第百六十二話 中村光
周の幼馴染というレアポジションながらほとんど活躍していなかった人物を少しピックアップさせてみました。ただ、火力が上がってしまいましたけど。
音姫の光輝がゲイルを斬り裂いた。その背後から狙うゲイルをリマのギガッシュが装備するレールガンが貫く。
そんな中、光は空高くに上がっていた。理由はいくつかあるが、最大の理由はとあるものを見つけたからだろう。
「やっぱりやな」
光が小さく呟き、レーヴァテインを構える。
光が見ているのは戦闘風景ではない。地面でもない。空中にある微かな揺らぎだ。
ほんの微かに空間が揺れているのを見つけたからだ。音姫に伝えて確認してみると、揺らぎをいくつも見つけた。
「孝治?」
光は孝治との通信を開く。すぐさま通信は繋がり孝治の声が聞こえた。
『何かあったのか?』
「うん。揺らぎがある。まるで、屈折がうまくできていないような」
光の言葉に孝治が微かに動揺したのが通信越しでもわかった。ただ、孝治は光の視線の先で普通に戦っている。
光は周囲を見渡した。光学迷彩のシステムを知っているからこそ、今の光は空に上がって周囲を見渡している。
周囲に確認だ来た揺らぎは八か所。いや、少し離れた個所を見れば十か所以上だ。
「レーヴァテイン、この周囲で戦闘している全員に通信回線を」
デバイスに指示を出しながら光自身もデバイスの操作を行う。通信機器を繋げて回線を開く。
『空中に敵勢力。数は不明。敵の位置は』
言葉を繋げようとした。だけど、それよりも早く光の体を襲う衝撃。吹き飛ばされそうになりながら光は必死に『炎熱蝶々』の力で姿勢を制御する。
光の体に直撃したのではない。光の体をかすったのだ。左腕に痛みがあるが利き腕は右なので戦闘にほとんど支障はない。
デバイスから通信機器を外し、レーヴァテインを構える。だけど、周囲に姿はない。
一体どこから。
そう思った瞬間、光の体をまた衝撃が襲った。今度は背中。でも、今度向かってきたものをはっきりと見ることが出来た。
フュリアスの放つエネルギー弾だ。つまり、周囲にフュリアスが姿を隠している。光学迷彩中は攻撃と防御が出来ないとルーイから光は聞いているから瞬間的に姿を現しているのだろう。
せめて、光学迷彩を解くことが出来れば。
「あっ」
光は小さくつぶやいた。ルーイから言われた光学迷彩の注意点を思い出したからだ。
光学迷彩はリアルタイムに周囲の光景と違和感なく擬態することが出来るが、その時に起きる光の透過や屈折は反応しきれないもの、特に、雨や雪などが降っていれば使用できない。そして、とある現象が起きていても処理が追い付かず使用できなかったはず。
光はレーヴァテインを構える。その現象を起こすには膨大な熱量が必要だ。
「うちの本領、発揮と行こうか!」
作り出すは大量のレーヴァテインのコピー。
世の中には射撃型で世界に名を轟かす人もいる。有名なのはリュリエル・カグラや花畑孝治。そして、イギリスのエリオットだろう。
でも、射撃型でも、超高火力の弾膜を作り出しつつ一人で絨毯爆撃が出来るのは中村光ただ一人。それは、フュリアスに対して凄まじいメリットとなりえる。
「弾膜ならだれにも負けへん。ゲームにもな!」
全方位に放たれるレーヴァテイン。それと同時に何体かの盾持ちのゲイルが姿を現した。レーヴァテインがゲイルの持つ盾に直撃して炎を散らす。でも、受け止められることは気にしない。気にしなくてはいけないのは当たらないこと。
時折、『炎熱蝶々』による炎弾を撒き散らしながら周囲を確認する。そして、タイミングが揃った。
熱量操作を超広域で行う。簡単に言うなら、上空の層に冷たい空気を。自分より下の層に戦闘で発生した熱量を集中させる。膨大な爆発と炎弾の発射により出来あがっていた熱量を使用すれば、こんな魔術は簡単だった。
揺らぎがさらに大きくなる。蜃気楼の条件を満たしたのだ。この状況ではデバイス制御による光学迷彩はただの揺らぎのみの存在となる。つまり、ただの的。
ただ、揺らぎの数が余りに多すぎる。思っていた以上に敵の数がいる。通信を開こうにも隙が見当たらない。
すると、地上に極太の光線が駆け抜けていた。あのような技は見たことがないが、誰が放っているのかは光にはわかる。それと同時に敵に生まれる動揺。
この隙を逃してはいけない。
光は一気に加速した。『炎熱蝶々』の力を最大限まで利用して空を駆け回る。
大量のレーヴァテインコピーと炎弾を周囲に正確に撒き散らす。揺らぎを貫かれ、光学迷彩がなくなりながら落下するゲイルもいれば、光学迷彩を解いて避けようとするゲイルもいる。
光はそれら全てを確認しながら空中を駆け回る。だが、光の目からも他人の目から見てもだんだん囲まれているのがわかった。何機かのゲイルが撃ち落とされながらも、他のゲイルが次第に光を囲んでいる。もしかしたら、光の弱点に気付いたのかもしれない。でも、今はそれでもいい。
これからやろうとしているのは今までの弱点をどうにかするもの。周に作ってもらった特殊デバイスを取り出す。
素人の作品だからか容量一杯にまで一つの性能しか入れられていない。そかも、初期のデバイスの方が容量は大きいはずだ。でも、孝治と周の二人が考えた光専用のデバイス。
「『胡蝶炎舞』発動」
その瞬間、光の周囲に炎が舞った。いや、炎の蝶々が舞った。
周が考えたものが独自の移動で術者をサポートする特殊誘導弾。ただ、その数が半端ない。約200。炎の蝶々が周囲を舞っている。ただし、光の背中で赤々と燃えている『炎熱蝶々』は少し弱まっているようにも見えるが。
囲まれたらどうしようもない近接が少し苦手な光のために周と孝治が開発したデバイス。『胡蝶炎舞』のために全ての機能を割いているが、その分、使い勝手はいい。
「ほな、行くで!」
蝶が舞った。光の周囲を飛んでいた炎の蝶々が空に舞ったのだ。そして、フュリアスに襲いかかる。本来なら周囲に纏わせて近接戦闘の補助に使うのだが、これにはこういう風な使い方もある。
蝶々がフュリアスに当たった瞬間、炎を撒き散らして爆発する。それは魔力のこもった爆発なのでフュリアスがあっという間に戦闘不能に陥って行く。
一つ一つの大した威力はなく、生身に対してはあまり威力を出さない。ちょっとした火傷を大量に作り出すということも起こせるが。ただ、魔術に対してとことん弱いフュリアスに関してなら違う。ちょっとした爆発でも一瞬にして部品が壊れ、戦闘不能に陥ることだってある。
大火力の魔術攻撃が可能なレーヴァテイン。魔力が尽きるまで無尽蔵に近い炎弾を作り出すことが可能な『炎熱蝶々』。小さな魔力爆発を行える『胡蝶炎舞』。
それらを従える光の姿は、まさにフュリアスキラーと言うに相応しい力だった。
光を囲んでいた包囲が徐々に綻びを出していく。圧倒的火力の前にゲイルが撃ち落とされているからだ。さらに、光は縦横無尽に飛びまわるため狙いを付けることが難しい。
だが、どれだけ有利に進んでいる戦場でも、戦局が一気に変わることがある。
光の動きが止まった。何故なら、光よりも下の空に航空空母が急に現れたからだ。数は3。そして、こちらにバスターカノンを向けているギガッシュの姿。その数20。全ての砲の向きが光に向いている。
そして、光に向かってバスターカノンが放たれた。
避けられない。そして、防御することもできない。
膨大なエネルギーの塊は光を殺そうと襲いかかり、そして、黒い斬撃がすべてを呑みこんだ。
「無事だな」
その言葉を着た瞬間、死にかけたからか涙が出てくる。目の前にいる一番大好きな人の姿を見ながら、光は頷いた。
孝治が背中にある漆黒の翼を大きく広げ黒の剣を両手で握った。
「貴様らは形勢逆転だと思っているが勘違いするな」
孝治の声が響き渡る。
「そんな運命、この剣が断ち切って見せる!」
次回は孝治を活躍させようと思っています。音姫と同じ副隊長の孝治。言わさせてもらいますが、全てを開放した本気の孝治は準本気の音姫と同じ実力です。