幕間 新たな未来へ
短めです
「生き残っちゃったな」
七葉は一人小さく呟いた。七葉がいるのはちょうど病院のベッドの上。多分、もうすぐ見舞いが来るだろう。
七葉の怪我は酷くなく、腰を激しくぶつけたことによりひびが入ったらしい。おかげで下半身が微かに痺れているけど、医者の話によるとリハビリで治るらしい。
「本当なら、あの時に死ぬはずなんだけどな」
七葉がさらに呟く。
七葉は未来を知っていた。自分が死ぬ未来を。そして、その未来を変えることが出来ればと思い、七葉は第76移動隊に入った。
未来を知っているからこそ、影で動き、周ですら知らない場所であれこれしていた。
例えば、狭間市の長い一日の時、貴族派の軍勢の進軍が遅かったのは七葉が罠を張り巡らせていたからだ。
だけど、もう、未来はわからない。
「運命から生き残った、というべきかな」
「まだ見舞いの時間には早いよ」
突如として聞こえてきた声に七葉は呆れたように声を返した。
いつの間にか病室の中に正の姿があったからだ。正は小さく笑みを浮かべて七葉に歩み寄る。
「どんな手品だい? どうやって運命を回避したのか是非聞きたいね」
「さあ? 私だってわからないよ。私だって死んだと思っていたのに、生き残っていた。どういう理屈かなんてわからない」
「そうなのかい? つまり、未来を変える手段は知らないと?」
七葉は頷いた。もし、知っていたならもっと違うことをしていたはずだ。でも、知らないからこういうことになっている。
七葉は小さく溜息をついた。
「正。あなたは何か掴んでいるんじゃないかな?」
「どうしてそう思うんだい?」
正がうっすらと笑みを浮かべた。それを見ながら七葉は言う。
「唯一の人だから」
「そうだね。ねえ、七葉。君は神の存在を信じる?」
「神? 神なら私達の」
「その神じゃない。創造神というべき存在かな」
その言葉に七葉はハッとした。思いつくようなことがいくつかあるからだろう。
正は少しだけ笑って窓の外を見る。七葉もそれにつられて外を見た。
「僕はそれを調べるよ。君は今の内に平和な世の中を楽しんでね。七葉にとっての新たな未来を」
その言葉に七葉が振り返る。だが、そこに正の姿はいなかった。
七葉は小さく溜息をつく。
「お姉ちゃん。あなたは何を求めているのかな?」
次で後半前編を終わらせます。