第百四十九話 手を取り合って
全てが氷解したというべきか。
オレは別世界から来たというルーイから今までの話を聞いていた。場所は狭間市『GF』駐在所会議室。ルーイのそばにはリマと言うオレがレヴァンティンを突きつけた少女がいる。
第76移動隊側からはオレ、孝治、亜紗の三人。『ES』穏健派からはアル・アジフの副官。
ルーイの話、そして、オレの考え。組み合わさったところに時雨から届いた緊急連絡。さらには、悠聖の報告。
全てを総合した結果、あらゆる全てが氷解した。
「なるほどね。結城家と真柴家の二つが共謀したのか。ルーイ達、えっと、歌姫の信仰があるから音界でいいか?」
「ご自由に。でも、僕はその名前でいいと思う」
「わかった。音界で見つけたゲートを通ってこっちに来たルーイ達が出会ったのが真柴昭三なんだな?」
最後の確認のためにルーイに尋ねる。ルーイはしっかり頷いた。
オレの隣にいる孝治がかなり険しい顔になっている。その気持ちはわからないでもない。
「まさか、真柴昭三が出て来るとはな」
「知り合いなのか?」
「死の商人、と言えばわかるよな?」
真柴昭三というのはまさに死の商人という言葉で全てを語り尽くせるとも言われている。
『GF』内部で危険人物とされている数少ない人だ。
「真柴昭三は商人。それも、戦争が起きれば起きるほどお金が転がり込んでくる軍事産業の商人だ。そして、真柴家自体がこう呼ばれている。『星喰い』とな」
監視が無ければ世界の全てを戦乱に呑み込む可能性がある。誰がつけたかわからないが、『GF』が牽制しなければ文字通りそうなるだろう。
「しかし、そんなことをするなら、敵対組織として捕まえれば」
ルーイが不思議そうに首を傾げるとリマが呆れたように溜息をついた。何もわかっていない奴が言うことだ。
「真柴家自体は軍事産業だけじゃなく、他のものもやっている。それに、軍事産業は無くてはならないものだ。そんな理由で捕まえれば経済自体が低下しかねない。それに、線引きが難しいんだよ。どのレベルがアウトで、どのレベルがセーフなのか」
死の商人と言っても、真柴昭三は天才的な商人というだけだ。軍事産業という点においては。死の商人だからという理由で真柴昭三を捕まえれば、連鎖的に軍事産業関係者を捕まえなければならない。
つまり、政府公認の場所を除いて軍事産業が発達しなくなる。テクノロジーの大半は軍事産業が始まりであるということを考えると、技術の停滞が発生するのは必然だろう。
「まあ、問題は真柴以外にもあるけどな」
「我ら『ES』とフュリアスの技術開発を手伝っていた結城家か」
アル・アジフの副官が深刻そうな顔で言う。雰囲気でわかるけど、この副官は舐めてかかったら痛い目に合う。
オレは頷いた。
「そう。特に結城家の令嬢結城鈴の乗るフュリアス、イグジストアストラル。アル・アジフに聞いてみたけど、一機にして難攻不落の要塞。絶対的な防御力に30にも及ぶ砲の一斉射撃。多分、結城家には他にもフュリアスがあるだろうから、正規部隊でも犠牲を覚悟しないとな」
「確かに、僕のアストラルブレイズの収束エネルギーライフルやギガッシュのバスターカノン、悠人のフュリアスによる対艦刀が全く通用しなかった。どうやって倒すか未だに不明だな」
「そういうことだ。イグジストアストラル一機で腕利き二人の猛攻を耐えた。これをどう対処するかだな」
楓と中村をぶつけるという作戦もあるが、撃ち落とされたなら一瞬で終わる。フュリアスも頼りにならないとすれば、
「オレが行くしかないか」
「君が? 何かのフュリアスに乗るのか?」
「生憎、フュリアスの操作は出来ないさ。でも、防御力が一番高いのはオレだ。だったら、オレが出ればいい」
かなり危険だから全力で反対されるだろうな。でも、これぐらいの作戦した思い浮かばない。
本当なら悠人に任せたいところだが、悠人は完全に戦意喪失を起こしている。戦場に連れて行くのは危険だ。
「問題点があるとするなら、真柴や結城がどこに向かったか。それさえわかれば簡単だけど」
オレがそう言った瞬間、会議室の入り口が大きく開いた。そこにいるのは悠人。何かを決意した悠人だ。
オレは小さく笑みを浮かべながら悠人に言う。
「今は会議中だぜ」
「周さん。イグジストアストラルと、鈴と僕を戦わせて欲しい」
「理由は?」
わかってはいるが尋ねずにはいられない。だって、悠人がやろうとすることは死ぬ危険性が極めて高い。もし、鈴が本当に裏切っているなら。
「僕は鈴を信じている。鈴は僕を受け入れてくれた。だから、僕は自らの手で鈴を救う。いや、連れ戻したい」
「連れ戻す、ね。もし、鈴が拒否したら?」
「奪い取るよ」
その解答にオレはキョトンとした。まさか、悠人からそんな言葉が返ってくるなんて。
オレがここに来る前に見た悠人は完全に立ち直れないくらいにダメージを負っていたのに。予想外というべきか、良かったというべきか。
「わかった。孝治、準備は出来ているな?」
「ああ。だが、こういう形で発揮することになるとはな」
「全くだ」
本当ならもっと別の形でしたかったのだが、相手を考えると、評議会の爺達を納得させるにはおつりが来るレベルの敵。
「第76移動隊全員に通達。移動隊権限により、あらゆる地域、国家への出動準備を」
「待て。それには国の、そうか」
アル・アジフの副官が納得したように頷いた。どうやら、どうして第76移動隊と呼ばれるほぼ中学生で構成される部隊を作り出したかに気づいたらしい。
移動隊の設立理由をようやく果たせる。
「面倒な国の許可はいらない。そのための第76移動隊だ。悠人を一時的に第76移動隊に組み込むが大丈夫か?」
「ああ。アル・アジフ殿も許可するだろう。しかし、『GF』はとんでもない部隊を作り出したものだ。それなら、どんな場所でも強大な戦力を出せる」
それが移動隊の本領だ。犯罪者などを迅速な動きで逃がさないための追跡の効率化。それを考えた場合、国家間の移動に関してはそれぞれの国家の法を超える力が必要になる。
第76移動隊はそれを体現するために作った。ほとんど中学生で構成したのは、他の手段での移動を効率化するため。そうでなければアルトを勧誘している。
「移動隊は第76移動隊以外はいらないさ。時雨もそう思っている。悠人、ルーイ。『GF』、『ES』、音界が手を取り合って戦わないと辛い可能性がある。力を貸してくれるか?」
「僕は周さんについて行くよ。周さんと一緒なら、きっと鈴を救える」
「本音を言うと、未だに君達は信用出来ない。でも、悠人の思いは僕達にもわかる。だから、僕、アストラルブレイズと、リマ、ギガッシュを君の戦力に加えて欲しい」
『GF』と『ES』、そして、新たに見つかった音界が手を取り合って戦う。前代未聞であり、ある意味ありえない。特に、音界とはさっきまで戦っていたからだ。
オレは自分の手を出した。その手の上に悠人とルーイが手を乗せる。
「オレ達の本気、見せようぜ」
「はい」
「ああ」
この時のオレはまだ知らなかった。これから起きる戦いの大きさを。そして、敵の力を。
亜紗が空気となっていますが、亜紗は護衛です。もしもの時のための護衛。
次は、どうして急に悠人がやって来たのか。周が見た悠人が違うのかを書こうかと。