第二十三話 到着
この話で第一章前半の主要な味方メンバーが出揃います。
夜が明けたばかりの朝。そんな狭間市の駅に五人の少女が降り立った。
「ようやく着いたね、みんな」
先頭にいた音姫が後ろの四人に話しかける。ちなみに二人ほどまだ眠そうだ。
四人の中でスケッチブックを抱えた少女がスケッチブックを開けた。
『周さんはどこにいるの?』
スケッチブックにはそう書かれている。
「亜紗ちゃん、気が早いよ。ここから少し歩かないといけないし」
少女はコクリと頷いた。
彼女が田中亜沙。殲滅姫の異名を持つ少女だ。ただ、見た目は可愛い女の子で姫には見えない。
「案内ぐらい寄越せばいいのに。孝治も海道も何してんねん」
大きな荷物を背負いつつ、光が小さくボヤいた。
「仕方ないよ。弟くん達は鬼と戦ったらしいから。白百合流の連撃を使ったって言ってたから、多分、弟くんが動けないと思う」
「どういうこたなん? 音姫?」
ちなみに中村よりも音姫の方が年上だが、中村はそんなこと関係なしに普通に話しかける。音姫も気にしない。
「白百合の連撃は体に負担が大きいの。私みたいに子供の頃から体を作ってきた人を別にして、弟くんみたいに一閃だけ習って他を応用して覚えた人は一週間くらい筋肉を痛めることがあるの。弟くんは素振りを欠かしていないから筋肉痛だと思うけど」
『白百合流は全てを真似出来ない。周さんはそれを練習していた。でも、筋肉痛ということは一閃から逆閃と連閃を使ったと思う』
スケッチブックが開いた瞬間にはそういう文字が描かれている。ちなみにこれも魔術だ。
音姫が小さく溜息をついた。
「弟くんは自分の腕を壊す気だったのかな?」
「そんなにすごい連撃なん?」
その言葉に頷いたのは由姫だった。
「はい。一閃で相手の防御を崩し、逆閃で飛び込んできた相手を切り裂いて、連閃で仕留める、一番強力な連撃です。ふわぁ、眠い」
「私も。ムニャムニャ」
由姫ともう一人は本当に眠そうだった。
「一番強力、ね。うちの焦土とどちらがすごいん?」
「光ちゃんのとは桁が違うから。光ちゃんは広域攻撃で、白百合流は単体攻撃。比べられないから」
『比べるものが間違っている』
「そやけど。うちと同じ戦い方でうちより強い人がいたらいいんやけどな。そうやったら、うちの異名が無くなるのに」
光の年齢であの異名は恥ずかしいだろう。ただ、それに恥じない戦い方は普通にするけど。
音姫はクスッと笑って狭間市の中央に視線を向けると、そこから二人がこっちに歩いて来るのがわかった。
一人は知っている顔だ。
『クロノス・ガイア?』
答えたのは亜紗だった。
リースはこちらに気づいたのか、てとてとと小走りでこっちに向かってくる。ちなみに後ろから追いかけるのは浩平だ。
そして、リースはそのまま亜紗に抱きついた。
「久しぶり」
『久しぶり。元気だった?』
「あれ? 亜紗ちゃんはクロちゃんと知り合い?」
リースは不機嫌そうな顔で頷いた。
「クロちゃんは止めて」
「いいじゃない。アルちゃんもアルちゃんだから」
音姫には相手が嫌がるこっは関係ないようだ。相手からすればかなり迷惑であるが。
「えっと、白百合音姫さんですよね。俺は佐野浩平。周達に変わって来たんですけど、四人じゃないんっすか?」
確かに音姫達の集団は五人だ。音姫、光、亜紗、由姫、そして、もう一人。
「あっ、うん。七葉ちゃん。悠聖君に届け物があるから一緒に来たみたい」
「届け物?」
「これだよ」
七葉はそう言うとお守りを取り出した。
「悠兄の大事なものだから。悠兄が忘れたことを見た瞬間驚いたね。冬華さんからのプレゼントを忘れるなんて」
「何! 悠聖の奴に女がいるのか! 羨ましい。本当に羨ましい。俺にはまだ」
道端で膝を抱えて泣き出した浩平の肩をリースはポンと叩く。
「私がいる」
その言葉に浩平は一瞬固まって、
「いや、あのですね。私にはそんなストレートな愛情表現は慣れていないって、お二人方はどうして武器を構えてられるのでしょうか」
音姫と亜紗の二人がいつの間にか取り出した刀を身につけて、同じ姿で抜刀の準備に入っている。
それはあまりにも怖かった。
「クロちゃんに何をしたのかな? 浩平君?」
亜紗はスケッチブックを開かない。手が離れるから。
「何もしてない。本当に何もしていない。リ、クロノス・ガイアの話を聞いただけでそれ以外のことは何も」
「浩平は優しかった」
リースはそう言いながら頬を染めた瞬間、浩平の体に糸が巻きついて拘束した。
「ちょwww」
糸を操っているのは七葉だ。持っている槍の先端がほどけて糸になっている。
正確には糸ではなく頸線と呼ぶ。
扱うものは少ないが、空間把握に長けたものならかなりの威力を発揮する武器だ。ただし、七葉の場合はカッコ良さそうだからと言って選んだ。
「ここはこの人を拘束しておけばいいんだよね」
「便乗すべきではないと思うんですけど」
「由姫、言ったらあかんで」
傍観しているのは由姫と光の二人だけ。むしろ、周囲の目を気にしているのが正しい。
「クロちゃんに何をしたか吐いてもらうからね」
音姫がゆっくり近づく。その顔は笑っているが目は笑っていないどころか怒っている。さらには体中からオーラも出ているような気もする。
亜紗はゆっくり音姫から離れた。
「あのですね、私はまだ何もしていないと」
「問答無用!」
音姫が刀を振り上げるのを見て浩平は小さくため息をつき、そして、ここに送った張本人を恨むことにした。
「周の野郎! 呪ってやる!」
この後、そのことについても音姫に言われる浩平だった。