第二十話 アル・アジフ
よく考えると、作中時間がまだ三日しか経っていない。時間を進めたいけど話す内容が多いからですね。
「こんなところでいいじゃろ」
アル・アジフは唐突に止まった。
オレ達が立ち止まったのはさっきの広場から歩いて三分ほどの場所にある空き地だ。
オレは小さく溜息をついた。
「あの場所から離れて大丈夫か?」
「クロノス・ガイアの術式はこの世界に相手がいる限り通じるものじゃ。じゃから、当分は安泰ということになるの」
アル・アジフと同レベルというクロノス・ガイアならそういうことは出来そうだ。
オレは本題について尋ねることにした。
「聞きたいことはわかっている。こいつだろ?」
オレはポケットからレヴァンティンを取り出した。見た目は普通のデバイスと同じだから違っていたとしても言い訳が聞く。
「そうじゃ。我はそなたが持つレヴァンティンについて尋ねたい。それをどこで手に入れたのじゃ?」
「とある遺跡だ。まあ、世界的に有名な場所」
「アルタミラか」
アルタミラ。
その地名はオーバーテクノロジーの集積地としてかなりの知名度を誇る。
発掘される遺跡のほとんどが今の技術では作ることの出来ないコンクリートなるもので出来上がっており、その中には鉄の棒が入っていたりする。
その中で発掘される技術は今の技術を遥かに上回るほとだ。
『GF』でも時雨の前の総長が総長を止めて解析を手伝うほど重要性がかなり高い。
「レヴァンティンはその中で調査されていなかった遺跡の中から見つけた。まあ、地下にあった場所だけどな」
アルタミラは地上部分と地下部分に分かれている。そもそも、地形が円を描くように二重構造になっているのだ。
オレが調べた限り、元々は地上と地下の二つがあり、何らかの攻撃で中心がえぐり取られたと考えている。
「ふむ、そこにあったのか」
アル・アジフは小さく呟いた。
「我もレヴァンティンを探しておっての、崩落危険地帯を除いて網羅したはずじゃが」
「オレ達はその崩落危険地帯に入っていたからな。捕獲すべき相手がそこに入ったから」
「その最中に見つけ出したというわけか。しかし、レヴァンティンがそなたに応じるとはの」
『あなたこそ、まさか表に出ているとは思ってもいませんでしたよ』
売り言葉に買い言葉なのか、アル・アジフの言葉にレヴァンティンが答えた。
アル・アジフが驚かないということは、レヴァンティンが話すことを知っていたというわけか。
『自動書記型魔術書アル・アジフ。名前の由来はネクロノミコンの原典から。全ての魔術書の原典となる意味を込めて。私の知るあなたは表に出てくることはなかった』
「緊急事態じゃからな。そうしなければ我も彼女も死んでいた」
「お前らは何の話をしているんだ?」
全く何を言っているのかわからない。わかったのがアル・アジフが魔術書の原典になるように作られたことくらいだ。
アル・アジフが小さく溜息をつく。
「レヴァンティン、そなた、周をマスターに選んだか」
『はい。マスターの目標に私の力は必要ですから。それにしても、私がいることによく気づきましたね』
「鬼の攻撃を相殺したじゃろ。まさか、レヴァンティンを持っているとは見るまで想像すらしなかったぞ」
あの鬼が放った魔力が消え去った時、オレはレヴァンティンの力を使っていた。
レヴァンティンというデバイスから空気中にある魔力の流れを一瞬で感知し、魔力が一切通らない空間を作り出す能力。
それがレヴァンティンの持つ力の一つ『相殺』だ。
こつはあるものの、上手く使えばかなり有効な能力となる。ただし、そこに魔術がぶつかれば魔力が分散し魔術は減衰するが、それだけでは消し去ることが出来ず、同じように空間を作り出さないといけない。
おかげで、使用する魔力=対象の魔力という公式が成り立つため、複数人が同時に戦っている最中に使えば簡単に魔力が枯渇する。
「本当なら、レヴァンティンを回収するところじゃが、そなたなら上手く扱えそうじゃな」
「回収って、アル・アジフは何か集めているのか?」
オレの言葉にアル・アジフははっきりと、そして、真剣な表情で頷いていた。
「この世に存在するオーバーテクノロジーの中で最高峰に存在する六つの武器を我は集めておる」
「六つの武器?」
「そうじゃ。我、アル・アジフ。そなたのレヴァンティン。他に、隼丸、デュランダル、運命、七天。その六つじゃ」
「漢字が多いな。しかも、デュランダルって聖剣の名前じゃなかったっけ?」
六つの内半分が日本産ということを考えると、どうしてアルタミラにオーバーテクノロジーが集まっているのか不思議になるな。
「この中でそなたのレヴァンティンとデュランダルは特別じゃからな。我からは話さぬ。レヴァンティンに聞くがよい」
『ちなみに私は答えません』
その答えはわかっていました。
「それにしても、アル・アジフもオーバーテクノロジーなんだな」
「我は魔術書の原典じゃからな。あらゆる魔術を自動書記するもの。一度見た魔術なら条件が無い限り使用可能じゃ。それだけでも十分オーバーテクノロジーじゃろ」
確かに、その能力は極めて凶悪だ。頑張って作り出した魔術が一度放つだけで簡単にコピーされるなんて悪夢以外の何者でもない。
「我は六つの武器を集め、来るべき戦いまで所持する。そう決めておるのじゃ。じゃが、レヴァンティンはそなたが持つべき力。我は諦めた」
「何か手伝えることはあるか?」
「大丈夫じゃ。我は悠久の時を生きる物。一人で十分」
「聞く限りだと、お前やレヴァンティン級のオーバーテクノロジーなんだろ。だったら早く集めた方がいい。だから、手伝うぜ」
オレの言葉にキョトンとしたアル・アジフだが、すぐに小さく笑って、
「おかしな奴じゃな」
「よく言われるよ」
オレも笑みを浮かべた。