第百三十六話 放課後の行動 新技
周が新技について考える話です。
オリジナル魔術の作り方は結構簡単だ。既存の魔術に少し改良を加えればいい。もちろん、相応の知識は必要だが。
だが、オリジナル剣技となると話は違ってくる。
世界中に何億という剣技(武器は剣のみではない)が存在する。白百合流や白楽天流など、レベルが極めて高いものから、基本的な剣道のような一般的なものまで様々だ。
普通に剣を動かすだけらならどれかに被る可能性が極めて高い。もちろん、アクロバティックな動きを加えたら被ることは無いだろう。
ただ、実用性も兼ね揃えた場合、オリジナル剣技はほぼ存在しないに等しい。
一応、オレが知るオリジナル剣技は8つ。もちろん、オレの『破魔雷閃』はそれに入る。
例を上げるなら、蒼炎が立ち上る剣を回転しながら振り回し、敵に叩きつける力技。よく似た技は存在するが、蒼炎が飛び散るのではなく、矢のように鋭く貫くため、他とは勝手が違う。
他には斬撃と共に周囲の時を止める氷属性最強の技など。
このように、魔術関連を組み合わせたならオリジナル剣技は作ることが出来る。ただし、かなり難しい。
オリジナル剣技は基本的に武器の特性を利用した技。一部例外はあるが、オリジナル剣技は基本がそれだ。それなんだが、
「どうして振り下ろした剣の動きに反して炎が相手に喰らいつくんだ?」
オレはどうしても疑問に残ることを口に出していた。手に持つコントローラーを動かしながら。
「いきなりどうしたんだよ」
和樹がオレの放った炎を回避して攻撃を叩き込んでくる。オレのキャラクターは大きく吹き飛んだ。
「いや、剣の動きと炎の動きが違うことに疑問を思ってな。こんな動きは現実で不可能だぞ」
「これ、ゲームだからな」
和樹が呆れたように言ってくるがオレは納得出来ない。
剣を地面に叩きつけて衝撃波を放つ剣技は存在する。かなりメジャーな技ではあるが、放つための隙が大きすぎるためほとんど使われない。
それの応用だと考えても、炎が襲いかかる方法がない。慧海なら可能かも知れないが、それこそ剣頼りになる。
キャラクター選択画面で新たにキャラを選びながらオレは唸る。
「魔術を一緒に使うのか? 破魔雷閃のように」
オレのオリジナルである破魔雷閃は魔術であり剣技。雷の上級に位置する『稲妻の斧』と白百合流燕返し『無名の太刀』を合成させたものだ。
言うのは簡単だけど、行うのは不可能に近い。レヴァンティンがあったから出来たが、並みのデバイスを使っていたなら確実に使用出来ない。例え、いくら用意したとしても。
そうなると、やる方法はかなり限定されてくるな。
「何が何やらさっぱりわからん」
「あのな」
和樹が呆れたように語りかけてくる。
「ゲームの現実性を証明しようとしながら鬼みたいなコンボ叩き込んでくるのを止めてくれ」
オレが操っているゴリラのキャラクターが和樹の配管工のおばさんを場外に吹き飛ばした。
今のコンボは言うほどではないのだが。
「そうか? コンマ一秒以内にキャンセル移動させればやりやすいぞ」
「普通の人はコンマ一秒単位で操作出来ないんだよ!」
オレでもほんの数回操作をミスったことはあるけどな。でも、あんまり難しいものじゃないと思っていたけど。
試しにもう一回同じやり方をしてみる。
○ボタン二連打から下×ボタンで浮かしてキャンセル移動の後、横△ボタンで吹き飛ばした瞬間にキャンセル移動を行って横○ボタン強打を叩き込む。
普通に出来る。
「ふむ、公式ですらお目にかかれないコンボだな」
「後、個人動画にもな。こんなコンボは全国のつわものでもしないぜ。せめて、横△止まりだ」
「そうなのか?」
オレは驚きながらも指を素早く動かしていく。
掴みかの後ろ投げで下△ボタンの叩きつけ。すぐさま下○ボタン強打で水平に飛ばして壁バウンドを起こす。横△ボタンで再度吹き飛ばしてキャラクターをキャンセル移動で後ろに下がらせる。そして、とどめの上△ボタンによる吹き飛ばし。
和樹のキャラクターが星になった。
「・・・・・・あのさ、そのコンボはおかしくね?」
「そうか? 壁バウンドは上手く使えばコンボが繋がるし、吹き飛ばしてもキャンセル移動で繋げるのはたやすいから」
「その言葉、全国出場した人全員倒してから言ってみたらどうだ? 全員キレると思うぞ」
オレは呆れたようにため息をついた。
「誰がそんなことをするか。そんな暇があるなら新技でも開発しておく」
「ほう。まだ新技を開発しようとするのか。今で十分な実力があるんじゃないのか?」
「まあな」
オレは頷きながらコントローラーを手放した。ゲームをしていたらとても目が疲れてくる。軽く肩を回して小さく息を吐いた。
「でも、オレが一番得意なのは多対多。大規模戦闘だ。でも、一対一になると、オレはまだまだの実力だからな。強くなるためには一対一で力をつけないと」
「新技ね。そうぽんぽんと出るものじゃないのか? オリジナルは作りやすいとか言ったかったっけ」
「オリジナル魔術な。オレはオリジナル剣技を作り出したいんだよ。白百合にも限界がある」
すると、和樹が不思議そうに首をかしげた。
「でもよ、白百合流って世界最強の剣技だって聞くけどどうなってんだ? 白百合さえあれば十分じゃないのか?」
「それ、音姉の化け物じみた実力からだから。実際、白百合流は人をかなり選ぶ。極めたら最強だけど、その位置にいるのはたった一人だけ。実際の中身は並みの人間じゃ扱えない暴れ馬」
「それを周は使えるんだろ? 十分じゃね?」
「オレが使えるのは秘技レベル。そこまで強いものじゃねえよ。だから、上限がある。音姉みたいにほとんど全ての白百合流が使えれば話は変わってくるけどな」
白百合流は術技、秘技、双技の三つ。双技は基本的に白百合家直系にしか継承されない。だから、秘技までなのだが、双技まででは実力者を完全に仕留めることは難しい。
だから、様々な剣技をがむしゃらに習得した。使える魔術を貪欲に吸収した。
強くなるために。でも、今では限界が見え始めている。
「だから、戦場で使える新しい技が欲しいんだ。出来れば、オリジナル剣技」
「ふーん。だったら、ゲームを参考にしたらどうだ? ゲームの技なんて非現実性の塊だからよ、それを現実のものにできれば大きなメリットになるんじゃね?」
「そうだよな。でも、それが実戦に使えるか使えないかは大きく分かれる。実戦で使ってみないと使えるかは分からないからな」
オレはそう言って大きく息を吐いた。そのまま新しくキャラクターを選ぶ。
破魔雷閃はぶっつけ本番にしてはかなり強力なオリジナルだ。デメリットが少なく使いやすい奇跡のような存在。それと似たものを作らないといけない。やるとするなら、高速化か、攻撃範囲を大きくするか。
オレが選んだキャラクターはどこかの国の姫様のようだ。ただ、水のようなものを纏っている。和樹が選んだのは両手剣を持った剣士。和樹の得意キャラクターらしく、亡国の王子以外は勝率が負け越している。俊輔は配管工のおばさんだ。
ゲームが始まる。
オレはすかさず×ボタンを押した。
姫様が纏っている水が地面に吸い込まれ水柱と共に正面にいる和樹を狙う。
これは水属性剣技の基本技である水流剣。正面に水柱を直進させる基本的な技。でも、現実と同じようにゲームでも速度が遅くて和樹が楽々と攻撃を避ける。すると、和樹のキャラクターがいたところで周囲に水柱が立ち上った。
それを見てオレは手を止める。
「これ」
「どうかしたか?」
和樹がすかさず近寄ってくる。キャンセル移動を駆使してどんどん距離を詰めてくる。
「使える」
水流剣はオレも使えるが、よっぽど敵が密集していない限り当たらない。速度が遅すぎるからだ。術者が横一列になって放つなら別だが。
でも、これなら理論上は可能だ。理論上は。
使用するのに必要なものは膨大な演算能力。それこそ、レヴァンティンに匹敵するような、個人が所持できる限界処理をはるかに超えるデバイスの力があれば机上の空論は現実の現象となりえる。
「後で練習するかな」
オレはそう小さくつぶやきながら一方的に切られまくっているオレのキャラクターを見るのだった。
周の新たなオリジナル剣技はしばらくしたら出す予定です。ゲームとよく似た技になる予定。ただし、規模は段違いになるかと。