第百九十四話 探し物
都築本家にある書庫。その中に、オレ、孝治、音姉、都の四人はいた。悠聖達は駐在所に待機してもらっている。そもそも、他のメンバーだったら見逃す可能性が高い。
だから、オレ達は四人だけで来ていた。
家主でもあり市長の都築春夫がオレ達を通す時に浮かべていた笑みはかなり気にはなっているが、今は気にせずに探している。
「それにしても、すんなり来れたな」
孝治が本を手に取りパラパラ捲って元の場所に戻す。オレも同じようにパラパラ捲りながら答える。
「そうだよな。心配だ」
ここに来るまで都築春夫に拒否されると思っていたのだが、都築春夫はオレ達を止めることなくこの書庫まで案内してくれた。
気持ち悪いくらい丁寧に。
まあ、膨大な本の量に焦ったけど。
「まあ、見つかるはずがないと高を括っているかわからないけど」
これなら納得は出来る。
オレは小さく溜息をついた読み終わった本を元の場所に戻した。
「魔術さえ使えればな」
「お前は日常生活に魔術を応用するからな。俺には出来ん」
「時々魔術を使ってスルメを作っているお前には言われたくないな」
どっちもどっちなんですけどね。
オレは小さく溜息をつきながら本を開き、捲り、閉じる。これをひたすら繰り返す。単純な作業ばかりは本当に疲れる。
「昔話ばっかりだな」
「ああ。童話というべき内容が多い。材質的に考えてかなり昔に作られたものだな」
「ああ。下手をすればオーバーテクノロジークラス。肌触りからおかしいしな」
鬼に関する内容にかすったものがあったのでオレはそれを近くにあった机の上に置いた。そして、新たな本を手に取る。
オレはまた溜息をついて本を戻す。
「いつになったら終わると思う?」
「このペースだと今日中か?」
孝治が周囲を見渡しながら言う。下手すれば一万冊に届きそうなんだけど。
「それは難しいだろうな」
捲りながらページを見つつ、関係のありそうな内容を探していく。見つかったなら机の上に置く。
「全員がオレ達みたいな速度じゃないだろ?」
「弟くんが早すぎるだけだからね!」
音姉の言葉にオレは苦笑した。
オレの読む速度は、本を取り、ページをパラパラ捲り、本を戻すことをするから、一冊約二秒から三秒だ。
音姉が一冊読み終わる前に横一列が終わりそうな速度。ちなみに、都はどこに何が入っているかわかっているのか端のほうで選定していた。
「それにしても、色々話があるんだな」
本の内容をしっかり読む限り、狭間の鬼の内容はほとんどがお伽話みたいな感じしかない。
お伽話と言っても童話みたいな感じでもある。
それが大半。後は経済の本。ただし、明らかにこの時代のものじゃない。
「世界が滅んだ、にしてはたくさんあるよな」
「ああ。周、これを見ろ」
オレは孝治が差し出した本の内容を見た。
そこに書かれているのは日本の輸入についてのグラフだ。そこに書かれている文字を見てオレは微かに目を見開く。
「石油、に鉄。石油って確か、魔科学時代に使用されていた燃料だよな? 魔力鉱石よりも燃費がいい」
「ああ。お前が開発する出力エンジンよりも遥かに強力な出力が出せるものだったはずだ。それが書かれているってことは」
「魔科学時代の書物ってわけか。コレクターの間じゃ5000万ほどで売買されるものだよな。でも、魔科学時代含めて三回滅んでいるのにどうしてこんなに残っているんだ?」
魔科学時代の書物は数が少なく希少である。だからこそ、コレクターが集めたくなるのだ。
しかし、ここにはおそらく山のようにある。一体、どうして。
この部屋はさほど頑丈には見えないから、シェルターのような場所にあったのだろうか。はたまた、ただ逃れただけなのか。
「どうすればこれだけの蔵書を守ることが出来る? 三度の文明崩壊が起きたなら、普通は不可能なはずなんじゃ」
「それには賛成だ。だが、俺にはわからない。周でも無理か?」
オレは首を横に振った。そんなに簡単に思いついたなら苦労しない。
オレは小さく溜息をついてレヴァンティンを見る。
「レヴァンティンはどうだ?」
『私は魔科学時代と今の時代の間ではアルタミラで眠っていただけですよ。その間にアルタミラ内で一度使用されましたが、それ以外は動いていません』
つまり、レヴァンティンは知らないというのか。知っているとするならアルだろうな。アルなら確実に知っている。
あいつはだてに長生きはしていない。
「はあ。わからないか。まあ、仕方ないけど。今は蔵書を調べておこう。さっさと終わればいいけど」
その後、オレ達の捜索は続いた。時間で言うなら大体夕方の六時というところだろうか。
だんだん夜が近づいている。それはオレ達の帰る時間も意味していた。
「こんなけか」
オレは山積みにされた本の中から一冊を取り出し中の内容を読む。確かに狭間についての話があった。ただ、狭間の鬼がいるという話はないようだ。
「これだけじゃ何もわからないな」
ハズレだったものを脇にどける。そして、小さく溜息をつきながら他の本を手に取った。
「これだけの数を今日一日で詳しく調べるのですか?」
「いや、今は当たりと外れだけだ。まあ、当たっているものはなさそうだけどな」
オレがそう言った瞬間、オレは手を止めた。開いた本の隙間から紙が落ちたのだ。ページだと思うけど。
オレはそれを拾い上げる。そして、触った感触が微妙に違うのがわかった。
「なんだろ」
オレはその紙をよく見てみる。すると、見開きのように微妙に開いている部分があった。そこに何かが入っている。
オレはそれを取り出す。中に入っていたのは一枚の紙と、そこに張られた極薄極小のチップだった。
「小さいですね」
都がチップを見ながら感嘆の声を上げる。
オレはレヴァンティンを取り出した。
「やっぱりか?」
『はい。魔科学時代の産物です。しかも、アルタミラで使われていたものですね』
その言葉に孝治は微かに目を見開いた。
「アルタミラということはこれもオーバーテクノロジーの産物か。周。お前はどうやって調べるつもりだ?」
「さあな。こんな極小のチップを読み込めるものが存在するわけが」
『この程度なら可能ですよ』
「・・・・・・」
オレは完全に言葉を失っていた。まさか、そんなことを言われるとは。
そう言えば、こいつもオーバーテクノロジーの塊だったよな。
「なら頼む。映像だったなら映写機でも」
『その程度も可能ですが?』
「お前はどこまで万能なんだ?」
オレはレヴァンティンにチップを差し込んだ。見たことのない隙間があったので差し込んでみたのだが正解だったみたいだ。
チップの内容を読みとるには例えデバイスを大量に使った集積デバイスでも時間がかかる。今は他の資料でも、
『ふむふむ。マスター。女性の方、特に都さんは退出してもらってもよろしいですか?』
「そっち方面か」
女性の方の退出をお願いするということは正視に耐えないくらい極悪なグロい画像だろう。そういう時はよく女性の方には退出してもらっている。後は見慣れていない人にも。
もし見たなら、悲鳴を上げて時には泣き叫ぶか、その場で吐くか気絶するか。その程度ならまだいいが、精神病を患う可能性だってある。
オレや孝治に言わないのはさらに極悪な状況を知っているからだろう。
「都、ちょっと退出を」
「見ます」
都がオレの手を握ってくる。
「確かめたいのです。誰が何のためにどのような理由でそのチップを残したのかを」
「最悪、心が狂うぞ?」
実際、ニューヨークで生き残った人の内、一人は完全に狂って今でも精神病を扱う隔離施設な中だ。
オレもどこか心が壊れた。
「覚悟の上です。でも、もし、心が狂ったとしても、周様が助けてください」
オレは小さく溜息をついた。そこまで言うなら仕方ない。
「レヴァンティン、頼む」
『わかりました。覚悟して見てください』
次回、凄まじい内容になります。