第百九十五話 映像
鮮血。
「ひっ」
レヴァンティンが自らを映写機としてスクリーンに映した映像にはその光景が真っ先に映っていた。
都が小さな声を上げるがオレ達は上げない。戦いでは、特に魔界との戦いでこんな光景は見慣れている。
そう思えたのは次の瞬間までだった。
「なっ」
「ひっ」
オレと音姉の声が重なる。孝治も声には出していないが完全に動揺していた。
スクリーンに映った光景を簡単に言うなら真っ赤。ただし、血の色だ。しかも、ただ赤いだけじゃない。
頭が千切れ、腕がひしゃげ、心臓はえぐり取られ、腸はぶちまけられ、足があらぬ方向に向いている。
もし、それが一体だけだったならいいだろう。それならオレや孝治は見たことがある。だが、そこに映っていたのは一人じゃない。
老若男女関係なく、全てが苦悶の表情を浮かべたまま散らばっている。
五体満足の死体などない。全てが破壊されている。ひしゃげているのはまだ軽い方だ。中には握り潰されたようなものや、千切られたものがある。
千切られたものにしても力任せに千切られたものから噛み切られたものまで。腸も腹の中に散らばっているならまだ軽い方だ。誰のものかわからない腸が周囲に散らばっている。
あまつさえ、顔はさらに酷い。共通しているのは胴体から全てが切り離されている。踏み潰されたり、噛み千切られたり、くり抜かれたり。
共通しているのはやはり苦悶の表情。おそらく、生きたまま五体を潰されていったに違いない。さもなくば、こんな死体なんて生まれない。
都はオレの手を握ったまま震えている。仕方のない光景だ。そんなに大量の死体が周囲に散らばっているなか、動物が集まってきているからだ。もちろん、蠅や蛆なども。
はっきり言うなら正視出来る人がいるとは思えない。こんな光景はほとんど見ない。もし、臭いもわかったなら今頃オレはこの場で吐いていただろう。はっきり言って、少しだが冷静にいる今がかなり不思議なくらいだ。
画面が動く。この光景を映している人は一体どういう感情で映しているのだろうか。
まるで、小高い丘に登っているのか。画面が頂点に立ち、空を見上げる。そこに映っているのは真っ赤な空。夕焼けなんかじゃない。決して夕焼けなんかじゃない。
何故なら、夕焼けのような優しい赤じゃない。
そして、画面が動く。見えた光景は都市全てを呑み込む炎。周囲にも動く。都市だけじゃない。山も燃えている。
都市に向かって画面が拡大される。見えてきたのは燃えているもの。それを理解した瞬間、都がうずくまるのがわかった。
人だ。真っ黒にりなりかけた人が道路の上でたくさん燃えている。こんなに酷い光景は見たことがない。よく似た光景ならあるが。
その中で動いているものが三つあった。一つは赤い服を着た青年。もう一つは黒い何か。何かまではわからないが、この青年と黒い何かは共に戦っていた。
黒い何かより巨大な黒い何かと。
ぞくり、と背中が凍る。それは、嫌な予感を感じる時、しかも、最も最悪な時、フィネーマを失ったあの時のような逃れることが不可能に近い状況と同じだった。
今までこんなことは戦闘中以外にはならない。でも、そうなるということは、あれは一体なんなんだ?
映像が途切れる。ようやく終わったものだと思った瞬間、新たな映像が現れた。そこに映っていたのは空飛ぶ山。
まるで、禍々しいまでの山。
そして、映像が途切れた。
オレも孝治も音姉も無言だ。都はオレの手をしっかり握りしめたまま何も言わない。
最初の光景。周囲に散らばる死体。画面から見た限り、死体がない場所なんてなかった。よくよく考えてみると、服装がまちまちだったため一般人だろう。
最後の光景。一体何の意味があったのだろうか。
「レヴァンティン、今のはなんだ?」
レヴァンティンなら知っている。そういう直感があった。
『今のはおそらくですが魔科学時代の光景です。最後の浮遊山。あれは滅びの存在。私達は別の名前で読んでいましたが、それに関してはマスターも知っていますよね?』
「ああ。『Destroyer』だろ。アルから聞いた世界を滅ぼした存在。それが?」
『はい。あの山は魔科学時代が総戦力で挑んだ最終決戦の地です。私もこの場にいましたから』
レヴァンティンが作られた理由は災厄の敵と戦うためだろう。だから、最終決戦の地に参加した。
でも、最初の映像は一体、
『あれはアルタミラです。私も噂でしか聞いたことがないのですが、『Destroyer』が最初に狙った土地がアルタミラで。そこでは膨大な数の死者が民間人から出たそうです』
「数は?」
画面から見る限り何百万だろうな。
『2500万人』
「ちょっと待て。今の総人口で言う1%が死んだって言うのか? それは」
否定しようと思っても否定出来なかった。
画面一杯に散らばる死体。大地が見えたことがない。まるで、隙間なく敷き詰められた死体。そして、燃え盛る都市で息絶えた人達。
もし、範囲がさらに広かったなら? もし、あの周囲にも都市があったなら?
「『Destroyer』ね。破壊者とはよく言ったものだよ。最悪だ。最低を通り越して最悪だ」
魔科学時代の戦力ですらあんな大虐殺が起きたと考えていいだろう。だったら、今の時代で何が出来る。
これを知っていたなら、世界が動く理由がわかる。誰もが切羽詰まっているのだろう。
「あれが狭間の鬼なのですね。狭間にあのような力があったなら」
「ああ。完全復活でもされていたならオレ達は死んでいただろうな。多分、狭間市ごと消滅していた」
「こいつが完全復活する時が滅びの時というのか?」
オレは孝治の言葉に頷いた。オレはそう思っている。だが、孝治は首を横に振る。
「違うな。周、お前は大事なことを忘れている」
「大事なこと?」
いつもとは逆の立場にいる孝治が頷く。
「貴族派は狭間の鬼の力を得ようとした。復活する危険性も考えてだ。だが、力の魅力が勝ったのだろう。この意味がお前ならわかるな」
その言葉にオレは苦々しい顔で頷いていた。
そう言えばそうだった。それが正しいなら狭間の鬼=滅びを起こす存在ではない。よくよく考えてみるとそうだ。
「なら、一体何なのか。調べる必要があるな」
オレは抜き出していた本の山を見た。ここには何かがあるかもしれない。だが、ないかもしれない。
今はただ、一心不乱に探すしかない。
「滅びが何なのか。滅びに対してどうすればいいのか。そして」
チップが何のために残されたのか考えなければいけない。自分が目指す目標のために。