第十八話 エンカウント
戦闘入ります。
「俺達は追い出される運命なのね。悠聖、なにしてるんだ?」
浩平は悠聖が地面に描いている魔術陣について尋ねた。
悠聖達は集会所から少しばかり離れた場所にある広大な広場に来ていた。ここら辺は近くに住宅地がなく、訓練するにはもってこいの場所かもしれない。
「オレ達が来た理由を思い出せ。これはそいつに対する探査術式だ」
「精霊を使えばいいんじゃないのか?」
浩平の言葉に悠聖は小さくため息をついた。
「そんなに大量にぽんぽん呼んで探して来いとはできない。お前は小説の読みすぎだ。そもそも、精霊召喚は簡単に使うものじゃないぜ。オレ達術師と精霊との一対一での契約で決まる。小説みたいに下級をぽんぽん呼び寄せて使うことなんてできない。精霊が至高の存在だからな。よし、完成だ」
「そういうものかね。で、それは発動しているのか?」
浩平は地面に浮かびあがった地図を指さす。
「多分」
「じゃあ、この動いている赤い点は?」
浩平が指さした先には赤い点が急速に動いていた。
悠聖と浩平が顔を合わせ合う。何故なら、その点はこちらにまっすぐ向かっているから。
「エンカウントまで推測二十秒」
「これが北だよな。つまり、ええい」
浩平はポケットに入れていたデバイスを取り出した。
「我が求めに応じよ、フレヴァング!」
浩平の言葉と共に、浩平の手の中にライフルが現れた。それを赤い点が向かってくる方向に向ける。
「目標確認。金色の鬼。こいつか?」
「多分。オレは周隊長に連絡する。それまでは頼んだ」
すばやく通信機器にデバイスを繫げながら周にコールする。
「先制攻撃をしかけるぜ」
その言葉と共に浩平の握るライフル、フレヴァングからいくつかの光が放たれた。だが、浩平の眼にも映る金色の鬼はそれを簡単に回避しようと体を横にずらし、額に光が直撃した。
金色の鬼は態勢を崩してそのまま悠聖達とは広場で点対象の位置に落下する。
『何か用か?』
「周! エンカウントだ! 金色の鬼が現れた!」
『場所は?』
「そこから北北西に200mほどだ。浩平の援護に入る」
通信機器を外し、デバイスを身につける。
悠聖のデバイスは珍しく指輪型だ。ただ、その指輪には様々な機能が備わっている。
「防護服α。リロード」
悠聖は武器をデバイスから召喚しない代わりに戦闘用の服を召喚し身につける能力にしている。αはある意味万能型の防護服だ。
悠聖が手を横に掲げる。
「聖なる刻印を纏いし者。光の道を指し示せ。光の剣聖『セイバー・ルカ』!」
金色の鬼が動く。目にもとまらぬ速さで浩平との距離を詰める。浩平はそれを見てにやりと笑みを浮かべた。
「追い詰めるぜ」
そして、引き金に三度、指がかかる。
放たれた三つの弾丸は鬼に向かい、鬼は跳びあがって避けようとした。だが、鬼の下を抜けようとした弾丸が爆発し、鬼が体勢を崩す。
「ぶった切れ! ルカ!」
鬼の体を巨大な剣がとらえ地面に叩きつけた。
いつの間にか浩平の横には、八枚の純白の翼を持ち、宙に浮かぶ籠手には巨大な剣を、両手には左右対称の剣を持った女性がそこにはいた。
光属性最上級精霊『セイバー・ルカ』。
精霊の中で最強の剣士でもある。
「ナイスタイミング」
「オレを誰だと思っている。だが、油断するなよ」
悠聖達は鬼が落下した場所を睨みつける。
アル・アジフから逃げ切った奴が今の程度の攻撃で沈むわけがない。二人の共通の見解だった。
ルカが三本の剣を構える。
「浩平!」
「任せろ!」
浩平はフレヴァングを宙に投げる。だが、浩平の手にはいつの間にか拳銃が握られている。もちろん両手に。
「ビリヤード劇場の始まりだ!」
そう言うと浩平は両手の拳銃を一気に放ち始めた。
放つ弾はそれぞれ速さや大きさが違い、それらが地面を跳ねて鬼の行動を抑制するようにトンネルを作りだす。そんな中で鬼はルカに向かって走る。
そんな中で悠聖は新たな召喚を開始していた。
「遥か深淵より来る者。我が呼び声に答えよ。闇の帝王『ディアボルガ』!」
悠聖の背後に現れたのは闇の帝王。体を包めるまでに大きな一対の翼に緋色の巨大な体。そして、手には大きな錫杖。
闇属性最上級精霊『ディアボルガ』
その姿を見た鬼が一瞬だけ動きを強張らせる。
「もらった!」
その瞬間に浩平が動いた。両手の拳銃を乱射して落下してきたフレヴァングを両手の拳銃を手放して捕まえ、引き金を引く。
放たれた弾は一直線に鬼に向かい。鬼はそれから身を守ろうと両腕を前にやった瞬間、背後から飛んできた弾が直撃した。僅かに空いた腕の隙間からフレヴァングが放った球が通り抜け、鬼に突き刺さると同時に、様々な角度から弾が飛来した。
これが、浩平が化け物揃いの第76移動隊に推薦された理由だった。
天性のテクニックを使用して様々な速度の弾を弾かせながら目標に同時に着弾させる技術。あらゆる障害物までも利用し、自ら撃った弾の方向性を変える。まさにそれはビリヤードを興じる少年そのものだった。
鬼がその場に落下する。
「ディアボルガ。叩き込め」
『承知』
ディアボルガが錫杖を掲げる。
シャランと音が鳴り響くと同時にディアボルガの頭上に魔術陣が浮かび上がった。それは、鬼の上空に浮かびあがる魔術陣と同じもの。
『失せよ!』
そして、巨大な光の塊が鬼に向かって落下した。
土煙が周囲を覆い、爆風が悠聖達の髪を撫でる。
「悠聖、さすがにこれは倒しただろ」
『来るぞ!』
その言葉を出したのはディアボルガだった。
ルカが後ろに下がりながら巨大な剣を横薙ぎに振る。しかし、その剣は途中で止まった。
土煙が晴れると、そこにはルカの剣を受け止める鬼の姿があった。
鬼が加速する。
ルカの双剣をぎりぎりで避けてそのまま術者である悠聖の元に、
「させると思うか?」
鋼の煌めきが鬼を直撃し、鬼を吹き飛ばした。
「待たせたな」
レヴァンティンを振り切った体勢にいる周と柄に単三電池の様なものを繋いだ黒い剣を担ぐ孝治が乱入する。
「ここからのフロントはオレ達だ!」