第百六十三話 運命の担い手
孝治のターン。戦闘能力はある意味無茶苦茶かと。
「そんな運命、この剣が断ち切って見せる!」
リバースゼロを孝治が展開する。何か嫌な予感と共に駆けつけてみれば、ちょうど、光がバスターカノンの一斉射撃を受けるところだった。だから、孝治は隠すことなく黒の剣の力で全てのバスターカノンを薙ぎ払ったのだ。
黒の剣の先が周囲に向けられる。
「光、行けるな?」
「うん。やけど、今の力は?」
「詮索は後だ。今は」
孝治が黒の剣を握り締めると同時に孝治が一気に加速した。すれ違いざまに黒の剣がゲイルを両断する。そんな孝治に狙いを付けるギガッシュのバスターカノン。
孝治をそれを一瞥して弓を取り出した。そして、黒の剣を矢の代わりに装填する。
「駆け抜けろ!」
黒の閃光が迸った。弓から放たれた黒の剣は衝撃波を撒き散らしながら航空空母の上にいたギガッシュ全てを呑みこみ弧を描きながら上昇する。そして、孝治が腕を横に振ると飛んで行ったはずの黒の剣がその手の中に収まっていた。
「断ち切れ」
弓を直し、黒の剣を振り切る。たったそれだけで空に浮かぶゲイルやギガッシュごと航空空母を半ばまで断ち切った。それと同時に航空空母の後方を巨大なエネルギー弾が貫通する。
普通なら考えられないくらいの切れ味。それを孝治は普通に成し遂げている。
「ふう。さて」
その場で停滞した孝治はポーチからエネルギーバッテリーを取り出して黒の剣についていたエネルギーバッテリーを交換する。その間に好機と思ったのか、ゲイルやギガッシュがエネルギー弾を放つが、その全ての衝撃波はリバースゼロによって吸収されていた。
「さて」
落下する航空空母をしり目に孝治は黒の剣を振り上げる。狙いは他の航空空母。今の状況では航空空母を空に残しておけばいろいろと厄介になるはずだ。それに、制空権を取っていた方が確実に勝てる。
周達が乗っている航空空母はいいとして、他の航空空母は二機。一機は今落ちたから、狙う二機をすっ具に落とす。
「今から航空空母を落とす。地上にいる奴らは退避しろ」
すぐさま孝治は味方全員に一方的な通信を送る。その間の孝治を守っているのは『胡蝶炎舞』を従えて『炎熱蝶々』によって空を駆け回る光。
光の凶悪な弾膜によってフュリアスの大半は攻撃が孝治に届いていない。もっとも、届いたとしてもリバースゼロによって吸収されるのだが。
ゲイルの一機が光の弾膜を抜けて対艦剣を手にしつつ飛びかかってくる。その体はもうボロボロだが、その心意気だけは評価してもいいだろう。
孝治は黒の剣を構えた。
「そうだな、ここに来たお前にだけ名乗ってやろう」
黒の剣を無造作に振る。たったそれだけでぶつかり合った対艦剣はスパッと心地よく斬れた。まるで、バターの様に。
「『運命の担い手』。それが俺の隠された本当の異名だ」
ゲイルの体を黒の剣が両断する。そして、地上をすぐに見て、小さく頷いていた。
「この剣の前に断ち切れぬものはない」
そして、無造作の一閃。今の孝治のはたったそれだけでよかった。たったそれだけで航空空母の一つが凄まじい衝撃と共にひしゃげ両断される。孝治はすぐさまバッテリーを交換した。そして、もう一閃。
残った航空空母が同じよう両断される。様々な部品、フュリアス、そして、人の姿を撒き散らしながら航空空母は落下する。
これが孝治の戦い方だった。周が不殺の戦い方なら、孝治は殲滅の戦い方。敵に対しては容赦はしない。もちろん、降参した相手なら何もしないが、味方が危険になる状況や、敵地での戦闘では人を殺すことに何のためらいもない。
バッテリーを交換しながら周囲を見渡すと、フュリアスの大半がそこに突っ立ったままだった。当り前だろう。今、空に上がっているのは孝治と光だけだと言うのに、その二人に空にあるフュリアスや航空空母の大半を墜とされた。それはフュリアスを扱っている彼らからすれば信じられないものだろう。
「まだやるか? やるなら容赦はしない?」
孝治が周囲に聞こえるように言う。出来れば降参して欲しいところだが、相手がそんなことをするわけがなく、ゲイルがふたたびエネルギー弾を放ち、ギガッシュがそれぞれの装備にあったことをやり始める。
穏健派本拠地近くではイグジストアストラルやソードウルフ、アストラルブレイズが楓と共に闘っているが劣勢だ。あまりに戦力差がありすぎる。
「これが戦場か」
いつ見てもやりきれないものがある。孝治だって好きで人を殺しているわけではない。最大の被害を与えて相手を降参させる。それで味方の被害を少なくできるならいい。でも、周はどちらの被害もできるだけ少なく、相手を降参させるという無茶苦茶な方法を取る。
そんな周の顔を思い浮かべ、孝治は弓を構えた。
「相手の切り札を破壊しても、まだ終わらないか。終わってくれればありがたいものを。だが、今はそうは言ってられないな」
周囲に向かって矢を放ちながら孝治は小さくつぶやく。
地上にいるフュリアス部隊を一閃で斬り裂きながら突き進む音姫。それを援護するように肩のレールガンを放ちながら盾と対艦剣で強引に突き進むリマのギガッシュ。
いくつもの光のレーザーを放ちながら時折、『スターゲイザー』系列の収束砲を放ち跡形もなく十発させている楓。その傍で背中の砲台を全て跳ねあげてひたすら狙い撃ってをしている鈴のイグジストアストラル。
右肩のみとなったレールガンを撃ちながら両手のエネルギーライフルで地上と空中を縦横無尽に踊るルーイのアストラルブレイズ。変形を上手く利用しながら突撃と射撃を使い分けてみんなを援護しているリリーナのソードウルフ。
悠人の姿だけが見当たらない。どこに行ったのだろうか? もしかしたら穏健派本拠地でバッテリー交換をしているのかもしれない。
今は勝っているとはいえ、相手の数が多い。いつ、フュリアスのエネルギーが切れるかわからない。
「仕方ないか。光、この場は任せていいか?」
「いいで。だいぶこの子にも慣れてきたからな」
そう言って光は新たなデバイスに触っている。それは光の戦闘の弱点を不安に思った孝治が周に相談して出来上がったもの。散々からかわれたが、この姿を見るだけで満足できる。これなら、少しは安心できる。
「無理はするな」
「わかってる。孝治こそ、あれを使うんやろ?」
「ああ。さすがに、今の状況ではあれを使わないと誰かがやられる可能性がある。そうなる前に、後悔しないように」
自分の手に握る黒い剣をしっかり握りしめる孝治。そんな孝治を見ながら光は頷き、そして、孝治を抱きしめた。
「大丈夫やで。うちは大丈夫や。だから、孝治の戦い、見せてやり!」
「ああ」
孝治が空を飛翔する。自分の最速を使って主戦場となりつつある穏健派本拠地近くに最速で向かう。すると、視界の中でアストラルブレイズの残ったレールガンがゲイルの対艦剣によって斬り飛ばされた。そのゲイルを人型のソードウルフが背後から斬り裂いてアストラルブレイズは後ろに下がる。
そこに押し寄せるギガッシュの群れ。ソードウルフはすばやく獣型に変形して背中のバスターライフルをブースターに換装する。そして、一気に加速した。押し寄せてきたギガッシュの間を駆け抜ける。展開した対艦刀がギガッシュの群れを余すことなく切り裂いていた。すかさず人型に変形して後ろに下がるが、ブースターにエネルギー弾が直撃してそれをパージしている。
だんだん押されてきた。こちらの武装が破壊されるにつれてだんだん劣勢になって行く。このままでは音姫やリマが駆け付ける頃にはイグジストアストラルだけになっているかもしれない。
「調子は大丈夫か?」
孝治が握っている黒い剣に話しかける。すると、黒い剣の柄が微かに光ったような気がした。それを確認した孝治が満足そうに頷く。
「ならば、行こう」
孝治が大きく息を吸い込む。そして、黒の剣を額に付けた。
「我が剣『運命』よ。俺に力を貸せ」
黒い剣の柄が発行する。
運命。それは、アル・アジフが探しているオーバーテクノロジーの武器。
孝治は手に持つ運命を振り回した。たったそれだけで周囲にいた飛んでいるフュリアスの大半が爆発する。そう、爆発していた。
本来、フュリアスは爆発しない。魔力エネルギーを使用しているから爆発する要素がないのだ。でも、爆発するときは、出力エンジンが予想外のエネルギーを扱うか受けるかのどちらか。今回は後者だった。
「戦いは、ここからだ」
運命の性能は強力を通り越して凶悪です。