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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第百五十七話 イグジストアストラル

これから平日に書き上げるペースが速くなります。授業中に書いていくので。

僕はダークエルフの各接続を確認する。この装備を使うのは初めてだからだ。模擬戦や訓練を含めて完全にぶっつけ本番の装備。


ダークエルフの元からあるFBDシステムは近距離戦闘用のシステム。防御力を極限まで削り、機動力と出力を格段に上げることで極めて高い戦闘能力を発揮する。だが、それでは接近戦を長時間行うことが出来ない。だからこそのこの装備。


周さんが考えたCCSシステム。接近戦用のシステム。本当ならダークエルフの設計思想に無かったものだが、イグジストアストラルとの戦闘で砲撃戦は確実に分が悪い。だから、接近戦仕様にしなければならない。


だから、今のダークエルフはダークエルフCCと言うべきかな。


小型スラスターを追加でかなりの数をつけ、肩には投擲用自立型のブーメラン。前の太ももには救助活動時に瓦礫を切り裂くために開発されたスラッシュナイフが内蔵されている。背中には翼のように広がる補助エンジンドライブ。これは、FBDシステム時にも使用することが出来る。


最大の特徴は背中につけられた二本の対艦刀だろう。ただ、形は少し対艦剣に近く、強度の高い対艦刀のようだ。


アストラルブレイズも周さんが設計した追加装備を身につけている。ギガッシュもだ。


周さんっていったい何者なのだろうか?


『緊張しているか?』


ダークエルフの隅々を点検していると、無線を通じて同じようにコクピット待機のルーイが話しかけてきた。


「うん。今回の装備は初めてだから」


『そうか。確かに、アストラルブレイズもこういう追加装備は初めてだ。SLRシステムCCSシステムと言ったか。まさか、中距離戦に強いアストラルブレイズがあらゆる距離からの戦闘を可能とするとはな』


「ルーイには今回の作戦の中間だから。僕とリリーナがイグジストアストラルと相対している最中に他のフュリアスの相手もしければならないし」


『そうだな。でも、僕達は負けるわけにはいかない。アストラルブレイズもギガッシュも、この世界の中では最新の中の最新だ。それに、僕とリマは長年タッグを組んでいたから連携はばっちりだ』


「安心できるよ」


これで、後ろを気にすることなくイグジストアストラルを戦える。


リリーナのソードウルフもだけど、ダークエルフの出力機関は周さんが作り出したもの。その能力は長年使っているからわかるけど、どうして周さんはここまですごいのかな?


『しかし、新機体新武装を持ち出してもイグジストアストラルに勝てる可能性は五分。何か秘策はあるか?』


「ない。そんなものはないよ。イグジストアストラルとは真っ正面からぶつかり合うしかない。あの砲撃の中から接近して強力な一撃を叩き込む。それが出来るかどうか」


後は、鈴と話せるかどうかで思いっきり変わっていくはずだ。鈴と話して説得出来ればいいけど。


僕は小さく息を吐いた。よくよく考えてみると不可能に近いくらい難しいような気がする。


「周さんの作った武装を信じて僕は鈴を連れ戻す。上手く行くかどうかなんて考えない。作戦通りに出来なくてもどうにかする。ただ、それだけかな」


『そういう考え、僕は嫌いじゃないよ。アストラルブレイズで出来る限り抑えてみる。だけど、限界はあるよ』


わかっている。アストラルブレイズの特殊武装ならいくらか緩和出来るはずだ。でも、アストラルブレイズは他のフュリアスとの戦いもあるから援護は期待出来ない。


期待は出来なくてもイグジストアストラルをどうにかする最悪の作戦はある。


「後1時間ほどか」


今のトレーラーならどう頑張っても1時間はかかると見ていいだろう。アル・アジフさんが大丈夫か心配だけど。


『僕も最終点検に入』


その瞬間、ルーイの言葉を遮るようにセンサーに反応があった。僕もルーイも慌てて機体を起動させる。


ダークエルフの横たわっている体を起き上がらせたそこには、一機のフュリアスがいた。


蒼鉛のフュリアス、イグジストアストラル。


『これ以上、来ないで』


そして、僕の耳に泣きそうな声の鈴の言葉が聞こえてくる。


『もう、誰も殺したくないよ』


泣きそうではなく確実に泣いているのだろう。人を殺す行為は脳裏から焼き付いて離れないから。


『殺したくないから、来ないで』


「嫌だ」


だから、僕ははっきりと答えていた。こんな鈴は見ていられない。


「絶対に嫌だ。僕は鈴を助ける。誰が、何と言おうと」


『っつ、迷惑だよ。迷惑だから来ないで!』


「鈴が拒否しても、僕は無理やり連れて帰る! 僕は強情だよ。だから、どんな手段だって使う」


僕の頭の中には鈴との思い出があった。ほんの半月ほどでも楽しかった思い出。


初めて出来た同い年の友達。そんな友達が目の前で泣いているのに見捨てれるわけがない。


「僕には、僕達には君が必要だ!」


僕も鈴もリリーナも、多分、周さん達も何か欠けた人達だろう。僕は親からの愛を、リリーナは殺すことの躊躇いを、鈴は見捨てられることの怖さを。


「鈴が世界から見捨てられても、僕は鈴のことを信じ続ける! だから、僕は!」


『悠人にはわからない! 絶対にわからないよ! 見捨てられる怖さを。最初から道具としてした見られていない悠人とは違う! 私は、見捨てられたくない。もう、一人は嫌だよ』


一瞬、過去を思い出すが、僕は首を横に振って振り払った。


「一人じゃない。僕がいる。リリーナもいる。鈴は一人なんかじゃない。だから」


僕は叫んだ。


「こっちに来い! 鈴!」


『行きたいよ。本当は何もかも捨てて悠人のところに行きたいよ! でも、私は、家族に見捨てられるのはもう嫌なの!』


イグジストアストラルの背中の翼が跳ね上がり、こちらに砲を向ける。トレーラーの上とはいえすぐには動けない。


やられる、そう思った瞬間にまるで足を刈り取られたようにイグジストアストラルが横に倒れた。


『きゃっ』


カメラがイグジストアストラルの足元にいる人物を捉える。由姫さんだ。由姫さんが回し蹴りでイグジストアストラルの足を払ったようだ。


わけがわからないけどね。


『悠人! 今だ!』


トレーラーの荷台を蹴り、僕は対艦刀を手に取ろうとした。だが、それより早く僕の勘が告げる。


このまま突っ込まないようにスラスターを逆噴射させ後退する。それと同時にダークエルフが向かおうとした場所にエネルギー弾が通り抜けた。


極太のエネルギー弾ということはバスターカノンか。


『鈴さん。大祭が始まりますよ。今すぐ下がってください』


その女性の声を聞いた瞬間、僕の中で何かが沸騰したのがわかった。


対艦刀を掴み抜き放つ。


『でも』


『大丈夫です。食い止める手段はありますから』


周囲に黄土色のフュリアスが現れる。数は約30。


『行きなさい。あなたの力は大祭に必要です』


『・・・・・・はい』


イグジストアストラルがこちらに背中を向けて飛び立つ。僕はそれに手を伸ばさなかった。何故なら、バスターカノンを持つ黄土色のフュリアスを睨みつけていたから。


『無粋な乱入者さん。あなた達に大祭の参加資格はありません。ですから、ここで死になさい』


『残念ながら、それは出来ない相談だよ』


スピーカーから音姫さんの声が聞こえてくる。動こうとした僕を止めるように。


思考が少し冷静になる。冷静になってもかなり沸騰しているが。


『私達には向かう場所がある。道を塞ぐなら倒すまで』


『あなた達に出来ますか? このフュリアス部隊を倒すことが』


その瞬間、視界の隅で黄土色のフュリアスが激しく動いたのがわかった。カメラがそちらを向く。そこには、吹き飛ばされた黄土色のフュリアスが、縦に並んでいた黄土色のフュリアスとぶつかりながら共に吹き飛ぶ姿だった。


誰もが動きを止めて無言になる。それほど非常識な光景。でも、どこかで見たことがある。


『一体、何が』


その言葉が聞こえた瞬間、ダークエルフの出力を最大にして一気に加速させる。


相手が気づいたバスターカノンの引き金に手がかかるが、とっさに放ったブーメランがバスターカノンの砲身を叩き、そらした。


バスターカノンからエネルギーの奔流が放たれるが、ダークエルフをかすることなく大空に消え去った。


すかさず対艦刀を振り払い、バスターカノンを半ばから断ち切る。


『くっ、小癪な』


微かに加わる焦りの声。その声を聞きながら僕は対艦刀を突き出そうとした。


『化け物のくせに』


その言葉に対艦刀の切っ先が外れる。黄土色のフュリアスの右腕を軽く削りながらダークエルフの腕が掴まれた。


『化け物の分際で私の前に現れるな!』


ダークエルフが激しく揺れる。どうやら蹴り飛ばされたらしい。でも、僕の中では完全に沸騰していた。理性という鎖が。


「あなたが、あなたがいるから、僕は!」


すぐさまスラスターで姿勢を戻し、両肩のブーメランを放った。ブーメランは黄土色のフュリアスを強く叩く。


「あなただけは、僕が殺す!」


『悠人!』


ルーイの声が聞こえたと思った瞬間、凄まじい衝撃と共にダークエルフが地面に倒れ込んだ。


『バカ野郎! 今の仕事はそれじゃないだろ!』


アストラルブレイズが僕の横に降り立ちながら肩に取り付けられたレールガンから収束エネルギー弾を前にいる黄土色のフュリアスに向かって放つ。


アストラルブレイズには肩に長距離射撃用のレールガンと腰に近接戦闘用の対艦刀。そして、背中に補助ブースターが身につけられている。


『目的を間違えるな!』


「あいつだけは僕が殺さないとダメなんだ!」


わかっている。わかっていても、あの黄土色のフュリアスだけは僕が殺さないといけない。


『そうだとしても』


アストラルブレイズが周囲の黄土色のフュリアスに向かってエネルギー弾を放ちまくるが、相手は回避に専念しているためなかなか当たらない。


時折、不思議に吹き飛んで他の黄土色のフュリアスを巻き込みながら転がるが、完全に囲まれている。


『誰も死なせたくないなら、お前のやるべきことをしろ!』


『準備は整ったよ』


音姫さんの言葉に周囲を見渡した。そこにあるのは肩にレールガン、腰にバスターカノンを二本抱えたギガッシュと、宙に浮かぶ大量の槍。


『ここは私と光ちゃん、リマさんと食い止める。だから、三人はイグジストアストラルを追いかけて』


「でも」


『あなたが助けたい本当の人は誰? 復讐じゃなく、助けたい人を思い浮かべて!』


音姫さんの言葉に僕は鈴の顔を思い浮かべた。そして、周さんや鈴に言ったことを。


ダークエルフにエネルギー弾が向かってくる。だけど、それは音姫さんによって叩き落とされた。


『ルーイ、由姫さん、行こう!』


『ああ』


『はい』


由姫さんの声がルーイのコクピットから聞こえてくる。どうやらアストラルブレイズに乗せているみたいだ。


確かに、最高速度ならフュリアスが速い、けど、由姫さんはどうなんだろ?


『化け物のくせに逃げるのですか?』


その声に僕は立ち止まり、振り返る。


「あなたは僕が殺すよ。母さん」


それだけ言い、イグジストアストラルが向かった方向へと追いかけるように地面を蹴った。


背中のブースターを起動させて走りながら一気に加速する。


『悠人、今』


「うん。あの人は僕の実の母。でも、僕を化け物呼ばわりする人だよ」


『だから、あんな風になったんだな』


我を忘れて斬りかかってしまう。でも、今は鈴を連れ戻す。僕の復讐は後でもいい。


「いらない子と言われていたからね。だから」


『私や兄さんと同じですね』


由姫さんの言葉に僕は目を見張っていた。


『私は白百合の絞りカスと言われ続けていましたから。兄さんも海道の落ちこぼれだと。私も兄さんも、優秀すぎる姉や妹がいましたから』


由姫さんの場合は音姫さんだろう。でも、周さんに妹がいたのは初耳だ。家族全員が巻き込まれて失ったと聞いていたのに。


『兄さんは努力をして強くなり、私は強くなろうと八陣八叉の門を叩いた。悠人だってフュリアスのパイロットとしての才能があります。誰が何を言おうと、私を私として見てくれる人が大事なのではないでしょうか』


「自分を、自分として?」


『はい。自分を自分としてです。悠人にとってリリーナさんや鈴ですね。大切だからこそ、大事にしてください。兄さんのように、後悔しないために』


「はい」


今登っている小さな丘を越えれば穏健派の本拠地が見える。そこから10分ほどまだかかるけど。


アストラルブレイズより先にダークエルフが丘に登った。そこには、黒い煙を上げている穏健派本拠地。そして、その上に浮いている箱。あれが、航空空母?


『悠人! 止まるな!』


僕の横をアストラルブレイズが駆け抜ける。それを追いかけて僕はダークエルフを駆る。


戦闘は未だに行われており、カメラにはリリーナのソードウルフが黄土色のフュリアス相対している。そして、イグジストアストラルは、


「鈴!」


僕は回線を開いて叫んでいた。航空空母の上にいるイグジストアストラルに向かって全力で。


『これ以上、近づくなら、撃ちます』


鈴の声がコクピットの中に響く。でも、その声は震えていた。


拡大したカメラにはこちらに全ての砲を向けるイグジストアストラルの姿。本当だったら近づきたくない。でも、今は、


「嫌だ! 僕は鈴がいないとダメなんだ。僕はリリーナや鈴と共に過ごしたい! それが、僕の我がままだ!」


FBDシステムを起動させる。本当ならこの距離でするようなものじゃないけど、僕はFBDシステムを使う。黒い装甲が外れ、白い装甲が現れる。


最大限の加速を使って一気に近づく。


『来ないで!』


イグジストアストラルから放たれるエネルギー弾。だけど、そのエネルギー弾はダークエルフが走り抜けた場所に突き刺さる。


明らかに鈴は狙っていない。だから、その隙に近づく。


『どうして近づくの? どうしてそこまで私に関わるの? もう、放っておいてよ! 私にあなたはいらない!』


「僕は言った! これは我がままだと。だから、僕の我がままに鈴を巻き込むだけだ!」


FBDシステムによって機体が一気に加速する。アストラルブレイズを置いてけぼりにする。


早く。誰よりも速く。早く。光よりも速く。


そう思った瞬間、ダークエルフが加速した、ような気がした。気づけば前に航空空母がいない。変わりにセンサーで背後に反応がある。


「なっ」


『えっ?』


ちょうど後ろにイグジストアストラルがいる。何が起きたかわからないけど、僕は素早く振り返った。


イグジストアストラルも振り返る。僕はコクピットを開いた。


「鈴! 聞いてくれ!」


僕はイグジストアストラルのコクピットがあるであろう場所に飛びついた。


「鈴の言うことはわかるよ。僕だってそうだった。親に見捨てられたくないから頑張った。結局は化け物扱いされたけど、でも、だからこそ、僕は僕を僕として見てくれる人を大切にする。アル・アジフさん、リリーナ、穏健派のみんな。周さんだってそうだ。鈴が、そこの組織は鈴を鈴として見るなら、僕は諦める。だから、答えて! 鈴がどうしたいのか。心の底からの、本当の願いを!」


『茶番だな』


鈴じゃない声と共に僕は嫌な予感がしてそこから飛び退いた。僕がいた場所にエネルギー弾が通り抜ける。


『イグジストアストラルを君達の組織に渡すわけにはいかないのだよ』


そして、僕の体にエネルギー弾が直撃する。


砕け散る装甲。体中に走る激痛。その中で、僕は手を伸ばしていた。イグジストアストラルに向かって、イグジストアストラルの中にいる鈴に向かって。


でも、視界が霞む。もう、ダメなのかな?


『悠人!』


落ちていた僕の体が止まった。そして、僕はゆっくり目を開けた。


そこにいたのは涙を流す鈴の姿。コクピットから出て来た鈴に僕は抱きしめられた。

「バカ、バカ、バカ!」


「鈴」


「私なんかのために悠人が死ぬなんて嫌だよ。嫌だからね!」


僕は笑っていた。まだ、戦いの途中だけど、鈴が僕の腕の中に戻ってきてくれた。


「大丈夫だよ。僕は死なない」


僕の指の動きに合わせてダークエルフが航空空母の上からこちらに向かってくる。


「だから、一緒に終わらせよう」

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