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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第百八十八話 未来(かこ)

未来と書いてかこと読みます。

駐在所会議室。厳重に結界が張り巡らされ、あらゆる盗聴器や盗聴魔術ですら会議室の中の微かな振動さえ聞くことが不可能にされた場所に七葉を除く第76移動隊のメンバー(都を含む)にアル。そして、エレノアにベリエとアリエ。さらにはルーイまでいる。


ちなみに、楓と冬華はいない。今は過激派の方に戻っている。


決して会議室は小さくないのだが、あまりの人数な上に悠聖がディアボルガやセイバー・ルカを召喚しているためさらに小さくなっている。


「みんな揃ったな」


オレは周囲を見渡して全員がいることを確認してからアル・アジフに話しかけた。


「アルに尋ねたいことがあるけど、その前にオレから色々と言わせて欲しい。今回の事件、『狭間戦役』。時雨達は全て一つの事件と見た。それはオレも同じだ」


この『狭間戦役』には共通のことがある。それを知っていれば一つにくくりやすい。


「最初の事件。魔界の貴族派が起こした事件だが、あれは世界を救うために狭間の鬼の力を得ること。そして、結城・真柴が起こした事件。結城家の方はイグジストアストラル、マテリアルライザーの二つを集め、滅びから救う世界を構築すること。真柴家の方は精霊王の娘と都の力を集め、世界を滅びから救うこと」


三つの事件は戦っている相手や規模が全く違う。違うのだが、共通していることが一つだけある。


「それを踏まえてアルに尋ねたい。世界は未来のために動いている。でも、その未来はあたかもすぐにやって来るような滅びに対してだ。これから何が起きる? いや、何が起きたんだ?」


多分、アルなら知っているはずだ。レヴァンティンを知るアルなら確実に何かを知っている。


アルは小さく頷いた。


「そうじゃな。そなたらは知る権利がある。過去に何が起きたか」


アルは目を瞑った。おそらく、言う内容をまとめているのだろう。


「世界は四回、文明が滅びたことがある。最初は科学時代。この頃のことは我は詳しく知らぬが、今よりも遥かに高度な文明じゃった。もちろん、戦闘能力も」


つまり、それが滅びたということは一大事以外の何物でもない。それを滅ぼしたのが前に話した『Destroyer』だろう。


そうなると、世界が躍起になる理由もわかる。


「続いて魔科学時代。我が生まれた時代じゃ」


その言葉に事情を知らなかったであろうエレノア達が驚いている。オレ達すでに全員に言ってあるから驚かないけど。


「鈴の乗るイグジストアストラル。エリシアのマテリアルライザー。我が魔術書アル・アジフ。周の持つレヴァンティン。孝治の運命。全てが魔科学時代に作られたものじゃ」


地味にオレの秘密を言われているし。しかも、孝治も持っていたんだな。オーバーテクノロジーの武器。


「弟くんはいいとして、孝治くんは持っていたんだ」


「ああ。周が手に入れた時と同じ日にな」


「ちょっと待て。オレが持っているのは全員知っていたのか?」


そのオレの言葉に都を含めた第76移動隊全員が頷いていた。こうなると、ここにいない由姫も絶対に気づいているな。


オレは小さく溜息をついた。


「オレって隠し事が下手?」


『それはないと思いますよ』


全員に存在が知られたレヴァンティンが声を出す。オレはまた溜息をついてレヴァンティンを机の上に置いた。


『初めまして。私がレヴァンティンです。名前は好きなように呼んでくださいね。ちなみに、アルとは友達です』


「仲間の間違いじゃろ」


アルが呆れたように言うが、その顔に笑みが浮かんでいるのはその場にいる誰もがわかった。


多分、レヴァンティンから友達と言われてアルは嬉しいのだろう。昔からの知り合いなのだから。


『補足をするなら、六つの魔術器と六機のフュリアスが開発されましたよ。まあ、フュリアスの場合は一機未完成でしたけど』


「それは置いておいて、その魔科学時代も滅んだ。いや、文明の滅亡と引き換えに相討ちとなった方が正しいかの。次じゃ。次は三番目。神威時代。文字通り、神の威厳が世界を回した時代じゃ。周には悪いがの」


オレは神なんて信じていないからな。だから、神剣も信じていない。だけど、アルが言うなら信じるしかないか。


べ、別にアルの言うことを素直に聞いているわけじゃないからな。


「神剣が生まれ、神が滅び、それと共に文明も滅びた。最後が神剣時代じゃ。結論から言えば、今までで一番世界が滅びた時代じゃ。人口の90%が死滅。動植物も80%ほどが絶滅じゃ」


「ちょっと待て。そんなに滅亡したらこの世界の文明がここに来るまで何年かかるって言うんだ? あまりに人が死にすぎだろ?」


一応、記録として残っている部分なら約800年くらい前からはっきりしている。でも、そんなに滅亡したなら世界はどうしてその記録が残っていないんだ?


何らかの別の力が働いたのか?


すると、アルは何かを考えるように目を閉じ、ゆっくり頷いた。


「それが今の世界の流れとなった原因じゃ」


「理解出来た奴は?」


オレがみんなに尋ねると誰もが答えなかった。


「もし、世界の滅びが近づいているとするなら、民衆はどう動くかの?」


「暴動だね」


音姉の言葉に全員が頷いた。そんな暗い未来を信じるわけがないから。あらゆる劣勢な状況でも強気の発言をしなければ国民はついて来ない。


例えば、戦争中でひたすら勝ちの報道をしているように。


「そうじゃ。各勢力のトップはそのことを知っておる。『GF』や『ES』も起源的には滅びに対する対抗策じゃ。特に『GF』はの」


「なあ、アル。つまり、オレ達も滅びに対する対抗策だと考えた方がいいのか?」


あまりに若いメンバー。でも、そのメンバーが全員一線級の能力を持っている。なら、そう考えれるのが妥当だ。


オレの言葉にアルは頷いた。


「そうじゃな。我は関わりは無いが、そなたらはおそらく滅びに対する対抗策。海道、白百合、里宮。過去に神との戦いで大きな役割を果たした者達がいるからの」


オレ、音姉、由姫か。孝治や浩平は偶然と考えていいだろう。悠聖や中村は厳密に言えば親族だ。まあ、中村はそこそこ離れているけど。


考えたくはないが、何か作為的なものも感じる。


「質問だ。トップが知っている内容を下が知る可能性があることはわかる。だが、滅びが近づいているというのは何故だ?」


確かにそうだ。直に滅びが来るというならわかるが、貴族派も結城・真柴も滅びが来るとわかっているようだった。


オレは正から聞いていれからわかるけど、孝治達は知らないだろう。


「未来を知る者。聞いたことはないかの?」


その言葉に反応したのはリースだった。反応したと言ってもオレや音姉くらいしかわからない微妙な揺れ。


「正確な数は把握しておらぬが、この世には未来を知る者達がいる。未来みらいと読むより未来かこと読む方がいいかの」


「よくある話じゃねえの? ほら、前世とかみたいな」


浩平が似ているようで似ていないことを言う。確かに、前世の記憶を持っている人は極稀にいるけど、今は違う。


「違う。前世があるということは生まれ変わっている。でも、それで未来を知ることは出来ない」


リースが静かににダメ出しする。それに関してはオレも同じだ。前世の記憶は似ているけど違う。


「未来予知の類いなん?」


首を傾げながらオレに尋ねてくる中村。オレは首を横に振った。


「未来予知は曖昧だ。だから、可能性としては低いと言わざるをえない。気になるのは、それはどういう滅びなんだ? 文明が滅ぶのか、それとも」


「そこはブラックボックスになっているよ。誰も他人に話せない空白地帯」


オレの言葉を遮ってエレノアがはっきりと言った。


「思い出そうとすれば発狂する。今までも誰もがそうだった。もちろん、私も」


「エレノアは未来を知る者なのか?」


質問に対しての答えとしてエレノアは頷いた。


一瞬だけ逡巡したのか目をふせ、そして、真っ直ぐオレを見つめてくる。


「でも、私が思い出せる未来かこは少ないよ。これから起きることはほとんど思い出せない。ただ、滅びは確実に来ることだけはわかる」


それでも十分だ。それに、たくさん未来かこを知っていたならオレがようやく押し通した案が白紙になるかもしれない。


「滅びが来ることはわかっている。それに対して行動したことから『狭間戦役』が起きた。『GF』や『ES』も滅びに対して動いている。そうなると、時雨や慧海も知っているのか」


オレは小声で考えをまとめていく。まとめたなら何か思いつくかもしれない。


「アル・アジフ。滅びには何が来る。文字通りの神が来るのか?」


「我はわからぬ。我が体験した滅びは魔科学時代。あの時はマテリアルライザーに乗って敵の本拠地の外を掃討していたからの」


「アルちゃん、本拠地って?」


「今では存在せぬが、ハイゼンベルクの地に存在する崖によって出来た山があるじゃろ? それが本拠地じゃ」


確かにあったな。インドにあるヨーロッパの地名。そこには謎の山があり、崖に囲まれているためフリークライミングに適した地形になっているからたくさんの人が集まっている。


「本拠地の周囲を掃討ということは中の様子はわからなかったのか。ふむ、相手がわかれば対処はし易いのだがな」


「そやな。うちや楓、エリオットさんらで一斉射撃を叩き込むことが出来るかどうか」


「そなたら、世界を滅ぼすつもりかの?」


あそこを調べてもただの山だったって聞いているからな。話によると、あの山だけが他の土地とは違うらしいし。


そうなると、あの土地がどこで出来たものか調べれば何かわかるのか?


「ちなみに、山の土壌はアフリカ産じゃ。アフリカに文献は残っておらぬぞ」


アルがオレを見ながら言う。まあ、言われると思っていたけどさ!


「珍しいな。周隊長が黙っているって。こういう時にはよく質問するよな?」


「考えをまとめているだけだ。まあ、ディアボルガ、セイバー・ルカとルーイに尋ねたいんだけど、精霊界や音界ではどうなっているんだ?」


その言葉に悠聖が微かに動揺したのがわかった。多分、オレと音姉にしかわからないような動揺。


「まず僕から言おう。音界で知っているとするなら歌姫様だ。それ以外なら首相達。親衛隊と言っても、歌姫様が教えてくれる可能性は高くない。だから、悪いが僕からは何も言えない」


「いや、いいさ。知っている可能性がある人が聞けただけで十分。いつか遠くない日に時雨か慧海かわからないけど音界に『GF』から誰か行くから。ディアボルガやセイバー・ルカは?」


オレは二人に尋ねた。でも、二人は何も話さない。まっすぐオレの目を見ている。


オレはなんとなく理由がわかって少しだけ笑みを浮かべて頷いた。


「悠聖。語りたくないなら今はいいさ」


「周隊長。どうして」


「ディアボルガもセイバー・ルカもお前が話すことを選択したんだ。だから、お前が決めろ。まあ、オレの予想だと、アルネウラか優月のどちらかが関わってくるんじゃないか?」


オレの言葉に悠聖が黙った。図星か。でも、それだからこそ今は尋ねない。


「やっぱり、情報がまだ足りないな」


「そうかの? 我はかなり貯まっていると思うが?」


「いや、何か引っかかるんだ。あっ、なあ、都」


「はい。なんでしょうか」


今まで一度も発言していなかった都にオレは尋ねた。


「狭間市の中で狭間の鬼に対する文献がある場所はないか? 古文書でもなんでもいいから」


「実家の方になら」


オレは小さく頷いた。


「明日、そっちの方に向かいたい。ちょっと調べたいことが出来たからな。今日のところは解散。アルは孝治と一緒に今日のことをまとめて欲しい。それで時雨にこのことを一応連絡。多分、向こうは知っている」


アルの言葉を信じないというわけではないが、時雨は確実に知っていると断言できる。もしかしたら、『赤のクリスマス』のことを知っていたのかもしれない。


「ルーイは音界と連絡を取って欲しい。無理ならいいんだが、出来れば歌姫と話がしたい」


「出来ないことはない。歌姫様、メリル・シュトローム様は寛大な御方だ。今から連絡を取ってみる。一応、そちらの国の歌姫も話をさせてもらってもいいか?」


音姉が不思議そうに首を傾げていた。


「いや、あのじゃじゃ馬、違った。歌姫様がこっちの歌姫に関心を持ったからな。僕だけでは止められない。だから」


「いいよ。メリルってこと仲良くなれればいいし」


音姉はいつもそうだよな。誰とでも仲良くなろうとする。まあ、オレか由姫の敵には全く容赦しないけど。


オレは小さくため息をついた。


「解散だ。まあ、自由にしていいぞ」


どこまで謎を解くか全く決めていないので壮絶なネタバレしないか不安です。

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