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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第百六十五話 戦場に響く想い

どうしてこうなった

亜紗と由姫の二人が同時に動いた。由姫が前に出ながら亜紗が回り込むように動く。もちろん、敵もバカではないから回り込まれないように亜紗に数人向かい合う。その瞬間、亜紗が後ろに下がった。


その反応に思考が動くが、パワードスーツの動きが微かに遅くなる。


「やっぱり」


由姫は小さく呟きながら真っ正面からパワードスーツの群れに突っ込んだ。勢いそのものを乗せた正拳突き。もちろん、それは通常でもかなりの威力を発揮するが、相手はパワードスーツ。


例え、フュリアスが魔力攻撃に弱くても物理衝撃には強いようにパワードスーツも並みの攻撃には通用しない。


だが、それは普通の武術であることが前提だ。八陣八叉に普通は存在しない。


由姫の正拳突きがパワードスーツに当たった瞬間、まるでバネによって跳ね返ったようにパワードスーツが吹き飛んだ。


由姫が小さく息を吐く。


「タイミングが少し違う。思考の動きにパワードスーツの動きが追いついていない」


悠人の場合は反応した瞬間にスラスターを吹かして加速することで思考の動きに無理やりパワードスーツをついて行かせている。だけど、そんな神業が出来るのは悠人ぐらいだろう。


亜紗も同じように考えていたらしく、由姫が後ろに下がると横まで移動してきた。


『私が相手を崩す。そこに由姫が飛び込んで』


「わかりました」


亜紗は矛神の斬撃を上限の三回利用している。だから、全てを斬り裂く斬撃は使えない。刀を使う性質上、パワードスーツ相手では折れる可能性だってある。対する由姫はいくらでも攻撃を使用出来る。しかも、その威力はフュリアスを吹き飛ばすほど。そうなると、攻撃の要は由姫だ。


亜紗が魔術を発動させる。発生させたのはいくつもの風の刃。パワードスーツ部隊は防御魔術をすかさず展開するが、その瞬間には亜紗が走り込んでいた。


風の刃と同じ速度、いや、それ以上早く刀を握りしめながら斬りかかる。それに反応することはパワードスーツには出来なかった。


亜紗の刀がパワードスーツ部隊に斬り裂いていく。正確に、パワードスーツ部隊に楔を打ち込んだ。


「下がってください!」


そこに由姫が弾丸のように飛び込んだ。ナックルを身につけた左腕を握りしめ、床を踏みしめながら斜めに振り下ろす。


パワードスーツにぶつかったナックルはパワードスーツを砕き、中にいた人の骨を折り吹き飛ばした。


何人かのパワードスーツが巻き込まれて転倒する。だが、由姫は止まらない。振り下ろした体勢のまま前に出て棒立ちとなっているパワードスーツの一人の胸に肘を叩き込んだ。パワードスーツが砕かれ破砕する。


普通ならここで止まるが、由姫は全く止まらなかった。周囲のパワードスーツ部隊の位置を確認した瞬間、素早くしゃがみ込んで足を払しながらその場で手をついて回転する。


払えた数は3。でも、たった三人だけでも今の由姫は十分だった。


由姫は一回転して手をついたまま逆立ちの体勢に入りつつ、足を勢いよく回した。回した足が足を払ったパワードスーツの人達を蹴り飛ばし、吹き飛ばす。たくさんのパワードスーツを巻き込みながら。


「ふっ」


由姫は小さく息を吐いて手に力を込めて腕の力だけで飛び上がり、床に着地する。


今の技は三つの攻撃を連続させたものだ。本来、八陣八叉の概念には連続攻撃というものはない。単発の威力が桁違いに高いから。だが、由姫は白百合の基本を知っている。連続攻撃の重要性を。


「イグジストアストラル、マテリアルライザーに加え、八陣八叉。どこまで私を貶したら気が済むのだ?」


結城家当主が顔を怒りに染めて歪めながら二人を睨みつけている。


結城家当主が怒っているのは外の様子を映したスクリーンだろう。そこに映っているのはマテリアルライザーで襲いかかってくるゲイルやギガッシュを簡単に返り討ちしている姿。


数が少なくなったからか、イグジストアストラルが前に出て、アストラルブレイズとソードウルフに楓が援護している姿も見える。そして、獅子奮迅の働きでフュリアス部隊を倒しつつ向かってくる音姫。その後ろから援護しているリマのギガッシュ。


「ようやく、イグジストアストラルとアル・アジフが手に入ったというのに。今まで育てた恩を忘れた娘が!」


「見捨てられて当然ですよ」


怒り狂っている結城家当主に向かって由姫が冷静に話しかける。


「あなたは自分の娘を娘として見ていなかった。イグジストアストラルのパイロットとして見ていた。でも、私達はイグジストアストラルのパイロットとして鈴は見ない。鈴は鈴だから。悠人は必ずそう言うから」


『人を、人の思いを簡単に踏みにじろうとするからこういう目に合う。自業自得』


結城家当主は二人の言葉に食ってかかった。


「貴様らもだ! 機械と素人の分際で我らの聖戦の邪魔をする貴様ら! この聖戦によって世界は救われるのだよ。世界は救われる。我々の手によって」


「誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うこと。あなたのその思いは間違っています。世界を救うために犠牲になっていい人がいるなら、あなた方のやろうとしていることはただの人殺し! 聖戦でも何でもない! 力で押さえつけるだけの戦いです!」


「で?」


結城家当主の言葉に由姫も亜紗も絶句した。まるで、由姫の言葉に、お前はバカか、とでも言うような言葉。


結城家当主が目を見開き、ニヤリと笑みを浮かべる。


「『GF』や『ES』だってそうだ。力の下に世界を守っている。その勢力と我々が交代するだけ。他に何の理由がある? ちょっとした犠牲で世界を守れるなら、それはそれで得だよ得。特に、生きる意味を見いだせていない奴らを使えばな。社会のゴミを。世界のために死ぬんだ。そいつらもその方が幸せだろ?」


まるで、自分の言うことに何の疑いも持っていない言い方。周がどんな人も守らないといけないという考え方の真逆。


「ゴミが消えれば社会は回る。無駄なお金がなくなりスムーズな循環が行われる。普通の人が楽をしている人達を恨むこともなくなる。世界が平和になっていくんだ。何のおかしな点がある? 今のどの政策よりも素晴らしいじゃないか」


「あなたは、立場の低い人達を戦わせ、あなた達自身はそれを眺めているだけだと言うのですか?」


由姫の拳に力が籠もる。


「そうだよ。普通の人は普通の暮らしをする権利がある。ゴミはゴミのようになればいい。ここにいる皆は同士だよ。何もしないのに変革だけを叫び、過激な行動で普通の人達を殺すゴミを憎む人達。そして、普通の人になろうとする気高きゴミ達。我々が世界を手にすれば、君のような言葉が戦うことはない。素晴らしい世界」


「そんな腐ったような世界に何の価値があるんですか!」


由姫は知っている。ゴミのように扱われる辛さを。そして、何もしないんじゃない。何も出来ない悔しさを。


第76移動隊の中でも一番劣等感を浴びていた由姫だから結城家当主の言葉に苛立ちを隠せなかった。


「何もしないんじゃない。力がないから何も出来ないから変革を叫ぶだけしか出来ない人もいる。過激な行動を取る人達だって、そうすれば世界が変わると信じているから行動する。確かに、テロ行為は許せない。でも、それを仕向けているのが世間でありあなた達ではないのですか!」


「ほざけ! 我々に何の罪が」


「あなた達は困っている人達に手を差し伸べましたか? 困っている人達を助けようと動きましたか? どうして変革を訴えているか考えたことはありますか? ただ、見て見ぬ振りをして、彼らを追い詰めていたのがあなた達だと自覚しなさい!」


「小娘に何がわかる! 平和な日本でゴミが少ない日本にいて何がわかるというのだ!」


「私は白百合の絞りカスと言われた。白百合の中で異質な存在。困った時も助けてもらえず、恵まれた環境にいたお姉ちゃんを恨んだこともあった。でも、そんな私を助けてくれた人がいる。お兄ちゃんは私を助けたとは思っていないけど、私という存在はお兄ちゃんに助けられた。お兄ちゃんは、両親が死に、妹が意識不明の重体になり、自分のせいだとただ生きているだけだった。そんなお兄ちゃんを見て私は思ったから。私と似ている。そして、手を伸ばせば助けられるかもしれないって。私は、お兄ちゃんを助けて、助けられた。お兄ちゃんがいたから、お兄ちゃんの痛みを私が知ろうとしたから。だから、私はお兄ちゃんのそばにいる。お兄ちゃんが掲げる理想の『誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うことだ』を叶えたいから。この世に死んでいい命なんてない。ここにいるみんなだって死にたくないはず。だから、私は戦う。お兄ちゃんのように手加減は出来ない。けど、いつか、お兄ちゃんの理想に近づくと信じて」


言い切った由姫を待っていたのは静寂だった。誰も、亜紗も、結城家当主も、パワードスーツ部隊も誰も動かない。いや、動いていないのはここだけじゃない。スクリーンの中もだ。


ゲイルがエネルギーライフルをアストラルブレイズに突きつけたまま固まり、狙われているアストラルブレイズはエネルギーライフルを構えたまま動きを止めている。


ソードウルフやイグジストアストラルはどちらも砲を構えたまま停止しているし、ギガッシュはバスターカノンの引き金に指をかけたまま停止している。


マテリアルライザーに至っては対艦剣を避けたままの体勢で固まっていた。由姫が周囲を見渡している。


「もしかして、周囲に放送を流していました?」


由姫の言葉に結城家当主が頷いた。戦闘が止まっているのは由姫の言葉が全員の耳に入ったから。


由姫の顔が真っ赤に染まる。もちろん、恥ずかしさで。


「あうあうあう、亜紗さん、私何か変なことを言ってました?」


由姫が振り返りつつ涙目になりながら亜紗を見る。亜紗は小さく溜息をついてスケッチブックを開いた。


『内容は一部支離滅裂。何が言いたいかわからない時があった』


「あう」


由姫の涙が大きくなる。でも、亜紗は笑みを浮かべてさらにスケッチブックを捲った。


『でも、由姫の思いが伝わった。由姫がどれだけ周さんを思っているかも。そして、自分が経験したから誰をも救おうと目指す由姫の思いが』


「勢いで言った部分もありますし、それに、私なんて力はあまりありませんから」


『胸を張っていい。むしろ、胸を張らないと周さんの言葉が嘘になる。あれだけ言ったのだから、由姫は胸を張らないと』


「そう、ですね」


由姫は覚悟を決めて振り返り、結城家当主を睨みつけた。


「もう、降参してください。無益な戦いはもう」


「止まれないのだよ。君のような思いを受け取ったとしても、もう、我々は動き出している。ゲイルナイトを出せ! イグジストアストラルとマテリアルライザーを一網打尽にしろ」


結城家当主が引きつった笑みを浮かべて由姫を見る。


「もう、止められないのだよ」

最初はガチガチの戦闘話にするつもりが、いつの間にか由姫の一人劇場に。内容が話している内容が少し支離滅裂になるのはまだ子供だからです。

というか、最近主人公達の年齢を忘れてきているような気も。


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