第百四十四話 それぞれの力
まずは白百合家の個人個人が大暴れします。
オレの作り出した雷球がオレ達の死角に展開する。このまま放つことは可能だが、殺すつもりは全くないので停滞させる。
オレはすかさず前に出た。
「やっぱり、やりにくい魔術は使うものじゃないな」
「弟くんは雷魔術が苦手な方だったよね。でも、収束系は得意じゃなかった?」
「収束はな。雷魔術は基本的に静電気を集結させるものだ。それが苦手なだけ」
飛んでくる魔術をレヴァンティンで弾く。魔術の威力はあまり高くないから精霊召喚符は使われていないと見るべきか。
音姉もオレと背中を合わせながら光輝で魔術を弾く。
今、オレ達は完全に囲まれている。水牙天翔を使ってもいいが、正確に当てるためには半径15m以内に入れないといけない。
それに、水牙天翔が最も有効に作用する範囲に入ってこなければ利点がほとんどいかせない。
「なかなか来ないね」
音姉の言葉にオレは頷いた。敵がやっているのはひたすら魔術を放ってオレ達から距離を取っている。
まあ、このメンバーを見ればそれが一番有効な作戦だ。
音姉の場合、近づけば瞬殺。技を放つ隙を与えたら遠距離でも一撃。
由姫の場合、近づけば瞬殺。技を放ってもほとんどが地面に落ちる。
オレなら絶対に距離を取る。
オレも音姉も剣に宿した魔力(音姉は気合い)を放つ隙の少ない遠距離技がある。--別に魔術をぶっ放してもいいが、味方に当たれば大惨事だ。--そのため、これだけ離れられていても苦にならない。
時折存在する空白の時間にレヴァンティンを振ればいいからだ。
でも、八陣八叉流は違う。純粋な拳による戦い。つまり、
「兄さん、いつまで逃げればいいですか?」
由姫は一人で少し離れた場所から激しく動きながら話しかけてくる。魔術を全て回避しながら。
「お前、楽しんでいないか?」
「バレた? 愛佳師匠のものと比べればかなり簡単だから」
あの人と比べたらダメだろと思いつつ飛んできた氷塊を払い上げる。
「破魔雷閃」
払い上げた勢いよくレヴァンティンを振り下ろした。雷の斬撃はちょうど先頭にいた老人を捉え昏倒させる。
「ったく、きりがないな」
空を向けば赤いフュリアスだけでなく青いフュリアスも飛び交っている。おそらく、悠人と戦っている。
オレはレヴァンティンを握りしめた。
久しぶりにオレの予想が外れた。でも、あんなに大量のフュリアスはどこに隠されていたのだろうか。
「由姫、準備はいいか?」
「いつでも」
オレは水牙天翔を放った。膨大な水が吹き上がり、一時的な壁を作り出す。
「オレと由姫のツートップで抜ける。目的地は山の向こう側」
オレが目星をつけた場所。フュリアスが隠せるスペースがあるならあそこだけだ。山を削り取った格納庫があるなら別だが。
「オレは探査を行いながら進むから出来る限り戦闘は由姫に任せることになる。出来るな?」
「お兄ちゃん、私を誰だと思っているの?」
由姫が身構える。クラウチングスタートのように前傾姿勢。だが、その秘めたる力は見るだけでわからない。
水牙天翔が終わり、水の壁が消え去った。
「里宮本家八陣八叉流継承者白百合由姫。行きます」
「名乗るのかよ!」
オレと由姫は同時に地面を蹴った。そのままオレはレヴァンティンを振り上げる。
「破魔雷閃!」
雷を纏う斬撃が前方にいた敵を殴り倒した。それと同時に由姫が前に出る。
「行かせるか!」
その言葉と共に前が塞がった。障壁魔術による頑固な壁を作り出してオレ達の道を塞ぐ一人の男。だが、そこに由姫は飛び込んだ。
由姫の誰もが驚く。驚いている中で、由姫は左の拳を障壁魔術に叩きつけた。すると、ガラスが割れるような音と共に障壁魔術が砕け散る。
驚く暇なく障壁魔術を展開した相手に由姫は肘を叩き込んだ。相手の男が木々をなぎ倒しながら吹き飛ぶ。
しばし起こる静寂。
障壁魔術は防御魔術よりも強力だが、防御魔術と違って、こちらの攻撃も通さない。その分、普通は壊れないものなのだが、由姫は一回殴っただけで破壊した。
生身で殴られたなら確実に絶命するであろう威力。
これが、里宮本家八陣八叉流継承者の力。
静寂の中でもオレ達は駆けて行く。このまま近くにあるはずの敵の本拠地を見つけてしまえばこちらの勝ちだ。このメンバーなら確実に戦える。敵が第一特務でないなら。
「どこだ。どこにある」
探査範囲を超広範囲にまで広げて異変のある場所を確認する。
「なっ」
見つけたオレは思わず絶句していた。本拠地を見つけたのではない。何かの砲身を構えているフュリアスがいるからだ。
大きさから考えて数少ない戦艦に搭載されている長射程用バスターカノン。それのフュリアスバージョンだろう。
「レヴァンティン、回線を開け! 悠人!」
オレは嫌な胸騒ぎを覚えて悠人との回線を開いた。ここに来る前に回線用のリンクを繋げていたからかすんなり回線が開く。
『周さん? 何かありました?』
「方角は北北東。距離は3に長射程の砲を持つフュリアスが存在している。砲撃に気をつけろ!」
『北北東? そんな、センサーには』
オレは嫌な気配を感じてしゃがみ込んだ。草陰から飛んできた魔術トラップを紙一重で回避する。
「センサーに頼るな。感じろ!」
無茶な注文かもしれないが、悠人ならできると信じていた。どうしてかわからない。でも、フュリアスに乗る悠人を見ていると、オレと同じ匂いがする。
オレは回線を閉じて探査を継続する。オレの探査のやり方は一味違う。オレが感じているのは魔力の流れ。空気の動き。それらを感じてオレは探す。
「ない?」
オレは一瞬だけ足を止めて、そして、走り出した。
「弟くん、どうかしたの?」
後ろから追いかけてくる音姉が不思議そうに首をかしげる。
「見つからないんだ。この数のフュリアスが隠せる地形を。一体、どこに」
その時、嫌な気配というよりも惹きつけられるような感じが体の中に走った。オレはレヴァンティンを握り締めてその方角を向く。そこには背中のまるで翼のように折り重なった機械の翼が大きく開いた青いフュリアス。
何かが来る。
「由姫! 下がれ!」
オレは機械の翼が開いた瞬間に由姫に叫んでいた。由姫は慌てて後ろに下がる。
蒼い閃光。
オレ達は慌てて手で顔を守った。だけど、強烈な閃光は目を瞑っていたとしても視界を少しの間だけ塞ぐ。それと同時に空気の流れが変わるのがわかった。
「この身に集え。蒼穹の思い」
魔術の威力を強化するために詠唱を行う。間に合え。
「一降りの星となりて、思いの全てをぶつけて見せる」
視界がほぼゼロの中魔術の詠唱を終える。視界があるなら巨大な光球が目の前にあるだろう。
「スターゲイザー・レイン」
頭の中に浮かぶ周囲の風景を元に狙いを付けてスターゲイザー・レインを放った。単発かつ指向性を持たせた天空属性最強の魔術『スターゲイザー』の劣化技。でも、その威力は全魔術でも指折り。
スターゲイザー・レインはオレが狙ったように青いフュリアスを貫く、ことはなかった。回避されたのではない。不自然に消え去ったのだ。
「なっ」
スターゲイザー・レインの威力を考えて相殺されたとは思えない。だけど、どうして当たらない。
視界が戻る。そこには空に浮かぶ青いフュリアス。そして、地上に倒れる黒いフュリアス。再起不能というわけではないらしく、ゆっくり起き上がっているが、装甲の一部は破損している。まるで、えぐり取られたかのように。
「一体何が」
『これ以上は動かないでください』
オレ達の視界がふさがっている間に赤いフュリアスが一機、オレ達にライフルをつきつけていた。その近くにも赤いフュリアスがいる。その斜め右上にも赤いフュリアスが二機だ。
声を出しているのはおそらくだが一番近くにいるフュリアス。女の子の声だが油断はできない。
さらには、後ろにも一機。完全に囲まれたか。
『これ以上の戦闘は無意味だと判断します。武器を捨てて投降してください』
オレはレヴァンティンを手の上で一回転させた。
赤いフュリアスのライフルが若干動くが、その銃口からエネルギー弾が放たれることはない。まあ、攻撃する行動ではないと思っているのだろう。
オレは頭の中で音姉に話しかけた。
音姉、聞こえてる?
『弟くん? これは、精神感応?』
レヴァンティンの力で増幅したから。今は、オレの指示に従える?
『いつでも』
オレは小さく息を吐いてレヴァンティンを下に向けた。
レヴァンティンを地面に突き刺したら背後にいるフュリアスを撃破して。出来れば、パイロットを傷つけないように。オレは、前にいるフュリアスを倒す。
オレも音姉も気づいている。気づいていないのはてきだけだろう。だから、この作戦は取りやすい。
オレはレヴァンティンを地面に突き刺した。背後で音姉が駆ける音。そして、オレはレヴァンティンを引き抜きながら地面を蹴る。
「ドライブ、リリース!」
魔力の全力を下半身につぎ込んで一気に加速を行う。対する赤いフュリアスは冷静だった。
『動かなければ撃たなかったのに』
その言葉と共にライフルからエネルギー弾が放たれる。並みの人間ならかすっただけで即死する力を持つ威力。それに、オレは真正面から突っ込んだ。握りしめたレヴァンティンを突き出して。
「不破!」
気合いの言葉と共にエネルギー弾がレヴァンティンに触れると、エネルギー弾が左右に割れた。そのまま地面を蹴って飛び上がる。
「破魔雷閃!」
雷の斬撃が赤いフュリアスのライフルを持つ右腕を切り落とした。あまりのことに赤いフュリアスではないくオレが驚く。
対魔コーティングをしているものだと思っていたから斬撃の斬れ味ではなく打撃の威力を高めて放ったのだが、赤いフュリアスの腕は簡単に斬れた。まるで、豆腐に箸を入れたかのような感触で。
『なっ』
赤いフュリアスの乗り手が驚きの声を上げる。驚くということは反応が鈍るということ。オレはすかさずレヴァンティンをモードⅡカノンに持ち替えた。そのまま左腕の付け根に向かって瞬間最大出力で砲撃を放つ。
放った砲撃は簡単に赤いフュリアスを砕いて左腕の肩を粉砕した。
「対魔が極めて低いのか」
それでもなお逃げようとする赤いフュリアスのコクピットにオレはレヴァンティンを突き刺した。出来るだけパイロットを傷つけないようにコクピットのドアを切り裂く。
「動くな」
オレは中に向かってレヴァンティンを向けた。中にいるのは案の定少女。ただし、オレよりも多分だが年上。
「そんな。生身の人間がフュリアスを破壊できるなんて。あなたは人間ですか?」
「酷い言われようだな。へえ、フュリアスのコクピットってこんな感じになっているんだ」
オレは敵が目の前にいることも忘れて赤いフュリアスのコクピットを見渡した。
アル・アジフに外見だけ見せてもらったダークエルフと違って、コクピットは普通に座席がある。ダークエルフはパワードスーツをドッキングして使用するからな。こんなスペースはない。
「敵の前ですよ。私が襲いかかることも」
「殺しはしたくないんだ。だから、動かないでくれ。このスペースなら、傷つけない済む方法が難しいからな」
殴り飛ばしてもどこかに頭をぶつけるだけだ。威力が高ければ高いほど確実に致命傷となる可能性が高くなる。だから、かかってきて欲しくない。それをわかっているのかそのまま黙った。そして、何かのボタンを動かす。すると、オレと少女の中間にモニターが現れた。
まさかの立体モニターだと。
オレはそれを見ながら驚愕していた。未だに理論すら確立していないものをこのフュリアスは搭載している。なんという宝の山。
モニターの向こう側にいる少女は完全に絶句していた。何故なら、モニターに映っているのは大破という表現で済まないほど原形をとどめていない赤いフュリアスがいたから。
両手両足は吹き飛び、胴体のほとんどが深く切り刻まれ、倒れこんでいる上にパイロットらしき人を横たえる音姉の姿。ちなみに、服に乱れすらない。さすがだ。
少女が慌ててモニターの画面を変える。すると、そこには近くにいるフュリアスを映し出していた。それを見た少女が一息つく。確かに、まだ味方がいるというのは安心できるだろう。でも、そのフュリアスに跳びかかる影。
「由姫?」
オレは声に出していた。だって、フュリアスを相手に肉弾戦をしようとしているのだから。どう考えても無謀。
空中に足場を作り出し、全力でフュリアスを蹴りつける。多分、コクピットの部分をへこませて中の機器を破壊するつもりだろう。当たるまでそう思っていた。だが、モニターからフュリアスが消える。
「「えっ?」」
オレと少女の声が重なり、少女がモニターを変えた。そこに映るのは吹っ飛んだ赤いフュリアスが空中に滞空していたフュリアスに直撃して吹き飛んでいるところだった。もちろん、二機とも。
そのままフュリアスは弾丸のように飛んで山にぶつかる。
その光景にオレも少女も言葉がなかった。オレが正気に戻ったのは約二秒後。
「このフュリアスの重さって、何キロ?」
「確か、2トン」
確実に魔鉄を使っているのだろう。純鉄ならそんなに軽くできるわけがない。それに、こんなに全く死にかけになりながら破壊するという作業がないなんてありえない。でも、2トンのものを弾丸ライナーで蹴り飛ばす由姫。
どう考えても人間離れしているよな。
「えっと、降参してくれるよな?」
「降参させてください」
うん、そうなるわな。
魔鉄は鉄に魔力を無理矢理結合させて巨大化させたものです。そのため、無駄に軽い。ただし、魔力の攻撃に対しては魔力の含有率によって紙よりも薄い盾になることがあります。周の攻撃で簡単に破壊出来たのは含有率が極めて高いから。
音姫はただ単に切れ味の高さ。由姫はただ単に力技です。