第百三十四話 放課後の行動 ゲーム
久しぶりに戦闘を書いたら結構疲れますね、これ。
和樹が放った渾身の強打技をオレはカウンターで返していた。和樹が操るキャラクターが場外を吹き飛びライフも吹き飛ぶ。
戦闘が終わり、画面が変わった。結果はオレの勝利。
オレは和樹の家でゲームをしていた。国民的人気格闘対戦ゲームで、手軽な操作でやりやすい。やりやすいのだが、
「和樹、弱いな」
オレはポツリと呟いた。
説明書やキャラの操作方法と技を覚えて最初の対戦。和樹はオレが初めてだから手加減すると言っていたが、結果はオレの圧勝。
とりあえず、勘を頼りにひたすらカウンターと強打技を放っていたらいつの間にか勝っていた。
「ば、バカな。ありえん。全国トップクラスの腕前の俺が負けるだと」
「そうなのか?」
オレは少し驚いて和樹に尋ね返していた。だが、和樹は両手を床について落ち込んでいる。
「ああ。和樹はこのゲームで全国大会決勝まで勝ち進んでいる。それほどこのゲームの達人だ。俺も手加減してもらわねば勝てん」
問いの答えを返してくれたのは俊輔だ。オレは少しだけ首を傾げる。
普通、初めてゲームをする人物が全国トップクラスに勝てるだろうか。ありえない。
「全国も対したことがないな」
「周の反応速度が反則なだけだ。こっちの強打技は全部カウンターで跳ね返されたぞ。なんなんだよ、それ」
「確かに、見事なカウンターだったな。あらゆる行動を先回りしたとしか思えん。周よ、どうやった?」
「どうやったって、感覚」
何となく、嫌な気分がしたからカウンターをしたら見事に決まったとしか言えない。
どういう原理か全くわからない。
「まあ、周だしな。俊輔も混じってやろうぜ。チームはランダムで」
「いいな。だが、そのチーム編成で大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない。NPCのレベルを上げて、よし。もう一回だ」
オレ達が画面に向き直る。
オレが使うキャラクターは、刀を扱う亡国の王子。ドライブ状態に入れば二刀流にもなれる。絶対、ギルバートさんが元ネタだよな。
和樹が使うキャラクターは、黒いゴスロリ服を纏った鎌を持つ少女。さっきも使っていたので、瞬間移動とリーチのある攻撃が特徴がわかっている。多分、元ネタはレノアさん。
俊輔が使うキャラクターは、真っ黒な服装をした暗殺者。元ネタはわからないけど素早さそうだ。
NPCは何かの動物。でも、見たことのない動物だ。
そして、画面が変わる。チームはオレ、俊輔。和樹とNPC。
前方にはNPCの姿がある。距離は人十人くらい。この距離ならあの技だな。
ルールは相手を二回倒せば勝ち。ライフを減らすか場外に吹き飛ばすか。
ステージは上下の二層に分かれていて、上は壁など障害物が多いが吹き飛ばしやすい。下は天井が低く吹き飛ばしにくいがライフは減らしやすい。
そして、戦闘が始まった。
スタートした瞬間に手元にあるコントローラーの×ボタンを押した。キャラクターが白い刀を振り上げる。すると、鋭く伸びた斬撃がNPCを直撃し浮かせた。
そのまま横○ボタンの強打技を叩き込む。
白い刀を鞘に戻し、黒い刀を抜き放って振り下ろす。どう考えても白百合流黄泉送り『陽炎』と同じ動きだが、ゲームだから気にしないでおこう。
NPCが面白いように吹き飛んでステージ端に近い壁にぶつかる。オレはすかさずキャラクターを動かして距離を詰めた。
小ジャンプで浮いているNPCに合わせてキャラクターを動かし、○ボタンを連打する。
キャラクターはNPCを三回蹴りつけて着地した。そのまま上○ボタンの強打技を叩き込む。
白い刀を上を向きながら振り上げ、そのまま元の軌道で振り下ろす。
もちろん、NPCは高く打ち上がった。
相手のライフは四分の三くらいで、状況から考えて場外に吹き飛ばした方が早い。
落下してきたNPCにオレは飛んで横○ボタンを押した。黒い刀がNPCを微かに吹き飛ばし、横二連打でキャラクターを吹き飛ばした方角に動かす。そして、下△ボタンを押した。
キャラクターが黒い刀を振り上げたまま空中なのに飛び上がり、そのままNPCを振り下ろしで斬りつける。地面に当たった瞬間、衝撃波がNPCを場外に吹き飛ばした。
まずは一体。
オレは和樹と俊輔の位置を見た。二人が戦っているのは下の層だ。ただ、俊輔のライフが四分の一まで減っている。
このまま向かっても俊輔のライフが削られて終わるだけだろう。だから、オレはR1ボタンとL1ボタンに□ボタンを同時に押した。
キャラクターの体が動作と共に青い光を放つ。
これがドライブ状態だ。ゲーム中に一回しか使えない強力な状態で、攻撃力からリーチまで大きく変わる。
このキャラクターの場合は攻撃力と防御力が激減する代わりにおかしな射程のリーチを発揮する。
○ボタンを押すと、キャラクターが黒い刀を抜いて振り切った。そして、階層すら違う和樹のキャラクターのライフが微かに減少して空中で動きを止める。
そのままオレは×ボタンを連打した。白い刀を抜いて目の前にいる敵を滅多斬りにするように振りまくる。だけど、当たるのは和樹のキャラクター。
原作再現というより現実再現をしているようだが、再現度はいまいちだ。現実ならこの連撃一打目で確実に倒している。
×ボタンと○ボタンを三:一の割合で連打しながらオレは残りのドライブ時間とNPCの位置を確認する。
復帰したNPCはこっちに向かって来ている。そして、空中から雷球を放ってきた。変わりに放つのはカウンター。
雷球が直撃した瞬間にカウンターが発動し、返しの刃が放つ衝撃波がNPCを吹き飛ばした。それと同時に○ボタン、×ボタン、□ボタン、△ボタン、R1ボタン、L1ボタンを同時に押す。
画面の動きが止まり一気に暗くなった。その中で残っているのはオレのキャラクターとNPC。
キャラクターが地面を蹴り、NPCの横を駆け抜けると同時に剣を振り抜いていた。白と黒が合わさった剣。そして、キャラクターが振り返り、大上段から剣を振り下ろすと、凄まじいエフェクトと共に衝撃波がNPCのライフを鬼のように削り取る。
このキャラクターはドライブ状態でのカウンターダメージが通常の五倍で、カウンター後のボタン同時押しで秘奥義と呼ばれる最大の技が放てる。ただ、タイミングが難しくて放てないと聞いていたけど簡単に放てた。
画面が元に戻り、NPCが地面を転がる。
オレはすかさずキャラクターを動かして虫の息だったNPCのライフを斬り裂いた。それと同時に俊輔のライフがゼロになる。
「後は和樹だけだな」
「マジかよ。なんつう瞬殺。確かにそいつは強キャラだけど、秘奥義の発動タイミングが難しすぎて、公式の動画にすら無かったのに」
「確かに、初めて秘奥義を見たな」
そんなに難しいものだったんだ。
「しかも、ライフが一つも減ってねえ。だが、ドライブを一回残している俺に勝てるかな?」
和樹がキャラクターを動かす。
強打技自体が横に大きく動くものだから凄まじい速度で上に上がってくる。だけど、オレの視線は画面ではなくボタンによるキャラクターの動きが乗っている本を見ていた。そして、一文の説明から何となくで連撃を考える。
和樹は強打技で突っ込んできた。おそらく、寸前で動きを止めて○ボタンからの連撃に入るつもりだろう。だから、オレはすかさず下○ボタンを押した。
キャラクターがしゃがみ込み、足下を斬りつける。やはりというべきか、目の前で止まった和樹を剣が斬り裂く。そのまま横二連打で和樹の背後に回り込み、×ボタンで斬り上げた。
そのまま横△ボタンを押し、黒い刀の二連撃が和樹のキャラクターを吹き飛ばす。吹き飛ばした瞬間に横二連打で技キャンセルと距離を詰め、×ボタンでさらに打ち上げた。
打ち上げたところで横○ボタンによる強打技で場外に飛ばす。
後一体。
「いやいやいやいや。何そのコンボ。大ダメージかつ吹き飛ばし属性のある△ボタン系列の技キャンセルと共に○ボタン強打の組み合わせだと。そんなコンボ見たことがないぜ」
「実際に、このキャラクターは唯一のカウンターと高い攻撃力にトップクラス速度を持つため使われいた。そのコンボは重量級が狙うコンボだな」
オレは戻ってきた和樹に斬りかかりながら答える。
「案外簡単だけど。×ボタンからの○ボタン強打が使いやすいから、それを応用して、×ボタン浮かし、△ボタン吹き飛ばし、技キャンセルと距離詰め、×ボタン浮かし、○ボタン強打の連撃は決めやすいし」
オレはそう言いながらさっきと同じ連撃を叩き込んだ。でも、○ボタン強打を空中の緊急回避で避けられる。
避けられたとしても同じように連撃を叩き込めるけど。
和樹のキャラクターが完全にオレのキャラクターにお手玉される。今度は○ボタン強打を壁にバウンドさせ、ひたすら同じ連撃を叩き込んだ。
ライフをあっという間に削り取り、戦闘が終わる。結果はオレ達のチームが勝利した。
「こんな感じだな」
「ふふっ、俺のプライドが砕け散った」
和樹がまた両手を床についていた。まあ、オレのキャラクターはライフが減ってすらいないし。
「和樹、今の画像は撮っていたか?」
少し呆然としていた俊輔がハッと我に返って和樹に尋ねた。和樹は落ち込んだ体のまま親指を立てる。
「当たり前だ。これをネットにうぷしたら結構行くんじゃね?」
「うぷ?」
オレは聞き慣れない言葉に尋ねていた。和樹が体を起こす。
「ネット上に動画を上げるんだよ。ちょっと待ってろ」
和樹がパソコンを立ち上げる。素早くキーボードに手を走らせているが何をしているかわからない。
あれよあれよと言う内に、和樹が満足そうにエンターキーを押していた。
「ふう、完成だ」
「ネット上に上げたのか?」
オレには仕組みがよくわからない。ネットを使うことがほとんどないからな。ほとんどレヴァンティンでやっているし。
「ふっふっふっ。反響が楽しみだな。加工すら一切ない連続コンボ。そして、秘奥義もある。小一時間すれば感想が来るだろ。周、もっとやろうぜ。あっ、ただし、別のキャラを使ってくれ」
「望むところだ」
オレはそう言いながら他のキャラクターを選び始める。
こういう風にみんなでゲームするのは悪くないな。
時間を動かすために周、悠聖、悠人視点をぐるぐる回していきます。