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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第二百三十一話 あの日の真実

『ES』本拠地屋上。そこにオレと亜紗の二人はいた。静まりかけの太陽がオレ達の体を赤く照らしている。


オレ達がここに来てからすでに三日がたった。細かな話をしっかり綿密にやっていくため時間がかかってしまう。でも、メリルもルーイもそのような話ですらしっかり聞きとっていた。


オレはかなり疲れてしまったというのに。


「まだまだ未熟だよな。オレも」


『そんなことはない。周さんはしっかりやっている。私には真似できない』


「亜紗は慣れてすらいないだろ。オレは第76移動隊隊長。正規部隊隊長だ。これくらいは出来るようにならないといけないのに、まだまだだな」


メリルもルーイもずっとこの様な事をし続けていたのだろう。だから、ここまで長時間の間やっていられる。


追いつくにはそこまでしないといけないのか。


「亜紗はさ、将来のことをどう考えているんだ?」


『将来? えっと、周さんのお嫁さん』


「それは将来の夢だ。オレが聞いているのは将来のことだ。仕事とかあるだろ。第76移動隊もこのままでいいわけがない。戦力過多であることが理由に分裂させられるかもしれない。お前は、オレ達から離れてやっていけるのか?」


『うん』


亜紗は即答していた。それがオレには以外で思わず目を見開いてしまう。


亜紗はスケッチブックを捲った。


『どんなことがあっても、私は周さんの傍にいる。離れても、必ず周さんの傍に向かう。私は、周さんを守るための騎士だから』


「騎士ね。その騎士の役割はオレにやらせてくれたっていいんじゃないか? そういうのは男の担当だろ

?」


オレは笑みを浮かべて空を見上げる。亜紗も亜紗で考えているのかもしれない。いや、こいつが考えないわけがないか。一年間ほど、オレの傍から離れさせていたのだから。


もしかしたら、同じ事態になるかもしれないと感じているに違いない。でも、亜紗はオレの傍にいると言う。それは純粋に嬉しかった。


「さてと、中東に来た目的は後一つだな」


『一つ? 会議以外に何かあったの?』


「まあな。そろそろ来るはずだぜ」


屋上のドアが開く音がする。振り返った先にいるのは、アリエル・ロワソ。


亜紗が綺羅と朱雀を取り出した。でも、オレはそれを手で制する。


「ようやく来たか。ちょっと遅いんじゃないか?」


「こちらも用事があるのでね。ところで、君の要件は何かな? 黄昏時の25日について尋ねたいと書いていたが?」


「お前ならオレの話したいことが分かっているんだろ?」


アリエル・ロワソがフッと笑みを浮かべた。


黄昏時というのは夕暮れの時間帯。周囲が太陽の光によって真っ赤に照らされる。そして、25日。25日の中で世界で有名なイベントと言えば、


『『赤のクリスマス』』


亜紗が開いたスケッチブックにその文字が踊る。オレはそれを見て頷いていた。


「私怨かな?」


「今はそんな気分じゃない」


オレはレヴァンティンを鞘から抜き、横に投げつけた。レヴァンティンの刃が屋上に突き刺さる。


あくまでも攻撃しないという意志を込めて。


「まずはオレの推測から語らせてもらう」


オレは小さく息を吐いた。今まで調べた内容を統合し、アリエル・ロワソがどうして起こしたのかを言わせる。


向こうも分かっているはずだ。オレの条件が達成出来た時点で向こうも話だろう。


「まずは前提条件。お前はオレが生まれた時に誘拐し、生体兵器になるように改造した」


「それは推測ではなく事実では?」


「前提条件だ。どうして改造したのか。ここからが推測だ。アリエル・ロワソ、お前は世界の滅びについて知っていると仮定する」


ここからが本番だ。どこまでアリエル・ロワソの考えをなぞれるかどうか。


「世界を救うにはどうすればいいか。物語的には勇者を作ればいい。だけど、現実的な勇者はあらゆることを可能としなければならない。それこそ、万能オールラウンダーのように。オレを誘拐した理由がそれに当てはまるから。そして、改造を行い、奪還されてからは一つも手を出さなかった。それは、警備が厳しかった可能性も高いが、本当の理由は別のところにある」


オレはアリエル・ロワソの目を真っ直ぐ見つめた。


「『ES』の手でオレを育てるよりも、『GF』の手で育てた方が強くなるから」


『待って。だったら、『赤のクリスマス』はどう説明するの? あれは、周さんを狙った』


「アリエル・ロワソはニューヨークを狙うつもりがなかったとしたなら?」


オレの言葉に亜紗は驚いていた。


「もし、アリエル・ロワソがニューヨークのような壊滅的な被害を狙ったのだとしたら、どうしてニューヨークだけが焼け野原になったのか、今までそこが疑問だった。アリエル・ロワソが狙ったのは第76移動隊の下地だとしたら?」


『孝治や光みたいな人達を作り出すため』


「そう。『赤のクリスマス』は滅びに対する特効薬部隊を作り上げる下地だとしたら? ここにアル・アジフが入ってくる理由にもなる。今の第76移動隊は戦力過多だからな」


下手をすれば第一特務といい勝負が出来るくらいまで強くなっている。


そんなに強い部隊があったら不公平という話はあるが移動隊という特殊な部隊だから許されてもいる。


「移動隊という特殊な部隊は元はと言えば時雨が考えたものだ。第一特務よりも柔軟に行動が出来る部隊。一時期『GF』にいたお前なら知っているはずだ。だから、『赤のクリスマス』によって未来に活躍する子供達を『GF』に入るよう下地を作った」


『たとえ、そうだとしても、そんな理由で起こしたと考えているの?』


「結城家は音界と手を結び、圧倒的な機械の力で世界を制圧しようとした。真柴家は精霊と鬼の力で世界を掌握しようとした。対するアリエル・ロワソは『赤のクリスマス』によって戦いを行う人達を増やした」


これは事実だ。結城家と真柴家は自分達が主導でやろうとしたが、アリエル・ロワソが起こした『赤のクリスマス』は『GF』の戦力を底上げする結果となった。


第76移動隊だけじゃない。アルトやエリオット、リコも『赤のクリスマス』による被害者だと言ってもいい。


つまり、アリエル・ロワソは主導して世界を救うのではなく、全員の力で世界を救おうとしている。


「だが、最大の誤算がニューヨークだ。今までの推測から考えて、ニューヨークを狙うのは確実に間違っている。親父やお袋、『GF』の主戦力メンバーが数多く亡くなったからな。お前がそれを知っていなかったとは思えない。つまり、ニューヨークのテロはお前が主導したものじゃない。模倣犯か、部下の誰かがやったか」


「理由は?」


アリエル・ロワソがゆっくり口を開く。オレは小さく頷いた。


「楓を助けたからだ。生き残った中で楓が一番大怪我をしていた。早く治療しないと死にかけていたくらいに。だから、お前は楓を助けた。もし、ニューヨークを本当に焼け野原にするなら生き残りは残さないはずだ」


これが、ニューヨークの真実だと推測する。


「お前も新たな未来を求めて必死に行動した。違うか?」


アリエル・ロワソがフッと笑みを浮かべる。


それに対して、オレも小さく笑みを浮かべた。


「よく出来た推測だ。だが、それは推測にしかならない。『赤のクリスマス』を起こした理由としてはまだ甘いのではないかね?」


確かにアリエル・ロワソの言う通りだ。これだけじゃまだ甘い。まだ甘いからこそ、オレは最後の推測を言う。


「だったら、『赤のクリスマス』を起こした理由にもう一つあるとするなら?」


アリエル・ロワソが動きを止めた。それだけで十分だ。


「『赤のクリスマス』で狙われたのは基本的に先進国。狙われた発展途上国は少ない。これは何故か? 簡単だ。『赤のクリスマス』のもう一つの理由は文明を破壊するため。もちろん、すぐに復興出来るレベルだが、それによって世界の滅びを遅くしようとした。違うか?」


それがオレの推測の全てだ。『赤のクリスマス』がどうして起きたのか、今もっているカードを全て出した。


アリエル・ロワソがフッと表情を緩める。


「先に言っておく。私は『赤のクリスマス』について謝るつもりはない。私は私の信念に従って行ったのだから」


「分かっている。オレはそれでもいい」


「そうか。なら、言わせてもらおう。君が推測した内容は事実だ。どうやって情報を集めたかは気になるが、狭間市にいた以上、集まるのは必然か。『赤のクリスマス』は君の言った通りだ。今まで頑なに黙っていたのだが、まさか、君のような年端もいかない子供が正解するとはな。いやはや、さすがは神に見初められた存在だ」


「どういうことだ?」


神に見初められたって一体何のことだ?


「私が知る滅びの記憶の中に君はいた。だが、そこまで頭はよくなかったし、フュリアスを開発するような発想力もなかった。そして、そのような器用貧乏な一面も」


オレは黙って話を聞く。これはアリエル・ロワソしかわからない話だ。口出しはあまりしない方がいい。


「そして、性」


「それ以上は語らないでもらいたいね」


いつの間にか、オレとアリエル・ロワソの間に正の姿があった。その手に握られているのは一本のただの剣。


亜紗がオレの前に出る。レヴァンティンは遠い。


「アリエル・ロワソ。君はヒントを与えすぎた。僕は黙っていてくれた方が都合が良いのでね、ここで死んで」


『させない』


スケッチブックが舞った。


その文字が目に入るのと亜紗が正に向かって朱雀を振り切ったのは同時だった。


正の体がひるがえり、朱雀をギリギリて回避する。


「おや? 彼は君の仇だよ?」


亜紗は空に舞ったスケッチブックを掴み取った。


『アリエル・ロワソは私が倒す。これ以上はやらせない』


正の目が微かに細まった。見極めているのか。それとも、


「どうやら、僕が知る未来とは違ってきているみたいだ」


「どういうことだ?」


オレはいくつもの魔術をストックしながら尋ねた。全てが水属性の超広域状態異常技でもある。


「亜紗の持つ双子刀のことか? 確かに、私もその存在を知らない」


「面白いね。本当に面白いよ。未来が変わっていくのは。アリエル・ロワソ、周のことを話すなら僕は君を殺す。それでもいいなら話せばいい。僕は聞いた者全てを殺すだけだから」


まばたきをした瞬間、そこに正の姿は無かった。バラまいていた魔力にも異常がないため幻だったのかと思いたくなる。


「私は死にたくないので語らないでおこう。周、君に一つ、ヒントを与えよう」


「ヒント?」


アリエル・ロワソは頷いた。頷いてオレに背中を向ける。


「君の推測は正しい。正しいが、一つだけ君の言ったことには間違いがある。私の言葉を思い出して、本当の力を発揮したまえ」


推測は正しいが間違いがある? 意味がわからない。推測が正しいならどうして間違いがあると言うのだろうか。


亜紗が綺羅と朱雀を収める。オレもレヴァンティンを鞘に収めた。


『周さんはわかる?』


「わかるか。本当の力って何だよ」


核晶欠乏症として生まれたオレに一体何の力があるというのか。ともかく、


「アリエル・ロワソ!」


オレは声を上げていた。アリエル・ロワソがオレの方を振り向く。


「どんな理由があっても、お前は犯罪者だ。次に会う戦場では、絶対にお前を捕まえてやる!」


「楽しみにしているよ。二人の成長を」


アリエル・ロワソは屋上から建物の中に入っていった。


オレは小さく息を吐いてその場に座り込む。


『周さん、大丈夫?』


「大丈夫、と言いたいが」


心配して覗き込んでくる亜紗にオレは笑みを返した。でも、目尻に溜まる涙は堪えようがない。


想定していた通りになったけど、本来死ぬはずのなかった親父やお袋まで巻き込まれたことが悲しかった。オレや茜、中村や楓も。


みんな『赤のクリスマス』で未来が変わった。


「滅びを絶対に止めよう」


『うん。何をしても、何としても絶対に』


「それが、第二の『赤のクリスマス』を無くす最良の手段だ」


『赤のクリスマス』の真実を書きましたが、『赤のクリスマス』当時の話はこれからも出ます。特に周視点で。

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