第百六十六話 戦場を駆ける想い
展開のノリはリリカルななのは二回目のラスボスをぼこった時の感じで。実際にそんな感じになってます。
由姫の言葉に戦闘が止まった戦場。一人の少女の想いが与えた影響。それがどこまで影響を与えていたのか。その時には誰も答えることが出来なかった。
暗闇。今いる場所を表現するならそれしかないだろう。体中の骨が悲鳴を上げて、右腕から熱い痛みがこれでもかと主張している。
生きているのが不思議なくらいの状況だ。どうして生きているのだろうか。
ダークエルフの残存エネルギーはほとんど0。0でないのはあらゆるバッテリーは全てを消費することが出来ないから。それでも、ダークエルフを起動させるにはほど遠い。
「ケホッ、ケホッ」
息苦しさを感じて咳き込む。僕は力を振り絞って救難信号を出した。誰か、気づいてくれればいいけど。
でも、これが中東の戦いが終わる始まりだとは今の僕には想像がつかなかった。
リリーナが固まったまま空に浮かぶ航空空母を見上げる。何故なら、リリーナの視界には巨大なフュリアスの姿があったからだ。名前はゲイルナイト。結城家の最終兵器。
全長は200m近くあるだろうか。まるで、箱のように収納されていた体が変形させていく。その大きさはあまりに大きすぎた。
この中で一番大きいであろうソードウルフですら22m。それの9倍近くの大きさ。
「あれが、最終兵器?」
リリーナは小さく呟きながらバスターカノンを構える。でも、あまりに距離がありすぎて放てない。もう少し近づかないと。
近くでエネルギーライフルを構えていたルーイのアストラルブレイズも同意見だった。だから、ルーイは総合的に判断して背中の翼を展開する。
「あんなものが暴れたら被害が大きくなるぞ。リリーナ、鈴。僕は前に出る。二人は援護してくれ」
その言葉にリリーナは眉をひそめた。当たらない攻撃をしても、下手をすればアストラルブレイズ自体に当たる可能性がある。
「危ないよ! それに、前に出るなら私のソードウルフか、鈴のイグジストアストラルの方が」
『アストラルブレイズが一番安全だ』
通信越しに聞こえるルーイの声にリリーナは首を傾げてしまう。それは鈴も同じだった。でも、今はそんなことで悩んでいるような状況じゃない。
鈴は背中の砲門をゲイルナイトに向ける。
「わかりました。危険だと判断したら下がってください」
『鈴!』
ルーイを心配しているリリーナの声が聞こえてくる。でも、鈴はアストラルブレイズの能力を知っているからルーイに任せる。早く倒さなければ航空空母の下敷きになった悠人の救出が遅れるから。
アストラルブレイズが飛び上がる。背中の翼を最大限まで広げて、ルーイはゲイルナイトを睨みつけた。
ゲイルナイトはすでに箱から形を変えている。全長200m以上。肩にはレールガン、いや、バスターカノンかバスターマグナムのどちらかが二つずつ両方についている。腕にはいくつものエネルギーライフルが取り付けられている。
「こんな機体を暴れさすわけにはいかない。あの日の、あの、ルブルクの悲劇を起こさせないために!」
アストラルブレイズの出力を最大限まで上昇させる。そして、エネルギーライフルではなく虎の子の兵器であるバスターライフルを取り出す。
短期間に製造出来たのは三本だけ。二本はダークエルフが握っていた。
「当たれ!」
狙い撃つのは肩の砲。バスターカノンにしよバスターマグナムにしよ、当たった時の被害は桁違いに高い。だから、肩を狙ってバスターライフルの引き金を引く。
だが、バスターライフルから放たれたエネルギー弾はゲイルナイトの表面に現れた薄い幕に弾け散った。
「なっ」
思わずルーイが絶句する。
『AEFか。んな理論上ですら超大型出力エンジン使わなきゃ出来ないものを実用化しやがって。ルーイ! バスターライフルを撃ちながら飛び回れ!』
周の言葉がルーイの耳に入る。だけど、ルーイはその言葉を頭の中で聞いていなかった。
ルーイの中で思い出しているのはとある光景。
「ふざけるな。ふざけんな!」
ルーイの怒りが爆発する。通信回線を開いたまま。
「お前らはルブルクの悲劇を繰り返すつもりかよ! あれだけで何人の人が亡くなったと思っているんだ!」
バスターライフルの引き金を引きつつ空を飛び回る。
「まだお前らは人を殺すつもりかよ! また、たくさんの人を虐殺するつもりか! ルブルクのように!」
だが、ゲイルナイトはそんなアストラルブレイズを見向きすらしない。そして、肩からエネルギー弾が放たれた。
膨大な質量のエネルギー弾。避けることも、受け止めることも難しいバスターマグナムの弾。
「第五の力『悠遠』解放!」
そう叫んだ瞬間、アストラルブレイズの翼から蒼い閃光が放たれた。あまりの光に誰もが目を合わせられず逸らした。
そして、光が晴れた先には無傷のアストラルブレイズと、肩のバスターマグナムを破壊された巨大なフュリアスの姿があった。
ルーイは息を整えながら通信回線を見る。通信はあの時からずっと開いている。作戦は整った。
「ルブルクの悲劇は繰り返させない。胸に歌姫の加護を持つ者よ! 我、歌姫親衛隊隊長ルーイ・ガリウスに続け!」
ルーイが語りかけるのはルーイと同じ音界の住人、ギガッシュ達だ。これで動かせることが出来るかはわからない。でも、今のルーイにこういうことしか出来なかった。
しかし、これが戦局を変える続きになるとはルーイはこの時点ではわからなかった。
ルーイの言葉にオレの手が汗ばむ。ルーイはたった一人で巨大なフュリアスと戦おうとしている。例え、力の差が歴然としていても。
由姫の想い。そして、ルーイの想い。この二つをこのままにしておくわけにはいかない。
「エリシア、これ以外に武装はないんだよな?」
「はい。何をするつもりですか?」
相手のバスターマグナムはまだ二つは生きている。最悪なら三つ。マテリアルライザーだと一撃で落ちる。なら、
「孝治、中村、援護を頼めるか?」
『援護か。お前はその機体で行くのか?』
「ああ。あの大きさだ。レヴァンティンじゃダメージを与えられない。それに、フュリアスがトドメを差した方がいい」
オレはマテリアルライザーで身構えた。そして、両の手にある剣を握りしめる。
全域への通信を開きながらオレは小さく息を吸い、口を開いた。
「二人の言葉を聞いた全員に伝える。今から、オレ達はあの巨大なフュリアスの破壊作業に入る。あれは、どんな形にしろ必要のないものだ。そんなものを暴れさすわけにはいかない。だから、邪魔をしないでくれ。オレ達はただ、犠牲者を一人もいないようにしたいだけなんだ!」
そして、マテリアルライザーで地面を蹴った。空中に作り出したいくつもの魔力を固めた足場を蹴ってさらに駆け上がる。
AEF。アンチエネルギーフィールド。あらゆるエネルギーの攻撃を通さない空間を作り上げる。魔術の相殺と理論は似ている。
だから、オレは全員に語りかけていた。誰かがオレ達の言葉に心を動かせることを祈って。そして、通信が入ってきた。
『これよりギガッシュ射撃部隊は親衛隊隊長を援護する』
それは戦局が変わる始まりだった。
『これよりギガッシュ射撃部隊は親衛隊隊長を援護する』
その言葉を聞いて僕は少しホッとしていた。良かったと思えているからでもあるが、僕が抜けた穴がこれで塞がったはずだ。
外がどうなっているかよくわからないけど、後は救援を待つだけ。
すると、僕の顔に光が差し込んだ。この時にようやくハッチの部分が壊れていたことに気づく。
視界の先にいるのはリマのギガッシュ、ではなく、他のギガッシュとゲイル。その手に握られているのはスラッシュナイフ。
『無事か?』
そして、聞こえてくる男の人の声。
「はい」
僕は体に力を込めるがハッチは開かない。すると、スラッシュナイフが近づいてきてハッチが切り取られた。
「ありがとうございます」
僕は痛む腕を気にしつつ周囲を見渡す。周囲にいるのは安心したように息を吐く音姫さんとリマのギガッシュ。
そして、バスターカノンを持つギガッシュが空に砲を向けている。
「何が」
その先を向くと、そこには巨大なフュリアスとそれに向かって射撃をするアストラルブレイズ。そして、巨大なフュリアスに向かってギガッシュがバスターカノンの引き金を引いている。
どういう状況かわからない。でも、あれを倒せば戦闘が終わる。そんな気がした。
せめて、ダークエルフさえ動けば。
「悠人君、動ける?」
駆けつけてきた音姫さんに尋ねられ僕は困惑混じりに頷く。
「えっ? あっ、はい。パワードスーツに異常はなさそうなので可能なはずです。でも、今は何が起きているんですか?」
「由姫ちゃんやルーイ君、そして、弟くんの言葉にみんなが動いているの。敵も味方も、あの巨大なフュリアスに向かって。だから、私もかな」
音姫さんが髪の毛を括っていた大きなリボンを解いた。そして、息を吸い込む。
「【私の言葉はこの場にいる全員に届く】」
まるで、それは言霊。言葉が空気に溶け込むように力が広がっていく。
「戦場にいる全ての人に告げます。私はこの世界の歌姫、白百合音姫です」
「音姫さん、何を」
「これが歌姫の力です」
いつの間にか僕の横にはリマの姿があった。ギガッシュに乗っていなくても大丈夫なのだろう。
音姫さんが話を続ける。
「私達はあの巨大なフュリアスの破壊作業を行っています。それを見ている皆さんに尋ねます。【あれは本当に必要なものか考えてください】。そして、皆さんが決めてください。あの兵器の存在を。【誰かを守るための兵器でないなら破壊作業を手伝ってください】。それが私の願いです」
音姫さんの言葉を解説するようにリマが話す。
「歌姫の言葉は世界が肯定します。つまり、世界に肯定される歌姫の力は神をも超えるということです。つまり、言葉の間に隠された力の言葉を聞いている人は反抗することが出来ません」
「そんなことが出来るの?」
「はい。歌姫だからです。音界でも歌姫の信頼は絶対です。特に、今の歌姫様は民衆のために必死に頑張っています。だから、音界の住人は言葉に反抗出来ない」
それはまるで強制のようなものを。音姫さんは髪の毛をリボンで括った。もしかしたら、いつもはあのリボンで力を抑えているのかもしれない。
言葉によって相手を拘束出来る能力は極めて強いのだから。
「二人共、向かおう。弟くん達、みんなが戦っている場所に」
「「はい」」
僕とリマが頷いて同時に動き出す。
もしかしたら、音姫さんやリマが必死に僕を助けるために周囲に手伝ってもらったに違いない。そうでないならゲイルまで救出作業に駆けつけていない。
だから、僕はパワードスーツの力で加速する。
戦局は完全に変わったのだから。
「今のは音姫さんの声か」
「歌姫の言霊、やな」
孝治が空高くに上がりながらゲイルナイトを睨みつけている。その横にいるのは光の姿。
すでに、ほとんどのギガッシュやゲイルがゲイルナイトに向けて砲撃を行っている。今まで戦っていたはずの敵が今は共通の敵を倒そうとしている。彼らも、このゲイルナイトの存在価値がわからないのだろう。それは孝治も同じだった。ただ、ゲイルナイトの味方をしているゲイルもいる。何か理由があるのだろう。
周だって孝治と同じように言うはずだ。いや、孝治よりも論理的かもしれない。
フュリアスが存在することは孝治にとっては少し喜ばしいことだ。戦力が増えるからではなく、救助活動での行動範囲が上がる。孝治達の特殊能力持ちがひたすら動き回らなければならない場所ではなくなる。そして、たくさんの人がなくなる。
「だから、ここで倒す」
周囲に誰もいないことを確認する。この剣はほとんど知られない方がいい。そう孝治は感じているから。
「そう。今はみんなが総攻撃しているからAEFを展開している相手は動けない。それに、あの巨大なフュリアスを守ろうとしている勢力も厄介やな」
このまま弾膜が薄くなり、AEFが消えた瞬間にバスターマグナムでも撃たれたら大惨事になる。だから、その前に破壊する。
「落とすのは任したで。うちはあくまで」
光がレーヴァテインを構える。そして、一本のレーヴァテインを投影した。弾膜を張れる光が投影した一本の槍。それは純粋なエネルギーの塊。
「レヴァンティンと系列を同じとするレーヴァテイン。今ここに全ての力を開放せよ。終焉の業火を持って全てを焼き尽くす力となせ!」
そして、投影されたレーヴァテインが放たれた。放たれたレーヴァテインはまっすぐゲイルナイトに向かい、そして、AEFを破砕しながら右肩を砕いた。その瞬間にマテリアルライザーが左腕に剣を突き刺しながら駆け下りる。
これで、両腕を破壊した。
「貴様の運命、見えた!」
孝治が弓に運命を矢の代わりとして装填する。そして、弦を引いた。
狙いは巨大なフュリアスの胴体じゃない。背中に突き出している何か。ブースターかエンジン機関か。どちらでもいい。孝治はそれを打ち抜くのだから。
「これで終わりだ」
黒の閃光が一瞬にして駆け抜けた。その閃光が背中のパーツを粉々に砕く。再展開したAEFと共に。
孝治は満足そうに少しだけ笑みを浮かべて掌を空に向けた。手の中に戻ってくる運命。
「後は。お前たちの仕事だ」
突然の高所からの砲撃にルーイは空を見上げていた。でも、そこに映っているのは人。やはり、この世界の人達はフュリアスの天敵が多い。そして、天才的なフュリアスのパイロットだっている。
それらを思い出し、ルーイは小さく笑った。
最初にここに来たのはイグジストアストラルの存在を調べに来たから。そして、悠人や周達と出会った。力を持ちながら戦おうとせず、守るために動く彼らにルーイは惹かれたと言っていい。だから、悠人達に力を貸すことにした。
「メリルも許してくれるよな。さあ、これで終わらせる」
『させるか!』
バスターライフルを構えたルーイに跳びかかるゲイル。だが、そのゲイルは横から跳んできた大量のエネルギー弾にハチの巣にされた。迫りくるゲイルの群れを阻むようにイグジストアストラルが道を塞ぐ。
『行って! そして、あなたの役目を果たして!』
「すまん」
アストラルブレイズの背中を最大まで展開してエネルギーをバスターライフルに送り続ける。そして、チャージが最大になった。本来なら40%の出力で撃つものだが、これくらいの余剰分はあっていい。
『この機体は、我らの悲願を成就するためのものだ!』
ゲイルナイトとの射線上に盾を持つゲイルが飛び出してきた。このままでは破壊できない。
『何が悲願かな!? 人殺しの理由をそんなものに変えるのはダメだよ!』
そのゲイルに地上からソードウルフがバスターカノンでそのゲイルを狙い撃とうとする。
『小娘にはわからぬわ! 失った物の悲しみを。失った時の苦しさを!』
『あなた一人だけが幸せじゃないと思うな!』
バスターカノンがゲイルを貫く。そして、射線上に何の障害物もなくなっていた。
『誰だって、12歳の子供でも、考えられないくらい不幸な生い立ちをした人がいる。でも! その人は笑って楽しく暮らしているんだから!!』
矢継ぎ早に放たれたバスターカノンがゲイルナイトに残っていたバスターマグナムを貫いた。ルーイはみんなの援護に感謝しつつ、バスターライフルを両手で構える。
「もう、悲劇は繰り返させない」
そして、バスターライフルの引き金を引いた。
巨大なエネルギー弾がバスターライフルの砲身を内部から破壊しつつ吐きだされた。そして、ゲイルナイトの胴体部分を貫き、爆発する。
「周。後は君達の仕事だ」
ルーイは最後に残った航空空母を見上げながら満足そうに頷いた。
次で中東の戦いは終わります。