第二十二話 夜
今回は短めに。話というより幕間という感じです。
「アル」
風呂上がりのアル・アジフは借りている自分の部屋の中で小説を読もうとしたところ、部屋に入ってきたリースに話しかけられた。
アル・アジフは小説を机の上に置く。
「なんじゃ、リース。そなたから話しかけるとは珍しいの?」
「聞きたいことがあるこら」
リースはそう言うとアル・アジフの横に座った。
「恋ってどういう感情?」
その瞬間、アル・アジフの思考が完全に固まったことを自分で理解していた。
今までの経験から言って、リースが恋していたとは言い難い。いや、恋することをしようとしなかったと言ってもいい。そんなリースが恋について聞いてくるとは。
「リース、考え直すのじゃ。そなたは確実に間違っている」
「最初はそうだと思った。出会いから私はあまりのキモさに全力で蹴ったけど、鬼との戦いで少し見直した。でも、その人は行動と裏腹に暗い過去を持っているってわかった。だから、どうして笑っているのかと尋ねたら、自分らしく生きているからと言われた」
アル・アジフはこんなリースを始めて見た。一人でここまで長く話しているところもだが、頬を赤く染めてもじもじしながら言っている姿も。ただ、相手の姿を思い浮かべると相手を殺したくなってくる。
「私は、自分らしく、生きてみたい。どんなことが自分らしくかはわからないけど、そう思えたから」
「都、いるのじゃろ?」
「バレてました?」
アル・アジフが都の名前を呼ぶと、都は部屋のドアを開けて都が中に入ってきた。
「リースに教えたのはそなたじゃな」
「リースの感情は恋、とは断言出来ませんが、好意だと私は思っています。アル・アジフさんはリースの好意を止めようとしますか?」
「我はそんなことをするつもりはない。じゃが、相手が相手じゃ」
アル・アジフはそう言いながら魔術書をパラパラ捲る。
リースは小さく溜息をついた。
「私はもっと浩平と話したい。でも、恋というのがわからない。だから、教えて欲しい」
「都」
「私は恋というより好意が正しいと思います。周様の事は大好きで大好き大好きですが、今の周様に恋することは、周様の邪魔でしかありません。ですから、今はまだ恋に昇華させません」
アル・アジフは額に汗が流れるのがわかった。
都の考えがよくわからないからでもあるが、好意から恋に昇華させることを簡単に出来るように言われたからだ。
都は不思議そうに首を傾げた。
「アル・アジフさんはもしかして、恋を知らないのですか?」
「うっ、わ、悪かったの。我はまだ恋を知らぬ。これで満足か? 満足じゃろ」
「開き直らないでください。それに、まだ機会はあります。周様はどうでしょうか」
「そもそも、我は『ES』の幹部じゃ。いくら穏健派と言えど、『GF』のメンバーと恋になってはならぬ」
『ES』という組織においてアル・アジフの名前はかなり大きい。
周達が始めて会った時、名前を聞いてから穏健派と聞くまで身構えていたのはそれによるところが大きい。
『ES』と言えばアル・アジフとアリエル・ロワソの二人の幹部が有名であり、この二人が『ES』を動かしていると言われているくらいだ。
もちろん、その話はある意味事実である。
アル・アジフは穏健派代表。アリエル・ロワソは過激派代表だから。
「身分の立場は確かに難しい。でも、私は諦めない」
「大丈夫じゃ。そなたがもし、恋に落ちるようなことになっても、我が守る。しかし、リースが恋するとはの」
「確かにそうですね。最初にこの話をされた時はかなり驚きました。でも、リースがその話をする時は本当に恥ずかしそうで、初々しさが出てましたよ」
「恥ずかしい」
リースが顔を真っ赤にしながら二人に背中を向ける。
「アル・アジフさん、周様の明日のご予定は何かお聞きになられていますか?」
「掃除すると言っておったの。今日はもう疲れたらしい。軟弱者じゃ」
口ではそう言っているが、実際はアル・アジフはそう思っていない。
周達はまだ中学生になったばかりなのだ。それなのに朝早くから来て、そして、鬼と戦った。
疲れるのは当たり前だ。
「リースも都も早くねる方がいいぞ。明日は駐在所に向かうのじゃろ?」
「そうですね。アル・アジフさん、リース、お休みなさい」
都が深々と礼をして部屋から出て行く。
リースもすぐに立ち上がった。
「お休み」
「お休みじゃ」
リースが隣の部屋に向かう。
アル・アジフは小説を開いて続きを読むことにした。明日を楽しみにしながら。
次から白百合姉妹達が復帰します。名前だけ出ていた新キャラも登場です。