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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第百七十一話 白川悠聖 中編

悠聖編の中編です。とりあえず、悠聖の過去について簡単に書いています。悠聖とアルネウラ達の出会いは後に書く予定である短編になるかと。

オレは一瞬、アルネウラが言ったことの意味がわからなかった。ユニゾンというものを知っている風に言っているが、そんな話は聞いたことがないから。


ディアボルガやルカすら知らなかったはずなのに。


『ユニゾンは強制的に行うもの。それは、精霊の意志に関係なく。でも、それはどうして生まれたんだと思うかな?』


「精霊を悪用するために生まれたとか?」


そういうことしか考えられない。他に何があるだろうか。


『違うよ。シンクロの最終形態、アルティメットシンクロ。全ての精霊に力を出すことが出来る能力。それは、悠聖とフィネーマだけ、愛する二人にだけしか発動できなかった究極形態』


オレは視線を逸らした。フィネーマとのシンクロ。小学生だったが、オレ達はれっきとした恋人だった。だからこそ出来たシンクロの最終形態。


元々病弱だったフィネーマをオレはよく呼び出していた。戦闘ではなく、いろいろな人に治療できるか尋ねて回るために。


名医と呼ばれる人や神の手を持つ人など様々な人から話を聞いた。そして、『GF』の幹部にも。オレがあの時にフィネーマのために行動していたのはフィネーマと一緒にいたかったから。最初に契約したのはアルネウラだけど、最初に恋をしたのはフィネーマだったから。


『それに近づけるために開発されたのがユニゾン。それは、精霊から無理矢理力を引き出すもの』


「オレ達がやったからか? シンクロの最終形態を」


『うん。それが、直接的な原因だよ。ユニゾンは精霊を強制的にするもの。それは、シンクロ時と比べて格段に力を引き出せる。精霊の命を燃やして』


そこでオレは一つの疑問が生まれた。どうして、そのことをアルネウラが詳しくしているのだろうか。何か研究でもしていたのだろうか。


すると、アルネウラがオレの考えていることがわかっていたのか少しだけ笑みを浮かべた。


『どうして私が詳しいのかって?』


その言葉にオレは頷いた。でも、今までの行動を考えると何らおかしなところはないように思える。だって、フェンリルすら遊ばれているような感じがあるし。


『聞いたら、悠聖でも戻れなくなる。人界でも一握りしか知らない事実だから。それを求めて狙われるかもしれない。これは、精霊界の暗部の中でも最も深いところだから』


アルネウラの存在がそういうものだと知らなかった。確かに、アルネウラはそんなに強いわけじゃない。他の精霊が全員それぞれの属性の精霊の中で五指に入ってくるレベルだ。そのなかでアルネウラの実力はごまんとたくさんいる中級精霊。


精霊の召喚は術者の実力に見合ったものだと聞いているから、時にはおかしいと思ったことはある。でも、オレはアルネウラに聞かなかったから。だって、


「聞く。いや、聞かせてくれ。オレが、いや、お前の術者として、そして、オレがお前を大切にしたいから、だから、聞かせて欲しい。お前を、いや、お前らだけをそんなところに置いておくわけにはいかないんだ。これからも、お前らに守られているんじゃない。オレが守りたいんだ」


『悠聖』


レクサスも、イグニスも、グラウ・ラゴスも、ライガも、エルフィンも、ディアボルガも、ルカも、全員がオレの中では大切な仲間。いや、大切な家族というべきか。白川家とは違う、第二の家族。


そして、アルネウラはずっとオレを見守ってくれていた。本当ならもっと甘えたい時だってあったかもしれない。オレとフィネーマが付き合いだした時も涙一つ見せずに笑顔で祝福していた。でも、アルネウラが後で泣いていたのをオレは見つけてしまった。


自分の命よりも、オレの幸せを取ろうとしている。アルネウラも、フィネーマも。だから、オレは自分の思いを告げる。


「オレは、お前が、アルネウラのことが好きだ。レクサス達のことが大切だ。家族みたいに思っている。だから、聞きたいんだ。お前のことを、お前を縛っているもののことを」


『もう、戻れなくなるよ。周や孝治よりも、もっと深い闇を知ることになる。その闇を知れば、悠聖は選択しないといけない。自分が進むべき道を。そして、気づくと思うんだ。今の世界の流れが。どういう風な未来に向かって動いているのか』


「なら、いっそこと教えて欲しい。周が目指す未来に繋げられるかもしれないから」


周の望み。誰も犠牲にしないという望み。それを叶えることが出来れば、オレと七葉みたいな人が少なくなるはずだから。


そして、オレも周の手伝いを本格的に出来る。未来を知るなら、もしかしたら、


『わかった。でも、約束して。誰にも話さないで欲しいことを』


「誰にも? 周にも?」


『うん。知っている人が知らない人に教えれば、その二人に不幸が襲いかかる。そう言うことになっているから』


不幸が襲いかかる? それだとまるで、オレ達の行動が誰かに監視されているみたいだ。でも、どういうシステムなのかわからないのだろう。


だったら、なおさら話せない。でも、話せなくても手助けが出来る。みんなを助けることが出来る。周や孝治には守られてばかりだったからな。


「いいぜ。オレが出来る精一杯のことをやってみる。そして、お前らと共にいたい。だから、頼む」


『うん。レクサス、みんなに伝えて。悠聖が私を知るってことを』


『わかったわ。悠聖。もし、あならがアルネウラを傷つけるなら、例えあなたでも私は許さないから』


その言葉は完全に本気だった。アルネウラを大切に思っているからこその言葉。だから、オレも同じ立場だから言葉を返す。


「アルネウラはオレを救ってくれたんだ。そんな子を傷つけたら、自己嫌悪で死にたくなるさ」


嘘いつわりのない言葉。そもそも、精神操作に長けた水属性の精霊に嘘はほとんど通じない。だから、オレの言葉が本当だとわかったのだろう。


レクサスは優しく微笑むとそのまま姿を消した。


『うん。まずは私の話から。私は精霊の中でもかなり特殊。精霊単体じゃ中級どころか下級くらいの実力しかないしね』


それはオレが知っている。そもそも、アルネウラの戦い方は防衛において力を発揮する。最初から、ディアボルガやルカの力を最大限に発揮させて戦うオレのやり方ではほとんどがオレの飛んでくる流れ弾の排除だけだ。


後は、オレとのシンクロを行うために。


だけど、信頼関係もあるのか、シンクロ時には極めて強い力を持つ。もしかしたら、アルティメットシンクロが出来るならフィネーマを軽く超えるかもしれない。


『私は精霊界の中での実験体。究極のシンクロをするために開発された存在だから』


「いきなりすぎて話についていけないんだけど」


『だよね。最初、シンクロとユニゾンの二つがあったんだよ。でも、シンクロの力を高めれれば危険性の高いユニゾンをしなくても強力な力を発揮できる。それが、私。そして、私がユニゾンを知る理由だよ。私とフィネーマは、精霊界のトップが恐れている未来を回避するための手段として生まれた』


だから、アルネウラは普通にフェンリルと戯れている。ディアボルガとも普通に話す。それは、アルネウラ自身がかなり特殊だから。


『シンクロを超えるようなシンクロが簡単に発動できるなら、人は今よりもさらに力を発揮できるようになる。普通の精霊の限界シンクロ率が60%。それを超える80%や90%のシンクロ率を出来るようになればいい。そして、私とフィネーマは開発された。私はシンクロの力を極めて強く出来るように。フィネーマはシンクロ率のリミットを外し、普通の精霊としても活躍できるように』


オレが契約した二人は本当に特殊な精霊だったのだろう。でも、それほど特殊だったからこそ、オレとフィネーマは恋することが出来た。そして、アルネウラを大切に思えるようになった。


『その技術が出来上がれば、もしかしたら、世界が滅ぶという最悪の予言を回避することが出来る』


「滅ぶ? この世界がか? ちょっと待ってくれ。海道総長や善知鳥特務隊長達がいても?」


そんな戦力を持っている人界は戦力の数が極めて多い魔界や天界よりも遥かに強いと言われている。人界を滅ぼすなら、魔界と天界が手を結び、精霊界が全力で援助をしつつ、人界内部で大きな戦争が起きている状況とも言われているくらいだ。


それほどまでにこの世界は異質なまでに強い。


『うん。預言書にはそう言われているよ。私の友達のエンシェントドラゴンはそれを肯定している。今のままでは簡単に滅ぶって。だから、私達はその滅びを止めるために生まれた。まあ、悠聖の精霊に私達がなった時は一悶着あったけどね。でも、悠聖がフィネーマと付き合ってから流れは変わった』


周から聞いたことがあるが、精霊と恋人になるのは世界でも類を見ないらしい。やはり、精霊というのは使役するものだと思われており、本当に大切に扱うことは珍しい。


海道総長からも聞いたことがないと言われたくらいだ。


『シンクロを超えるシンクロ。アルティメットシンクロが生まれたから』


オレとフィネーマが付き合いだしてから最初の戦闘でオレとフィネーマはシンクロを行った。周は戦力的に行ってアルネウラとシンクロすべきと行ったが、オレはフィネーマといっそに戦いたかったから。そして、オレは伝説を作った。


戦闘区域のほぼ半分、半径1kmほどを氷で埋めつくしたから。もちろん、人を氷漬けにしなかったが、その一発でこの戦闘が終わった。相手が降参するということで。


フィネーマの力を超えるシンクロにその日の夜、オレとフィネーマは愛し合いながら話し合った。そして、結論に達した。


本当に危険な時しかシンクロしないと。


『その力はまだ小学生なのに世界を滅ぼせる可能性を持つ力だった。もし、大人になった悠聖が使ったならどうなっていたか、想像できなかったみたいだよ』


確かに、人が魔術師として最高潮になるのは30歳を超えたくらい。その時点で魔術師としての力は人生で最高になる。そして、徐々に減衰していく。それでも、20以下の水準になることはまずない。


精霊召喚師の実力も同じだ。30歳を超えたあたりで止まる。つまり、それまでは成長していくのだ。小学生の実力が低く、『GF』でもほんの一握りしかいない理由がそれだ。高校生となるとかなり増えてくる。


もし、今の状態でフィネーマとシンクロしたならどうなっていたか全く想像できない。


『だから、そのままにしておくことにした。そして、あの日』


あの日、オレはフィネーマを失った。その時はアルネウラとシンクロをしており、フィネーマは隣で戦っていた。だけど、一部の人が、小学生だったオレや周を快く思わない一部の人が意図的にオレ達を敵の真っただ中に置き去りにした。


オレも周も互いに自分が隠していたことを少しだけ話して危機を乗り越えようとした。でも、敵陣の真っただ中と罠、そして、味方からの敵陣への砲撃がオレ達の行く手を阻んだ。


精神的にも疲労困憊になったオレと周が足を止めた瞬間、最悪の罠が発動した。

大規模殲滅用対人地雷。


その威力はとっさに張った障壁魔術を一瞬で破砕した。この時、オレと周は確実に死んだと思っていた。実際に、孝治達は死んだと思っていたらしく、弔い合戦をしていたという。


でも、結果的にはオレ達は死ななかった。フィネーマが犠牲になることで。


氷魔術の究極形態である変化停止をオレ達全員の体に使ったのだ。


そもそも、氷魔術は氷を溶かさないで放ち、鋭さを保ったまま当てるもの。そして、変化を停止させることでエネルギーを消耗させ消すこと。


それの最終形態はあらゆるエネルギーから守る障壁となる。


フィネーマはそれをオレ達に使い、そして、消し飛んだ。跡形すらなく。


オレの目の前で、オレが助かることに安心した姿のまま。


爆発が止み、オレ達は生き残った。でも、オレはその場から動くことが出来なかった。アルネウラや周は同じように動かない。


アルネウラなんて泣きたかっただろうに、茫然自失としていたオレを守るために必死に戦った。


オレが動けたのはその4時間後。戦闘が終わり、オレ達の遺骸を捜しに来た孝治達がオレ達を見つけ、駆け寄ってきてからだ。


その時、オレはようやく涙を流すことが出来た。そして、大声で泣いた。アルネウラと一緒に。


フィネーマという大切な人を失ったのだから。


『あの日、精霊界では大きく論争が起きたよ。でも、それを鎮めたのが雷属性以外のトップ。全員が共通して計画の停止を求めた。だから、私はここにいられる』


アルネウラはフィネーマを失った悲しみと、もしかしたら、オレから離されるかもしれない恐怖の二つがあった。はずだ。なのに、アルネウラはオレのそばでずっとオレを励ましてくれた。


あの日から二ヶ月ほど、オレはずっと病院にいた。フィネーマを失った悲しみから心の一部が壊れたのか、生きる意味がわからず一日中ベッドの上にいた。


そんなオレのそばにずっといてくれたのがアルネウラだ。


『私は世界を救うために生まれた最初の実験体。でも、悠聖のそばにいる時だけはそんなことを感じなかった。悠聖だからかな。それをみんなに話したことがあったから。でも、私が悠聖のそばにいられる理由がもう一つあるんだ』


もしかしたら、フィネーマと同じようにリミットを解除でもしたのだろうか。


『悠聖が私を心の底から頼りにしてくれたおかげでシンクロ率が上限を越えることが出来た。シンクロ率というのは人と精霊との信頼の数値なんだよ。でも、いや、だからかな。ユニゾンが現れたのは。私とフィネーマの計画が凍結したから』


アルネウラはそこで話を切った。


多分、話してはいけないことは未来にある滅びについてのことだろう。精霊界で実際に不幸があったのかもしれない。


『これが、私が詳しい理由だよ。暗部の当事者だからこそ詳しいの。悠聖は、どう思った? 私のこと、変に思った?』


「はぁ」


オレは小さく溜息をついた。溜息をついてアルネウラに近づく。そして、アルネウラを優しく抱きしめた。


アルネウラの顔を見るとかなり驚いている。


「あのな、どうしてそんな大事で些細なことをもっと早く話してくれなかったんだ」


『大事で些細って矛盾してないかな?』


「そんなことがあるなら教えて欲しい。オレが守りたいから。もう、守られるだけは嫌なんだ。アルネウラ、絶対に離さない。例え、お前が精霊界に連れ戻されるなら、オレはあらゆる手段を使って追いかけてやる。だから、オレのそばにいろ。例え、世界が滅ぶ預言があったとしても、オレはお前や周達と乗り越えてみせる。だから」


オレはアルネウラの顔を見た。アルネウラは小さく頷いて目を瞑る。


こんな状況ですることは一つだけだ。オレはゆっくり顔を近づけた。


「共に戦おう。未来から」


そして、優しく口づけをした。


次は戦闘、ではなく、悠聖がアルネウラと話している間の他の面々の会話です。

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