第百九十三話 精霊召喚師
いつの間にやら二百話目になりました。四月に終わりたいとほざいていた昔が懐かしいです。第一章は五月には終わらしたいですが。
「我は求める。そなたとの契約を。我は求める。そなたの力を借りることを。我は求める。我が命ある限り、そなたと共にいることを」
複雑に書かれた魔術陣。いや、召喚陣。その上で俊也とフィンブルドがいる。その様子をオレは離れたところで見ていた。
隣にアルネウラと優月を連れて。
『いいんだな。正式な契約をして』
「うん。僕はお師匠様みたいに精霊と共にいたい。そして、僕が守りたいんだ。僕みたいな人を」
『わかったよ。我、フィンブルド。我が召喚主名山俊也の言葉に従い契約する』
召喚陣の色が変わる。契約が為された時に色自体がフィンブルドの持つ魔力の色によって変わるからだ。その色は緑。
オレは拍手をしながら二人に近づいた。
「成功だな」
「はい。フィンブルド、これからもよろしくね」
『ああ。俺はお前が心配だから契約してやったけど、他の奴らは一筋縄じゃいかないぜ』
『あれ? フィンブルドってもしかして照れてる?』
アルネウラの言葉にフィンブルドはアルネウラを睨みつけた。アルネウラがオレの後ろに隠れる。
オレは小さく溜息をつきながらフィンブルドを見た。
「俊也のことを頼むな。オレはこれからしばらく忙しくなるから夏休みになるまでは俊也についていられない。だから、色々なことをシンクロ出来るお前が教えてやれよ。後、シンクロも」
『わかってる。俊也はまだまだ精霊召喚師としてはひよっこだ。今からバシバシ鍛えてやるし』
「お願い、フィンブルド」
俊也はフィンブルドに任せばいいだろう。
アルネウラやエルフィンから聞いている限り、フィンブルドはぶっきらぼうだが、面倒見がかなりいいらしい。
だから、俊也と契約をした。まあ、風属性は魔術の中でもかなり強いから身の安全は保証されるだろう。
『アルネウラのマスター。一つだけ言っていいか?』
「急になんだ?」
フィンブルドが真剣な表情でオレの目を真っ直ぐ見ながら言う。
『精霊の秘密を話してもいいぜ』
「急に何を」
『俺は真剣だ。俺達はお前が話すことを認めている。悩んでいるんだろ?』
精霊界にある預言者の話。それをオレはアルネウラから事細かく聞いていた。だから、預言者の中身がどれだけ危険か知っている。
知っているからこそ話せない。アルネウラや優月も話していいと言っていたけど、オレは未だに踏ん切りがついていなかった。
「悩んでいるさ。オレが聞いたのはある意味核心だ。だから、話せない。いや、話さないのが間違いかな」
多分、オレの持っている情報を与えたなら周は気づくだろう。あいつはオレ達の中でも頭の回転が早い。
本当に断片だけだけど気づくに違いない。だから、オレはまだ話さない。
「明日、だな。明日、周と一緒にちょっと出かけるからな。狭間の鬼のことを。そこで答えが見つからなかったら」
『それならいい。ただ、精霊界はお前を指示しているってことだ』
「フィンブルドって優しいね」
俊也の言葉にフィンブルドは微かに頬を赤くしてそっぽを向いた。それを見ているアルネウラはクスクス笑っている。
「お師匠様はすごいですね。精霊みんなから好かれているなんて」
「お前が精霊を大事にすれば、精霊は必ず答えてくれるさ」
それがオレなのだから。
オレは昔から少し特殊な精霊召喚師と呼ばれていた。精霊をたくさん召喚出来るのもだけど、戦場では全く無理をさせず精霊を様子見に行かせろと言った上司に真っ向から反抗したから。
精霊というのは戦場の道具と言われていた当時でオレのやることはかなり特殊だったからだ。
もしかしたら、オレや七葉の環境がこうしたのかもしれないな。
「悠聖みたいに頑張れば俊也だってきっと出来るよ。悠聖は普通のことをしていたから。確かに、悠聖は特殊だと思うよ。でも、そんな悠聖だから私やアルネウラは悠聖を好きになった。そして、私は悠聖の精霊として隣にいたいと思った。女の子としても」
優月が今までのことを思い出すように言う。
オレが悠聖と出会い、精霊としてではなく普通の少女として扱った。それはフィネーマやアルネウラと同じように。
そして、オレは優月を取り戻すために戦った。それは優月からすればオレが白馬の王子様に見えただろうな。
「あ、ありがとう。僕、頑張るから。お師匠様はこれから何か用事がありますか?」
「ちょっと待ってくれ」
オレはスケジュール帳を取り出した。何か用事があったような気がする。
今日の日付には何もないが、明後日の日付に何かあったはず。
「あった。使役精霊の表を再更新するためにいろいろしなくちゃ駄目だな。悪い。また、な」
「はい。フィンブルド、次にお師匠様から教えてもらうまでにレベルアップしよう」
『簡単にレベルアップはできねえよ。まあ、アルネウラごときには負けたくないな』
『むかっ。べぇー、だ』
俊也とフィンブルドの二人が向こうに歩いていく。姿が見えなくなるまでオレ達はずっとその場にいた。ちなみに、アルネウラはずっと舌を出している。
オレは小さく溜息をついた。
「面倒だな」
『精霊の表のこと?』
オレは頷く。あれはあれで面倒だからな。
だけど、あれをしなければオレがアルネウラ達を使えば冗談抜きで捕まる。それが世界に通用する法の一つだから。
違法な精霊召喚師を捕まえるために作られたものだけど、あれは精霊を道具として見ているとしか思えない。
「悠聖、私のせい?」
「オレはお前が大切だから契約をしたんだ。だから気にするな。システムとしては悪くないさ。でも、オレはあれが好きじゃないからな」
「ごめんなさい。私のせいで」
オレはこつんと悠聖の頭に拳を軽く落とした。そして、手のひらで優月の頭を撫でてやる。
「違うさ。だから、もう言うな。精霊召喚師は自分の精霊達を申告するのが義務だからな。でも、いつかオレはそれを撤廃したい。精霊召喚師にとって精霊は道具じゃない人だってたくさんいる。だから、オレは」
空を見上げ笑みを浮かべる。
「精霊召喚師として誇りを持ち、周達の理想を叶えながら、いつか精霊と共に暮らせる日常を作りたい。それが、オレだ」
『悠聖ならきっと出来るよ』
アルネウラがオレに飛びついてきた。そして、オレの頬にキスしてくる。
『悠聖は最強にして最高の精霊召喚師なんだから』
悠聖個人の夢を書いて見ました。悠聖は自分の中ではかなり好きなキャラです。精霊や味方がいなければ逃げ回ることしか出来ないので。