第百三十三話 放課後の行動 買い物
今度は買い物風景。何か違和感があるなら作者が買い物に出掛けないから(笑)
女性が三人いればかしましいという話は聞いたことがあるが、それなら、女性が五人いたらどうなるか。
結果はとてもうるさい上に振り回される。
「なあ、孝治」
オレは小さく溜息をつきながら天井を見上げていた。隣の椅子に座る孝治は読書をしている。
タイトルは「老後の暮らし方」。早すぎじゃね?
「なんだ?」
「お前は何か買うもんねえのか? ちなみにオレはねえから」
近くに男性用のコーナーはある。コーナーはあるのだが、如何せん、値段が高い。
ユクニロで十分なのに。
「ユクニロで十分だ」
「オレと同じか。つか、オレ達って同年代の中じゃダントツで稼いでいるのに節約思考ってどうよ」
服はユクニロ。文房具は百均。食料はスーパーの特売。
そう考えるとオレ達が稼いでいる意味があるのか疑問に思ってくる。まあ、使い道がないのはオレくらいだけどな。
孝治も周隊長もそれぞれの理由でお金を使っている。それと比べたらオレは、
「節約思考は悪くない。悠聖の場合は俺や周より稼がなくてもいいとは言え、理由がある。そこまで自分を卑下にするな」
「わかっているけどよ、何というか、オレが『GF』に入っている理由と、お前らが入っている理由はちょっと違うからさ。本当なら、オレはお金を稼がなくていい。でも、フィネーマがいたからな」
あいつがいたから今のオレがいる。今のオレが。
「俺は出会ったことがないな。周はあると聞いていたが」
「まあな。フィネーマと契約していたのは孝治と知り合う前。ほんの少しの間だけだ。でも、そのほんの少しの間でも」
「悠兄、孝治さん、お待たせ」
オレはその言葉に言おうとした言葉を呑み込んで前を見た。そこには買い物袋を持った七葉と中村の姿がある。商品に隠れるようにして優月の頭が見える。
オレは周囲を見渡した。
「冬華とアルネウラは?」
「二人共、個人的な買い物をしているよ。あっ、優月。悠兄に見せてあげなゃ」
七葉がにこにこ笑いながら優月に近づく。優月は顔を真っ赤にして首を横に振っていた。
それを見た中村が苦笑する。
「気持ちはわからんでもないけどな。孝治だってよく似た光景は知っているやろ?」
「あの時のお前は可愛いかった」
その言葉に中村の顔が真っ赤に染まる。
恥ずかしがっているわけじゃない。怒りで顔を真っ赤にしているだけだ。
だって、孝治は未だに本を読んでいるのだから。
「孝治? 人と話す時は目を見て話せって習わんかった?」
「何を当たり前のことを。だが、今の俺は読書に忙しい」
「ほう」
中村が指をバキボキ鳴らす。こういう時だけ中村は格闘強いよな。戦闘中は出来ないのに。
すると、ようやく七葉が優月を引っ張り出した。その姿を見たオレは完全に固まる。
孝治も微かにそれを見て固まっていた。
そこには清楚なワンピースを着た優月の姿があった。元から雰囲気が清楚だったからか、イメージにぴったりな衣装でとても似合っている。
だから、オレは思わずかけてやる言葉を忘れていた。
優月の顔がさらに真っ赤に染まって七葉の後ろに隠れる。
「優月、悠兄にしっかり見せないと」
「ううっ、恥ずかしいよ」
「大丈夫だって。悠兄、感想を言ってあげなよ」
七葉がウインクしながら言ってくる。確かに、こういう時は言ってあげないとな。
「似合っているよ、優月」
「ほ、本当に?」
「うん。似合っていて、言葉を失うくらい綺麗だったから」
その言葉を聞いた七葉がクスッと笑みを浮かべて優月をオレの前に立たせた。オレも優月も顔が真っ赤だ。真っ赤だけど、オレは優月から目を離せない。
「冬華ちゃんやアルネウラちゃんから勧められたものもあったけど、私は、これが気に入ったから」
「似合ってる。本当に」
まるで、フィネーマを彷彿とさせるようだった。でも、オレはそれを口にしない。口にしたら何か崩れるような気がしたから。
孝治が本をポーチの中にしまう。
「素晴らしいな。ここまで調律のとれた組み合わせは少ない」
出た。孝治の悪い癖。
「元のイメージが清楚であり、それを狙って清楚なワンピースを着る選択肢は何ら間違っていない。だが、一番はそれを恥ずかしがるように大切な人に見せる瞬間か。その時に君の全てが融合し、誰をも魅了するような魅力を発揮する。そう、これこそが神から認めげばっ」
見事なストレートが孝治を吹き飛ばしていた。もちろん、放ったのは中村だ。あまりの高速さに周囲にいた人達が拍手する。もちろん、中村の顔は瞬間沸騰。
孝治は相変わらずこういう状況には自分なりの解説をする。いつも中村に殴られて最後まで聞いたことがないけど。
「孝治、うちの時は一度もしてくれたことなかったよな?」
「よく聞け。ベッドのうっ」
どうして女の子はここまで容赦なく股間を蹴り上げることが出来るのだろうか?
『ここは便乗すべきかな?』
「止めておきなさい」
「お帰り」
オレは今起きたことを忘れて戻ってきた冬華とアルネウラに話しかけた。
二人は優月を見て小さく頷いている。
「やっぱり似合っているわね。私達が言ったものは?」
冬華が不思議そうに尋ねると、七葉が持っていた買い物袋を掲げた。
それを見て二人は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「着る服はいくつかあったらいいなと思って」
『買ってくれたんだ。ありがとう。ふふっ、これで三人でおしゃれ出来るね』
「おしゃれなんて子供のすることよ」
冬華が恥ずかしそうに言うと、アルネウラはクスッと笑った。
『化粧品買ってきたくせに?』
冬華の肩がピクリと動く。それを見たアルネウラは意地悪そうに笑みを浮かべた。
『何回も、何回も迷ってたよね? どれが悠聖の好みに合うか』
「うがぁぁ!!」
冬華は神速の速さで刀を取り出して抜き放った。七葉が小さく溜息をつきながら槍を取り出して頸線に変えて冬華を拘束する。
冬華のスピードもすごかったけど、七葉のスピードはさらにすごかったな。
「冬華さん、みんな見てるよ?」
「ごめんなさい」
冬華は顔を真っ赤にして刀を戻した。アルネウラはクスクス笑っているが、オレは小さく溜息をついて拳を落とす。
『あうっ』
涙目になりながらアルネウラが視線で抗議してくるが、オレはまた溜息をついて拳を落とした。
「やりすぎだ」
『だって、可愛かったから』
アルネウラがそう言うと冬華がピクッと肩を震わせた。確実に怒っている。
だから、オレは苦笑しながら冬華に近づいた。
「大丈夫だって。冬華は普通に可愛いよ」
オレがそう言った瞬間、七葉と中村が呆れたように溜息をついた。だけど、その口元は苦笑している。
すると、誰かに袖を引っ張られる。
「私は?」
不安そうな顔をした優月。
あれ? もしかして、選択肢間違った?
「可愛いけど」
『私は?』
来ると思いました。
「お前もな」
『扱いがぞんざいな気がするけど?』
「気のせいだ」
二人の苦笑はこういうことだったのか。オレは小さく溜息をついた。
「買い物が終わったなら外に出ようぜ。いい加減、ここは人目につく」
オレはそう言って歩き出した。この店での買い物は終わったはずだから、次はあっちの店か。
長丁場になるだろうな。