第二百三十二話 残されるもの 離れる者
久しぶりに浩平とリースが登場します。
「来て、タイクーン!」
俊也の言葉に召喚陣が煌めき、炎を纏う一つ目の巨人、タイクーンがそこから姿を表した。
俊也のそばにはすでにフィンブルド、アーガイル、グレイブの姿がある。風、水、大地、そして、炎の最上級精霊を従えた俊也の姿。
オレは純粋に拍手した。
「召喚には時間がかかるが、これからはお前が自分なりにやっていけ。もう、教えることはない」
悔しいことにだが、俊也は本当に天才だ。もしかしたら、精霊召喚師としての才能ならオレを遥かに超えるだろう。
「お師匠様のおかげです。僕一人だけだったら、今頃みんなと一緒に死んでいたと思いますし」
でも、こいつらの強さ、最上級精霊の強さはけた違いだからな。ルーチェ・ディエバイト本戦参加者を圧倒するくらいの強さを時には持つ。
アルネウラや優月というイレギュラーな精霊もいるんだけどな。
「これで、心おきなくオレはここから立ち去れるな」
「えっと、夏休みの終わりまでですよね。それまで僕に指導を」
「これ以上教えるとなると戦闘の仕方、周隊長の分野になってくる。精霊召喚師は自分の精霊から色々学んでいくんだ。お前には頼もしいパートナーがいるだろ」
「そうですけど」
不安になる俊也。その気持ちはわからないでもない。でも、これはオレも師匠から言われたことだ。
「大丈夫だ。焦るな。お前には大切な仲間がいる。そいつらと話し、暮らし、共にいることが精霊召喚師の最善の方法だ。それに、個人で訓練の仕方は大きく変わってくるからな」
「そうなんですか?」
「オレの師匠がバック型に対し、オレはセンター型。戦場の中心で戦況の有利になるように援護と攻撃を行う役目だ。対する俊也はフロント型。精霊の特質から考えても、最前線で仲間を守るのに適している。まあ、これはオレの推測だから、お前がどう考えるかわからないけど」
戦場のポジションであるフロント、バック、センター。その全てが鍛える内容が違う。オレの場合はディアボルガやルカを引き連れながらも、個性的な精霊達が多かったのでセンターで戦うことを決めた。もちろん、その時は精霊達と深く相談して。
オレは俊也の頭をなでる。
「大丈夫だ。お前はもう立派な一人前だよ。これからのことはお前たちで話せ。『GF』に所属するのか、それともフリーになるのか。はたまた、戦いから足を洗って長閑に暮らすか。お前にはまだ選択の余地があるからな」
「お師匠様はどうなんですか? もう、選択の余地はないように聞こえましたけど」
「オレは周隊長についていくって決めたからな。あいつの子供じみた願い。誰も失わないという途方もない夢物語。でも、そんな夢物語が実現できる世界を夢見てもいいじゃないか。オレは、オレ達はまだ子供なんだから。夢を追い続けることをしたいんだ。まあ、俊也みたいな精霊召喚師を増やしたいとは思うけどな」
周隊長についていくと決めたからオレは第76移動隊にいる。本当の意味で救うことを成し遂げたい。そんな子供じみた夢のために。
オレは俊也に背中を向けた。
「これがオレから教えられる最後の授業だ。後は、みんなと話し合え」
『ちょっと待て』
フィンブルドの言葉にオレは振り返った。そこにあったのは頭を上げる最上級精霊達。オレはそれをポカンと見つめていた。
『ありがとう。俊也をここまで導いてくれて』
『キサマノオカゲダ』
『GJ』
アーガイルは人間の言葉を話せないため素振りだけだが、ちゃんと親指を立てた人の手を形取っていた。というか、グレイブのGJはないだろう。多分、周なら理解できない。
フィンブルドが笑みを浮かべながら顔を上げる。
『これからは俺達が俊也を見守る。師匠の役目は引き継ぐぜ』
「お前らならオレも安心していられるわけだ。俊也、夏休みの間なら好きに尋ねてこい。相談事ならいつでも乗るぜ」
「ありがとう、ございました!」
俊也の大きな声を聞きながらオレは背中を向けて歩き出した。
オレが育てた生徒第一号ってところだな。こんなにも嬉しいだなんて。
「さてと、浩平でも探すかね」
「呼んだか?」
その声にオレは顔を上げると、そこには枝の上で仲良く二人で座っている浩平とリースの姿があった。
オレは眉をひそめる。
「こんなところで何をしているんだ?」
「いやー、リースとデートしていたらさ、重要そうな場面に出くわしちゃって。で、ここにいた」
浩平が枝から飛び降りる。ちゃんとリースも一緒だ。ゆっくり落下しているところをみると、もう竜言語魔法はほとんど使えるようになっているみたいだな。
オレは本題を切りだすことにした。
「オレに銃の使い方を教えてくれ」
「拳銃? ライフル? それとも、精霊銃? ちなみに精霊銃は扱ったことがないから」
「精霊銃だけど、拳銃型だ。今発注しているものだから先に銃の扱い方ぐらいは慣れておこうと」
「へぇー、悠聖も考えているんだな。対するオレは何も考えてないし」
「そんあことねえよ」
オレの言葉に浩平がきょとんとした。そんなにオレが言うのが意外か?
「お前は竜言語魔法を習得したじゃないか。リースの傍にいたいからって」
二人の顔が真っ赤に染まる。だけど、その手を離すことはなかった。お似合いの二人だよな。
オレは軽く肩をすくめながら言葉を続ける。
「オレも精霊の力だけじゃなくて、自分の力も頼らないといけないからさ。精霊召喚師の弱点を補うために銃の扱い方を教えてくれ」
「別に銃じゃなくてもいいと思う。剣でも槍でも。どうして銃?」
リースの疑問はもっともだ。精霊召喚師の中には剣を使うものもいる。だけど、オレの場合は少し違う。
「持ち運びにスペースを取りにくいからだな。精霊武器を扱う時に邪魔にならない武器を考えたら真っ先に銃が出てきた」
「なるほど。それなら納得だ。それにしても、最近はサブ武器が増えているよな」
「確かに」
例えば亜紗は新しく二本の小刀を手に入れたらしい。名前は綺羅と朱雀。双子というところからその名前を取ったのだろうけど、どんな能力になることやら。サブ武器じゃないけど、浩平も竜言語魔法を練習している。立派なサブの戦闘技術だ。
本来の武器とサブ武器とを使い分けることはかなり難しいが、それが出来た時はかなりの戦力になる。
「みんな、このままじゃ駄目だと思っているんだろ。狭間戦役を体験したからこそ、自分の弱点がわかってきている。だから、みんな前に進もうと試行錯誤しているんだ」
「そろそろ、俺もリースも覚悟を決めないとな」
その言葉にオレは不思議そうに首をかしげた。そして、浩平が笑みを浮かべる。
「俺達、結婚するんだ」
「ちょっと待ったー! お前らまだ中学生だろ!」
「私が『ES』を抜ければいいだけの話」
「そんな簡単な話じゃねえよ! そもそも、法律を考えろって、『ES』を抜ける?」
アル・アジフが『ES』を抜けて『GF』に来るのは聞いているが、リースが『ES』を抜ける話なんて聞いたことがない。
でも、浩平が驚いていないことを見ると、二人で話し合って決めたのだろう。
「私は浩平と共にフリーの傭兵になる」
「つまり、浩平は『GF』を抜けるのか?」
「まあな。とは言っても、高校くらいになるまで世界を放浪するだけだ。リースと一緒にもっと世界を回りたいと思ってな。俺は力を付けた理由が終わったからゆっくり見てみたいんだ。強くなるために走り回っていた世界じゃなくて、自由な世界そのものを」
浩平の目は輝いていた。そんな目を見たオレは何も言う言葉が見つからなかった。
「そっか。お前も将来について考えているんだな。この話は周には?」
「まだしてねえ。帰ってきた時にするはずだ。俺の予想だが、周なら見送ってくれるんじゃないかと思う。推測だけどな」
「あいつは個人が決めたことは尊重するからな。将来、か」
オレもしっかり考えないといけないかもしれないな。こお狭間戦役を通じて見つけたもの、手に入れたもの。それらを守るためにどうすればいいか。
「戦うだけが全てじゃないからな。オレも、考えよう」
アルネウラや優月、そして、大切な精霊達と共に。