第十五話 都築都
ヒロインの一人が登場しますが、思いっきり暴走もします。今の話ではメインではありません。
「ここがメインストリートよ」
オレ達がようやく狭間市の中央についた時、琴美が誇らしげに自分の街のメインストリートを指した。
確かに現代的な見事な建築物が道を作っている。まだ閉まっているので店名しかわからないが、様々な店があるようだ。
人口から考えても豪華だ。
「悪くはないな。ここなら色々遊べそうだし。周隊長もそう思うだろ?」
「遊ぶ? 遊ぶ隙があるなら勉強したらどうだ?」
オレがそう返すと悠聖は小さく溜息をついた。
何かマズいことを言っただろうか?
「アル・アジフさん、どういうこと?」
「我に聞くな」
横でも琴美とアル・アジフがひそひそと会話をしている。おかしいことを言ったつもりはないんだけどな。
オレは小さく息を吐いて歩き出した。
「さっさと『GF』の詰め所に向かおう。地域部隊が今いなくても、朝六時から学生『GF』は受付開始だしな」
「そうだな。もうすぐ七時だ。普通なら開いているだろう。白鳥、詰め所はどこにある?」
「よくよく考えてみると、私の方が年上よね。どうして敬語すら使われないの?」
「我を見て不思議に思わぬか?」
アル・アジフの年齢は不詳だが、確実にオレらより生きているのは確か。だけど、評議会に対して爺というオレらがそんなことをするわけがない。
まあ、それでよく変な目で見られるけど。
「まあ、いいわ。詰め所なら」
「琴美!」
急に女の子の大きな声が聞こえた。
オレ達が一斉に振り返ると、そこには駆け寄ってくる少女の姿が。そして、少女は琴美に抱きついた。
「心配したのです。どこに行っていたのですか?」
「ちょっと、駅前にね。都、私、巫女を頑張ってみるから」
「頑張ってください。私も手伝いますから」
そこでようやく二人が離れた。
「この方た」
少女の言葉が『た』で止まる。視線は完全にオレに釘付けだ。
「巫女を辞退しようか考えていた私を説得してくれたの。その代わりに街の案内を」
「サインください!」
いつの間にか取り出した色紙とペンを差し出してくる少女。しかも、正座になっているし。早技にもほどがある。
「サインって、オレはジャニーズかよ」
「海道周様自身をそんな腐った集団と同じにしないでください。あなた様は桁が違います」
この子、日本の人口の十分の一を敵に回しそうな言葉を平然と吐いたよな。そんな度胸はオレにはない。
むしろ聞きたいのは様付けだけどな。
「そこまでして欲しいものかよ。というか、見ただけでよくわかったよな」
「それはもう。花畑孝治、白川悠聖と並ぶ海道周様の三人は至高のメンバーです。花畑孝治は少し無愛想ながら優しく、白川悠聖は告白されても傷つけないように優しく断り、周様は太陽のように笑います。そんな三人を見分けられないという失態は、この都築都がするわけがありません」
あなたが何を言いたいのか理解することが出来ません。
ジャニーズを追いかける女の子達ってこんな感じなんだ。
「私は、私は幸せ者です。生きている間に周様と出会うことが出来るなんて」
「なあ、周隊長」
「頼むから何も言わないでくれ」
オレは小さく溜息をついていた。
「えっと、君は誰?」
「自己紹介がまだでしたね。私は都築都。市長都築春夫の孫です。周様はやはり『GF』の正規部隊として来たのですね?」
「そこまで話が回っているのか。オレ達第76移動隊は今日から夏休み終わりまでの約半年間、ここに駐在することになった。よろしく頼む」
オレが握手しようと手を出すと、都築都はその手を両手で掴んできた。
「よろしくお願いします」
「都は本当に嬉しそうね」
「当たり前です。周様が目の前にいるのですよ。あの憧れの周様が。それにしても、何故、周様達が来たのですか?」
「わからないんだよな。アル・アジフは何か知らないか?」
アル・アジフも知らないだろうけど、とりあえずオレは尋ねてみることにした。
すると、アル・アジフはキョトンとして、
「移動隊という初めての部隊だからではないかの?」
「んな単純な理由で世論から批判を浴びそうな部隊を出すか? ただでさえ、オレ達は学生なんだぜ。いくら音姉や孝治が強いと言っても限度が」
「一番強いのはあなた」
唐突に、本当に前触れもなくクロノス・ガイアが口を開いた。こんな声をしていたんだ。一瞬、クロノス・ガイアが言ったのかわからなかったぞ。
クロノス・ガイアはいつの間にか一冊の本を取り出している。
「あなたの本気に、ギルバート・R・フェルデ以外は勝てない」
「どうしてそう思う?」
「私はあなたの本気の真実を語っただけ。これは事実」
クロノス・ガイアの言葉にオレは思わず身構えてしまう。
「クロノス・ガイア、止めるのじゃ。そなたは周より年上じゃろ。挑発するのは止めるのじゃ」
「年上?」
悠聖が信じられないようなものを見る目で言った。ちなみにオレはあまりの言葉に呆然として何も言えないでいる。孝治にいたっては呼吸をすることを忘れている。
「何歳?」
「今年で14」
「四年後合法ろ、ふべらっ」
今しがた、オレ達に追いついてきた浩平が孝治と悠聖によって頭を挟まれるように回し蹴りを喰らっていた。というか、よく死なないよな。二人とも手加減していないのか?
「ちっ、丈夫な奴だ」
「孝治。オレは本気で蹴っているんだけど、頭蓋骨にひびが入る感触すらないんだけど」
浩平の物理防御力が極めて高いということね。
「周様、私も今、14歳です」
「オレより年上なら様は止めてくれ」
「お断りします!」
そんなに力強く言うなんて。見た目が清楚なだけにギャップがある意味すごいんだよな。
「周様は周様です。これは何物にも代えがたいものなのでお聞きすることはできません。周様以上の御方などおられるのでしょうか。いや、この世のどこにも存在しません」
「なあ、孝治。助けてくれ」
「無理だ」
答えは予想していたけど即答されるのは堪えるよな。手を握られたままずっとこういう言葉を言われ続けるのは結構きつい。
というか、オレは手に握力すら入れていないのに掴まれたままだ。誰かどうにかしてくれ。
暴走させすぎましたが、まあ、こんなキャラです。