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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第百四十六話 精霊というもの

オレ達が目立つように行動する。奴らの目的である音姉と一緒に。だから、頼むぞ。


オレは周隊長の言葉を思い出していた。


本来なら、孝治の方が絶対に適任なのだが、第76移動隊隊長と副隊長が出ているため残った副隊長の孝治は狭間市の市街地内部にいなければならない。


その事は周隊長が孝治にも話していた。今回の任務で動員するのは第76移動隊からは四人だけ。周隊長、音姫さん、由姫、そして、オレ。


『ES』からは悠人がフュリアスを使うらしい。まあ、オレが選ばれた理由はわかるけど。


オレは木の枝の陰から周囲を見渡した。周囲に敵の姿は見当たらない。


「いないな」


『少し待ってもらえるかな?』


オレの横にいるエルフィンが耳をすます。どうやら、風の音から近くの人を探しているらしい。


『近くにはいないよ。ただし、そう離れているわけじゃない』


「助かる。動物がいないということも気になるな。木々がオレ達を助けてくれるから助かっているけど」


『奇妙な空間が広がっている。僕はそう思うね』


「同感だ」


動物を追い払うための術式。一応、何も知らない七葉にあの森に行きたいか尋ねたら行きたくないと言った。それが、冬華と一緒でも。


オレは小さく息を吐いて木から木へと乗り移って行く。


こういう任務は得意だ。特に、オレがディアボルガ、セイバー・ルカと契約してからはよく行くようになった。


二人は精霊の中でもトップの座におり、木々や動物達などの感情が手に取るようにしてわかるからだ。今回は二人に無理を言ってここでの移動を説得してもらった。


本来なら木々が自発的に言うのだが、今回は誰もが首を縦に振らなかったらしい。一体、何があるっていうんだ?


オレは召喚したエルフィンを連れてさらに木々を跳び移っていく。


「誰か来る」


オレは小さくつぶやいてそのまま身を潜める。現れたのはパワードスーツを着た兵士が二人。悠人が身につけているようなかなり高性能なパワードスーツ。手にあるのは携帯用の小型エネルギーライフルか。100mの距離を一秒で到達できる優れもの。近くで撃たれたら回避は難しい。


「ったく、貧乏くじを引いたぜ。せっかくの大祭が始まるというのに辺境の見回りかよ。第76移動隊も『ES』も別勢力のフュリアスと戦っているから来ないっつうの」


その言葉を聞いてオレは耳を疑った。


周から聞かされた話では、ここら辺にある可能性の高い基地を発見すること。その勢力は赤いフュリアスを使う勢力。そう聞かされている。でも、下にいる兵士の話だと、それ以外の勢力がいるということになる。


周が戦っているのは別勢力のフュリアスか。なら、こいつらもフュリアスを所持しているということになる。


「そうだな。でもよ、お前が名付けた大祭もここじゃ行われないものだ。俺達はお嬢の警備。お嬢があのフュリアスで出ることにより、大祭が始まる。そう考えると、大祭は俺達と共に始まらないか?」


「おお。名案だな。まあ、来るとしたら、どこかのフリーの傭兵か、別勢力の奴らだけだ。後、何分だ?」


「ちょうど60分。楽な仕事だぜ」


二人の兵士が去っていく。後、60分で何が起きるかわからない。でも、嫌な予感しかしない。これには周も気づいていないはずだ。


「エルフィン、声を周囲に漏らさないように」


『了解したよ』


オレはデバイスに通信機器を繋げた。さらに、もうひとつの通信機器を繋げる。連絡を付けるのは全部で四ヶ所。


「緊急連絡。緊急連絡。第76移動隊副隊長花畑孝治、『GF』本部連絡室、『ES』穏健派代表アル・アジフ、『GF』日本本部連絡室。これより、一方的な緊急通信を行う。狭間市郊外に置いて謎の勢力を発見。敵の総数はわからないが、何らかのフュリアスが出る模様。後、大祭という言葉も聞いた。何らかのアクションが世界のどこかで行われる可能性がある。場所は狭間市ではない。繰り返す、狭間市ではない。ここ以外のどこかで」


「いたぞ!」


突如響き渡る声。オレは小さく舌打ちをして通信を切った。そのまま身構える。だけど、オレはまだ見つかっていなかった。パワードスーツを着た兵士がオレ達の下を走る。


オレは少しだけ呆然として木の枝を蹴った。木々はあまり音をたてないように踏ん張ってくれるがそれでも音は出てしまう。だが、下にいる兵士は気付かない。


「抵抗するな!」


「抵抗するな? それはこっちのセリフだよ」


木々の間を抜けてちょうど開いた場所に出ると、そこには見知った顔がいた。手に持つ身不相応な鎌。そして、まだ小学生にも見える小さな体。でも、その顔に浮かんでいるのはどこか小悪魔にも見える。


リリーナだ。どうしてここにいるかわからないが、二人の兵士と向かい合っているのは事実。


「ここの先に何か危険なものがあるよね? 私はそれを確認しに来たの?」


「どこから情報が漏れた。だが、お前の口を封じれば大丈夫だ。相手はたった一人」


「そう思うか?」


オレはそう声を上げながら勢いよく飛びかかった。兵士の視線がこちらに向くと同時にその顔に向かって飛び蹴りを叩き込む。まずは一人目。


「貴様!」


向けられるライフルを腕で押し上げてライフルが放つエネルギー弾を反らす。エネルギー弾は大空に消えて行った。


パワードスーツに肉弾戦は無理だ。無理だからこそ、オレは掌を押し付ける。


「吹き飛べ!」


兵士が木の葉の様に吹き飛んで木に激突した。動かないところを見ると気絶したのだろう。


オレは小さく息を吐いてデバイスを右手で触る。


「エルフィン、戻っていいよ」


『いつでも呼ばれる準備をしておくよ』


エルフィンが消える。それを確認しながらオレはリリーナに近づいた。


「すごーい。私でも2mほどしか殴り飛ばせなかっ、いったっ」


全力の拳骨をリリーナの頭上から落とす。リリーナはしゃがみ込んで涙目でオレを見上げてくる。破壊力は抜群だけど、オレには心に決めた人がいる。


「ここで何をしている?」


「何って、パパから不穏な動きがあるって聞いていたからちょうど一人だし探しに来ただけだよ。しかも、ビンゴ。絶対に何かあるよ」


「お前は待機だったはずだ。お前が気づつけば悠人と鈴が泣くぞ。というか、鈴は?」


悠人がいない以上、鈴の守りはリリーナが行うはずだ。七葉がいたとしても、リリーナよりかは弱いから確実に傍にいるはずなのに。


すると、リリーナは肩を落とした。


「鈴は家の用事。だから、一人の学校なんて寂しくて。だから、抜け出してきちゃった。てへっ」


「てへっ、じゃないだろ。ったく」


オレは呆れたようにため息をついた。でも、それと同時に何かが向かってくるのがわかる。数は4。しかも、精霊だ。


「封印の証を作る者。集え、儚き結晶より。アルネウラ!」


オレはすぐさまアルネウラを呼び出した。相手が何か分からないが、オレの最大戦力を呼び出しておけば十分に片がつく。


そして、茂みの中から飛び出す影。その姿を見たオレとアルネウラは同時に目を見開いていた。


「へえ、君は精霊召喚士か。僕と同じだね」


四体の精霊を従えるオレよりも年下の少年。その手に握られているのは精霊召喚符。でも、オレ達が驚いたのはそこじゃない。四体の精霊の方だ。


生意気な子供の姿をした風属性最上級精霊フィンブルド。


水の集合体でまるでスライムのような水属性最上級精霊アーガイル。


炎を纏う一つ目の巨人の炎属性最上級精霊タイクーン。


姿はまるでモグラだが、周囲の大地が喚起してうごめいているところを見ると、大地属性最上級精霊グレイブか。


まさか、最上級精霊を四体呼び出せる奴がいるなんてな。


「ふーん。僕の精霊達を知っているようだね。力量差はわかるかな? 君じゃ僕に太刀打ちできない。久しぶりに同じ精霊召喚師を」


「同じ? お前のような奴に精霊召喚師を名乗られるとは、精霊召喚師の名も廃れたものだな」


「何?」


オレはあくまで挑発するように言う。こいつの注意を完全にオレに向けるために。


「精霊との契約はお互いの同意が必要だ。お前の場合はその同意を取っていないんだろ。だったら、宝の持ち腐れだ。お前の精霊は気高き最上級精霊だというのに、術者がお粗末にも程遠い雑魚だなんてな」


隣にいるアルネウラはただ苦笑するだけだった。アルネウラもわかっているのだろう。相手の精霊召喚師としての力量を。


「貴様、もう一回言ってみろ? この力量差の前で」


「黙れガキ」


自分も十分にガキだがこの場はそう言うのがいいだろう。


「力量差? 精霊とまともに契約していない奴にオレとアルネウラのコンビが負けるわけがないだろ」


『悠聖、そこは少し違うと思うよ』


アルネウラがオレにだけわかるようにウインクする。


『負けるわけがない、じゃなくて、そこのお子様が私達の足元にも及ぶわけがないというべきだよ』


それはかなり酷いな。


「そうか。そこまでして死にたいようだね。お望み通り、絶対的な威力の下の殺してあげるよ! ユニゾン!」


「アルネウラ、行くぞ」


『うん』


オレとアルネウラは手を合わせた。


「『シンクロ!』」


オレ達の声が重なりアルネウラがオレの中に入ってくる感覚がある。そして、両手に握られているチャクラムの感覚。前にいるガキもユニゾンを済ませていた。


四属性の最上級精霊とのユニゾンを。


『さすがに力量差はかなり縮まっているかな?』


「余裕だな」


話しかけてくるアルネウラの言葉にオレは呆れたように返していた。その態度が癪に触ったのかガキが腕を振り上げる。その先には巨大な火の玉と氷の槍。同じタイミングで運用しない方がいいんだけどな。


「死ね」


その言葉と共に火の玉と氷の槍が放たれた。オレはそれを一瞥してゆっくり横に歩く。ガキの顔に笑みが浮かんだ。確実に殺せたと思っているのだろう。でも、向かってきた攻撃が止まると同時にガキの顔に驚愕の表情が走った。


オレとアルネウラは思わずクスッと笑ってしまう。


このガキは戦闘に関しては完全にド素人だから。どうして止まったか理解できていない以上、オレに勝つのは百年早い。


「な、何故、何故止まる。クソ精霊共が。僕に全ての力を預けることを渋りやがって。僕は最強の精霊召喚師だぞ!」


「最強? 聞いてて反吐が出る」


オレはチャクラムを構えた。


「最強の精霊召喚師ってのはな、シンクロ率100%に達した召喚師に贈られる言葉だ! 精霊と心を交わし、思いを通じてようやく手に入れれる称号。過去に存在した最強の精霊召喚師はそうだった。お前のものはただのまやかしだ!」


「僕は四体の最上級精霊を従えているんだぞ。これが最強であって他に何がある?」


「お前は勘違いしたただのガキだよ」


火の玉と氷の槍が動き出してオレの横を駆け抜けて行く。精霊は、そんない安いものじゃない。たかが一枚で契約できるような存在じゃない。


話をして、自分の夢を共に叶えてもらう仲間、いや、親友のような存在。それを、こいつは完全に勘違いしている。許せない。絶対に許せない。


「現時点での最強の精霊召喚師の実力、見せてやるよ」


オレはチャクラムを投げつけた。ガキは四つの防御を展開する。そのどれもがそれぞれ違った属性と頑固な防御力を持っていた。だけど、オレの前では完全に無力。


チャクラムは全ての防御を砕き、ガキが持っていた精霊召喚符を切り裂いた。


「死ねぇ!」


でも、性懲りもなく大量の魔術を放ってくるガキ。それに対してオレは残ったチャクラムを持った腕を横に振った。全ての攻撃が途中で止まる。


どれだけアルネウラよりも強力な精霊とユニゾンしていても、精霊とのコミュニケーションがなければ相手の弱点をもらえない。コミュニケーションを取っていたならオレはかなり苦しい戦いになっただろう。


「僕は、僕は、負けられないんだ」


戻ってきたチャクラムを受け止めんがらガキの言葉に耳を傾ける。


「僕は、強くならないといけないんだ。強く、強くなって、僕をいじめていた奴らを見返さないといけないんだ。僕が強くなって」


「お前、やっぱりバカだな」


オレはその場で勢いよく飛び上がりつつ回転しながら両手のチャクラムを投げつけた。ガキが放ったあらゆる魔術を弾き飛ばしてガキを吹き飛ばす。


「そんな力を持ってどうするつもりだ!」


「どうするって、仕返しを」


オレはチャクラムを手に取りながら一気に前に出た。


『悠聖! ダメ!』


アルネウラの声が聞こえるが、オレはそれを無視して歩を進める。


「仕返しをして全てが済むと思っているのか? 仕返しをすることで全ての関係が虐めの無かった時に戻るのか?」


「く、来るな!」


放たれた風の刃がオレの肩を浅く切り裂いた。でも、オレは堪えて前に進む。


「仕返しをすることで立場が逆転することがわからないのか?」


「逆転?」


「仕返しをすることで、お前はいじめられた側からいじめる側に逆転する。それを理解しているのか?」


「それの何が悪い!」


放たれるいくつもの魔術。それを限界の機動で出来る限り避ける。でも、全てを避け切ることはできない。いくつかは直撃して体に傷が増えて行く。


「いじめられたんだ。僕がいじめて何が」


「お前の力は、自分以外の全てを傷つけるために得た力か!? 違うだろ! 自分の身を守りたいから力を得ようとした。違うか!?」


「それは」


オレはガキの胸ぐらをつかんでそのまま壁に押し当てた。この距離で魔術を放たれたら確実に死ぬ。でも、これだけは言わせろ。


「精霊はな、お前が考えているようなちっぽけな存在じゃない。泣き、笑い、悲しみ、怒る。時には病気にもなる。風邪だって引くし普通に恋だってする。病気で死ぬことだってあるんだぞ。人となんら変わらない感情を持つ。なのに、お前は、精霊の言葉を聞こうとしないのか?」


「精霊の言葉?」


「アルネウラ、シンクロ解除」


オレの隣にアルネウラが立つ。その表情には心配と期待混ざっていた。おそらく、オレがこのガキを救うことを信じて。


『私達はね、ううん。私は、自分のマスターである悠聖に恋をしている。悠聖は昔に遠いところに言った精霊を未だに思っているから付き合ってくれないけど、悠聖は私達を友達と見てくれる。優しくしてくれる。きっと、君がみんなと話そうとすれば、みんな答えてくれるよ』


「ユニゾン、解除」


ガキの言葉と共に四体の最上級精霊がオレ達の周囲に現れる。その眼に映るのは期待の色。


ガキ、いや、少年と言うべきか。少年は震える声で周囲の精霊に話しかけた。


「僕は、間違っていたのかな?」


『間違ってねえよ。そういう手段も一つだ。でも、俺達はそんな手段を望まないぜ』


そう答えたのは風の最上級精霊のフィンブルド。その顔はやっぱり生意気なガキが笑みを浮かべた表情だ。でも、それは照れ隠しだろうな。


『ワガ。マスター、タスケルコトガ、ワレラノシメイ』


タイクーンはそう言うが、本当は指名とか関係なく間違った道を歩もうとしているなら怒りたいと思っているのが実情だろう。イグニスからタイクーンの愚痴はよく聞くからな。


「悠聖さん、僕は、どうすれば」


「自分で考えろ。そして、自分で歩け。お前はもう一人じゃない。だから」


その瞬間、何かがオレの足を貫いていた。痛みのあまり立っていられずその場に膝をつく。


「おやおや。このようなところで君のような人物と出会うとは」


振り返った先にいるのは危険人物として噂が広がっている老人だった。


名は、真柴昭三。


周囲は完全に囲まれている。パワードスーツで武装した兵士達によって。


「残念ですよ。君のような天才をこの手で殺さなければならないとは。やりなさい」


一斉にオレに向かってエネルギー弾が放たれる。だが、そのエネルギー弾は全てが風によって弾かれた。


「悠聖さんを守って。いや、守る力を、僕に」


『御意!』


精霊達の声が重なる。その声を聞いただけでわかる。少年の精霊達は喜んでいる。この命令を。


「貴様、拾った恩を忘れたか?」


真柴昭三の声が周囲に響く。でも、少年の声はそれよりもさらに大きかった。


「僕は、僕の力は、自分を、誰かを、守るための力だ!」


その言葉にオレとアルネウラは顔を見合わせて笑みを浮かべあった。


「遥か深遠より来る者。我が呼び声に答えよ。闇の帝王『ディアボルガ』! 聖なる刻印を纏いし者。光の道を指し示せ。光の剣聖『セイバー・ルカ』!」


だから、オレは持てる力を使いきる。少年の精霊達と同じ最上級精霊。セイバー・ルカろディアボルガ。その二人をオレはその場に呼び出した。


「お前らがどういうつもりでここにいるかわからないけどな、オレ達を倒せると思うなよ!」


悠聖は完全に途中からリリーナのことを忘れています。というか、自分も完全に忘れていた。

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