第二百十話 二人のエースパイロット
僕は戦闘機形態のエクスカリバーを着地させコクピットを開いた。アストラルソティスも同じようにコクピットを開き、下に下りてきている。
「ルーイ、大丈夫?」
「大丈夫だ。まさか、ここまでこっぴどくやられるとはな。僕にとっては完全な想定外だ」
そう言いながらもルーイはエクスカリバーを見つめていた。
アストラルソティスは両翼と両手に頭すら破壊された完全な大破。本格的な修理工事に送らなければどうにもならないだろう。
「まさか、ルーイが曲線射撃を使ってくるとは思わなかったよ。あれを避けるのはかなり苦労したしね」
「簡単に避けた奴が何を言う。エクスカリバーはどういう性能をしているかわからなくなった」
「エクスカリバーというより僕かな」
多分、ルーイにはわからないだろうけど説明をするだけしておかないと。
「当たりそうなところに嫌な予感がするんだ。それを使って嫌な予感のしないところにエクスカリバーを動かしていたら」
「全て避けたということか。理解しがたいな」
だと思った。この回避の仕方は鈴やリリーナに説明しても理解してくれない。勘での回避なんて駄目だと言われたくらいだ。周さんなら別のことを言いそうだけど。
でも、それは事実だ。勘だけの制御で、今までほとんど被弾していない。よほど気を抜かない限り。
すると、ルーイが深く考え込んだ。
「第六感というべきか。それがずば抜けて高いということか。やはり、信じられないが」
「うう、信じないなら信じなくていいよ。希望を植え付けないで」
そう僕が泣きそうになっているとフュリアスが飛ぶ飛翔音と地面を駆ける振動があった。
イグジストアストラルとマテリアルライザーだ。それがこっちに向かってくる。多分、モニターで戦闘の一部始終を見ていたのだろう。
岩影からマテリアルライザーが、空からイグジストアストラルが近くに着地しコクピットが開く。マテリアルライザーは開くコクピットがないためマテリアルライザー自体が消えた。
「お疲れ様」
鈴がそう言いながら僕の胸に飛び込んでくる。そして、胸をペタペタ触ってくる。
「何?」
その行為に僕は思わず尋ねていた。
「べ、別に何もないよ」
そう言いながらも鈴はペタペタ触り、満足したのか離れた。
「一体何が」
「悠人がちゃんといるか確認したかったんだろ? エクスカリバーの回避はマテリアルライザー並みだったし」
エクスカリバーの回避力は文字通り化け物だ。どうやったら乱戦の中で傷一つつかない戦闘が出来るかわからない。
周さんの技能もあるだろうけど、マテリアルライザー自体が桁違いということか。
「そうなの?」
僕は鈴に尋ねた。鈴は顔を真っ赤にして俯いている。
「ありがとう」
そう言って僕は鈴の頭を撫でた。心配してくれる人がいて良かった。
「あれ? アル・アジフさんは?」
「我はそなたの実力をよく知っておるからの。心配なぞしておらん」
「あれ~? 曲線射撃の時に『危ない』やら『避けて』やら叫んでいなかったか?」
アル・アジフさんの顔が真っ赤に染まり、動いた。回し蹴りが周さんを狙い、周さんがそれを受け止める。
「ほう。かなり動けるようにはなったみたいじゃな」
「リハビリを開始しているんでね。本調子まではまだまだ遠いけど」
「ならば、本気を出してよいの」
アル・アジフさんが魔術書を開く。周さんの額に汗が流れているように僕の額からも汗が流れていた。
久しぶりに、本当に久しぶりにアル・アジフさんがキレた。
この状況じゃ止められない。
アル・アジフさんが笑みを浮かべながら魔術を放とうとした瞬間、鞘に入った刀がアル・アジフさんの首に入った。
アル・アジフさんがその場に崩れ落ち、周さんが抱き留める。
「音姉、助かった」
そこにいたのは鞘に入った刀を持つ音姫さんと片手で抱かれているメリルの姿。
音姫さんはメリルを下ろした。
「駄目だよ。アルちゃんをからかったら」
「音姫だってよく抱きついているじゃないか」
それをアル・アジフさんは心底嫌がっている。
「大丈夫大丈夫。私にアルちゃんは勝てないから」
「納得」
それで納得するんだ。
「ルーイ、お疲れ様です」
「申し訳ございません」
ルーイがその場に膝をついて頭を下げた。多分、アストラルソティスのことだろう。
「歌姫様から授かったアストラルソティスを」
「ルーイ、この場に音界の目はありません」
そう言いながら僕達を見ながらメリルがウインクしてくる。多分、黙っておけということかな。
「わかった。メリル、すまない。負けた」
「ルーイは何も悪くありませんよ。人界のエクスカリバーとパイロットが上回っただけのこと。悠人」
僕の名前が呼ばれ、体をビクッとさせながら直立した瞬間、メリルが僕に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。あなたの実力を疑って」
「あ、謝らなくていいよ。第三世代で第七世代の実力を出せるなんて普通は信じれないし」
「だとしても、いえ、だからこそ、謝ります。ごめんなさい。そ、それと」
メリルが少し顔を赤らめながら僕を見てくる。
「と、友達になってくれませんか? あなたのことをもう少し知りたいというか」
その瞬間、周囲の時が止まった。誰も、メリル以外身動きしない。そして、最初に動いたのはルーイだった。
「悠人! メリルに何をした!」
「何もしてないよ!」
胸ぐらを掴まれて顔を近づけてくる。僕は慌てて弁解した。
「る、ルーイ。悠人は何も」
「メリルは黙ってて。これは僕と悠人の会話だ」
メリルは音界の歌姫なのにいいかな?
「海道周! どうにかしなさい!」
ルーイの言う言葉を全力で右から左に聞き流し、聞こえないようにしながら周さんに助けを求める。周さんなら必ず、
「二人のエースパイロットによる歌姫の取り合いか。面白いな」
「海道周!」
メリルが叫ぶ。対するルーイは掴み上げる力を強めた。
「悠人! 聞いているのか!」
「聞いていないよ!」
僕は思わず本音を返してしまった。ルーイのこめかみがひくつく。
ヤバい。
「誰か助けてー!」
その言葉は虚しく大空に響き渡った。
次からはルーチェ・ディエバイトです。すぐに入るわけではありませんが。由姫が大暴れします。リコやアルトの活躍も見てください。