表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
175/853

第百六十九話 狭間の杖

最初に。都の持つ神剣はほぼトップに位置するレベルの神剣です。そのことを覚えておいて読んでください。

都は狭間の夜の決戦地にいた。隣にいるのは琴美の姿。そして、都の手に握られているのが神剣認定された狭間の力が扱える杖。


あれから都は琴美と一緒に訓練を続けていた。第76移動隊の庇護下に入ったとは言え、まだまだ実力の足りない都は基礎練習の後にここで毎日練習していたのだ。


狭間の力の使い方を。


周からは周自身がいない場所では練習しないように言われていたが、都はそれを無視して練習していた。そう、今日も。


「都」


琴美の言葉に都が小さく頷く。そして、手に持っている杖を回した。そのまま地面に突き刺す。


「完成ね」


「はい」


都の顔が輝く。そして、杖を地面から引き抜いた。


「これで、この杖の名前が決まりましたね」


その言葉に琴美がずっこける。まるで、思っていたことは完全に違うことを言われたような感じだった。


琴美が額に手を当ててゆっくり起き上がる。


「杖の名前じゃなくて、ようやく狭間の力を使えるようになった、でしょ。まあ、怒られそうだけど」


「そうですよね。周様なら確実に怒りますよね。確実に」


そう言いながら都は肩を落とす。そして、杖を空間の狭間にしまった。


丘から狭間の市街を見下ろす。そこに見えているのはいつも通りに見える平和な狭間市。だけど、今日は何だかトラックの往来が激しいような。少量の魔力鉱石を消費するトラックはかなり高いのに今日はたくさん狭間市に来ている。


それをみて都は嫌な予感に駆られていた。


「一体何が」


目を瞑って掌を市街に向ける都。そうすることで魔力を感じているのだ。


常に存在する狭間の空間の安定性が崩れた場合、何らかのエネルギーが発生する。基本的には風となって表れやすい。空間が揺れるのだ。その揺れ方を都は感じることが出来る。


「たくさんの人がトラックに? 引っ越し、というわけではありませんよね。向かっている先は中心部でしょうか。後、駐在所方面にも。一体何が」


「都! 逃げて!」


その言葉と共に都の体が前のめりになった。押されたのだ。そのまま受け身を取りつつ素早く立ち上がって振り返ると、そこには首元に剣を突き付けられた琴美の姿があった。その周囲にいるのはパワードスーツを着た男達。


「都築都ですね。この少女が殺されたくないなら大人しくしてください」


そのまま琴美の首筋に剣を近づける。もし、都が攻撃の素振りを見せたならすぐに殺すということ。でも、それを見ていた都は目を瞑っただけだった。


それを見ている男達が首を傾げた瞬間、都の手に杖が握られていた。


「なっ」


剣を握る男の顔が驚き、そして、剣を動かそうとした。だが、その剣は少しも動かない。いくら力を込めても、少しも。


「あなた達に宣告します。痛い目を見たくなければ琴美を話しなさい。もう一度言いましょうか?」


「こいつに突きつけられている剣が見えないのか?」


琴美に剣を突き付けている男が慌てて言う。だが、都は冷静にその男を見ていた。


「動かない剣にひるんでも意味はありません」


その言葉は男の隣から聞こえていた。男が振り向くと同時に杖の先がパワードスーツのヘルメットを砕き吹き飛ばす。そして、都は琴美の手を引いた。


「大丈夫ですよね?」


「ええ。今のは」


「狭間の固定です」


空間と空間の間に存在している狭間。その間で起きるエネルギーの変動をなくせばその場所からは何も動かなくなる。つまり、あらゆる攻撃が届かない。


いろいろと制限が多いのだが、その空間さえ固定すればあらゆるもの、それこそ、大津波でさえもお使用ことはなくなる。ただし、飛び越えた分とかは不可能だ。


「ちょうどよかったです。これでも第76移動隊の端くれ。あなた達を拘束します」


「こっちが下手に出れば。死ね!」


パワードスーツ部隊が撮りだしたのはエネルギーライフル。だが、そこからエネルギー弾が吐きだされるより早く、駆け抜けたエネルギーがエネルギーライフルを貫いた。


我が目を疑う男達。何故なら、都の周囲に魔力を凝縮させた球体が浮かんでいるからだ。色は白のようにも見える薄い紫。


魔術の名前で言うならフォトンランサー。純粋に自分の魔力を収束させて放つもので、飛ばしたり設置したりと様々な使い方が出来る。ただ、実力者だけならず、初心者まで誰も使わない魔術でもある。燃費が悪いのだ。


世界最高の魔力を有すると言われているアル・アジフですら戦場では使用しない。そのフォトンランサーが10ほど都の周囲に浮かんでいた。


「抵抗は止めて大人しく武器を捨ててください。さもなくば」


「どうせハッタリだ!」


一人の男が槍を取り出して都に向かって走る。それを見た都は覚悟を決めるようにして目を瞑り、そして、フォトンランサーを一気に放った。


10のフォトンランサーが放つのは純粋な魔力の弾。それが同時に一人の男に向かって放たれた。男は槍でいくつかを払うために振り回すが、槍がフォトンランサーの弾に当たった瞬間、その弾が爆発を起こした。そして。視界を塞がれた男の体にフォトンランサーが直撃する。


パワードスーツを砕かれ、体に滅多打ちにして吹っ飛ばされる。その場に降りる沈黙。そして、


「デバイス起動するの忘れてた」


そう言って都が慌ててデバイスを起動する。そして、その場にいた全員が叫んだ。


『遅いから!』


「あはははっ」


都が渇いた笑みを浮かべてさわやかな笑みを浮かべる。ちなみに、フォトンランサーに滅多打ちにされた男はビクンビクンと体を振るわせていた。


でも、都は乾いた笑みを浮かべたままフォトンランサーの数を増やす。10から20。20から30へ。

そして、全部で50ものフォトンランサーを展開する。


「どうしますか? 私はここで全てを放ってもいいのですけど」


「くっ、撤退だ撤退」


パワードスーツを着た人達が都達に背中を向けて走り出す。それを見ながら都は小さくため息をついて杖を下ろした。


「琴美、駐在所に向かいましょう。今はあそこが一番安全だと思いますから」


「道中で会う可能性があるわよ。あなたの狭間を固定する力は多数を展開できないから襲われでもしたなら」


もしかしたら撤退しただけで周囲に隠れている可能性もある。それを考えていた琴美がそう言うと、都は大丈夫という風に笑った。


瞬間移動(シュートジャンプ)を使います」


さっきまでいた地点と移動する地点を点で繋げ、その間を音速を超える速度で移動することを瞬間移動(ショートジャンプ)という。問題があるとするならそんな速度を出せる人は本当に限られているということくらいか。


瞬間移動(ショートジャンプ)というより、あなたのものは瞬間転移の方が正しいんじゃないの?」


「移動はしていますよ」


琴美が呆れたようにため息をつく。都の技を体験したことがあるからこその言葉だった。


「行きましょう。出来れば、このことを早く白川君に伝えないと」


「そうね。今、周がいない以上、何かあれば助けを求めていた方が賢明よね。それにしても、嫌な空気ね」


琴美が周囲を見渡す。都も同じように周囲を見渡すが、そのような感じはまったくしない。


でも、琴美が嘘を言っているようには見えなかった。


「わかりました。掴まっていてください」


都の言葉に琴美が都の手を握る。そして、都は杖の力を発動させた。この場所と目的地の座標を繋ぎ、その間の狭間全ての存在を無とする。それをすることで莫大なエネルギーが生まれるが、それはむしろ瞬間移動(ショートジャンプ)をするための魔力として扱う。


二人の視界に映る風景が一瞬で変わる。映った光景は、駐在所の前に広がる風景ではなく、相手のひじ打ちによって吹き飛ばされる悠聖と一人無双をしているセイバー・ルカ。そして、駐在所の入り口を守っているディアボルガ。さらには彼らと戦っている勢力。


「くっ、さすがにキツイか。召喚時間さえ稼げれば」


「援護します」


都が飛び込んだ。悠聖は都の姿を確認して固まり、敵の放った魔術をもろに直撃した。だが、持ち前の頑丈さで大怪我は負っていない。


「いっつ。何で都さんが? 今は駐在所の中に」


「私も第76移動隊です。私も戦えます」


都がフォトンランサーを展開する。その数を見た悠聖は少しだけ考えて頷いた。


「ああ。わかった。でも、このままじゃ危な、真柴昭三。何、笑っている」


悠聖が真柴昭三を睨みつけながら尋ねる。その真柴昭三は笑みを浮かべていた。まるで、自分の求めていたものが手に入ったかのように。


そして、真柴昭三の視線が都の方を向く。


「まさか、狭間の巫女までやってくるとは。このことこそ、飛んで火に入る夏の虫ですね。まさか、求めていたものの内二つも来るとは」


都は身構える。何か嫌な予感を感じて。


「さあ、戦いはここからですよ」


そして、駐在所の周囲からたくさんのパワードスーツを身に付けた人達が現れた。その手に握られているのはエネルギーライフル。そして、駐在所の入り口が開く。


それに悠聖は振り返っていた。そして、目を見開く。


「あの時のことを、何倍にも返してやるよ」


悠聖と同じクラスの仲間。だが、その手に握られているのは精霊召喚符とぐったりしている優月の姿。


「ユニゾン」


「貴様ーーーッ!!」


悠聖の叫びが周囲一帯に響き渡った。


都はそこまで強くありません。神剣が桁違いに強いだけです。ただ、世界トップレベルで通用する強さでもありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ