第十七話 異変
オレ達が案内された場所は集会所だった。簡単に言うなら避難場所として使えそうな集会所。
「ここなら大きいと思うが?」
孝治が不思議そうに尋ねる。
すると、千春は申し訳なさそうに、
「集会所じゃなくて、あっち」
指さしたのは集会所の横にある小さな物置小屋。
オレ達が完全に無言になるのは仕方のない話かもしれない。
明らかに子供四人が座って話し合えるぐらいのスペースしかないよな。ちなみにオレ達は大きな荷物を持っている。この上に座るという選択肢も一応あるけど。
「だから言ったんだよ。小さいって」
「予想外」
クロノス・ガイアがオレ達の気持ちを代弁してくれる。
千春はポケットから鍵を取り出すと物置のドアを開けた。物置の中は駐在所とは比べ物にならないほど綺麗だ。ちなみに椅子は三つだけ。
「今から椅子取りゲームの開始を宣言しますかって、冗談、冗談だってば」
ふざけたことを言い出した浩平にオレ達が体をひねる動作をするとあわてて土下座をしている。そこまでするならオレは許すけど。
「順当に考えてレディファーストだ。一応、都、琴美、クロノス・ガイアでいいんじゃないか?」
「なぜ我が入らぬ」
「お前は魔術書に乗れるだろ」
「それもそうじゃな」
アル・アジフは持っていた本を手放した。すると、その本は空中に浮かび、アル・アジフはそこに飛び乗る。
アル・アジフしかできない飛行の市仕方だ。
「どうしてボクが入っていないのか説明してくれるよね?」
「駐在所」
「それを言われると何も反論できなくなるけどね」
千春は少し怒ったように物置の中に入った。ちなみに五人入った状態で後二人くらいしか入らない。
「オレと、孝治の二人が入るとして、悠聖と浩平は外から覗いてくれるか?」
「いや、オレ達は軽く街を回ってくる。もしものときはデバイスに連絡してくれ。浩平、行くぞ」
「しゃあないか。御嬢様方。また、お会い」
オレは静かに物置のドアを閉めた。それと同時にアル・アジフが照明魔術を使用する。普通の電気と変わらない明るさの光が生まれた。
「まあ、聞きたいのはいくつかあるけど、まずは先の事件。『GF』の失踪を知っているかどうかだな」
「その話は有名よ。狭間市の市民が全員知っている可能性もあるわね。知っている中身も話した方がいい?」
「いや、そこまではいらないな。そこまで広がっているなら十分だ。それを踏まえて尋ねる。この狭間市でこの一ヶ月に何かの変死体がなかったか? もちろん、噂でもいい」
「それについてなら我が答えよう。我が把握しているだけで八件の動物の変死体が見つかっておる。その半分はただの病気じゃが、それ以外は明らかにおかしな殺され方じゃ」
「その話なら聞いたことがあります。夜な夜な徘徊する大きな斧を持った少年が動物の頭を砕き中身を貪り喰らっているともありました」
大きな斧の時点でかなり非現実的なんだよな。前にも言ったかもしれないが、デバイスで取り出すことができるものは、大きさによって必要魔力が変わる。それなのに斧を使うのはかなりのデメリットになる。
まあ、昔には折りたたみにすればいいんじゃないのかって試したバカもいるみたいだけど、戦場で組み立てる手間が命取りだ。
「確かに、頭は何かに砕かれておったが貪り喰らうまではいっておらぬ。ただ、それが普通に起きるかどうかで考えたらありえぬのじゃ」
「確かにな。変死体なんてそう簡単にできるわけがないし。他に聞きたいのはいつの間にかいないのどこかが壊れているとかないか?」
「それならボクが知っているよ。一応、それらしい場所は四ヶ所。ただ、そのうち一つはすさまじい怪力で破壊したって感じなんだよね」
「すさまじい怪力?」
オレが思い浮かべるすさまじい怪力は重さ数百キロの何かを持ち上げて投げる何かの姿だった。
「推定2トンの石かな。それが民家にぶつかったんだ」
「行ったことあるわ。あの石をどうやって持ってきたのかがわからなかったけど」
2トンか。そんな重さを持ち上げられるのは一人くらいしか知らない。
オレは小さくため息をついた。
「後、そんなおかしな事件は一ヶ月行こう前からあったかどうか?」
「ありません。一ヶ月ほど前から急に増えたものです。それは市長の孫である私が証明します」
とりあえず、いろいろと聞きたいことは聞いた。もちろん、事件に関係のあるようなことだけだが。
「孝治、どう思う?」
「関連性が大いにあるとしか言えない。だが、悲観視するほどではない」
「どういうことかな?」
「そこまで深刻じゃないってことだけだ。危ないのは、偶然にエンカウントするなら危ない。どうにかして対策を練らないとな」
「そうじゃな。『ES』もいるとはいえ、我とクロノス・ガイアしか一対一は戦えぬからの」
置いていかれている三人を除いて、オレ達は話を続ける。
「そうなると、オレ達の重要性が増すのか。孝治なら何分くらい持ちこたえられそうだ?」
「俺で二分が限度だ。ただ、向こうの実力はよくわからないから断言はできん」
「一番いいのはどうにかして封印することじゃな。クロノス・ガイアはどう思う?」
「一度、私のトレーサーをつける。それで後を追える」
「つまり、誰かがエンカウントしないとだめか。オレが囮になってひきつけることは可能かな?」
「あのー」
そんな中、都が恐る恐る手を挙げた。
「周様達は敵が何なのか知っているのですか?」
オレがアル・アジフの顔を見ると、アル・アジフは小さくうなずいた。
「ああ。オレ達が追っているのは金色の鬼だ」
「鬼。まさか、狭間の鬼」
「狭間の鬼?」
オレがたずね返した瞬間、ポケットの中に入れていたレヴァンティンが震えた。どうやら通信が来たようだ。
「何か用か?」
レヴァンティンを取り出しながら通信機器も付けて通信をつなぐ。
『周! エンカウントだ!』
聞こえてきたのは悠聖の言葉。
『金色の鬼が現れた!』