第百八十一話 精霊と人
ダブルシンクロした悠聖と狭間の鬼が殴り合いをする話です
狭間の鬼を薙刀で大きく吹き飛ばす。オレはそのまま加速して狭間の鬼を蹴り飛ばした。
今までとは少し違う戦い方。でも、狭間の鬼の動きに完全に対応できる力がある。
『精霊王。また、阻むのか!』
「一体何の話か知らないけどよ!」
鬼の腕を石突で弾き、そのまま勢い良く振って鬼のこめかみを殴りつけた。ぐらつく鬼に薙刀を振り下ろす。
凄まじい反動と共に鬼の腕が落ちる。
鬼は慌てて後ろに下がってオレと距離を取った。すでに戦場はオレと鬼の一騎打ちだ。正確にはオレ、アルネウラ、優月の三人と鬼との戦い。
それはだれも介入出来ないほどの力と力のぶつかりあいだった。
優月の力によって得た無限にも等しい魔力。これにより魔術殺しの展開が可能だが、オレはあえてアルネウラの力を最大限にまで使用することにした。
氷属性の精霊としての変化操作。それを体のいたるところに使用しながら攻撃にも使用し、なおかつ狭間の鬼にも使用する。それにより、オレは苦手な殴り合いすらもできるようになっていた。
「この世界の外に出すわけにはいかないんだよ!」
薙刀を槍のように構えて全力で突く。だが、それを狭間の鬼はギリギリで避けていた。鬼のこぶしが迫り、何とか受け止めるが大きく吹き飛ばされる。
そして、放たれる指向性のダウンバースト。
オレは迫りくるダウンバーストの塊を全力で魔力を纏わせた薙刀によって空に打ち上げた。懐に入り込んでくる鬼。オレはそれをタックルで迎え撃った。
『貴様に我の何がわかる!』
「わかんねえよ! ただ、お前はオレ達の天敵だと言うことはわかるさ!」
お互いのこぶしがお互いの顔に入る。でも、オレは後ろに倒れない。
「オレ達は必死に生きている。なのに、お前みたいな奴らにオレ達がやられてたまるかよ!」
『世界の滅びを見たいのか!』
狭間の鬼の拳がオレの頬を捉える。だけど、オレはその腕をしっかり握りしめた。
「関係ねえ!」
そのまま全力で鬼を殴り飛ばす。
「世界が滅びるとか今は関係ねえよ! お前の行動に世界の滅びがかかっているとしてもな」
全力での頭突き。それにより、狭間の鬼の体が大きくぐらついた。
「誰かを犠牲にして救われる世界なら糞食らえだ! 世界を救うのに犠牲を出してたまるかよ!」
狭間の鬼の足腰に力がこもる。そう思った瞬間、凄まじい速度で頭突きが襲いかかってきた。普通なら頭がぱっくり割れそうないりょくで。でも、アルネウラの力でオレの体に傷はつかない。気絶しそうになるほど痛いけど。
『犠牲を出して救われる世界があるなら、それこそ我の本望だ!』
「んなことさせるか!」
鬼とお互いに拳がぶつかり合う。オレ達の力はそのまま拮抗していた。
「誰も犠牲になんかしない。全員の笑顔を守ることがオレ達の使命だ。それを邪魔するなら、力づくでも説得して見せる!」
『そんな御伽話に誰がついていく! 力も、聖剣も、伝説も、手に入れる力がないお前はどうやって世界を導くと言うのだ!』
「御伽話でもな」
鬼の攻撃に体が揺らぐ。威力が極めて高く、常に脳振とうを起こしているような状態だ。さすがにそこまでの変化は止められないか。でも、オレは倒れない。
多分、狭間の鬼を倒すには精神的な部分からも倒すしかない。
「諦めずに立ち向かう必要があるんだよ!」
足を払い、薙刀を叩きつける。だが、薙刀は鬼によって掴まれ薙刀ごとオレは投げ飛ばされた。着地したオレに鬼が殴りかかってくる。
オレはその拳を受け止める。
「御伽話でもなんでも諦めたら終わりだ。オレ達はその御伽話を達成できる一番近い位置にいる。だったら、オレ達が頑張ればいいんだろうが!」
『不可能だ。ならば、我がこの世界を徹底的に破壊して』
その瞬間、オレの中で何かがキレた。もしかしたらアルネウラや優月もかもしれない。まるで、大きな怒りが一つとなり、大きな力となったような感覚。
「世界を滅ぼさせはしない」
魔力の流れを一気の掌握し複数個所で流れを変化させ収束させる。そして、収束させた魔力を鬼に直接たたきつけた。
狭間の鬼の体をいくつもの収束した魔力が貫く。その攻撃によって鬼の動きは完全に止まっていた。
オレは掌を前に出す。その掌を中心に集まる魔力。周囲に浮かぶ魔力の流れを全て変化させ、一点に収束させる技。思いついたのはさっき。多分、三人で考えついた。
「世界を滅ぼさせてたまるかぁ-!」
魔力が収束したものにオレは勢いよく薙刀を叩きつけた。そして、膨大な魔力が狭間の鬼に直撃し大きな爆発が起きる。
『これが、精霊と人の可能性か』
爆風に巻き込まれた瞬間、オレの耳にそんな声が聞こえたような気がして、オレ達も自ら放った攻撃の爆風に呑みこまれた。
ダブルシンクロ中の悠聖の防御力や速度は周を超えますが、周よりも殴り合いは弱いです。