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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第二百二十三話 白百合由姫

ルーチェ・ディエバイト、終わります。

白百合由姫は白百合家の絞りカスと言われていた。いや、言われ続けている。


剣技の天才が集まる白百合家において剣技の才が全くない由姫。そんな由姫を両親と姉以外の全員が絞りカスと呼んでいた。


力が欲しかった。絞りカスと呼ばれる誰をも黙らす力が。


その時の由姫はそう思っていた。だから、幼いながらも力をつけようとしていた。そして、由姫は出会った。


世界を拒絶していた当時の周と。






由姫は閉じていた目を開く。倒れそうになる体をギリギリでこらえて両足に力を込めた。


対するリコは近くの木に背中を預けて腹を押さえている。


由姫は思い出す。


そうだった。リコさんの攻撃にカウンターを入れたんだ。タイミングがずれて攻撃は直撃したけど。


意識を刈り取るような一撃。もし、『GF』のデバイスで無ければ今頃大怪我をしているだろう。それはリコも同じだ。由姫が『GF』のデバイスで無ければ腸をぶちまけていてもおかしくない。


由姫は目を瞑って息を整える。






由姫が周と出会った時、周は案の定、由姫を拒絶した。だけど、由姫は周を放っておけなかった。その時は理由がわからなかったが、今ならわかる。


由姫自身も世界から拒絶されたいと思っていたから。一人でいれば傷つかないですむと思っていたから。そして、周を守りたいと思ったから。


周が助けられたのと同時に由姫も助けられた。だけど、『GF』で実績を残し出した周と何もしない由姫では風当たりが大きく違った。


だから、由姫は力を手に入れようとした。でも、それは周囲を黙らすわけじゃない。周の隣にいるために。


多分、その頃には周に恋をしていたのだろう。






視界が揺れる。カウンターを外し、リコさんの攻撃が直撃したからだ。


ふらふらになる足をこらえてリコさんの服を激痛が走る右腕で捉える。リコさんの目は完全に驚愕していた。そして、その顔に左腕を叩き込む。


八陣八叉流なんて関係ない。純粋な殴り。


リコさんが大きく後ろに下がった。私も後ろに下がる。いや、体が後ろに下がり、背中が木に当たる。


私もリコさんもわかっていた。倒れた方が負ける。もう、私達には立ち上がる体力はない。






八陣八叉の門を叩いた由姫を最初に対応してくれたのが愛佳だった。


由姫が八陣八叉を習いたいと言うと由姫は笑って頷いた。そして、一つの疑問を尋ねてきた。


力だけが全てを解決するわけじゃない、と。


それを由姫は知っていた。周はどれかが特化した一芸特化型ではない。『GF』の子供の中では唯一の平均型と聞いている。そして、それが尋常じゃないくらいにおかしいことを。


平均型は『GF』で一番多いタイプ。でも、実力者は極端に少ない。一芸特化が求められやすいからだ。それは子供だって同じ。むしろ、子供の平均型は一般兵にも劣るはずなのに、周は第一線で活躍した。


力だけが全てじゃない。それは由姫も理解している。周がすごかったのは仲間。


だから、由姫は自信を持って答えた。


一人では戦えないから、と。


多分、愛佳は由姫に考え直して欲しかったのだろう。でも、由姫の答えはみんなで力を合わせれば解決出来ると言ったようなものだった。


一対多が得意という一人相撲に近い八陣八叉流の門を叩いて。






停止からの加速。そして、減速してまた加速した。さらに加速してくる。


由姫はすかさず後ろに下がった。だけど、それに追従するようにリコが追いかける。


地面を踏みしめ腰を落とす。力を入れて足を前に踏み出す。


リコは攻撃を察知して減速した。だが、由姫はそれを予想している。だから、さらに前に一歩を踏み出した。


リコが慌てて後ろに飛びながら両手を交差する。その間を縫うように由姫の左腕が突き刺さった。


リコが後ろに吹き飛ぶ。だけど、その体は倒れない。何とか体勢を戻して背中から木にぶつかる。


もう、どちらも満身創痍を通り越していた。戦えているのは負けたくないという思い。そして、意地。


由姫は左腕を握りしめる。


もう体力は少ない。体に蓄積したダメージが許容を大幅に超えているからだ。動けているのはおそらく里宮本家八陣八叉流の訓練をやっているからだろう。






由姫が八陣八叉流を習い始めて3ヶ月が過ぎた。その時にはベテランの門下生どころか師範代すらも倒せる時があるまで急激に力を蓄えていた。


そして、習い始めて3ヶ月がたったある日、由姫は愛佳に呼び出された。そして、里宮本家八陣八叉流を習うことが許されたのだ。


由姫は一気に力をつけた。だけど、里宮本家八陣八叉流は技の使い方と体力を鍛え上げることしかしなかった。


八陣八叉流ではやっていた模擬戦も里宮本家八陣八叉流ではほとんどしない。その理由を愛佳に尋ねると、


癖をつけないため、と答えられた。


その時にはわからなかったが、今ならわかる。今、由姫はリコのリズムを完全に捉えていた。


あらゆる武術でもそれをマスターした場合、どうしても戦い方に癖が現れる。それを愛佳は理解していたからこそ、模擬戦をほとんどしなかった。


由姫がいつか出る戦場であらゆる時に対応出来る力をつけるために。もし、里宮本家八陣八叉流特有の癖がついていた場合、由姫はリコに勝てないだろう。それくらいに相性は悪い。


由姫が覚えたのは技だけ。その技の積み重ねが由姫の力だった。


リコの体が加速した瞬間、由姫の体が動いた。右腕は使えないからこそ双剣を避けるように飛び上がり蹴りを放つ。


八陣流『旋風脚』


だが、リコはギリギリでそれを避けて由姫の背後に回り込もうとした。だが、それより早く由姫の着地した体が回転する。


リコの背中に嫌な感覚が走り抜けた。慌てて右の剣で受け流そうとする。だが、その剣を砕き、由姫の左腕が振り切られた。


左腕はリコの右肩をかすり、リコは大きく後ろに下がる。


「やっぱり、見つけられたか」


「攻撃する際に加速を二回行いますよね」


リコが左手の剣を構える。右肩は脱臼したのか全く動かしていなかった。


「あらら。八陣八叉流ならあたしが有利だなと思っていたんだけど」


もし、由姫が普通に八陣八叉流を習っていたなら今頃由姫は倒れているだろう。


「八陣八叉流にある癖。力を入れすぎるあまり緩急の差に極めて弱い、のはずが由姫には通用しないんだもん。あたしにとっては完全に予定外だよ」


「多分、愛佳師匠のおかげです。愛佳師匠に私は技を教えてもらいましたが、戦い方は教えてもらっていませんから」


「本当に? だったら、戦い方はもしかして」


「兄さんと姉さんからです」


由姫の言葉にリコは微かに目を見開いて、そして、呆れたように溜息をついた。


「はぁ、どうりで。周ちゃんや音姫から習ったなら、相手の戦い方を理解して臨機応変に対応する白百合の戦い方と、相手の弱点をひたすらにつく周ちゃんの戦い方が出来るわけだ」


この会話を聞いていた周がニヤリと笑みを浮かべたのは二人には分からない。


リコは片手で剣を握りしめた。


「もう、あたしは限界に近いよ。由姫は?」


「私もです。アルトさんもリコさんも強敵でしたから」


二人が身構える。どちらもボロボロでちゃんと真っ直ぐ立っていない。だけど、二人の目は諦めていなかった。


どっちから走り出したのだろうか。ほとんど同時に二人が走り出す。駆け引きの無い加速。全力を使った一撃を叩きつけようとしている。


由姫は左腕を振り上げ、リコは左手で抜刀のように腰に柄を当てている。そして、由姫は振り下ろした。リコは剣を振り上げた。


お互いの武器が弾かれ合い、


リコの右腕が動く。


これこそ最後の一撃。脱臼したかに見せた右腕を振り抜こうとして、リコの視界にあるものが入った。


由姫の右腕が振られている。


由姫も最後の一撃。振り抜いた左腕は弾かれ、体は安定していないが、それでも力は込められていた。


速度は同じ。動き出したタイミングも同じ。だから、二人の拳はお互いの鳩尾に突き刺さった。


二人が同時に膝をつく。そして、そのままうつ伏せに倒れた。


『し、し、試合終了! まさかの、まさかの同時優勝だ! 白百合選手とリコ選手の同時優勝! ルーチェ・ディエバイト史上初の出来事です』


『見事な戦いだった。今は二人の戦いに拍手をしておこう』


そんな声を聞きながら周は小さく溜息をついていた。ちなみに、周は亜沙と一緒に走っている。


「まさかの同時優勝とはな」


そう言いながらトトカルチョの用紙を握り潰す。同時優勝なんて前例がないからトトカルチョは完全に大荒れだろう。


多分、同時優勝に賭けた奴なんていないから、賭け金がどうなることか分からない。それを思いながら周がまた小さく溜息をつくと、亜沙が何かを取り出していた。


そこにあったのは一枚のトトカルチョ用紙。そこには、


優勝・・・白百合由姫&リコ・エンターク


と書かれてあった。


「まさかの総取り?」


周は顔をひきつらせながら頭が痛くなるのを感じた。


「同時優勝パーティー。お前の金な」


由姫はその言葉に対して満足そうに頷いた。


最初は由姫を優勝させるかさせないかを悩んだのですが、結局はこういうことに。所々に昔話が入ったのは由姫の意識が朦朧としているからです。

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