第百四十五話 FBDシステム
最近、文字数にかなりバラつきがあるような気が………
蒼い閃光。
視界が焼かれると同時に攻撃が飛んでくるのがわかった。方向は青いフュリアス、アストラルブレイズから。
ほとんど無意識にダークエルフを動かす。だけど、そんな動作で回避出来るわけがなかった。
装甲が抉れるような感覚が襲う。今のは確実に当てないように撃たれた。
ダークエルフの体が地面に倒れる。それと同時にエネルギーの塊がアストラルブレイズに向かって放たれた。
だが、そのエネルギーがアストラルブレイズが作り出した謎の渦に入って消え去った。あの質量を消す能力があるということは、今のままじゃ、こちらの攻撃は当たらない。
『最後の警告だよ。これ以上の戦闘は無意味だ。死にたくないなら今すぐ降りてくれ』
「周さんに頼まれたんだ」
僕はダークエルフを起き上がらせる。右足の駆動系の一部が破損しているが大丈夫だ。まだ、使える。
「死ぬ可能性があるから出来るだけ参加するなと。周さんは周さん達で解決しようとしている。でも、僕が、僕達がいるということを教えてあげないと」
駆動系の異常は右足だけ。それ以外は完全に無事だ。右足の駆動系もまだまだ大丈夫な状態でもある。
あれを使えるのはタイミング的に一回だけ。ダブルブーストを使った高速加速で距離を詰めてからにすべきだろう。
『哀れだな。そんなことのために自分の命を』
「ねえ、知ってる? この機体は僕のために作られた機体なんだよ」
僕が扱うという前提で作られた機体。つまり、僕が最大限の力を発揮出来る機体でもある。
「他のフュリアスは僕の反応速度に全くついていかない。ダークエルフもタイムラグが微かにある」
『何がいいたい?』
翼のように広がる四枚の板が大きく展開した。何が起きるかわからないけど、やるなら今だ。
「最大限の力を爆発な加速で制御するシステム。本気で行くよ」
ダークエルフをダブルブーストで一気に最高速まで加速する。体中の骨が軋みを上げるが、ここで倒れたらシステムが使えない。
『速い』
青いフュリアスがライフルを構える。距離としては十分。引き金を引いた瞬間には放たれた弾丸が一瞬で到来するだろう。
だから、僕はシステムを作動させた。
「FBDシステム(フルバーストドライブシステム)!!」
ダークエルフの体から装甲が剥がれ落ちる。黒の装甲から白の装甲まで一瞬で変わった。
FBDシステム。
ダークエルフに存在する最終システム。
機体のフレームを守るために装着していた黒の装甲をパージしながら最大出力を出すシステム。
詳しいことはわからないけれど、黒の装甲による機体重量の低下によって、ダークエルフが反応する速度の誤差はコンマ単位まで激減する。
でも、このシステムの最大の弱点が装甲の薄さ。重さが1000kgにも満たない超軽量機体で、フレームの全てを魔力含有率が極めて高いものを使っている。
黒の装甲によって守られるものがない。つまり、一撃で落ちる。
そこにあるのは装甲の最大機動に対する耐久性のみ。攻撃を余波すら受けることなく回避するための機体。
精神感応の完全相互システムとも言うべきだろう。
ダークエルフを動かす。その速度は今までよりも明らかに速い。思った通りに、いや、思った以上に機体が動く。
若干な誤差はあるが、自分が信じる操縦技術と勘を頼りにアストラルブレイズとの差を詰めた。
『いい加減にしろ!』
アストラルブレイズがライフルを構える。だけど、それに僕がとっさに投げつけた投擲用のスラッシュダガーが突き刺さる。
対艦刀を手に取りアストラルブレイズに向かう。距離はほとんどない。
『数の差で負けているのに、どうして戦う! 死ぬ気か!?』
アストラルブレイズも対艦刀を取り出して激しく打ち合った。
「アストラルブレイズを、あなたを倒せば戦いは終わる」
『通信を聞いていただろ! 長距離支援のギガッシュがこちらに狙いをつけている! 死にたくないなら投降しろ!』
「出来ないよ!」
アストラルブレイズの持つ対艦刀を空に弾き飛ばした。
アストラルブレイズが空に飛び上がると同時に視界の隅で何かが吹き飛ぶのがわかった。
飛んでいるのは赤いフュリアス。それが空中に滞空していた赤いフュリアス二機にぶつかり、速度が減衰することなく山肌にぶつかった。
一体、何が。
『何が起きているんだ? リマ、リマ。応答して』
アストラルブレイズがこちらを警戒したまま回線を開こうとする。こういう時はこちらの通信を切るべきなんだけどね。
『れでいいのか? これで通信は繋がっている?』
聞こえてきたのは周さんの声。アストラルブレイズのパイロット、ルーイが開いたのは赤いフュリアスに乗っていたリマという人のはずだ。
『繋がっています。あっ、私から言いますね。ルーイ隊長、ごめんなさい。降参しました』
『降参? 何故だ? 周囲にフュリアスの姿は無いぞ?』
確かに、残っているフュリアスがダークエルフ、アストラルブレイズに赤いフュリアスが二機ほど。ただし、赤いフュリアスはほとんど戦闘が出来ない。
残りは墜ちたから、他にフュリアスはいないはずだ。
『えっと、心して聞いてください。私のギガッシュは両腕が破壊されコクピットのハッチが切り裂かれて開かれました。他のギガッシュは、みじん切りにされたものと、蹴り飛ばされて大破です』
「『はっ?』」
僕とルーイの声が重なる。蹴り飛ばされて大破?
『フュリアスの姿は見えないが?』
驚愕に染まったルーイの声。僕が言っても同じだろう。
『生身の人に蹴り飛ばされました。山肌で大破した三機がそれです』
僕もルーイも完全に開いた口が塞がらなかった。フュリアスを蹴り飛ばすのはフュリアスなら可能かもしれない。でも、生身は信じられない。
僕もルーイもお互いの機体の動きを完全に止めていた。止めていたから、僕達は気づくのが完全に遅れていた。
ここから北北東の地点で煙が立ち上っているのを。
言うのを忘れていましたが、後半の前編終盤にさしかかっています。後は、戦場を中東に移すだけで前編の終盤に入ります。