第百四十三話 赤と黒と青
本格的なフュリアスVSフュリアスはまだありません。
山の山頂。そこには五機の赤いフュリアスがスナイパーライフルを伏せて構えていた。
一斉にスナイパーライフルの引き金を引いていたのだが、今なお浮かんでいる四角錘の物体がスナイパーライフルから放たれたエネルギーを受け流した。
目的の場所では戦闘が起きており、時折、大量の水が吹き出した紫電の閃光が迸っている。
援護をしたくても四角錘の物体が邪魔だった。
赤いフュリアスが起き上がる。数は二機。おそらく、三機は警戒したまま立ち上がらないだろう。でも、今はそれで十分。
僕はスナイパーライフルの引き金を引いた。
絶妙な角度から放たれたスナイパーライフルの弾丸は立ち上がった二機の赤いフュリアスを貫いた。
「よし」
僕はダークエルフで地面を駆ける。今のダークエルフは狭間の夜で使った装備ではなく、長期戦かつ高機動と電子戦を強化したタイプとなっている。
つまり、飛翔能力は全くない。
本当は今日にこの装備のデータを取るはずだったが、周さんが何かあった時のために待機して欲しいと言われ、上手くダークエルフを隠していた。
この装備の最大の特徴は相手のセンサーに反応されにくい追加装甲。
デバイスの力で片手にライフル。片手に盾を虚空から取り出しながら森の中を駆ける。
周さんからの作戦ではここからが時間との勝負らしい。山頂の敵を倒し、向かってくるフュリアスを第76移動隊の援軍が来るまで出来る限り倒しておく。
僕は盾を構えた。盾にエネルギー弾が直撃して周囲に散る。いくらセンサーで見つかりにくいものでも目視で発見出来る。
僕はお返しとばかりにライフルの引き金を引いた。だけど、当たらない。予想通りだけどね。
「相手のスナイパーライフルはこちらより精密性は高いみたいだね。そうなると、射撃戦になれば不利か」
勘に従って盾を構える。構えた盾にエネルギー弾が直撃してエネルギーが周囲に飛び散った。
弾が放たれてからここに来るまで約1秒。あれをするには時間が足りない。
「仕方ないか」
僕は機体を動かす。最低限のスラスターを使って木々の間を掻き分けるように森の中を駆け回る。
時折襲いかかってくる嫌な予感は避けれるなら避け、無理なら盾で受け止める。もちろん、エネルギーはかなり持っていかれるが、あの武器の攻撃範囲にさえ近づければいい。
「ここだ!」
僕は一気にブースターの出力を最大限にまで押し上げた。ダークエルフが木々をなぎ倒しながら一気に前に出る。
今まで木々をなぎ倒さずに向かっていたからか敵が驚いて若干の空白が出来上がった。そのスキに両手の装備を収納して新たなものを取り出す。
前に受け身を取るように飛び込みながら持っていたものを全力で投げた。ダークエルフの手が地面についた瞬間に慣性とは逆に飛ぶ。
これには膨大な力がかかって部品が痛むのだが、今回は気にしてはいられない。
ダークエルフがいたところにスナイパーライフルのエネルギー弾が突き刺さる。でも、空中で爆発したものはない。
僕が着地すると同時に両手に盾を取り出して構えた。
それと同時に爆発が起きる。先ほど投げた手榴弾が爆発した音だ。盾から顔を出すと、山頂では黒い煙が立ち上っている。
「なんとか倒せたね。それにしても、『ES』の機体じゃないかも」
あまりにもスナイパーライフルの速度が速すぎる。あの距離なら二秒ほどかかってもおかしくない。
そんな高性能なスナイパーライフルなんて『ES』には存在しない。存在したとしても、すぐに砲身が焼き切れる。
「一体どこの」
そう呟いた瞬間、僕はダークエルフの体を右に動かしていた。それと同時にダークエルフがいたところに突き刺さるいくつものエネルギー弾。
右に動かしながら左手の盾を構えた。だが、その盾に飛んできたエネルギー弾がぶつかった瞬間に弾が爆発する。
すかさず盾を蹴り飛ばして後ろに下がりながらライフルを掴み取った。そして、空中に浮かぶ機体を睨みつける。出力を真ん中程まで右のレバーで下げながら警戒を強める。
「青い、フュリアス」
空に浮かぶ三機のフュリアス。真ん中にいるフュリアスの装甲は青い。
赤いフュリアスは二機とも大型のブースターを背負っている。だが、青いフュリアスにはブースターは見当たらない。その代わりにあるのはまるで翼のように広がる四枚の板。これがブースターの代わりなのだろう。
『ES』の技術では一番ありえないもの。それに、センサーに一切映らなかった。
『黒いフュリアスに警告します』
向こうからの言葉が入ってくる。フュリアス同士や本部との通信用の無線からだ。ここに本部の無線が存在しないから使ったことはないけど。
『これ以上の戦闘は無意味です。武器を捨てて投降してください。さもなくば、撃ち落とします』
聞こえてきたのは女性、いや、女の子というべきかな。声の感じからはあまり年齢に差がわからない。
「無警告で撃ってきたくせに? 生憎、今の僕は引けないからね」
周さんが戦っている以上、ここで引くのはダメだ。周さんにこの場を任されている以上、引けない。
『だから言ったんだよ、お姉ちゃん』
よく似た女の子の声と共に青いフュリアスの右手側にいる赤いフュリアスがゆっくり前に出た。そして、ライフルを構える。
『敵は殺せばいいんだよ!』
「っつ」
スラスター操作で飛んできたエネルギー弾をギリギリのところで回避する。狙いはコクピット。完全に殺す気だ。
『あははははっ。旧世代型、しかも、二つ遅れの旧世代はこの私が撃ち落としてあげるよ!』
そのまま赤いフュリアスが突っ込んでくる。残る赤いフュリアスと青いフュリアスも散開した。
完全に囲まれたらマズい。僕はそう一瞬で判断してダークエルフを前に走らせた。
『なっ』
無線から驚いた声が聞こえる。でも、その声を聞いても僕は冷静だった。冷静に出力を最大限まで押し上げる。
あまり使わないが、ダブルブーストと呼ぶやり方で、凄まじい重圧を出す。だけど、意表をつくには十分。
赤いフュリアスが冷静にライフルを持つ右手の指が引き金を引くより早く、その手を取りながら引っ張った。そのまま腰の部分を蹴りつける。
何かが壊れる音と共に赤いフュリアスの右腕が千切れる。
すかさず右腕を振り上げながら対艦刀で赤いフュリアスの頭と左腕を斬り飛ばした。
そのまま赤いフュリアスの背後に回り込み蹴り飛ばしながら一気に距離を取る。
『ルナ! よくも!』
警告をしてきた女の子の声と共に残った赤いフュリアスがライフルを振り上げる。だけど、それを青いフュリアスが手で制した。
『リマ、ストップ。相手を第三世代と思わない方がいい』
聞こえてくるのは男の人の声。青いフュリアスがライフルを構える。
『機体の差は歴然だけど、パイロットの桁が違う。多分、第六世代のギガッシュレベルの性能だよ』
第六世代。
その言葉に僕は驚きを隠せない。ダークエルフですら第三世代に入ったばかりだからだ。それすら越えるもの。
『だから、僕が行く。第三世代のパイロット君。卑怯だとは思うが、これも歌姫様を連れて行くため』
センサーにたくさんの反応がある。カメラをそちらに向けると、赤いフュリアスが20ほどこちらに向かって来ていた。
一体どこにそんな数を隠すスペースが。
『卑怯だから名乗るよ。ルーイ・ガリウス。第七世代アストラルブレイズに乗るパイロット。君をここで討つ』
世代が違いすぎると思いますが、悠人がパイロットとして桁が違うだけです。
ちなみに、赤いフュリアスが第六世代型フュリアスのギガッシュです。