺空間の形成みたいな感じかな?」


実際には相殺ではなく消滅のなのだが、力を使い続けることで今の状態を維持できることから総裁となっている。消滅といっても発動した一瞬だけで、消滅空間というには少し程遠い。


対する断章は概念の発動により向かってくるあらゆる全てを無効化する。それは、連綿、途切れることなく続いた物事の章、存在を断ち切るという極めて凶悪なものなのだが、都が言うとそうなんだで済ませられる。ちなみに、それを聞いた周の顔が引きつっていたとかなかったとか。


「でも、それの一番の能力は物と物との間に存在する狭間の力を集めて使えるんだもんね。羨ましいな」


「それでも、力が強力すぎてセーブするのが大変ですよ。音姫さんは経験がありませんか?」


「うーん。私は魔術を使えないからわからないけど、暴走している人を止めたことはあるから大変であるとは思えるよ」


「扱う力が多ければ多いほど暴走する危険性は高いものです。ここですね」


都は立ち止りインターホンを鳴らした。そして、しばらくして家の中から人が出てくる。


「はい。あら? 都築のお嬢ちゃんじゃない。どうかしたの?」


「はい。ちょっと探し物をしていまして。このチラシを配った人物についてなんですけど」






都は持ってきていた手帳に今まで集めた情報を全て書いていた。そして、その手帳を閉じる。


「情報はまとまった?」


「すみません。一人でさせてなどおこがましいことをして」


「ううん。都が成長するなら私も嬉しいからね。それにしても、都ってすごいね」


手帳に隙間なく書かれていた内容。その全てが都一人で聞きだしたものだった。ちなみに、音姫は周から重要そうなポイントの連絡先や住所などをすでに聞いていたので前がふさがった時はヒントを上げようとしたのだが、そのヒント以上のことを全て一人で調べ上げていた。


始まった時には朝だったのにすでに時刻は夕方になっている。


「情報、そんなに集めるのは弟くんでも二日はかかるよ?」


「私は地元ですから。それに、琴美が色々と下調べをしてくれたので二時間ほど短くなりましたし」


都はすでに犯人の目星を掴んでいた。この目星も全く調査していない周から聞かされていたものと同じだった時は音姫もあいた口が塞がらなかった。


たくさんある情報。その中から正確なものだけを抜き出して理路整然となるように組み立てる。その肯定は周とは違っていても周と似た才能があると思えた。


「では、行きましょうか」


「いいの? 目的地は都の」


都が立ち止まって音姫の方を振り向く。そして、笑みを浮かべた。


「私は第76移動隊隊員です。しっかり受けた任務は成し遂げないといけませんから」


「わかった。見届けるよ。都のやることを」


都は頷いてインターホンを鳴らす。しばらくして、インターホンにに誰かが出てきた。


『はい? 都築ですが』


「お父様。都です」


男の声に間髪いれず都が声を上げる。インターホン越しで息を呑むのがわかった。


『何をしに来た?』


少し怒ったような声。それに対して都はしっかり背筋を伸ばして言う。


「第76移動隊隊員として事情を聴きたいことがあります。市内で配られた民間警備隊について、お父様が関与していることがわかりましたので」


『な、何の証拠があって』


「チラシを配った短期のアルバイト。チラシを印刷した印刷所。チラシのデザインを考えた絵師。総勢28名が証言してくれました。お父様。証拠を残しすぎなのでは?」


『ち、父親に対してそのようなことを言うのか! やはり貴様は鬼の子だ! 帰れ!』


都がその声に目を伏せた瞬間、音姫が助け船を出した。


「第76移動隊副隊長白百合音姫です。今回の件で話す内容がないなら話は警察の方に持っていきます。もし、そうなれば逮捕は免れないでしょう」


『お、脅すのか? やっぱり脅すのだな。『GF』というのは最低の組織だ。このことはちゃんと警察に報告する! この街の警察がお前らに従うとは思うなよ!』


その言葉と共にインターホンが切れた。音姫は小さく息を吐いて都を見る。


「都、戻ろう」


「ごめんなさい。最後の最後で手伝ってもらって」


「ううん。弟くんからお願いされているから。それに、さすがに親でもあれはないと思ったし」


「血は繋がっていませんから。音姫さん、警察に行きましょう」


音姫はその言葉に驚いていた。今の言葉を聞いていたのか少し不思議に思ってしまう。


都の父親は警察にも根回ししているように聞こえたからだ。だが、それを聞いてもなお、都は警察に行こうとしている。これだけは音姫も予想外だった。


「警察は難しいかもしれないよ? さっき言っていたし」


「大丈夫です。今の狭間市警察署のトップは知り合いです。こういう時は国家権力に頼るべきですから」






「うん。都は大丈夫だったよ」


音姫は自分の部屋の中で通信機を片手に周との連絡を行っていた。今日起きた都の初任務に関する報告を。


『予想はしていたけど、まさか、本当に都築家だったとはな。しかも、あれよあれよろ様々な賄賂の証拠が見つかるなんて。都に済まないことをしたかな』


「だと思う。少し落ち込んでいたし」


書類偽造の疑いで家宅捜索に入った警察に対し、都築家はちょうど証拠隠滅を図っていたらしく、あえなくたくさんの証拠を回収された。おかげで大量の賄賂など様々なものが出来上がったという。


『大規模にもほどがあるだろ。書類偽造だけ睨んでいたら、まさかそれ以外の証拠もぞろぞろと見つかるなんてな。警察の認識を改めないといけないみたいだ』


「そうだね。で、弟くん。どういて都を今回の任務に? 他の任務でも」


『身内だからと言って手を抜かないことを見たかったんだ。そして、これはある意味内外に知らせることでもある。『GF』は身内だろうが関係なく調査すると』


周の目的は予想以上に達成されたと言ってもいいだろう。ただ、いろいろと残る部分はあるが。


音姫は小さくため息をついた。


「うん。そうだね。でも、弟くんは帰ったらちゃんと都の面倒をみること。父親だけが逮捕だと思っていたら、いつの間にか市長から関係者一同まで芋づる式に逮捕されたんだもの。精神的ショックは計り知れないと思うよ」


『ああ。まあ、明日の昼ごろには着くから都の家に顔でも出す』


「あれ? 予定じゃ明々後日に帰って来るんじゃなかったの?」


『都の調査があまりにも早すぎた』


多分、周の予定では帰ってくる頃にちょうど調査が終わるようにしたかったのだろう。でも、想像以上に早い終了となり、周は急いで帰ることにしたと言うところのようだ。


『ちなみに、亜紗とアル達は明々後日だ。オレ一人先に帰るから、孝治にだけ伝えてくれ』


「了解。もう、そろそろ寝る時間だから切るね。お休み、弟くん」


『音姉こそお休み』


音姫は通信機を切った。そして、小さく息を吐いてベットに寝転がる。


「弟くんが明日帰ってくるのか。都、元気になったらいいな」


第二章に繋ぐためとして書いたので、自分でも結構酷いことを都にさせているなとは思います。

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