第百五十三話 中東の地
中東。
それはヨーロッパから見て名付けられた地名だ。ヨーロッパを中心とするならそういうことはよくわかる。日本でもそういう呼び方は定着しているが、一部の文献にはこういう文字が躍ってもいる。
世界の中心。
本当に古い文献しかないが、そこが始まりの土地であり、滅びの土地でもあると言われているからだ。
その中東にオレ達は降り立っていた。『GF』専用の旅客機を使って最速で中東に向かったオレ達は途中でインドに一回寄港したものの、敵の妨害を受けることなく到着できた。アル・アジフが持たせると言った一週間どころか二日も経たずに到着できた。
『マスター、緊急連絡が』
精神感応にレヴァンティンが語りかけてくる。オレは微かに頷いて内容を促した。
『カヴィール砂漠東側にフュリアスの姿なし、だそうです。今、『GF』、『ES』双方が力を合わせて捜索していますが』
もし、航空空母を使っているなら見つかるわけがない。航空空母は元々、ここの世界のものじゃないのだから。
『そうですね。それと、もう一つ。心して聞いてください』
オレは一回だけ深呼吸をした。
『アル・アジフとの連絡回線が途絶えました』
その言葉にオレは一瞬視界が真っ暗になったような気がした。でも、オレの体が倒れることを、意識を失うことを拒否する。見た目はほんの微かに揺れただけだろう。
オレは苦々しく息を吐いてもう一回深呼吸をした。
時間は?
『つい先ほど、ここに着いてしばらくしたらです。ここから目的地まで約6時間。最悪の場合は』
考えない。今はただ、全速力で向かうだけ。
「第76移動隊集合って、誰もいないし」
オレがレヴァンティンと会話をしている間に全員がどこかに行っていた。いや、空港内部にある雑貨店か。何を買うつもりなのだろうか?
すると、由姫が真っ先に走って帰ってきた。その手に握られているのはここの詳しい地図。
「兄さん、通信が終わりましたか?」
「・・・気づいていたのか?」
「バレていないと思っているのは兄さんだけですよ。ここら辺の土地には疎いものですから、みんなで兄さんが通信を終わるまでに地図を買っておこうと。ちなみに、孝治さんは通訳です」
孝治って地味に語学は堪能だからな。オレは日本語と英語、それに、ドイツ語がペラペラだけど、孝治はそれを遥かに超える量の言語を簡単に話す。オレだってここの地域の人達とは少し片言だけど話せるけどな。
「通信の内容は?」
「嫌な内容ととてつもなく嫌な内容の二つがあるが?」
「アル・アジフさんとの連絡が途絶えたんですね」
多分、この場にいる誰もが覚悟していたことだろう。イグジストアストラルの戦闘能力は極めて高いというレベルを超えている。おそらく、アル・アジフですら勝負にならない。淡い期待はあったのだが。
もう少し早く気づいていたなら。
「兄さん、アル・アジフさんはきっと生きています。必ず、絶対に」
「どうしてそう思う?」
「女の勘です」
由姫は何かを隠しているように笑った。その笑みを見ながらオレも少しだけ笑みを浮かべる。
さて、これからどうするか考えないとな。最速で向かうにはあまりに遠すぎる。だけど、普通で言ったら間に合わないかもしれない。
地図を買って戻ってくる面々を見る。一番いい手段はこうするしかないな。
「弟くん、話は終わった?」
「気づいているならいいけど。緊急連絡だ。アル・アジフとの回線が切れた。理由は不明だ」
悠人の顔が少しだけ青くなる。でも、その悠人の手をリリーナが握りしめた。それに悠人が握り返す。
「これから、部隊を二つに分ける。一つはオレを部隊長とする部隊、一つは音姉を部隊長とする部隊。オレを部隊長とする部隊は最速で目的地に向かう」
「一ついいか?」
ここら辺りの地理にとても詳しい孝治が手を挙げる。
「最速で行くには距離がありすぎる。どうするつもりだ?」
「まあ、ソードウルフのスペックを見ていて気づいたんだけどな、ソードウルフはSK2-V1を出力として使っているんだ。幸運なことにな」
「幸運なこと?」
孝治だけじゃなく悠人やリリーナまでも首を傾げている。リリーナはソードウルフのパイロットだから知っていなくてはおかしいのだが。
「可変機構。ソードウルフの出力エンジンには二つの機構がある。一つは最大出力を出すための直列機構。もう一つが最低限の機動性と残量エネルギーを回復するために空気中の魔力粒子をエネルギーに変える機関を使用する並列機構」
その言葉を聞いて悠人とルーイ、リマは目を見開いて驚いていた。出発するまで、リリーナがソードウルフに慣れる訓練を一緒にしていたのだから知っていてもおかしくないけどな。
まあ、そんな永久機関みたいな役割をフュリアスに搭載出来るサイズで実現出来るなんて思ってもいなかったけど。
「オレの部隊には亜紗、孝治、リリーナとソードウルフ。残りはトレーラーなどを使用して追いかけて欲しい」
「スペックだけを見て周さんはよく気づいたよね。どうして?」
悠人の質問にオレは当たり前のように答えた。
「SKシリーズの製作者だから」
場一帯に沈黙が降りる。あれ? オレは何か変なことを言った?
「SKシリーズを、周さんが?」
「そうだけど、気づかなかったのか? SKはオレのイニシャルだ。まあ、特許料を極限まで低くしているけど」
『周さんは無駄に多才』
「無駄ってなんだよ」
さすがにそれは傷つく。理論上は可能だなと思ったことを設計図として考えたら出来上がっていくだけだというのに。
「亜紗さんの言う通りだと思います。兄さんが一番苦手なのは戦うことじゃありませんか?」
『言えてるかも』
「お前らな」
それは考えたことがあるけど、今は気にしないでおこう。
「実際に周は器用に器用貧乏だ。その中で飛び抜けているのが機器関連の開発というだけだしな」
孝治がいくつかのデバイスを中村に渡している。確か、中村専用デバイスとして制作の基礎設計を依頼された奴だな。半月前に。
システムとしては近距離戦闘補助用のものだったか。
「準備は出来た」
『私は大丈夫』
オレ達がリリーナを見る。リリーナは悠人と何かを話していた。話している内容はよくわからないけど、悠人の言葉にリリーナが頷いている。
そして、二人は離れた。
「大丈夫。私は大丈夫。あっ、そうだ。三人に聞きたいけど、乗り物酔いは大丈夫かな?」
ソードウルフは四足歩行で走ります。その上に乗るということは大変ですよ。