第百五十一話 新たな剣
最近、狭間の鬼に関することを書けていないことに気づきました。後半の前編は最後の方しか関わり合いがありませんから完全に。
イグジストアストラル。絶対防御の機体。
僕は空を見つめながら鈴の乗る機体を思った。散弾をいくら叩き込んで破壊することのできない装甲。そして、砲数の多い射撃。全てを回避したとしても、その防御力の前ではほとんどの武装が無意味。
追加パックを備え付けるという手もあるけど、あの防御力の前ではどんな攻撃も無意味。FBDシステムで接近してもそこまで。どうすれば。
「考え事?」
リリーナの声に僕は振り返った。服を着替えたリリーナが僕に近寄ってくる。その後ろにいるのはルーイとリマ。
「そうだね。鈴を、いや、イグジストアストラルをどうすればいか考えていて」
「イグジストアストラルは絶対防御の機体。その頑丈な防御力を抜くことはできないよ」
「そうだよね。あれ? そう言えば、リリーナはどうしてイグジストアストラルを知っていたの?」
よく考えてみればそうだ。イグジストアストラルの情報はリリーナから聞いている。でも、こんな期待が元からあるなら言ってくれたらいいのに。
「笑わないで聞いてくれる?」
リリーナが僕の隣に座る。
「知っているから。私が、イグジストアストラルの戦闘能力と、後に登場する第七世代型のとあるフュリアスに乗ることを」
「知っている? 未来を知っているの?」
僕の疑問にリリーナは首を横に振る。未来を知っているというわけじゃないらしい。
「私が知っているのは、未来じゃない。そう、思う。もし、これが未来なら、絶対にいや」
リリーナはそう言って口を閉ざした。リリーナがどんな未来を知っているかわからないけど、僕は少し気になることが出来た。
「もしかして、ギガッシュを操れたのは」
「うん。ギガッシュの操作系統は第七世代と似ているから。癖は少し強いけど。だから、いきなりでも私は扱えた。コクピットに座ったらね、思い出した。操作の仕方や、戦場の動き方。生身じゃなくて、フュリアスで。まるで、経験したように。そう思ったら、いろいろなことが頭の中に出てきた。イグジストアストラルもその一つ」
リリーナの体が震えている。僕は、リリーナの肩をそっと抱き寄せた。
経験したことがないのに経験したようにわかるのは恐怖しかないはずだ。僕だってそうだ。僕の力も使ったことがなくても効果は頭の中で知っていた。その時の自分への恐怖は今でも覚えている。
「悠人、怖いよ。私が、私じゃなくなるような気がして。いつか、私じゃない誰かが私を乗っ取るんじゃないかって」
「リリーナ。僕からはこんなことしか言えないけど、聞いて」
リリーナが泣きそうになりながらこちらを向く。僕は笑みを浮かべてリリーナの頭を撫でた。
「僕は今のリリーナを知っている。優しくて、誰よりも他人を思って、でも、自分の中で何かを必死に隠しているリリーナを。だから、リリーナが変わったなら僕はリリーナを取り戻したい。そう、思えるから」
「悠人。うん、ありがとう。ありがとう」
リリーナが僕の胸に顔を当てる。それを受け入れながら僕はリリーナの背中を撫でてやった。優しく、でも、確かに。
「ルーイやリマは?」
「これからのことだ。僕達の残っているフュリアスは二機だけ。僕のアストラルブレイズと砲撃戦仕様のギガッシュ。リマは万能型のギガッシュが得意だからな。だから、リリーナにギガッシュを貸したいと思っている」
「どういうこと?」
確かにリリーナはギガッシュの操作に慣れていると言ってもいい。どんな理由であれ、所見のはずのギガッシュで普通に戦闘をこなしていたからだ。そうだとしても、ルーイ達がリリーナにギガッシュを貸し与える理由にはならない。
だから、僕は尋ねた。真意を探るために。
「結城家には僕達が技術提供をしている。だから、君の第三世代を超える機体、第四、第五世代が運用される可能性が高い。そうなると不慣れな機体で出れば落ちる確率が必然的に高くなってくる。さらに、幸運というべきか、リリーナは僕やリマよりも砲撃型の適性がある。むしろ、砲撃型の扱いを慣れているというべきか。だから、僕は危険を承知でリリーナに貸し出したいと思っている」
「危険だよ。リリーナが死ぬかもしれない。そんなことに僕が許可を出せるわけが」
「私は、乗る」
僕の胸の中でリリーナがはっきり声を出す。その声は決意に満ちた声。僕の反論を封じる声でもあった。
「危険なことでも私は乗りたい。鈴を助けたい。だから、乗らして。ギガッシュに」
「おっ、ちょうどいいところにいたな」
その声に僕達は同時に振り向いていた。完全に空気を読まずに浩平さんがやってくる。その後ろにいる男性は誰だろう? どこかで見たことがあるけど。
リリーナの顔を見ると、開いた口が塞がらなくなっていた。それほどに大物なのかな?
「浩平、こいつらが」
「はい。真柴悠人、リリーナ・エルベルム、ルーイ・ガリウス、リマ・アルカトラ。作戦参加予定のパイロット達です」
ルーイとリマが説明を求めるような眼で僕を見てくるが、僕も意味がわかっておらず首をかしげるだけだ。すると、男性がゆっくり近づいてきた。
そして、リリーナを見る。
「久しぶりだな。一年振りか?」
「どうして、ここにいるのさ?」
「いやー、アル・アジフに試作機の完成を見てもらおうと思ってな。『ES』がフュリアスを完成させていたから、どの勢力も我先にと開発をしているフュリアス。その、『GF』第一号を見せようかと思って」
その言葉と共に僕達の近くにトレーラーが止まった。大きさはかなり大きい。横倒しにしたダークエルフと装備一式を詰め込めるくらいの大きさだ。
男性が手を上げるのと同時にトレーラーの荷台が開く。そこにいたのは四足歩行の機体。だけど、細部を見る限り変形でも可能な形だ。そして、その機体の側面には対艦剣がデフォルトで備え付けられている。
背中についているのはエネルギーライフルを大きくしたようなもの。
「GFF-01ソードウルフ。『ES』のフュリアスにある武器取り出し機能はさすがに作れなかったけど、機動性と攻撃力を重点的に高めた機体だ。スペック上の数値はまだ出せていないけど」
男性が書類をルーイに渡す。ルーイはその書類を見て目を見開いて驚いていた。
「最大出力と最大速度がアストラルブレイズよりも上? この世界でも初期作品なのにこのスペックって」
「背中についているのはバスターカノンの小型版ですね。エネルギー収束率から考えてバスターカノンに匹敵する火力じゃないかと。ですが、この出力では機体の機動時間が極端に狭まる可能性があるのでは?」
「普通はな。ちょっと、新しい出力エンジンに最新のものを使用してみたんだ。SK2-V1高出力持続型ドライブ機関」
SKの名を持つエンジンは世界的に有名だから僕も知っている。『GF』にいる誰かが設計するものだけど、特許を取得していてもその料金は極めて安く、SKシリーズ自体も燃費がかなりいいため、出力エンジンのシェアで90%ほどを独占している。
市場に出回っているのがF13タイプだったいから、V1という新式ということでもある。
「テストした時だけで4時間補給なしにテストの持続が可能だった。模擬戦闘込みでな」
「ありえない。フュリアスというよりこれは獣だ。完全に、獣だ」
「そう。あまりのスペックの高さに誰もが扱えなかったじゃじゃ馬だ。だから、アル・アジフに見せたかったんだけどな。無駄足だったな」
「私が使う」
リリーナがすくっと立ち上がった。そして、ソードウルフに近づく。
「ルーイ、リマ、申し出は嬉しいけど、私はこの機体を使いたい。この機体なら、鈴を救えると思うから」
「驚かされることばかりだ。第三世代の性能を第七世代と同等に引き上げれるパイロットがいるかと思ったら、第七世代を超える可能性のあるフュリアスが作られるとはな。僕はいい。リマ、徹夜になるぞ」
「いくらでも」
リリーナはトラックの荷台に飛び乗った。僕は慌てて立ち上がってリリーナに近づく。
「悠人、私はこの機体で悠人と一緒に戦うよ。いいかな?」
「それは僕が決めることじゃない。リリーナがそうしたいなら、僕はリリーナと共に闘うよ」
「そうだね。ありがとう」
リリーナが笑ったような気がした。ここからは表情は見えないけど、リリーナは笑っている。まるで、これからずっと付き添う相棒を見つけたかのように。
「よろしくね。私の新たな剣」
ソードウルフを持ってきた人物は時雨です。
GFF-01は『GF』が作ったフュリアスの一号機という意味です。SK2-V1はイニシャルSKの人が作った二世代目の出力エンジンです。Vのことは後に語る予定。